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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第二八話 運命の女神(ウルド)

「じゃあ、灯ちゃん。私と一緒に行動しましょう」


 稲城さん……彼女からは『ヒナ』と呼べと言われたのでヒナさんで統一するのだが、彼女と一緒に私は今作戦行動に移っている。

 ()()()()()こと八王子さんが何度も悶えながら説明したのだが、とある神社に怪物……降魔(デーモン)が出現した、という通報を受けて出動となった次第だ。

 現在は青山さんが運転するリムジンの中で私とヒナさんが移動している最中なのだ。


『先日の出来事ですが、とある都心のビルの屋上を見回りしていた守衛さんが、突然空から降ってきた美少女を見たって言うんですよ!』


 リムジンに付けられているテレビではオカルト系の番組が放送されており、芸人やナレーターが世間の噂話を暴露するという体で話し合っている。

 これはあの鷲獅子(グリフォン)を倒した時の出来事だろうか? 事件後にあまり状況を確認しなかったが、守衛さんはKoRJの記憶操作を受けていなかったのだろう。


 最近本当に数多くの事件が起きており、私達はかなり労働時間が多くなっている。それこそ私のバイト代も結構な金額になっており、この年代の女性が持つには少し多すぎる金額に達しようとしている。

 お金を稼げるのはまあ良いとして……女子高生の持つ金額として果たしてこれは大丈夫なのだろうか? という疑問は感じているが、まあそれはさておき。

 KoRJの警備や、事態の収拾能力にも限度がありそこから外れた情報は、徐々に世の中に浸透してきている……という気がしてきている。


『その美少女はこれは夢だって守衛さんに微笑むと、そのままビルの屋上を走って空を飛んでいったと言うのです!』


 スタジオがどっと盛り上がる……わざわざ再現VTRすら作っているなんてね。

 まあ、美少女と言われることには悪い気はしないのだけど、あの守衛さんはちゃんと私のことを忘れてもらわないと、いつ街でばったりあって身バレしてしまうなんてことが起きるのが怖い。

 ため息をついて私は後部座席向けのテレビをオフにすると、私はニコニコ笑っているヒナさんを見て少しだけ苦笑する。


 化け物は三つの首を持った巨大な狼……だとの話でKoRJの記録から分類二級降魔(デーモン)である三頭狼(ケルベロス)であることが確認されている。三頭狼(ケルベロス)……前世の記憶を思い出してみるが、異界から召喚される魔獣で炎を吐き出す、動きも早い、しかも知能もそれなりに高いという厄介な魔物だった覚えがある。

 魔王の城に数十体の三頭狼(ケルベロス)が召喚されていて門番として激戦を繰り広げた……懐かしい敵でもある。


 現世での三頭狼(ケルベロス)はハデスの支配する冥界の番犬で、その名は「底無し穴の霊」を意味しており、地獄の門を守る番犬でもあるそうだ。そっか、現世の三頭狼(ケルベロス)はかなり出世したんだなあと思うわけで。

 どちらにせよ、今回出現した三頭狼(ケルベロス)は異世界……前世の魔獣であることは間違いないと思う。それはあのララインサルとかいう敵……が使役している可能性が高いのだから。


「ヒナさん、私は日本刀を使った剣術が得意なのですが、ヒナさんは何が得意なのですか?」

 私は素朴に思った疑問を口に出してみる。多分ヒナさんは私の能力を八王子さんから聞いているのだとは思っている。まあ今戦闘服と日本刀を持っているので、私の方はわかりやすい状況ではあるのだが。


 ヒナさんは少し光沢のある未来的な戦闘服に身を包んでいる……上半身には黒色のコートのような形状をした服装で、下半身にはズボン……これも特徴的な光沢を感じさせるものだ……を履いている。戦闘服なのでおそらく一般的な衣装と比べても恐らく防御性能が高いものなのだろう。


 そして彼女の腰にはリボルバーの拳銃が下げられていて……職業からすると拳銃なんか使えるのか? とも思ったのだが、ヒナさん曰く『半年すーちゃんにお願いして自衛隊の演習場で練習した』とのことだった。

 あの小難しい顔をしている八王子さんはどれだけいいように使われているんだ……。


「私のコードネームから連想される能力であっているわ」

 ヒナさんのコードネーム……『運命の女神(ウルド)』。北欧神話の運命の女神ノルンの一人で、運命、過去、死を司るのだったか。でもそれだけだとよくわからないのだけどね……。私がわからん、という顔をしているとヒナさんは笑って私に説明をしてくれた。


「私の能力は、時間操作(タイムコントロール)。目の前の空間や指定した座標の時間を止めたり遅らせたりすることができるの。トラックを止めた力もその一環ね」

 時間を操る能力……前世では聞いたことがない能力だ。そもそも時間を操るなんて物理法則から大きく逸脱しているとしか思えないのだが……それでもヒナさんは目の前で実演をしてくれた。


 コインを取り出し……それを軽く弾くと、それを空中に止めた、いやコインはゆっくりと回転をしている。つまり時間の流れが遅くなった、ということだろうか。

 私が驚いた顔をしていると、ヒナさんは笑いながら今度はコインの回転を完全に止める。


「加速は難しいのだけど、遅らせたり一時的に時間を止めることができるわ。止め続けるのは難しくて……一分程度が限界ね。時間の流れを遅くする方が維持しやすくて……あの時のトラックは二分くらい時間の流れを遅らせたの」

 ヒナさんはコインの回転を再び極微低速で進めると、驚いた顔の私を見ながら徐々に通常の速度へと戻してそれを掴み取る。これ……実はとんでもない能力なのではないだろうか? 


「銃弾とかも止めたり時間の流れを遅くして防御できるわ、とはいえ時間の流れを戻すと当たってしまうから、自分で避けなければいけないのだけどね」

 これは本当にすごい能力だ……まあ私は単発の銃弾程度なら日本刀で切り落とすことも可能だが、それでもそれなりにコツがいるし、連続して飛来する銃弾は流石に全て切り落とすのは難しいし、避けてしまった方が良い。


「ちょっと残念なのは、老化が止められないってことなのよねえ……」

 ヒナさんは少し膨れっ面で笑顔を見せる……ヒナさんは今年で三〇歳になるそうだが、私からみても化粧の巧みさもあって全然年齢を感じさせない、とても美しい女性だと思う。でも老化が止められない、ってまあ時間操作(タイムコントロール)で年齢が進むのを止められたら、と思うのは女性だから仕方ないのだろう。


 老化自体を止めることができる……というのは前世では先日も戦った呪屍人(マミー)吸血鬼(ヴァンパイア)などに代表される不死者(アンデッド)の領域だった。でも彼らは寿命では死なない代わりに色々な代償を払っている。

 呪屍人(マミー)はあの醜い外見だし、吸血鬼(ヴァンパイア)は血を吸って生きているし、日光で滅びてしまうことも特徴だった。


「ヒナさんとても綺麗ですけどね……私お化粧とか教えてもらいたいです」

 今感じる素直な気持ちをヒナさんに伝えてみる。実際私はミカちゃんに化粧を教わってはいるものの、プロの化粧というものを今目の前で見せられた気分なのだ。年季が違うというか……技術的な何かが根本的に違う、という気がする。そんな言葉にヒナさんが、ニンマリと笑うと私に顔を寄せてきた。

「灯ちゃん、誰かにお化粧した姿を見せるのかしら? 彼氏?」


 え? と思ったのも束の間、私の頬が上気する。い、いや誰かに見せたい訳でもないのだが……そこまで考えると脳裏にふと志狼さんの顔を思い出して……非常に恥ずかしくなって下を向いてしまう。

 なんでこんな時に志狼さんの顔が……でも次に会う時に、恥ずかしくない姿で会いたいと思うのは仕方のないところなのだろうか? 


 そんな私の顔を見ながらヒナさんがあらあら……という顔をしながら笑うと、私に耳打ちをする。

「いいわよ、気になる男性に綺麗な姿を見せたい、と思うのは女の子だから仕方ないのよ」

「い、いえ! 気になる男性なんて……い、いないので……」

 どうした私、なぜ語尾が小さくなるのだろう。

 少し感情のコントロールを持て余し気味になって、小刻みに震える私をヒナさんは優しく抱きしめてくれる。フワッと鼻腔にヒナさんの素晴らしく良い匂いが感じられる。

「私にはわかるわ。灯ちゃんは好きな男性がいるのねぇ」


 な、なんですとー! 私の理性が否定する恋が今ここに白日の元に晒されているのである。これはいかんぞ、前世が男性の私が男性に対して恋などしてしまったら、どう考えてもアッー! な図にしか見えないのだ。いやそれはそれでミカちゃんが大好きそうな気もしなくもないが、実に想像をしたくない絵面ではあるのだ。


 ヒナさんの言葉に完全にのぼせて呆然としている私を見て、彼女がくすくす笑う。

「正直ねえ……でも気に入ったわ。灯ちゃんお友達になりましょうね」

 完全に思考がフリーズ……というかオーバーフローし始めてる私を見つめながら、ヒナさんが面白いものをみたような顔をしてカラカラ笑う。

 なんていうか、捉えどころがない上にとても敵いそうにないな……と思う何かを感じさせる女性だ。

「大丈夫、大丈夫これ以上は詮索しないわぁ」




 リムジンを運転する運転手の青山がバックミラーで後席の様子を見ながら、女性2人の仲睦まじい様子を見て少し羨ましい気分にもなり……そして顔を真っ赤にして悶える新居 灯を見て少し驚く。この子はこんな表情もするのかと。そして墨田くんと恋人同士ではなかったのかと。あんなにいい空気を醸し出していたのに! と。

『高校生の恋愛はよくわかりませんなあ……私が若い頃は難しいこと考えずに付き合ったものですが……』


 今は青山の妻となった女性との馴れ初めを少しだけ懐かしく思いながら、右足に力を込めてアクセルを丁寧に踏むと目的地へと急ぐのであった。

_(:3 」∠)_  設定してみて思う凶悪な能力(オイ



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