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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第三三話 現実主義(リアリスト)

『昨日未明、男子高校生が殺傷される事件が発生し、警察は通り魔事件として捜査を進めています……』


 お父様が見ている朝のニュース番組が一報を報じた。この番組は少しバラエティ色も強くて、ニュースの時間もそれほど多くないのだが、お父様はあまり考えずに見れるからいい、という理由で朝必ずこの番組を見ている。

 でも私は知っている……お父様はこの番組の最後にある占いを見て、その日の運勢が悪いと執筆活動を止めてしまうという悪癖を持っていることに。

 編集さんがハラハラしながら同じ番組を見ていると聞いて……私は編集さんに同情している。


「お、おい灯の学校の子じゃないのか? 青葉根高等学園の生徒が犠牲になったって言っているぞ」

 私はその声に驚いて朝食後の片付けをしていた手を止めて……テレビに目をやる。本当だ……青葉根高等学園の生徒三名が鋭い刃物のようなもので斬り殺された、と報道している。

 犠牲者の名前が出ているが……誰だろうこれ。


 私はある程度興味があって覚えている人以外の名前を全く覚えていない。だから名前だけ出されても正直わからないのだ。

「やだわあ、東京も物騒になったわねえ……、あなた怖い目にあったら助けてくださいましね」

「そうだな、愛する君のことは命をかけて守るよ」

「ああっ、流石あなた! 愛しているわッ!」

 お父様とお母様がなぜか抱き合い……仲睦まじいところを見せてくる。なんなのこの三流のメロドラマみたいな掛け合いは……まあ、この歳でも仲が良いのはいいことか。


 その時、私のスマホにメッセージ着信の連絡が入る。スマホのロックを外して内容を見ると、学年のグループメッセージだった。


『本日ニュースで出ている通り魔事件の影響を考慮し、本校の対応としては数日間自宅待機を決定しました。自習内容は登録されているメールで送付しますので、ご確認ください』


 そのメッセージに間髪入れず、ミカちゃんから別のメッセージが飛んでくる……なになに……『やった!休みだ!』そして可愛いアイコンで『やったぜ』のスタンプが表示される。 違うでしょミカちゃん! 私が『自習だよ』と送り返すと……ミカちゃんは泣き顔のスタンプを返してきた。

 全くこの子は……少しだけ笑みが溢れてしまう。

「今日から数日間自宅待機になりました。自習するので部屋に戻りますね」

 私はお父様とお母様にそう話すと、朝食の後片付けもそこそこに部屋へと戻っていく。制服を着ていたので、普段着に着替えたいし……部屋に戻って服を着替えていると、スマホに着信があった。


 私は着替えを途中で邪魔されたことに少しイラッとしながらも、スマホの通話ボタンを押して電話に出る。できるだけ声を落ち着けて……スマホをスピーカーモードにして机に置いて、スカートを履き替えながらだが。

「はい、新居です」

「新居……朝早くからごめん、大阪です」

 あら? 珍しいな部長から電話が来ることなんかほとんどない。だいたいこちらから一方的にメッセを送りつけて、それに対する返信くらいしか彼はメッセージアプリを使用しないからだ。


「どうされました? ……今朝の事件の件ですか?」

 部長の声が少し緊張感を含んだものであることに気がついた私は、先ほどまでテレビで報道されていた事件のことを口に出す。部長が息を呑む音が聞こえる……当たりか。ということは三名の殺された青葉根生は剣道部の人なのか……。部長は少し躊躇ったように少し間をおくと、思い切って口を開いた。

「そ、そうなんだ……実は君も見ていたあの……甲斐をいじめていた連中が殺されたって……それで、少し相談があるんだ……」




 私と大阪部長は自宅待機とは言われたものの、お互いの最寄駅からほど近い場所のコーヒーショップで落ち合っていた。ここはスパータックス……通称スパタと呼ばれているコーヒー店で、個人的にはクリームがふんだんにぶち込まれたスペシャルクリームジャンボラテが大好きで、ミカちゃんと一緒に立ち寄る店でもある。

 やはり昨日起きた事件のせいで少し店内の人の入りは少なく……お店も事件を考慮して夕方には閉店すると入り口のボードには記載されている。


 私の前に置かれたスペシャルクリームジャンボラテを見つめて……大阪部長がまじかよ、という表情を見せる。彼からするとこんなカロリーの塊を食べることは罪でしかないのだろう。

 私はこんな時間からこの好物を食べれることに少し頬を染めて……スプーンを使ってクリームを口に運んでいる。周りにいる男性客から見ると、若者同士のデートに見えるのだろうか? 少し部長に対する妬みのような視線を感じるが……。まあ本人はそう言うことに疎いらしく、全く気にしていなかった。

「私これが大好きでして……」


「ま、まあ新居は色々規格外だからな……それでもいいんだろう」

 部長はため息をついて、自分の分のブラックコーヒーを啜っている。頭を何度もガリガリと掻いて、非常に落ち着きがない。まあそれはそうだろうな……自分のところの部員が殺されたと聞いて落ち着いている方がおかしい。

「……あいつら、確かに雄一をいじめていたが、それでも俺のところの部員だったんだ……」


 部長がボソッとコーヒーを見つめながら呟く。目には涙も浮かんでいる……前世で散々逝ってしまった仲間を見送った私からしても、人の死というのは気分が良いものではない。正直言えば、あの三人の先輩は名前すら知らないし、好感を持てるような態度を見せていなかったこともあって、私自身は全く感情を揺り動かされることはないのだが。

 私が心を揺り動かされるのはミカちゃんに何かあった時、そして……男性では……いや今は関係ないな。とにかく同年代ではミカちゃんだけが大切なのだ。それ以外はどうでもいいとすら思っている。


「部長はどうされたいのですか?」

「お、俺は……」

 椅子から部長が急に立ち上がって……何度かしゃべろうとして口を閉ざし、再び黙ったまま椅子に座り直す。

 うーん、これ周りから見たら高校生同士の痴話喧嘩に見えるんじゃないか? と心配になって周りに目をやると……明らかにそういう視線をぶつけてくる客が数名いた。違いますぞ、違うのですぞ、私たちは比較的真面目な話をしているのです。


「冷たいことを言うようですが、私たちが首を突っ込んでも意味がないと思っています」

 私は至極冷静に、部長に冷や水を浴びせるような言い方で否定をする。と言うより……単なる高校生である部長が動いたところで出来る事はほとんどない。この国の警察機構の方がはるかに捜査に関しては優秀だし、犯人の逮捕も確実だろう。

 今部長は冷静じゃない、若さゆえかそれとも正義感からか……何度も震えながら……ようやく口を開いた。


「俺は部長で……しかもあいつらは部員だ。それなのに何もできないなんて……ッ!」

 バン! とテーブルを叩く部長。やーめーてー、周りの人から痴話喧嘩に見えちゃうー。しかも部長はモラハラ彼氏っぽく見えちゃうから、その行動は謹んでほしい〜、と思いながら部長の顔を見ると……もう周りなんか見えてないと言う表情だった。

 前世の記憶で、こう言う表情をしている人を何人か見たことがある。一番印象に残っているのは、とある新兵の仇討ちに出かけようとしているときに、流石に見かねて私は止めた……たまに思い出す、あの時若かった私はうまくその名前も知らない兵士に声をかけてあげることができなかった。

 喧嘩別れのような形で送り出した後、次に彼を見たのは戦闘が終わった後、いくつもの遺体が並べられた安置所だった。それを見て私はとても後悔した……あの時彼にもう少し気の利いたことを話してあげられれば、無理矢理でも止めてあげれば、もしかして彼は死ななかったのではないか? と。


「部長……お気持ちはわかります。でも……人を殺すような犯人を相手に部長は何をしようと言うのですか?」

 これは女子高生としての私の意見。そう、冷静になるんだ部長……私たちは世間的には高校生でしかない。彼はとても正義感が強いのもわかっている、腕にそれなりに自信があるのもわかる。

 でも実戦は練習とは違う……悲しいことだが、もし犯人を取り押さえる時……相手が明確な殺意を持って向かってきたときに、人を斬ったことのある人間と、そうではない人間では差が出る。

「くっ……それはそうなんだが……許せないんだ」


「私は……確かに犯人が許せないと言う気持ちは持っていますけど、だからと言って私たち高校生が犯人を捕まえると言うのは話が違うと思います」

 これは正直いえば嘘だ。私はこの犯人が人間であれば……たかだか三人しか斬っていないこの犯人に負ける気がしない。でもそれは人に見せるわけにはいかないからだ……なぜなら世間的には良いところのお嬢様で、女子高校生だから。

「私は……自習をするので帰ります」


 スペシャルクリームジャンボラテを食べ終えた私は、部長に頭を下げて椅子を立ち、その場を離れる。それを見て痴話喧嘩が終わったと考えた他の客が、立ちすくむ部長を憐れむような目で見つめている。……いや違うんス……痴話喧嘩じゃないんですんで……恥ずかしさから大声で叫びたい気分を誤魔化して、私は帰宅の途につく……。


 大阪は新居に突きつけられた現実……はるかに現実的(リアリスト)な面をまじまじと見られて、自分が少し恥ずかしくなっていた。たかだか剣道が少し上手いだけで……俺は犯人を懲らしめてやろうと思ってた、と言うことなのだろうか。

 新居ははるかに大人だった……高校生である自分達に出来る事は何もない。

 はっきりと意思を伝えてきた……見込み違いだったろうか? 新居の剣、とても洗練されて驚くべき鋭さを持ったあの剣は、何か違う努力を積み重ねた末の動きなのだ、となんとなく思っていた。

 新居と一緒なら、もしかしたら犯人を捕まえられると考えていた大阪はがっくりと椅子に座り直す。


「はは……何を期待していたんだろうなあ……俺は……そうだよな、高校生だもんな」

_(:3 」∠)_  スペシャルクリームジャンボラテのサイズ感を想像してみて気持ち悪くなってる


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