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復讐は誰のため その3

隣国国王の要請で王女の降嫁が決まり

          ↓

隣国国王の要請で親族となる辺境伯家の娘が嫁ぐことに決まりに変更しています。


以前変更したつもりが、変更されていませんでした。

矛盾になる部分です。すいません、大事な箇所なのに(^^ゞ


 その日、元王配グランバックは、義理の父であるダグラスへ金の無心に訪れた。


王弟にふさわしく格式ある古城。

ダグラス・ビステニッシュ公爵の住居。

だがこの城は、ダグラスにとっては満足できない物であった。


首都となる国王の王城を守るようにある、要塞のような城は極端に窓が小さい。

赤レンガで建てられた城は、正に国の要。

多くの兵が待機できるような、収容施設を兼ね備えた場所だ。

城塞化している城回りは湖に囲まれており、橋を下ろさねば行き来が出来ない。 巨大な門は石落としが、城門の隙間からは矢を射れる配置に構成されている。

巨大な武器庫もここに配置されている。


湖を船で渡り城下に出て、その最奥の高台に、国王の住む王城がある。

高台の後ろは岸壁であり、そこから兵は特殊なスキルなしには登れない。

もし負け戦になっても、ビステニッシュ公爵の城で応戦しているうちに、国王達は気球に乗って隣国へ逃げることになっていたのだ(本当に気球に乗るかは不明。あくまでも仮定の話で)。


国王は、何としても生き残らねばならない。

その為に多くの犠牲を払っても。


元国王は王妃の、ダグラスは側妃腹の3才年下だった。

幼い時は、仲の良い兄弟だった2人。

成長するにつれ、兄との違いが明確になった。

兄は将来の国王、そして自分は臣下となる。

始めから決まっていたことだ、特に不満もなかった。


そんな時、ダグラスが10才になる少し前に、母が倒れた。

医師からはもう長くないと診断され、目の前が真っ暗になる。

咳き込むと吐血し、徐々に弱りゆく母。

いつも物静かで、寂しそうに微笑む美しい人だ。

そんな人が弱音を吐いたのだ。


「ああ、ごめんなさい。 貴方になにもしてあげられず、置いていかねばならないなんて」

泣きながら俺にすがり、謝罪する母。

「置いていくとか言わないで、元気になってください」

信じたくない俺は、言葉を遮るように訴える。

「せめて貴方が王太子ならば、少しは安心できるのに。 母の力不足を許して」


力不足とは? 王妃に男児が居れば、側妃の子が臣下に下るのは当たり前ではないか。

不思議に思っていると、母は続ける。

「本当は私が王太子妃になる予定だったの。

その直前に、隣国国王の要請で親族となる辺境伯家の娘が嫁ぐことに決まり、私は第二王太子妃に降格したのよ」


 「え?」始めて聞く事実だった。


「まだ王家の隠匿教育も受けていなかったので、王家有責で妃を降りることも可能だったのよ。

でも(母方の)家門のこともあり、辞退できなかった。

それでも寵愛され早くに王子を身籠れれば、その子が王太子となる可能性はあったのに、それも駄目だった。


いきなり婚姻を申し込んだ隣国の王家の王女を、王太子が好きになり婚姻を結んだと皆が言うが、実際には只の政略結婚。

隣国の国力が高く断れなかっただけだ。

余計な揶揄を防ぐ為の嘘だ。


母とてこの国では、力のある侯爵家の娘だ。

断りづらくても、国が王女の降嫁を回避する方法はあった筈なのだ。

幼い時からの婚約者だったのだから、愛はなく情だけであったとしても。

勿論、それは隣国も知っている筈、調べ尽くした筈だ……


だから母は誰も信じなくなった。

唯一絶大の信頼を置いていた、当時の王太子に裏切られたのだ。

王太子の立場は解るので、一言謝罪する気持ちさえあれば許せた……のに。


「これは国の決定だ。 受け入れよ」


ただこれだけ。 

元々所有物のような扱いをする(王太子)だった。

でも、何れ王太子妃、先は王妃になると思えば耐えられたが、今はそれもなくなった。

だからその時から、アルカイックスマイル(嘘の笑顔)だけしか浮かべていなかったそうだ。


俺が産まれるまでは……………

そして母は、俺だけを愛してくれた。


何も言わぬ母だったが、俺以外の全てを憎んでいたのだろう。

今だから解ることだ。


プライドもなにも全てをズタズタにする(王太子の)行為に、投げやりになっても可笑しくない。

だが、何も問題がないかのように公務をこなすのだ。


王太子妃が慣れない間は、書類仕事も坦々とこなす。

まるで何事もないように、今までと(王太子妃だった時と)同じように。


だからと言って偉ぶることも卑下することもなく、「王太子妃様が慣れるまではよろしくね」と、あくまでも謙虚に文官と仕事をこなすのだ。

評価されない訳がない。


そんなことがあり、王太子は漸く夜に母の元へ渡り俺が産まれた。

もしかしたら、俺のことも産まれるまでは憎んでいたのかも知れない。

けど、愛情深い母は、子には罪なしと許したのかもしれない。



俺以外の、他者へ向ける笑顔だけはアルカイックスマイルだったが、問題等起こさず優秀な第二王太子妃は認められ続ける。 内外問わず、素晴らしいと絶賛される。

その裏は『大国の力を手に入れ、内政の頭脳も手放さない強欲な王家』と言われているようなものだ。


諸外国は密偵より報告を受け、全て知っていたのだから。


母が拒んだことは一つだけ。

俺以外の子を成すことだ。


俺が産まれた時、既に兄の第一王子も誕生していた。

王子2人居れば問題はない。

命に関わる出産に、母は関わる義務なしと判断したのだ。

その為渡りの連絡が来れば、即座に断りの連絡をする。

「体調が優れない、明日の外交を万全に迎えたい、王子(俺)に本を読む約束をしている」等々と理由をつけて。


最初こそ己の欲望に忠実な王は、母の意を聞かず性行に及んだ。 元よりそんな性分なのだ。


だが必ず体調不良を起こし、外交を休むようになれば態度も変わってくる。 王太子妃では解決できない案件が多すぎたのだ。

勿論、王が対応出来ていれば問題ないが、細やかな対応や積み重ねのいる話し合いでは役不足。 何も進まず終了してしまうのだ。

そんなことが続けば、回りの大臣達も黙ってはいられない。 原因が明らかならば、そこを指摘する。 「只でさえ2倍働く第二王太子妃に、これ以上余計な負担を掛けるな。 子作りなら王太子妃といくらでもしろ」の意を、ほんのりオブラートに包んだ言葉で。

さすが年配の大臣達に言われれば、従うしかない。

外国の要人をもてなすだけで、どれだけの警備や準備で時間と金を掛けたことか。 それを無にする愚王。


言外に性欲処理したいだけなら、いくらでも愛妾の手配をするとも言われてしまう始末。


この時から第二王太子妃()は、只の所有物から有能な第二王太子妃(人間)へと変化したのだ。

勿論夜の渡りがあった時も、避妊薬は内服し医師の処置も受けていた。

「余計な(後継者)争いを生まぬように、協力してください」と言われれば、哀れな賢妃に逆らう者等は居なかった。

 

上記の事実を知ったのは、母が亡くなった後。

母付きの侍女、侍従からの情報からだった。


第二王太子妃と降格する前、母は生家へ戻れると信じていた。 しかし実母が亡くなってから、愛人だった女が男児を出産し後妻に入っていた。 その為に国の対応に怒っていた実父だったが、例え他へ嫁ぐまでだとしても、後妻が共に暮らすのを嫌がった為に家へ戻れなかったのである。 母は領地の方でも良いから帰りたいと言うが、前妻の子に家を継がれる可能性を潰したい後妻は実父に戻らせないように頼んだのだ。 元々前妻よりも愛人の方が大事な実父は、その願いを聞き入れた。


「国の為なのだ。 第二王太子妃だとて、名誉なことじゃないか」

と、そう言って。

実際に国王としても、教育を受けた優秀な(手駒)を失うと思っていた為喜んでいた。


第二夫人なんて、妾みたいな者じゃないか。

ここが王宮と言うだけで、妃が付くだけだ。

正王太子妃に決まっていた者からは、途方もない屈辱。


その時の傍付きは、母と共に声を殺し泣いた。

せめて実父だけでも味方であったならと……………



何を思い13才になった今、ダグラスに真実を伝えるのか?


暫くの静寂の中、母の側近の1人が言葉を発す。

「私は貴方(ダグラス)様こそ、次代の王に相応しいと思っております」

そこにいた母付きの他14名も跪き、強い視線を此方に向けてくる。


「お前達、この内容は謀反と捉えかねぬぞ」

「何を仰いますか。 元々王妃は母君でした。 我らの力不足でこんなことに。 生きている内にダグラス王の誕生をお見せすること叶わず、不甲斐ないことです」

「何かあれば、我らがいくらでも代わりとなり罰を受けまする」

「「「どうか我らの王となってください!!!」」」


その時はなんと答えたか解らない。

だが王位を狙うという言葉に、俺の止まっていた心も動き出した。


母が少しでも尊厳を取り戻せるなら、この身を捧げるのも悪くないだろう。 そう思えたのだ。


そして手駒になる者を揃え始めた。

手始めに家の借金の為に伯爵家に嫁ぎ、義父ストーマに乱暴されて息子(グランバック)を身籠った元伯爵夫人シルファだ。 元々この結婚はストーマがシルファを見初めたことから始まった。 シルファの夫となるストーマの息子ガルムは、平民の愛人が多数いるが身分の差ゆえ結婚できない。 そこでお飾りの妻シルファが必要だった。 愛人達も妻の座など望んでおらず、金払いの良いパトロンが欲しかっただけ。 もし愛人が子を産めば、伯爵家に引き取りシルファが育てる予定だった。 ガルムは若くて胸の大きい女が好きだったので、細身で胸も慎ましいシルファには興味がなかった。 ストーマは優しい義父の振りをして近づき襲った。 夫にも相談できず、家の借金返済も肩代わりしてもらい逃げられないシルファ。 何度も逃げ出そうとしたが、家の為にその都度留まっていた。 そして何度も何度も義父に犯され、グランバックが産まれた。 ガルムは一度として体に触れてはいないので、グランバックの父は祖父なるストーマで違いなかった。 シルファは妊娠が解った時、涙ながらにガラムへ経緯を説明したが、『知ってたよ』と一言だけ。 責められることもなかった。 「君は気づかなかっただろうけど、使用人も全員知ってるよ。 だって君の喘ぐ声大きいから」と、世間話のように語る肩書き上の夫。


『ああ、私は人間扱いされていない………………』

気づいてはいたが、仮にも夫に突きつけられると苦しさで息も出来ない。 『あんなに悩んでいたのに、知っていて助けてくれなかったんだ…………』

辛すぎて声もでない瞬間だった。

 


 せめて立派な後継ぎにと厳しく教育するが、ストーマもガルムも教育には関心は示さず甘やかすばかりだった。 ストーマにいたっては完全に孫扱いだ。 戸籍から見れば、確かに違いないのだが。 ガラムにいたっては、完全にペットみたいな扱いで撫でまわすだけ。 仮にも後継ぎなのに。


そんな苦労もグランバックが6才の時に、水の泡となる。

ガラムが、胸の大きなピンク髪の男爵令嬢を妻としたいと言ったからだ。 シルファは勿論反対した。


するとガラムは、うーんと唸り声をあげる。

「君さあ、不貞の子に伯爵家を継がせる気なの? 僕は愛するちゃんとした子が産んだ子に継がせたい。 君はいらないなあ」

「この家の血は継いでますわ………」と、自信なさげに反論する。


シルファはストーマを見るも「そうだね。 ガラムの子が継ぐ方が良いよね。 私はそのうち領地に引っ込むし。 うん、そうしよう。 何、シルファも損はしてないだろう? 家の借金はなくなり、生家の後継ぎも産まれたんだし、良いことづくめじゃないか。 私の方から君の生家に連絡しておくよ。 今月中に戻ってくれよ。 勿論慰謝料は渡すよ、立派にグランバックを育てておくれ」

シルファを見下しあっさり捨てる伯爵親子(屑ども)は、ニヤニヤしてこちらを見ていた。


「長い間、御奉仕ありがとう。 私も楽しかったよ」

全身に鳥肌が立つ。

最初からこういう筋書きだったのか。

男爵でも貴族籍があれば、ガラムの婚姻に反対はされない。

ストーマも既にシルファへの肉欲は薄れている。



でも何も言い返せないシルファ。

グランバックを連れて、生家の伯爵家に戻る。

両親に今までのことを話すも、借金を返してもらったので我慢するように言われただけだった。

そして立て直した家を、弟の長男夫婦が継ぐのだ。

多少の感謝はされるも、近いうちにまた嫁いで欲しいとの匂わせて。

「ご苦労様。 だけど姉さんはまだまだ若くて綺麗だから、後妻なら引く手数多だよ」

「本当に素晴らしいですわ。 家の為に頑張られてお疲れ様です。 次はお好きな方と結ばれてくださいね」


いったい何を言われているのだろう?

やっと、やっと帰って来て、傷ついている私を邪魔にする長男夫婦。 しょうがないと言う両親。


私はそんなに気にされない駒なのか。

でも、今自分には子供がいる。

ちょっと我が儘気味だが、美しい(かんばせ)の可愛い子。

この子を育てなければいけない。

……………だけど、この子が居なければ、修道院にでも行けたのに。


……………最初から捨てる気なら、子供など作らなかった(避妊した)のに。

絶望の淵で、1人叫ぶ声をあげるシルファ。



その声にならない声は、王弟ダグラスまで届いた。

(厳密には協力者を探していた密偵経由で)


ダグラスの共犯となる女シルファは、ダグラスと共に各々で復讐することを誓う。



   『私達と同じ苦しみを味わうと良い』



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