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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第二九話 三頭狼(ケルベロス)

 目的の神社は、割と都心から離れた場所にあり山腹に建立されている歴史ある神社だった。


「いい場所にありますね、ここ」

「そうねえ……見学だけならいいのにね」

 ヒナさんは苦笑いをしながら階段を登っている。思っていたよりも本殿までの階段が長く険しい。階段の横に生えている木には時折爪痕や黒い毛が付着しているのでおそらく本殿に三頭狼(ケルベロス)がいるのだろう。

 木製の建物や森のある場所で三頭狼(ケルベロス)の炎を吐かせてしまうと厄介だな……とは思うのだが、そこはもうKoRJの面々に期待するしかないだろう。


 しかし神社仏閣はなんていい場所にあるのだろうか。

 森の中にあって空気が新鮮なのもあるが、神域というのはどの世界でも荘厳で落ち着いた空間にあるものなのだ。まあ、街の中にある建物は別だが、東京都とはいえここまで都心から離れると空気が美味しいはずだ。しかし私の嗅覚には独特の臭気……獣臭い匂いが常に感じられている。

 確かにノエルの記憶では魔王城に近づくに従ってやたらと獣臭い匂いに包まれていき、気分がひどく悪くなった思い出がある。その時は数十体がその場にいたからだと思っていたのだが、どうも一頭でもそれなりの匂いがしているものなのかもしれない。


 階段を登り終えると、本殿が見えてきて……その入り口に黒い巨体が寝ているのが見えた。

 私とヒナさんは慌てて鳥居の影に隠れて様子を伺う。三頭狼(ケルベロス)は三つの頭を全て下げて、ぐっすり寝ているように見える。その周りには何かを食い散らかした後……まあこの神社の関係者か何かだと思うが、肉片などが転がっている。

「人を……食べたのね……」

 ヒナさんが少し青い顔でその様子を伺っている。そうか、訓練をしているとはいえヒナさんはそれまで素人だったのだから、こういう場所に連れてくるには一言必要だったかもしれない。


「ヒナさん、相手は人を食べる魔物です……倒さないと犠牲が増えてしまう」

 私は三頭狼(ケルベロス)を起こさないようにヒナさんにそっと囁く。ヒナさんも青い顔をしているが、その言葉には頷いている。まあ、これならば大丈夫そうだ。

 私は日本刀を抜き放ち……ゆっくりと鳥居の中心へと立つと三頭狼(ケルベロス)を見つめる。

 その動きに三頭狼(ケルベロス)も気がついたのか、3本の頭が目をあけ、こちらを見ると巨体を震わせながら立ち上がった。ああ、犬っぽい動きだな〜と思いつつ私は日本刀を肩に担ぐように構えると、前傾姿勢をとる。

「灯ちゃん?」


「ヒナさん、私が相手の注意を引きつけます、援護をお願いします」

 三頭狼(ケルベロス)が大きく咆哮を上げる。三本あるからかなりの大音量だ。付近にある鳥居、狛犬がその音量でビリビリと震える。

 私の全身の筋肉がぎりぎりと音を立てる。限界まで引き絞られた弓の弦が弾けるように私は前方へと全力で駆け出した。高速で駆け寄る私を見て三頭狼(ケルベロス)が戦闘体制に入る。彼らの能力は火を吐く、鋭い爪で引き裂く、牙で噛み砕く……あたりだがそのレベルが非常に高かった記憶がある。動きも早く本能で戦う生き物なので、油断すると簡単に優位をひっくり返されるケースもあった。


「さあ、まずは小手調といきましょうか!」

 私は一気に接近すると軽く跳躍して、ミカガミ流『大瀧(オオタキ)』を放つ。この技は肩に担いだ剣を前への推進力と落下時の加速力と体の回転力を利用して縦切りで斬りつける技だ。日本刀が電光石火のスピードで一気に振り下ろすが、その攻撃を三頭狼(ケルベロス)は背後へとステップして一気に距離を取り躱した。私の攻撃は神社の石畳をかち割り、轟音をあげて地面を凹ませる。


「あら……思ったより目がいいのね」

 私は再び日本刀を構え直す……そこへ一気に突進してきた三頭狼(ケルベロス)の爪が横なぎに振われる。私は日本刀を使ってその攻撃を受け流し、その勢いを利用して体を回転させて横に薙ぎ三頭狼(ケルベロス)の胴体を切りつけた。日本刀は黒い毛皮を切り裂くが、三頭狼(ケルベロス)は再び跳躍してその攻撃の威力を消し、私との距離を取る。

 黒い胴体から血が滴るが、その怪我をものともしない三頭狼(ケルベロス)は前足を描くような動作を始め私へと3本の首が別々に威嚇を始める。


 ーードクン。

 心臓が……一度だけ大きく弾むように脈動した。私は奇妙な体の反応に少し戸惑うも、日本刀を構え直し……目の前の敵へと集中していく。


『次に来るとすれば……火炎だ』

 私の心にふとそんな声が聞こえ……はっきりと次に三頭狼(ケルベロス)が行うであろう動作……火炎を吐く動作がイメージとして湧き上がる。少し戸惑ったものの私は日本刀を構えて、相手の首の動作に集中していく。三頭狼(ケルベロス)の首は別々の動きを始める。


『そうだ、こうして三本の首が違う動作で相手を惑わせて、隙を作る。野生動物や戦いに慣れていない人であれば、この複雑な首の動きに対応しきれないだろう』

 誰? 誰の声なの? 私は少し混乱しながらもその声が伝えようとする三頭狼(ケルベロス)の動きに対応するべく集中していく。今回はどうやら左右の首が囮で……ストレートに真ん中の首から炎を放ってきた。炎というよりは火球だな……私は素直にその場から飛び退いて火球の直撃を防ぐ。地面へと衝突した火球は激しく爆発し地面を抉る。


『首は同時に火炎は放てない……だから落ち着いて動きを見る』

 次々と三本の首から火球を放っていく三頭狼(ケルベロス)。ただ、声の通り複数の首からは火球が放てないようで、その時間差を生かして私は回避に専念していく。


「灯ちゃん! 左を取るわ!」

 ヒナさんの声が響くと、左側の首の動きが一気に止まる……いや最低速まで時間の流れを遅くしたのだろう、空間が不気味に歪んだように見えており首はジリジリと動こうとしているようだが、強制的に時間の流れが遅すぎて動くことができない。違和感に三頭狼(ケルベロス)が驚いたように左の首を見ている。

 そこへヒナさんがリボルバーを六発全弾速射で打ち込んでいく……弾丸は三頭狼(ケルベロス)の左の首の眼前でピタリと止まったように見える。いや弾丸もジリジリと進んでいるのだろうが、私の目には静止しているようにしか見えない。


時間操作(タイムコントロール)……解除」

 ヒナさんの宣言で一気に時が動く……魔獣の眼前で静止したように見えていた弾丸が一気に動き出し、六発の弾丸が同時に着弾し魔獣の顔面を潰して血が舞う。首が別々に悲鳴をあげて、蹈鞴を踏むように交代する三頭狼(ケルベロス)

 左の顔はだらりと垂れ下がり、活動を停止しているのが分かる……ヒナさんはリボルバーのチャンバーから薬莢を落とし、ポケットから新しい弾丸を装填しながら、物陰へと再び身を隠していく。


『ここでもう一度大瀧(オオタキ)……首を取ろう』

 そこへ、声に導かれるようにフル加速した私が一気に距離を詰めていく。今は声の導きの通りに体を動かしていく。

「ミカガミ流……大瀧(オオタキ)!」

 三頭狼(ケルベロス)へ急接近した私は一気に跳躍し、前方への回転力を生かした攻撃で、右側の首を狙い一気に切断する。肉に日本刀が食い込む手応え、そして切り裂いていく感触を感じながら私は一気に三頭狼(ケルベロス)の首を切断する。


『距離をとる……非力な君はできるだけ打ち合いの時間を短くする』

 地面への着地と同時に私は、素早く横へと跳躍し距離を取る。重いものが地面へと落ちる音と同時に三頭狼(ケルベロス)の首が地面へと落下し、切断面から大量の血が噴き出す。悲鳴をあげる三頭狼(ケルベロス)、真ん中の首は私を憎々しげに睨みつけると、反撃の火球を放つ。


『ストレートに放たれた火球は軌道も読みやすい。ステップして避ける』

 言葉通りに私は難なく火球を避けると、ジグザグに走って三頭狼(ケルベロス)へと接近していく。連続で放たれる火球も虚しく地面へと衝突して爆発四散していくが、私には当たらない。


『そうそう、上手い上手い……では頭を蹴り上げて、泡沫(ウタカタ)で止めだ』

「これで終わりよ!」

 その言葉通り、私は三頭狼(ケルベロス)の頭を蹴り上げ首を狙い……ミカガミ流泡沫(ウタカタ)……横薙ぎの一閃を放つと、私の日本刀は最後に残った首をいとも容易く切断する。

 ぶるりと体を大きく振るわせると、全ての首を失った三頭狼(ケルベロス)はゆっくりと血を吹き出しながら地面へと轟音を立てながら倒れていく。

 地響きがあたりに響き……私は大きく息を吐き出すと、日本刀をくるりと回転させて鞘へとしまう。


「灯ちゃん強いわねぇ、見惚れちゃったわ」

 ヒナさんが物陰から出てくると笑顔で私に声をかけてくる。

「いやヒナさんの攻撃もすごかったですね……」

 あの時間を静止させての弾丸を同時着弾させる技術……あれは面と向かってやられたら私でも避けられない可能性が非常に高い。時間操作(タイムコントロール)の発動もヒナさんが座標指定して手をかざすだけなので、発動もわからなかったら何がなんだかわからないうちに殺されてしまう可能性すらある。とんでもない能力だ……。


「さ、今日は帰りましょうか。汗かいちゃったわ」

 ヒナさんは笑いながら私の肩を叩く。私もその笑顔に釣られて笑うと、深く深呼吸をすると……今一番したい

「そうですね、動いたらお腹減っちゃいました……」

 ヒナさんと並んで歩きながら、ふと……あの声はなんだったのか? と少し疑問が湧き上がるが……一度だけ心臓が大きく鼓動した。


 ーードクン。


 心の奥底で……時折感じる猛る魂が私を見たような気がして……背筋が凍りつくような恐怖感を覚えて……私は立ち止まる。心の奥底から……とても澄んだ青い眼のような何かが見ている気がした。

 しかしすぐにその視線……猛る魂は再び目を閉じていく……。


「……ッ! この感覚は……ノエル? で、でもどうして……呼び出そうとしていないのに……?」

_(:3 」∠)_  表現してみて思う、凶悪すぎる能力


「面白かった」

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