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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第二章 星幽迷宮(アストラルメイズ)編

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第六八話 臨時講師(レクチャラー)

「これはこれは、碧子さんのお嬢様ですか……なんて美しい佇まいでしょうか」


「それはどうも……母の作品でございますので何卒今後ともご贔屓に……」

 私はにっこりと笑って、少し赤みがかった薄い頭の中年男性に軽く会釈をして、それでは……とパーティ会場の中を移動していく。

 今私がいるのは母が運営しているファッションブランド『MIDORI』の新作発表のパーティ会場だ。前回の降魔被害(デーモンインシデント)から二週間ほど、急にぱたりと事件が起きなくなりKoRJの依頼が来なくなった私は、暇そうにしているのをお母様に見つかり、新作の衣装を着せられてこの会場に放り出された。

「これはこれは新居さんのお嬢さん……先日お話しした孫との婚約、お母様には相談されましたか?」


「あ、いえいえ……まだ婚約など考える年ではございませんので……失礼しますね」

 私に声をかけてきた年老いた老紳士のお話を丁寧に断ると、私はパーティ会場の中にあるビュッフェコーナーへと移動する。

 自分が着ている服……母が今回新作として私をモデルにデザインしたレースをふんだんに使った、薄い紫色のドレスを眺めて……ため息をつく。

 綺麗なんだけど、少し男性の視線が気になるデザインではある、現に比較的歳が近そうな、二〇〜三〇代くらいの男性からの視線が突き刺さるような気がしていて、居心地がとても悪い。

 私の身長は中学生時代から一気に伸びて、現在一七〇センチメートルあるがその背の高さを見た母が、モデルにできると判断したらしく高校一年生の頃から新作のドレスを着用させて、パーティ会場へと連れてくるようになった。


 まあ、注目されて周りからチヤホヤされるというのは悪い気分はしないもののはずなのだが、両親よりも年上の男性からエロい視線を向けられたり、お孫さんとの婚約はどうか? と尋ねられたり……個人的には苦痛を感じる時間となってきてしまっている状態だ。

 第一孫の年齢聞いたら私よりも年下で、まだ小学生だって言われてターくんと同じじゃねえか! と内心ツッコミを入れてしまったくらい、馬鹿馬鹿しい話が多い。


「……ただ、美味しいものがあるのよねえ……」

 私はお皿にケーキを載せて、満面の笑みでフォークを使って口に運んでいく……パーティ会場にきて唯一の癒しは、食事がそれなりに美味しく、甘いものが多いこと。

 ある程度我慢する時間に耐えれば、好きなだけ食べて良い、とはお母様より聞いているので、遠慮なく甘いものをお腹いっぱい食べさせてもらおう。

「ミカちゃんが一緒にいてくれたら楽しいんだけどなあ……」


 家の仕事なので流石に友人を巻き込む気にはなれず……お母様から出てほしいと頼まれた時は一人で対応している。まあ、髪の毛のセットとかお化粧などもプロのメイクアップアーティストが行ってくれるので楽だしね。

 とてもでないけど、ここまで手の込んだ化粧は自分一人では出来そうになかったりもするので、プロってすごいな! と感心すること然りである。

「ふぅん、君は結構ビッグイーターなんだねえ」


 急に声をかけられて、私はキョトンとして声の方向へと振り返る……そこにはタキシードに身を包んだ金髪碧眼のイケメンが興味深そうに私を見ている。

 見たことがない人だ……私はその男性の視線を無視するように、ケーキを口へと運んでいくが、ふとそこで彼が恐ろしく流暢な日本語を話していることに気がついて、彼の顔を二度見する。

「ああ、すいません。僕はエツィオ ビアンキと言います……()()会場のウェイターをしています」


 エツィオと名乗る男性はにっこりと笑うと、私の顔をまじまじと見つめる……綺麗な碧眼だ、とても透き通るような色をしており、そんな目に見つめられながらケーキを食べる自分が少しだけ気恥ずかしくなる。

「あ、あの……何か?」


「ああ、すいません。アカリ アライさんですよね? お美しいとは聞いていたが予想以上だ」

 私の名前を知っている? 自分の身につけているものに何か名前を示すようなものをつけていたかな? と考えて……そんなものはないな、と判断して少しだけ距離を取る。

「……私の名前を知っている? 何者ですか?」


 私が警戒モードに入ったことを察知したのか、エツィオはニコニコ笑いながら手に持ったジュースの入ったコップを私の前へと置くと……軽く手を振って私から離れていく。

「ああ、警戒させてしまったようだ。友人からあなたのことを聞いているんですよ、そう……親しい友人からね」

 エツィオはそのままパーティ会場に紛れ込むように姿を消していく……恐ろしいまでに自然に気配を消していくその動きを見て、私は追いかけようとするが……私の感覚ですら彼を捉えることができず、その場で立ちすくむ。

「敵……? いやその割には隙だらけの私を攻撃しなかった?」


 何者だったのだろうか? 少なくとも降魔(デーモン)に加担しているような雰囲気というか、そういう感じはしなかったのだけど……私はさらに残ったケーキを口に運んで、先ほどのエツィオの顔を思い返してみる。

 どこの国の人なのかはわからなかったが、肌の色や目の色などから考えるとヨーロッパ系の人物なのはわかる……それほど多く人と会っているわけではないからこれ以上はわからないが……。

「灯、パーティ終わったわ。疲れちゃった……今日はタクシーで帰りましょ」


「あ、はい。もう帰りますか? ってどうしました?」

 お母様が私の元へとやってくる……彼女はなぜか私の顔を見上げて、ニヤニヤと笑って私の腕をちょいちょいとつつく……も、もうそういうところだけ目敏いんだよなあ。

「随分なイケメンに話しかけられてたわね。どこの人?」

 ああ、お母様にも見えているなら多分本当にウェイターだったのかもしれないな……と私はある程度納得して、苦笑いを浮かべる。


「いえ、名前は名乗られていきましたがウェイターさんとかで……」

 なんだあ、と笑いながらお母様は私の腕に自分の手を絡ませて歩き出す……本当に誰だったのだろうか? 私は母親へと話しかけてくるパーティの客に愛想笑いを振り撒きながら会場を後にした。





「あかりん、先輩ってめちゃくちゃ勉強できるね! メッセで結構話したけど頭いいなって思ったよ」

 お母様の新作お披露目パーティから三日ほど経過したある日、私は高校の教室でミカちゃんと話していた。話題は、墨田先輩が私を通じてミカちゃんに勉強を教えてもらうという話になったからだが、既にミカちゃんと先輩が直接やりとりしていることに内心驚愕している。

「い、いつの間に直接やりとりを……?」


「あかりんも入ってるグループチャットだと、あかりんの仕事中は悪いよねって話になったから、直接やりとりしてるの」

 ミカちゃんは屈託のない笑顔で私に話しかけているが……私は、まさかミカちゃんが直接そういう行動に出ているとは思っていなかったために、顔には出していないがめちゃくちゃ動揺していた。

「た、確かに私先輩とはお友達って言ったけど……まさかそんなすぐにやりとりしているとは……」


「なあに? もしかして()()を気にしてるの?」

 ミカちゃんが私の顔を見て、少しだけ意地悪く笑う……くっ……私にとって先輩は友達だ……だからミカちゃんがアタックして先輩がミカちゃんを選んだとしても、それはそれでいいに決まっている。

 決まってるはずだ、でも胸の奥が少しだけチリチリしている……昨日先輩とメッセージアプリでやりとりした時はそんな話一言も言わなかったじゃないか。

「……ぜ、全然気にしてなんかないよ……」


「本当ぉ? なら私頑張っちゃおうかな」

 私が下を向いたままなんとか言葉を絞り出すのを見ながら、ミカちゃんがカラカラ笑う。悪気はない……単純に私がヤキモキするのを楽しんでいるだけなのかもな。

 そう考えた自分の思考に気がついて、なんでヤキモキする必要がある? と心の中の一部分が叫んだような気がする……だって私……前世が男性なのにどうして先輩とミカちゃんがくっつこうが関係無いじゃないか! と。

 でもなんかモヤモヤするんだよな……どうしてなんだろうか。

「はい、みなさん席について〜」


 普段であれば英語を担当する女性教師が入ってくるはずなのに……今日に限って入口から教頭先生が入ってきた。あれ? という顔をして慌てて席に戻る生徒たち。

 生徒たちが席に着くと、教頭先生は一回咳払いをした。

「えー、英語の松川先生ですが産休に入られることになりまして……当分の間お休みすることになります」


 松川先生は二〇代中頃の可愛い感じの女性で、男子生徒からは結構人気のあった先生で……そのことを嘆く声が教室に響く。

「男性からしたらちょっと悲しいだろうねえ」

 ミカちゃんが私にこそっと話しかける……私もそうだろうなあ、と思って頷く。私の目から見ても、松川先生はとても魅力的な女性だった、小動物的な感じだったし。

 しかし産休とは……いつの間にご結婚とかされていたのだろうか? むしろ最近で言うところの授かり婚って奴だろうかねえ。私は頬杖をついてボケーっと別のことを考え始める。

「はい、静かに。それで英語の先生を臨時で務めていただく方を紹介します」


 ガラガラと引き戸を開ける音と、その臨時講師が入ってきた瞬間、教室に黄色い声が響く……なんだ? あまり興味の持てなかった私は姿勢を崩さずに、外の様子を見ていた。

「あ、あかりん! めっちゃイケメン! イケメンきたよ!」

 ミカちゃんの興奮した声を聞いて、なんだよ……イケメンなんか興味ないよ、と思って教壇に目を向けた私の目に驚くような人物が立っているのが見えた。


「え?! なんでここに!?」

 思わず立ち上がった私をクラス全員が驚いて見つめる……その臨時講師としてそこに立っていたのは、先日私に話しかけてきた……エツィオ ビアンキと名乗る男性だったからだ。

 わざわざメガネをかけ、スーツ姿の彼は驚いて立ち上がった私をみて、とても爽やかな顔で挨拶してきた。


「やあ、日本の美しいお嬢さん(セイ カリーナ)。先日はどうも、今日の格好も可愛いですね」

_(:3 」∠)_  新キャラを積極的に絡ませてみる


「面白かった」

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