表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第二章 星幽迷宮(アストラルメイズ)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/247

第六二話 降魔被害(デーモンインシデント)

『総理! どうするんですか総理!』


『えー、現在関係閣僚及び諸外国首脳と通称降魔(デーモン)に関する対応を協議しているところでありまして……』

 画面の中で政治家同士が揉めている。

 先日東京都オダイバにおいて大規模な降魔被害(デーモンインシデント)が発生した。その事件は多くの人を巻き込み、死人や行方不明者、そしてあまりに多くの目撃者を出した。

 SNSに拡散した降魔(デーモン)の姿は、この世界の人々が古くから言い伝えていた神話上の怪物に似た姿を持っており、人々はその姿を見て恐怖に慄いた。


『それでは遅いんですよ! 総理!』

 野党の政治家が喚き立てる……しかし政治家たちも本心ではわかっている『政治では対処できない問題が発生した』と。オダイバの事件から一ヶ月余り、全世界的に日本で発生した降魔被害(デーモンインシデント)を各国首脳が認識、過去よりこう言った事件が発生していたことを暴露した。

『国際機関と協力しまして……未知なる脅威から国民の皆様を守るのが使命となりまして、え〜』

 隠しきれない、と判断したのか国際機関などがその発言を承認し、宗教の最高指導者たちがこの外敵の存在を公式に認める発言をしたことで、世界は混乱するかに見えた。


 だがしかし……世界は急速に平静を取り戻した。

 結局のところ一般の人間にとって降魔被害(デーモンインシデント)はいつ起きるかわからないものであり、一番大事なのはその日その日を生きるので精一杯なのだから。

『まずは国際機関として名高いKoRJが特殊作業員を派遣していただくことになっておりまして、え〜これは各国共通の認識となっており……』

 一週間ほど経過すると、日常はすぐに戻ってきた……ただ前と違うのは人々は夜の闇を、暗い森の奥を、振り返った暗い夜道を少しだけ恐れるようになったことだろうか?

 ……そう、世界は日常を少しだけ取り戻しているところだったのだ。




「ありがとう新居さん……両親は僕のことを怖がってきてくれなくて……君が見送りに来てくれるのは嬉しいよ」

 私と志狼さんはナリタ国際空港の待合ロビーに立って話をしている。

 KoRJの中で彼を見送りに行く人がいないと言うことで、私が彼を見送ることになった……桐山さんと益山さんのアイデアだそうだが、まあ余計なことを……とは思うのだけど、こう言った機会で彼と話す時間ができたのは少しだけ嬉しいかもしれない。


 メッセンジャーアプリなどで連絡をしてもつっけんどんな返信しか返ってこなくて、ヤキモキした時期もあるのだけどそれが彼には将来を約束していたアマラと言う女性がいたのだと言うことを最近知ったことで私も納得した部分があるのだ。

 志狼さんはまだ怪我の治療中で、左腕にギブスを巻いたままだったが、普段と変わらない程度の行動ができると話していた。

「い、いいえ……私も暇だったので」

 私は片手に持ったラテを一口飲むと、少しだけ俯く。隣に立っている彼の顔を見れずにいる……いつもだったら笑顔で送り出さなきゃいけないとわかってはいるのだけど、彼の気持ちを考えるとそう言う送り出し方がいいのか本当にわからないからだ。


 先日志狼さんは愛する人を失った。

 その女性、アマラ・グランディを殺すきっかけとなったのは降魔(デーモン)をこの世界へと呼び出した敵なのだが、致命傷となる攻撃を加えたのは私だから、という負い目もあり私は何を喋っていいのか本当に悩んでいる。

「あ、あの……イギリスに戻られたらどうされるんですか?」


「ん? ああ……アマラが最後に言ってたけど、彼女を荒野の魔女(ウイッチ)たらしめた能力は死を持って次の適合者(アダプト)へと継承される。だからイギリスかその周辺国に次の荒野の魔女(ウイッチ)が誕生しているはずなんだ」

 私が志狼さんを見ると、彼は少しだけ寂しそうな目で遠くを見ながら口を開く。

 まだ彼も悲しみの中にいるのだろうけど、榛色の目はそういった感情を写さずにじっと遠くを見ている……彼が不意に、私の視線に気がついたかのように振り向く。

 少しだけ寂しげな笑みを浮かべた志狼さんの顔は少し腫れぼったくなっており、彼がつい先日まで泣き腫らしていたのだとそこで理解した。

「わ、私……なんて言えば……勝つことに夢中で、彼女を斬らない選択肢があったかもしれないの……にっ!」


 私が少し動揺して口を開いたのを止めるように、志狼さんは私をそっと抱きしめる。

「ありがとう、でも彼女のことは気にしなくていいよ。元は僕が彼女を繋ぎ止められていなかったのだから」

 志狼さんの声は落ち着いていたが、体は少しだけ震えていた。私は急に悲しくなって、少しだけ目を潤ませながら彼の背中にそっと手を添える。

 少しの間だけ、私たちはじっとお互いを慰めるかのように動かなかった。周りから見ていると別離を惜しむカップルのように見えるのだろうか? でも彼が負った心の傷はこの程度ではとても癒せないのだ、と私は理解している。

 そしてその傷を癒すのは私では無いことも。


 志狼さんが私をそっと離すと、ニコリと笑う。

「ごめんね、君は僕の恋人でも無いのに……これ以上は青梅くんに怒られてしまうよ」

 私の髪の毛を少しだけ名残惜しそうに撫でると、彼は私と距離をとる……私も先輩の名前を出されたことで、少しだけ自分が感傷的になってしまっていることに気がついて恥ずかしさで頬を染める。

「い、いえ……先輩は友達なだけなので……」


「……もう行くよ、君に余計なことを言ってしまいそうだ」

 志狼さんは笑いながら、ゆっくりと出国ゲートの方へと向かっていく……その背中を見送る私を振り返ることなく、彼はゲートを潜って飛行機の搭乗口へと歩いていく。

 彼はこれから一般の飛行機でイギリスへと戻ることになっている。死亡したアマラは、日本の法律に基づきKoRJが責任を持って火葬にし、その骨だけを別便で国元へと帰すのだという。


 私は志狼さんの姿が見えなくなった後に深く頭を下げる。

 降魔被害(デーモンインシデント)で私が窮地に陥った時に助けてくれた彼……心の中に強い印象を残していた彼のことは、正直言えば今でも少しだけ好意、いや憧れのような気持ちを感じている。

 さっき私を抱きしめてくれた時に、受け入れてしまいたくなるような強い感情を呼び起こされた……前世が男性だと言うのに、今までひたすらに男性を拒否し続けてきていたのに。

 あの時の強い感情は女性としての意識を呼び起こすくらい、とても強い印象を私に植え付けていた。

「さようなら……志狼さん。私の憧れた人……」




「こう見ていると普通の女の子なんだけどねえ……」

 カフェの窓際の席に二人の男性が座っている。

 一人はスーツ姿の男性で金髪に青い目をしたスーツの男性で、赤いネクタイを締めていてビジネスマンのように見える。彼は血色の悪い顔をした痩せぎすの外見をしているが、見る人が見れば彼の顔は端正で整っていることがわかるだろう。

 もう一人はパーカーを目深に被った若い男性だ……服はそれほど高いものを着用していないが、フードや服から除く肌は褐色をさらに濃く煮詰めたような色をしており、日本人では無いことがわかる。

「魅力的な外見ではあるな、アレが欲しくなったのか?」


「いやいや……戦いたいとは思うけど、その体を楽しみたいなんて欲望を僕は人間に対しては感じないよ」

 彼らは普通の人間ではない。

 スーツ姿の男、テオーデリヒは虎獣人(ウェアタイガー)でありこの世界を蹂躙しようという魔王(ハイロード)アンブロシオの部下である。

 もう一人の若者はララインサル……闇妖精族(ダークエルフ)の男性でもあり、テオーデリヒと同じくアンブロシオの部下だ。

 二人は敵情視察の名目で、KoRJの新居 灯を監視するためにナリタ国際空港へと足を運んでいた。、


 くすくす笑いながらコーヒーをカップから啜ると、ララインサルは少し苦そうな顔で舌を出す。そんな彼の顔を見つめながら、テオーデリヒは血色悪い顔で笑う。

「慣れないのであれば飲まないほうが良いぞ」


「いやいや、この世界に来てるんだから僕も慣れないとねえ……うーん、なんでこんな苦い飲み物が人気あるんだ?」

 ララインサルはカップを眺めながら、美味しく無いものを飲んでいるかのように口元を歪める。

 そんな彼の様子を見ながらテオーデリヒはカップのコーヒーの匂いを嗅いで……少し苦笑いを浮かべて笑う。

「まあ、この豆は高いものではないな……私が飲んだものはもっと深みのある味のものだったな」


「豆が高いってなんだよ……あ、これは美味しいね」

 ララインサルはコーヒーの付け合わせで配られていたクッキーを口に入れて少しだけ微笑む。異世界の住人であった彼にとって、この世界の食べ物は奇妙な匂いを放つ不思議なものが多い。

 それでも生きていくためにはその世界の食事に慣れる必要があり……テオーデリヒは完全にこの世界に馴染んでいたが、元々の世界でも特殊な食事を好んで食べていた闇妖精族(ダークエルフ)としてはかなり違和感のあるものを食べるしか無いのであった。

 ただ、日本という国で販売されている菌類などは異世界よりもクオリティが高く、ララインサルとしてはその点においては満足感を覚えている。


「しかし……あの娘は今ここで殺そうと思えばすぐに殺せるのではないか?」

 テオーデリヒの青い目に殺気が漲るが、それを笑顔と手の動きだけでララインサルが抑える……テオーデリヒにとってもこの闇妖精族(ダークエルフ)の青年は捉えどころがないどころか、自分が正面切って戦った時に勝てるかどうか分からないと言う不安感を感じる存在であった。

「ダメですよ、こんな場所で彼女のパーソナリティを壊すようなことは、無粋です」


「む……いつならいいのだ?」

 不満そうなテオーデリヒを見て、くすくす笑って……コーヒーを口に含んだララインサルは不気味すぎる笑みを口元に浮かべる。

 そうだな……テオーデリヒが満足できるような場所。戦闘能力を存分に発揮でき、なおかつ侵入者を弱らせる何か、あれしか無いとは思う。数多の勇者(ヒーロー)たちを屠ってきた最強の防衛施設がね。


「ちゃーんと舞台は用意しましょう……あなたのその力が発揮できるような場所をね……」

_(:3 」∠)_  政治はあんまり書きたくないけど現代だと絡まざるを得ないかなと(最小限で行きます)



「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ