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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第二章 星幽迷宮(アストラルメイズ)編

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第九八話 星幽迷宮(アストラルメイズ) 〇七

「火炎がくるぞ!」


 エツィオさんの警戒の声に合わせたかのように(ドラゴン)が大きく開いた口から火炎を吐き出す。灼熱の炎は直線状に放射されたため、エツィオさんとリヒターは魔法による障壁を立てて攻撃を避ける。

 ……私は、そんなものがないので炎が迫ってくるのに合わせて、大きく横へ跳躍して距離をとっていく。火炎の放射は、今目の前の個体が吐き出したように直線上に噴射する場合と、扇型に広がる場合がある……火球として吐き出す個体もいたかな。


 目の前の個体は直線上に炎を吐き出す個体だ、これは避けることは難しくないが火炎の速度が非常に速く、威力が段違いに高い。

 扇状だと速度はそれほど速くないが広範囲を一気に燃やすことができるし、避けにくいのだ……最後の火球は爆発を伴うためにこれもまた厄介な攻撃になる。

 (ドラゴン)はグルルと唸りながら、一人だけ火炎を跳躍で躱した私を目で追いかける、おそらく私の防御能力がエツィオさんやリヒターと比べて劣っている、と考えているのだろう。


「……舐めてますね、絶対に」

 (ドラゴン)が咆哮を上げながら、私へと突進してくる。地響きで迷宮(メイズ)の床が振動している。炎を吐かずに突進してくるのであれば……私は日本刀を鞘にしまうと閃光(センコウ)の構えをとって身構える。

 前世含めてこの構えでどれだけの敵を屠ってきたのか、もうわからないのだけど……私もノエルもこの技を絶対に信じている。

 身構える私に向かって(ドラゴン)が直線的な炎を噴射する、こいつ……私が居合で待ち構えていることを理解して……身を翻して炎を避けた私の着地に合わせて(ドラゴン)が一気に突進してくる。

 私は身構えたままだが、ほぼ真横から(ドラゴン)が迫る……向きを変えて構え直す時間はもうない、集中力を上げろ! まるでコマ送りのように時間の流れが遅くなる……極限まで高められた集中力の中で、ノエルの記憶が一部蘇ってくる。




閃光(センコウ)は、単なる居合抜きというわけではない』

 師匠が小難しい顔をしながら剣を振り続ける俺に向かって語りかける……単なる居合抜きではない? それはどういうことなんだろう? 俺は剣を振る手を休めて、首にかけていた布で汗を拭う。

『そりゃどういう意味ですか? 居合抜きの技だって最初に話してたじゃないですか』

 俺の言葉に、薄く笑みを浮かべると師匠は手振りでもう一度構えろ、と言いたげな仕草をしている。ふむ……俺は黙って閃光(センコウ)の構えを取る。


『前に進む刹那(セツナ)、待ち構える閃光(センコウ)……世の中の大半のミカガミ流剣士がそう思ってるだろうな。本質としてはまあ間違っていないのだけど』

 ならいいじゃねえか……俺は師匠をジト目で見るが、師匠はそんなことは気にしないとばかりに話を続けていく。

『いいか本質的に閃光(センコウ)は剣士を中心とした半径数メートルの領域をカバーする技だ、お前は前方にしか意識を向けていないようだが……極めれば背後からの攻撃すら閃光(センコウ)で叩き落とすことも可能になる』


『背後の攻撃をって……そんな無茶苦茶な』

 師匠は目の前で練習用の刀を腰に差し直すと閃光(センコウ)の構えをとって後ろを向く。まるでかかってこいと言わんばかりの動作に、少し迷うがそんな俺に師匠の叱咤の声が響く。

『ノエル、お前は一度見れば覚えることができるはずだ、やれ』


 裂帛の気合いと共に上段袈裟斬りを繰り出す俺……一〇〇パーセント攻撃を叩き込める……そんな必殺の一撃が交差する瞬間、俺は手に鋭い痛みと痺れを感じて思わず刀を取り落とす、な、なんだ!?

 真後ろを向いていたはずの師匠の刀は俺の手首を捕らえており、まるで魔法でも使ったかのように向き直って俺の目を見る師匠が、薄く笑う。

『ミカガミ流……閃光(センコウ)、この技は攻防一体領域内における絶対的な一撃を叩き込める……覚えろよ?』





 急速に意識が現世へと戻っていく……あの時ノエルに対して師匠が話した攻防一体とは……姿勢変化を超高速軌道で行うことによって威力を減じずにカバーしている領域内の全てを切り伏せる、そんな絶対的な一撃の話だったろうか。

 つまり……ノエルの魂を継いでいる私は、その経験も記憶もあるということなのだろう。

「ミカガミ流……閃光(センコウ)


 一瞬の間を置いて交錯した私と(ドラゴン)……だが私の一撃は(ドラゴン)の左目付近を大きく切り裂いて、大量の血を吹きださせ、(ドラゴン)は悲鳴をあげてそのまま私の横へと突進の勢いのままに轟音を上げながら倒れ伏す。

 追撃が来るとまずいな、私は前へと一気にダッシュし振り返って(ドラゴン)が立ち上がるのを待つ。

 おそらく(ドラゴン)は真横からの突進で決着がつくと考えていたはずだ、しかし現実には私の必殺の一撃で左目を切り裂かれ、地面に惨めに倒れ伏している。


「まだ立てるのでしょう?」

 私は右手で日本刀を構え、左手で手招きをする……私の剣はこの(ドラゴン)にも通用している。それまで何度か心が折れそうなくらい自分の非力さを呪っていた私だが、意識をはっきりと入れ替える。


 ミカガミ流は腕力や膂力で振り回すような生やさしい剣術ではない、と。


 ノエルが伝えきれなかったこと、そして私に期待してくれたことはそういうことなのだ、と改めて認識すると私の心に沸々と自信というか、勇気がみなぎっていく。

 そうだ……私は異世界最強の剣聖(ソードマスター)、ノエル・ノーランドの魂を継ぐものなのだ、彼の経験、知識それら全ては私自身に受け継がれている。

「かかってきなさい、この馬鹿でかい蜥蜴風情が!」


 (ドラゴン)がゆっくりと立ち上がり、右目に怒りを滲ませて大きく咆哮する。

 目の前の小さな女は、何をしたのかわからないが自分の左目を切り裂くまさに閃光のような一撃を叩き込んできた、しかも一般的には死角となる真横からの突進をだ。

 人間といえば自分の姿を見て恐怖に駆られて逃げ出すか、動けなくなって自分に食われるのを待つのか、そんな連中しかいなかったはずなのだ。

 目の前の女は……不遜だ、自分を見ても怖がるどころか剣を振るって立ち向かってきた、気に入らない、気に入らない……絶対に殺す、怯えて涙を流して震えるこの女を生きたまま貪り食ってやる!

 咆哮と共に口の端から炎が噴き出す、怒りを露わにして(ドラゴン)は再び大きく口を開いて炎を吐き出した。





「あらまあ、楽しそうで……さっきまで不安そうな顔だったから心配だったんだよね」

 エツィオは(ドラゴン)と接近戦を演じ始めた新居 灯を見て、呆れたような表情を浮かべる。そんな彼を見てリヒターもカタカタと笑いながらその状況を見つめている。

 (ドラゴン)と戦う新居 灯はその印象にそぐわないが、獰猛な笑顔を見せておりまさに戦いを楽しんでいるように見える。

「やはり戦士だな、あの娘は……時折見せる不安げな表情などを見ているとあまりそういうふうには見えないが、魂は猛々しい」


 リヒターの言葉にエツィオも頷く……そうだ、僕は……いや私はあんな姿を見たことがある。いつだろうか? 前世の記憶でも魔法を操っていた自分だが、そんな彼女が恋焦がれた男はミカガミ流の剣士だった。

 その男は絶対的な自信を胸に秘め、彼女を守り……そして数多の敵を屠っていった。そんな彼の姿に憧れと、そして淡い恋心を抱いていたのだ。


『そう、あんな姿に憧れていたの……私の※※※……手に入れたかった、ずっと恋焦がれていたの……』


 ふと、エツィオの心に女性の声が響く……それはまるで魂から発せられたような気がしてふと胸に手を当ててしまう。なんだ? 急に僕の胸が高鳴っている?

 困惑したような表情のエツィオを見て、リヒターが心配そうに赤い目を輝かせて首を傾げるが……それを見たエツィオは苦笑いを浮かべて大丈夫だ、と頷く。


『私はあの女が本当は嫌いだった……幼馴染だからって私の※※※を独占したような気でいて……あなたより私の方が※※※と一緒にいる時間だってあったのだから』


 なんだ? 僕の心が高鳴っている? どうして? 新居 灯を見て私の魂が震えているのか? これまで見てきた女性に対してこんな気持ちを感じたことなんてない、女性との関係は遊びのようなものだったからだ。

 エツィオ・ビアンキという男性はそういう人間だったから……女性を愛でている時でも、頭の芯は冷え切っていて、熱情などを感じたことはない。

 女性は欲望を処理するだけの相手……どんなに美しい女性を目の前にしても、私は冷静だったのに。


『※※※が死んでしまうときに、私は心の底から世界を呪った……だからせめて※※※を甦らせる何かがないか、探した、でも見つからなかった……』


 苦しい……なんだこれは、魂が怒りを悲しみを、絶望を伝えてくる。

 何度か夢を見たけど、これはもう呪いのようなものだ……つらい、苦しい、悲しい……そんな負の感情が凄まじい勢いで吹き出してくるのがわかる。

 やめてくれ……これ以上僕を……私をおかしなことにしないでくれ……息が荒い、こんな感情は僕には必要ない。


『……でももう大丈夫、エツィオ・ビアンキ……目の前にいる女を手に入れなさい。大丈夫……次元拘束(ディメンションロック)で閉じ込めて、身が打ち震えるような喜びを与えれば……』


「大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」

 リヒターに声をかけられて、エツィオはふと我に帰る……心臓の鼓動は普通だ。汗はかいているが、それほどでもない。なんだったんだ? あの声は夢で見ている僕の魂に入り込んでいるあの声か……。

 前に見た時はもっと純粋だった……記憶にある男のことをまっすぐに見つめていたと思ったのに、本当はこんなに歪んでいたのだろうか?


「すまない、大丈夫だ……」

 少しだけ気分が悪い……新居 灯を閉じ込めていうことを聞かせる? なんてことを言い出すんだ……そんな暴行まがいのことはもうしない、と心に誓ったはずじゃないか。あの子にも怒られてしまう。

 ふと誰かに、狂おしいまでに胸を締め付ける視線を感じて、少しだけ膝をつく。そんなエツィオの様子を見て、リヒターが心配そうに声を掛ける。

「お、おい……本当に大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫だ……複雑すぎるよ、魂と体の不一致は……」

_(:3 」∠)_ この辺りの伏線は今後回収したい(多分


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