第三七話 対話(ダイアローグ)
「さて……ノエルともう一度話さないといけないんだっけ……」
剣の悪魔の事件……新たな被害者甲斐 雄一を殺傷した後、犯人は警察の制止を振り切り、手に持った刃物で自殺した。因果関係などを調査中。という実に後味の悪いシナリオで世間に公表されることとなった。
後味が悪すぎて……私は誰とも口を聞きたくない気分でKoRJ東京支部へと戻った後……八王子さん達が心配する中、何も言わずに頭だけ下げて家に帰ることにした。
それどころではなかったから……みんなには別の日に謝罪することにしよう。
私は家族には何も言わずに食事を済ませて、お風呂に入って少し体を休めた後、誰とも会話をせずにさっさとベッドに入って、ノエル……私の前世でありはっきりと存在を認識できる魂へと呼びかける……微睡の中、私の意識が深く暗い空間へと落ちていく。
微睡むような意識の中……気がつくと目の前に、再び素っ裸のおっさんが現れる。
なんで、なんで裸なのこの人。ポカンとして素っ裸のおっさんと目があったままフリーズする私。
おっさんはなぜか私の視線に気がつくと、ンフフと笑う。
「……」
「おう、ようやく来たのか」
私は絶句して自分の姿を見るが、私は寝る前に着たウサギさん柄のパジャマ姿だ。つまりこの変態クソ野郎はわざと素っ裸で出てきた、ということになる。
状況を理解した私は急いで手で顔を覆って、目の前の変態を見ないようにしながら言葉を絞り出す。
「嫌がらせですか? それともその粗末なもの女性に見せつけて、楽しんでる変態ですか?」
その声を聞いて満面の笑みでニヤニヤと笑うノエルは、ようやくどこからか取り出した服を着て……恥ずかしがる私を覗き込み、めちゃくちゃ馬鹿にしたような顔で口を開く。
「あれー? 気がつかなかったなあ、それと俺の***はベッドでは女性には大変好評だったので、粗末ではないと思うなあ、ンフフ」
こいつ……前世では絶対悠人さんレベルのセクハラ野郎だ……私が思い出せないだけで、めちゃくちゃ女性に嫌われる行動をしていたに違いない。
なんて前世なんだ……私はギリギリと拳を握りしめて目の前の変態クソ野郎をしばき倒したい衝動を抑えつつ、彼に色々聞かなければいけないことを思い出した。
「と、ところで……話の続きでしたね?」
「そうだ、真面目な話でな……灯……お前と一つになりたい」
真顔で私に向かって話すノエルを思わず無表情のまま黙って殴る私。頬を押さえて、なんで殴るんだよ! という顔のノエル。
「おま……すぐに手が出る女はモテないぞ! 第一、魂だけで殴るとかお前の認識力どうなってんだよ!」
「だって絶対エロい意味じゃないですか! 私……まだそういうことしたことないのに! ケモノですかあなたは!」
その言葉に……お前は何を言っているんだ、という呆れた顔で私を見ているノエル。
あれ? そういう意味じゃないの? 私は申し訳ないなとちょっとだけ思い……イメージ的には正座してノエルの言葉を待つ。
「何故かというと……今この体に二つの自我を持つ魂が入っている。これが非常にまずい」
ノエルは魂と体の因果関係について説明を始める……。
私とノエルは、それまで一人の人間として生きてきた。これは私が主人格として、ノエルの記憶や身体能力の一部を継承した状態でノエル自身の自我はほぼ無い状態……つまり私の魂の中にノエルの魂が眠っている状態だったと言っても良い。
しかし……降魔被害が起きたことで、私はノエルの魂を何度も無理矢理に引き出して……目覚めさせてしまった。主人格である私と交代してノエルが前面に出てしまうことで、次第にノエルの魂は自分の存在を知覚し始める。それでもノエルはまだ微睡の中にいた……はずだった。
先日三頭狼との戦闘時に聞こえたあの声……その声はノエルだったのだと、今ならはっきりと感じる。
「ああ、あの時ね……お前さんが心配だったから、おぢさんも一応優しいとこ見せちゃおうかなって」
そ、そうっスか……でもあの時のノエルの導き……莫大な戦闘経験を元に作られた次の一手は非常に的確だった。
多分時間をかけていけば倒せた相手なのだろうが、恐ろしく効率的に短時間で三頭狼を倒せたのは確かなのだ。
「ではなぜ今日、はっきりとあなたが前面に出たんですか?」
私はそこまでの説明を聞いて、ふと疑問に思ったことを口にする。そうだ、今まで通り微睡んだ状態でノエルがいればよかったのではないか?
「いや、お前……あのまま俺出なかったら負けてたよ? それで***を***に***されて***だ」
「ぎゃああああ! 清い体の私にそういうこと言わないで! この性獣!」
とても冷静に、かつものすごくバカにされたような目でノエルに事実を告げられ……私は頬を膨らませて、精一杯の抗議をしてみるが……確かにそうだ。剣の悪魔はとても強かった……正直言えば私は勝てる見込みがなかったのは確かだ。
「でだ、表に出てきたのはいいが。俺がこのままでいるのは本当にまずい。一つの体には一つの魂を、これは不文律だ」
ノエルは私の肩をガシッとつかんで……とても真面目な顔で私を見つめる。碧眼の美しい瞳が私を見つめる。
「だから……再び俺たちは一つにならなければ……崩壊してしまう。時間はかかるだろうが魂を融合して、新居 灯という人格を固定しなければいけない」
ノエルの真剣な眼差しを見て……私は少しこの目の前の変態の焦りのような感情を感じていた。
「俺の意識が出た翌日、お前は体の痛みを感じていただろう? あれは複数の魂に耐えられなかった体が悲鳴を上げていたんだ。つまり……無理に二つの魂を共存させ続けると、お前は色々なことになって死ぬ、それはもう悲惨に、肉塊になるかもしれない……ああ、内側から爆発して死ぬかもしれないな、わかんないけど」
いや、その追加で色々言われてもなあ……とにかくこのままでは体が持たないことだけは理解した。さてこれを解決するにはどうすれば良いんだろう?
「そうだな……まあ、魂同士で***を***しても良いんだが……お前未経験だしなあ」
だからなんでお前はセクハラするんだよ……私はジト目でノエルを睨みつける。流石にこれ以上茶化すと怒られそうだなと思ったらしく……ノエルは少し真面目な顔で、私に話しかける。
「主人格として再び新居 灯が俺を吸収する……それで一つの魂として再び融合するだろう」
私がノエルを吸収する……? でもそれでは……私は疑問を素直に口にする。
「それではノエル……あなたが消えてしまうのでは無いですか?」
ノエルはその言葉に頷く……非常に真面目な顔で、でも確固たる意志を持った目で私を見つめる。
「俺は……前世ですでに死んだ身だ。はっきり言えばこの状態は明らかなイレギュラー……俺は死んだ時に別に新しい人生を得たいなんて思っていなかったし、君……新居 灯という新しい生が優先されるべきだと考える」
私は少しだけ……このノエルという人格の優しさというか……潔さに触れた気がする。この人は多分私よりも強い魂を持っている……でもそれであっても私という個人が優先されると思っていてくれるのだ。
「当たり前だろ? もう一度言うが俺はすでに死んでいる人間だ。新居 灯の人生は君だけのもの……俺に引きずられることはない。だから……君という女性の中に俺がいて口出しすること自体がおかしいし、生前の俺に君が引きずられてしまうこと自体がその……とても申し訳ないと思っている」
……優しい……やはりこの男は獰猛で猛る魂の持ち主でありながら、その本性はとても優しい。
それはあのシルヴィという愛する女性がいたからなのか、とても紳士な一面を持っている気がする。だからこそ、シルヴィさんはこのノエルという男を愛したのだろう……残念ながらノエルは最後の戦いで死んでしまったわけだが。
「……正直言えば、死ぬ前にシルヴィと一発***したかった、というのは本音だ、あいつ処女だったしな……あ、ちょっと我慢できなくなってきた」
前言撤回こいつは女性の敵、性獣だ。シルヴィさん逃げて、この性獣から急いで逃げて!
「まあ、できなかったものは仕方がない、だからお前に俺を吸収させて……再び一つの魂、現世を生きる『新居 灯』として生きられるようにする」
ふむ……私は私として生きられるから……それはそれで良いのだけど。でもその場合は記憶とか経験はどうなるのだろうか? もしかして私は普通の女性に……。
「前と変わらんよ。新居 灯は前世が剣聖ノエル・ノーランドであるという事実、ミカガミ流という剣術を使えること……そして記憶と経験、全てが継承され、ただ俺という人格は再び微睡の中に消えるので、前のような手伝いは出来なくなる……と思う」
つまりそれは……剣の悪魔のような強敵との戦いで、自由にノエルの魂を呼び出して……戦うことができなくなるということだ。
「それはそうだな……だが、ミカガミ流は君が考えているよりも遥かに、そして、この世の全てを敵に回しても勝つことの出来る剣術だ。君はまだその入り口しか見えていない。だから信じろ、君はノエル・ノーランド……異世界最強の剣聖その人でもあるのだ」
ノエルは、私の肩に手を置いて……真剣な目で私を見つめている……記憶からわかる、この性獣……いやノエルは剣に対しては非常に真摯で、絶対的な自信を持ち続けていたことに。
「……俺はこれまで見てきた君のことがとても気に入っている。だから無理をしてでも君を助けた……だから強くなれ新居 灯」
そこまで話すと、ノエルはそっと私の頭を優しく撫でる。手の感触がとても……暖かい。私はふと目から溢れる涙を抑えられずに、彼の顔をじっと見つめている。
急速に私の意識が覚醒していき、どんどんノエルの姿が遠くなっていく。
「それと君に一つアドバイスがある。俺がよく使う『獅子剣』は今の君には無理だ……俺と体格が違いすぎる。だから……」
そこで私は目を開けて、布団を跳ね除けると……ベッドから身を起こした。私が起きたことでビーグル犬のノエルが尻尾を振って私に擦り寄ってきた。
「あ、あれ……ノ、ノエル……私……」
私はボロボロと涙を流して……心の中にあるとても優しい気持ちに……暖かいその魂にそっと触れる。
胸の中にあるであろう、その優しい男の魂を感じて、私は堪えきれずに声を殺して泣いていた。
_(:3 」∠)_ へ、変態だーっ!
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