第四九話 恐怖の夜(テラーナイト) 〇三
「なんなんですかー! 私こんなに普通の女子高生なのに、何なんですかあの化け物見るような目はー!」
私は……助けたはずの人たちから怪物を見るような目を向けられて超傷ついていた。
どうやらKoRJの開発した認識阻害装置はうまく機能しているようで、私の顔は彼らにはよくわからない状態で認識されていたようだったが……自分がどんな姿に写っているのか、私にはわからないので逆に不安になる。
『まあそういうな、そのうち君に助けられたことを感謝する者も現れる。それまで我慢するんだ』
八王子さんの声がインカムに入る、ああそうか……インカム入れっぱなしだったんだっけ。
「そうは言いますけど……私一応どこにでもいる普通の女子高生なんですよ? 人生であんな目を向けられたの初めてです……」
私は頬を膨らませて、インカムの先にいるであろう八王子さんに向かって抗議する。まあ彼は私の姿が見えていないので、私がその場でインカムに向かって膨れてるだけなのだけど。
……とはいえ今世では初めてなだけで、私の記憶にはああいった化物を見るかのような、恐怖と蔑みの入り混じった目は経験している。
私の前世である剣聖ノエルの記憶には、もっとひどい罵倒や、侮蔑の言葉、そして心を抉るような裏切りも存在している。でも私の認識は記憶の中にある遠い思い出としてなので、それを思い出したところで傷つくことはないのだが……流石にリアルタイムでそれを食らってしまうのは、想定外だった。
思っていたよりもあの視線は辛い、ノエルはこういうときどうしていたのだろうか? まあ多分掘り起こせば色々なご乱行などの記憶は出るのだろうけど、今それを思い出す意味はない。
『……普通、ね……まあそうだな、ただ君たちがやらねば無辜の人たちが殺されてしまう、それは避けねばならん。それと……荒野の魔女から宣戦布告のメッセージが来ている』
その言葉と同時にズシンと施設全体が大きく揺れる……外でも仲間達が戦って、民衆をなんとか逃そうと奮闘している。ショッピングモール内に足を踏み入れたのは、血の匂いを感じ取ったからなのだがここですら数十人の人が閉じ込められていた。やはり、この混乱は彼らの仕業だったということだろうか。
「どんなメッセージですか?」
背後に食屍鬼が忍び寄ってきたのを感じ取り、私は体を回転させながら抜刀し、一撃で食屍鬼を切り伏せると、インカムに向かって尋ねる。
先ほどの吸血鬼は復活してこないところを見ると、格の低い下級吸血鬼だったのだろう。能力を制限された下級の不死者で上位種では普通に持っている復活能力を制限された哀れな存在だ。
ただ、選んだ獲物を食屍鬼へと変えてしまう限定的な能力は有しているが、吸血鬼を生み出すようなことはない。
前に倒した吸血鬼のように食屍鬼をひたすらに生み出すような行動は取っていなかったのだろうが、それでも数体の食屍鬼はまだ残っていて、人間の匂い……私の匂いを感じ取ってうめき声を上げながら、近づいてくる。
『新居 灯さんに招待状を、湾岸のホテルでディナーを用意して待っている、早く来てね。だそうだ』
「……わかりました」
私はそれだけ伝えてインカムを切ると、怒りのままに近くにあった壁に拳を打ち付けて震える……轟音と共に壁に大きな凹みができて、パラパラと砕けた壁の一部が地面へと落ちていく。
私は荒野の魔女のあの人を見下したような笑顔を脳裏に浮かべて一人笑う……面白い、これは私だけでなく私の中にいる剣聖への挑戦状ってことか……私を呼び出すためだけにこんな混乱を巻き起こして、人を殺している、そして壮絶な破壊の中で笑っているのだ。
「上等……あなたの誘いに乗ってやろうじゃないの」
私はノロノロと近づいてくる食屍鬼を一刀の元に切り伏せると日本刀を鞘へとしまい、指定されたホテルの方向へと大股で歩いていく。
そんなクソみたいな敵を倒さずにいてどうする……私は前世が異世界最強の剣聖ノエル・ノーランドが転生した……この世界では最強の剣士なのだから。全てを斬り伏せて……この世界を守るのだ。
「これをくらえっ!」
青梅 涼生は念動力で空中へと持ち上げた、路上駐車された四輪車を巨大な蟹の姿をした魔物へとぶつけて薙ぎ払う。
一トンを超える重量物の衝突で、青い血を噴き出しながら潰れて動かなくなる魔物。
「今のうちに走れ!」
あまりの現実離れした光景に呆然とするか、怯えていた人たちが、青梅の声で慌てて走り始める。彼らの目にも、やはり青梅の顔は上手く認識できない姿で写っている。
どんな顔に写ってるんだろうなあ……少しだけ相手の反応が気になる部分ではあるけど、今はそれを気にする時間はないだろう。
青梅は再び近くにあった、電柱を念動力で引き抜く……バチバチという音を立てて火花が散り、青梅はその電柱を回転させながら近くにいた小鬼族へと叩きつける。悲鳴と共に血飛沫をあげて……小鬼族たちが絶命していく。
「ハゥルイ……ダラークァ、ダラー……」
そんな青梅を見て、小鬼族の一部が震えながらひざまづいて命乞いを始める……。よく見ると、小鬼族は目から大粒の涙を流しながら必死に青梅に訴えている。
果たしてどちらが化物なのだろう? とふと青梅の脳裏に考えがよぎる……必死に命乞いをする魔物と、その前に立って武器をふるう自分達、何かがおかしいのではないか?
「くそっ……」
青梅が少し悩むような仕草を見せたとき……チャンスと見たのか、小鬼族が後ろ手に短刀を構えていく。そんな動作に全く気が付かず、考え込むような仕草で地面を見つめる青梅。
ほくそ笑むような邪悪な笑顔で、一気に懐の短刀を青梅へと振り上げた小鬼族が燃え上がる。それを見て悲鳴をあげた別の小鬼族も次々と炎を上げて倒れていく。
「だめだぜ、目を離しちゃ……こいつら逃したらどこで何するかわからねえ」
声の方を向くと……墨田が立っている。認識阻害装置が働いているが、お互いが同種の認識阻害装置を装備している場合、所有者の認識阻害装置の効果を中和する機能が働き、青梅と墨田の目にはお互いがきちんとした姿でうつる。
「……墨田さん……」
彼はクスッと笑い……慌てて逃げ出そうとしていた別の小鬼族を燃やし尽くし……青梅に笑顔を向ける。
「辛いならトドメは俺に任せておけ、お前が無理に手を汚すことはねえよ」
その言葉に、少し青梅の目が潤む……そうだった、この人は新居さんにはああ言うものの、本心としては本当に僕たちのことを心配してくれる良い兄貴分だった。
「すいません……僕は……」
「気にするな、俺はお前や灯ちゃんのことが気に入っているからな……汚れ仕事なんか俺たちに任せればいいんだ」
墨田はさらに威嚇をしていた巨大な蟹の魔物や、上半身が馬で下半身が魚のような姿をした海の馬を能力で燃やし尽くしていく。
その姿はまさに炎の魔神と言っても過言ではない、無慈悲さと残虐性を備えている。
「思ったよりも強くねえな?」
ズルズルと何か重いものを引きずるような音が鳴り……墨田と青梅の前に、上半身裸のグラマラスな女性が姿を現す。しかしその姿は異様だった、下半身には獰猛な狼の頭が六本生えており、複数の狼の足が生えていた……海魔だ。
「こ、こんにち……は……あなた……わたし……みてる」
美しい海魔の上半身の顔は二人を見てニコリと笑うと拙い日本語を喋り始める。二人は日本語を学習しているという目の前の不気味な魔物に驚きつつ、その豊満な胸に視線を釘付けにされている。
びっくりするくらい形が良く、大きな胸とあまりに美しいその顔は男性を魅了してやまない魅力を持っている……下半身の異様さに目を瞑れば、だが。……魅力的なその裸体に墨田と青梅は思わず唾を飲み込む。
健全な男の子だから……おっぱいを見たらドキドキしちゃうの……墨田は少しだけこの任務についたことを幸運に感じている。
「う……でけえ……機会があれば一度揉みたくなるな……Gかな」
「そ、そうですねGくらいですかね……ってそんなこと言ってる場合じゃ!」
その二人の視線に気がついたのか海魔は豊満な胸を両手で揉みしだくような動きを見せると、少しとろけるような表情を浮かべて、二人を誘惑するような艶かしい動作をし始める。
「だんせい……これ、すき……こいつもすきそうだった」
狼の口から、べっと血まみれの何かが吐き出される……それは苦悶と恐怖に満ちた表情を浮かべた男性の頭だった。青梅は思わず息を呑んで、一歩後退する。
そうだった、こいつは魔物なんだ……人ではない何か、異世界からの来訪者、人を喰らう忌むべき怪物……。青梅は近くにあったベンチを念動力で持ち上げる。
「やるぞ、こいつはそのままにしておくと何人食うかわからねえ」
墨田が手のひらに炎を宿して身構える……その二人の様子を見て海魔は美しい顔を歪めて、悲鳴のような不気味な叫び声をあげる。
その声に同調するように六本の狼の顔が同時に咆哮し、十二本の狼の足が出鱈目な方向へとバタバタと蠢き、ゆっくりと二人へとその巨体を引きずるように向かってくる。
「行きますよ!」
「応!」
青梅と墨田はお互いを見てニヤリと笑うと、それと同時に海魔へと駆け出した。
_(:3 」∠)_ 男の子だから仕方ないの!
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