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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第三〇話 荒野の魔女(ウイッチ)

「では、今回は取引成立。ですな」


 暗い部屋でスーツ姿の男達が密談を終えて、安心したように安堵の息を漏らす。彼らの前に座る血色の悪いスーツ姿の男は薄く笑うと、部屋にいる男達を見る。実にくだらない……金に目が眩み自らが住む世界を危機に陥れていることにすら気が付いていない。

 密かな感情の揺らぎで彼のメガネの奥の赤い目が少し煌めく。

「アンブロシオ様、今後とも良い取引をお願いしますよ」


 黒いスーツ姿の小太りの男が下品な笑みを浮かべて、アンブロシオに話しかける。

「ええ、私も皆さんと良い取引を継続できればと考えております。それと次の取引の時間のようでして……失礼します」

 アンブロシオは全く心の籠らないが、美しい笑みを浮かべて席を立つ。

 今回の取引はそれなりに役に立つ……この黒いスーツ姿の取引先は実に不快ではあるが、この世界における我々の目的のためには必要な駒だ。


 異邦者(フォーリナー)といえど、異世界においても、この世界においても生命であることには変わりない。

 ララインサルが会ったという少女が所属しているKoRJとかいう組織の公称では降魔(デーモン)というらしいが……生命は活動するために餌、食事、なんらかの栄養が必要だ。

 今回アンブロシオが契約をしたのは、犯罪者や孤児、助かる見込みのない重病人を合法的に異邦者(フォーリナー)へと与えるための取引……つまり人を食う魔物に与える餌を確保した、ということだ。


 日本、というこの国においても犯罪や貧困、そして見捨てられている病人などは存在しており、そしてそういった弱者が少し消えても気にする人は少ない。

 アンブロシオとしては人攫いなどをしてでも確保するつもりだった食糧事情が多少改善したことに満足している。そしてその餌の一部から、彼らのいうことを聞く従順な手駒を作ることすら出来るかもしれない。

「全く……欲に塗れた人間というのはどの世界でも度し難い……」

 アンブロシオは血色の悪い顔に笑みを浮かべて、廊下を歩いていく。次の取引が待っているのだ。




『先日東京都下で発生した神社の火事について、警察は失火が原因と発表しました。なお神主の男性は死亡が確認されています……』

 テレビのニュース映像で先日灯達が三頭狼(ケルベロス)と戦った神社の映像が流れている。歴史ある神社が失火で失われた、というニュースはSNSなどでも残念がる声が多く、義援金を募る声が上がっている。

「火事だって、あかりん怖いね」


「そーだねえ、んむ、私料理するからちょっと気を、もぐ、つけなきゃ」

 都立青葉根高等学園に通う女子高生である私、新居 灯と友人のミカちゃんこと昭島 美香子が店頭のテレビに映し出される映像を見ながら歩いている。

 今は下校時間で、学校の近所にあるクレープ屋さんに寄ってから帰宅の途にあるので、片手にはクレープを持っており、私はもぐもぐと口を動かしながらなのだが。


「あかりん良く食べるね……それ何個目だっけ?」

 ミカちゃんが私の手にある食べかけのクレープを呆れたように見ながら話しかけてくる。クレープは限界までクリームと、チョコが詰まっており、正直にいえば暴力的なカロリーの塊だ。

「んー、三個目かな? クレープ屋のお姉さん、私のこと覚えてくれてて何も言わなくても三個渡してくるの。つまり、これはラストなの……寂しいよぉ」


 私は手にもつクレープを口に押し込むと、くーっ! と悔しさを全身で表す。正直いうならあと一〇個くらい食べてしまいたいのだが、それをやるとミカちゃんに絶対怒られるのでやらないのだ。

「ま、まあいいけどね……あかりん絶対にそれ彼氏の前でやらない方がいいよ」

「か、彼氏なんていないよ!」

 いきなりそんなことを言われて私は全力で否定する。だって本当にいないのだし……。第一前世が男性だった私に彼氏がいる図を想像しても、ボーイズラブにしか感じられないのだから。

「あれ? まだ付き合ってないの? 志狼さんだっけ?」


「うにゅ……最近お仕事が忙しいって会ってない……い、いや会ってても彼氏じゃないし!」

「ふーん? あかりん顔が真っ赤だよ?」

 志狼さんの名前を出されて少し動揺するも私は全力で否定する。その否定っぷりを見てミカちゃんが凄まじく意地悪な顔で笑顔を浮かべている……。

 最近志狼さんは関西の方で仕事をしている、と八王子さんが話していた。日本支部は東京に一箇所、関西に一箇所あって相互に人材を送って降魔被害(デーモンインシデント)の解決を行っていると聞いた。


 銀色の狼獣人(ウェアウルフ)である志狼さんは日本に来る前からKoRの活動に従事していた。そのため向こうでも結構うまくやっているらしい。ただ関西弁になれない、とメッセンジャーアプリで近況を送ってきてくれていた。

 私はなんとなくスマホで志狼さんとのやりとりを見直してみて、まあ無事なんだろうと少し安心するが、前回のメッセが四日前。『ちょっと忙しくなるので』という短文が最後。


 特に向こうから送ってくるわけではなく、気になった時に私から送ると返信が来る程度。これではとてもじゃないけど恋人同士や仲の良い恋人未満の男女がするやりとりではない。

 一方的に私だけが熱を上げている、という可能性すらあるわけで……なんとなく前世でノエルが興味を無くした女性に対してやっていた行動に見えなくもなく。

 少しだけため息をつきたくなる気分で憂鬱になってしまう、いや志狼さんは彼氏でもないんだけどさ。

「あかりん、彼とメッセでやりとりしてるんだね」


「う、うん。仕事仲間とは連絡取れた方がいいって思ったから……でも業務連絡みたいなもんだよ」

 ミカちゃんがよしよし、と背を伸ばして私の頭を撫でてその日で一番最高の笑顔を見せてくれる……可愛いなあ。

「まずは第一歩は進んでるわけだ、私としては満足であるぞ」


「何それ……私別に彼氏欲しいなんて言ってないもん……」

 膨れる私をみて、笑うミカちゃん。

 他愛もない女子高生二人の戯れあいが帰宅路で繰り広げられている……私の平凡な日常生活、ちょっと前までの事件だらけの日々が落ち着き私は少し心に落ち着きを取り戻していた。

 ところがそんな日常に私の感覚に全く引っかからない、異物が入り込んできた。


 ふと……人影が通り過ぎる瞬間に、ぐらり、と目眩がした気がした。な、なんだ? と考えるまもなく周りが暗闇に覆い尽くされる。軽い浮遊感を感じて下を見ると、どこまでも暗闇が広がっている。

「え? こ、これは? ミ、ミカちゃん!?」

 私は隣にいたはずのミカちゃんを探すが……この空間には私しかいない。そしてこの空間の雰囲気はとても不気味だった。

 漆黒のどこまで行っても何も見通すことができない空間……その空間の中に私は浮いている。


「おやおや……ララインサルが随分と褒めちぎるので近づいてみれば……随分とかわいいのね」

 目の前に黒髪に赤い眼を持つ体に密着した少し艶かしい印象のあるドレスを着た女性が現れる……恐ろしく豊満で……そして顔にはとても扇情的な笑みを浮かべている。前世なら絶対手に入れたいと思ったかもしれない。

「……貴方は何者ですか?」


 その問いに目の前の女性は少し馬鹿にしたように吹き出すと、すぐに元の笑みを浮かべて私を見据える。

「私は仲間から荒野の魔女(ウイッチ)と呼ばれているわ……」

 その言葉と同時に体から圧倒的な魔力の奔流がほとばしる。これはまずい、前世の仲間だったエリーゼ・ストローヴ級の魔力を感じる。ビリビリと肌に感じる力のせいで私は少し全身に痛みを感じている。

「あ、貴方は異邦者(フォーリナー)とかいう連中の仲間ですか?!」


「ああ、私はあの方に仕えるものだけど……私自身はこの世界……イギリスの生まれなのよ」

 これだけの魔力の持ち主がイギリスの生まれ……? この世界の人間がこれだけの魔力を得られるものなのか? この世界の人間は魔法使いと呼ばれるものですら、大した力を行使できない。

「馬鹿な……この世界の人がこれだけの魔力を扱えるはずが……」


 思わず口に出た言葉に、私はしまったと口を噤む。私が()()()()があると思われてはいけないのだった。

 しかし、荒野の魔女(ウイッチ)はその言葉を聞いており……その証拠に、背筋がゾクリとするような歪んだ笑顔で笑う。

「そう、お嬢さん……貴方もあの世界の人なのね……これは良いことを聞いたわ」

 荒野の魔女(ウイッチ)は私の眼前に迫ると、白い手を私の頬に添えて笑う。その目は敵を見る目ではなく……どちらかというと良い玩具を手に入れたことで楽しそうな子供のような目だった。


「貴方は剣を使うのよね? でも今は持っていない……なら戦える場所を作ってあげるわ」

 あまりに美しい荒野の魔女(ウイッチ)の笑顔、しかしその眼の奥にある狂気、陶酔、そして憤怒。そういった複雑な感情を見てしまうと、私は体を硬直させて動けなくなってしまう。

 何者なのだ……この世界に転生してからこれほどの力を持つ人間を見たことがない……しかも匂いは人間だ。そう、普通の人間の匂いがしている。


「な、何をする気なの……?」

 私はなんとか声を出す……息苦しい……彼女の目を見ていると自分自身がコントロールできなくなる、そんな恐怖感を感じている。

 とてつもなく怖い……そしてどこか物悲しい雰囲気だ。

「私は貴方を見たかった、そして好敵手たりえると思った。だからこそ全力で殺す価値がある……」

 くすくす笑う荒野の魔女(ウイッチ)の声と共に、あたりの暗闇が晴れていく……。そして私の視界にはミカちゃんが心配そうな顔で私を見つめているのが見えた。

「……りん! あかりん! 大丈夫!?」


「……ん……み、ミカちゃん?」

「よかった! 急に立ち止まってぼーっとしてるからびっくりしたよ!」

 周りをぼーっとした頭で見回すが……ミカちゃん以外には、急に立ち止まって何をしているんだという顔の通行人しかいない。夢だったのだろうか? 

「ご、ごめん。ちょっと疲れてるみたい……うっ……」

 その時頭の奥に声が響く。その声で私は全身総毛立つような恐怖を覚えて震え、膝をつく。ミカちゃんが慌てて私を介抱するが、私はしばらくその場から立ち上がれなかった。


『戦いの舞台は用意するわ、楽しみにしててね。新居 灯さん……』

_(:3 」∠)_  クレープってあんまり食べないなあ・・


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