第二四四話 堕ちた勇者（フォールンヒーロー） 〇六
「ミカガミ流絶技……無尽」
その言葉と同時に、魔王の殻を一〇人に分身した私が同時にあらゆる方向から切り裂いていく……一人目は正面、二人目は背後、三人目四人目と斬撃を繰り出す私になすすべなく切り刻まれていく魔王。
無尽……声すらあげる間も無く、痛覚を感じる間も無く、そして自分の命を切り刻まれる間も無く全ての方向から同時に斬撃を繰り出す多重分身攻撃であり、ミカガミ流の歴史に置いてこの技をきちんと使いこなし、操ったのはノエル・ノーランドただ一人である。
『ほぼ……完璧だ……灯……お前の技はこの状況において高まっている……ッ！』
凄まじい速度で魔王の肉体が切り刻まれ、ある程度の大きさの肉塊へと変化していく……だが、怪我と疲労から私の体力もそれほど豊富なわけではない、本来あるべき無尽の発動時間半分くらいが経過したところで、私の体力が続かずに速度と斬撃の精度が落ちていく……む、無理だこれ以上は……私は技を途中で中断し、分身を解いて攻撃を停止する。
技を止めたことで斬撃の嵐は止み、切り刻まれた魔王の肉体はそれまでの斬撃の嵐で一気に破壊されていく。
「だけどこれだけ切り刻めば……！」
バラバラに切り刻まれた魔王の肉体……私が着地して一人へと戻ると、空中に四散した魔王の残骸がまだ地面に落ちることもできずにその場に留まっている。
それはまるで無尽の効果に逆らうようでもあり、肉体を切り刻まれてもなお命を繋ぐ何かを持っているとしか思えない光景だ。
いや、それはおかしい……いくら無尽といえども重力を無視したりすることはできないはずだ……私がその事実に気がついて、魔王を見るとその切り刻まれた肉体がかろうじて紅色の何かによって完全に引き裂かれることを防いでいる。紅に輝く不気味な血液……紅血魔術により体内の血液を使って行使する禁忌の魔術が、完全に崩壊しようとしていた魔王の体と命をかろうじて繋ぎ止める。
「これは……まさか……紅血！？」
「クヒハッ！ そ、ソソソソそう……紅血により私はお前の絶技無尽をもモモモモ克服するルルルル能力を手に入れているルルルル……だからお前にこの私は倒せななななイイイイイイ！」
顔が半分に断ち切られたままのアンブロシオの顔がニヤリと笑う……無尽の破壊力を持ってしても、完全に切り刻むことができないとは……紅血というとアマラさんを思い出すな。
あの時彼女も紅血を使って体を修復することができたので、おそらく……魔王の腕だった部分から大きく触手のように紅血が伸びる。
それは地面へと落ちた二本の腕へと接続されると、自らの体へと一気に引き寄せ、半分崩壊しつつある肉体のまま紅血によってかろうじてつながった異形の姿でまだ生き残っている。
「痛いよぉ……ノエエエエエエエエルぅ……お前がガガガこんなひどいことをヲヲヲするなんて……ひどいイイイイよぉ！」
上下に分かれた顔で悲しみの表情を浮かべながらキリアンが悲嘆に暮れている……だがその目には光がなく、まるで不死者のように生気を感じない。
魔王は無理やり右腕を紅血を伸ばして持ち上げると、まるで鞭のように腕とそれに握られた聖剣光もたらすものを振るう。
私がその攻撃をかろうじて避けると、地面となっている花弁を叩き割るかのように剣が食い込み、その場所を崩壊させていく。
ま、まずい……煉獄の花がいくら強固な植物だって言ってもこんな化け物の攻撃をそう何発も食らってタダで済むとは思えない。
「まずは腕を落とすッ！ ミカガミ流……空蝉ッ！」
ほぼ予備動作なしで私は空蝉を放つ……狙いはあの右腕をつなぐ紅血、それを断ち切ることによって接続までの時間を稼ぐ作戦だ。
調子に乗ってほいほい地面を破壊されては困る……私も流石にこの高さから落下して地面に叩きつけられたら死ぬし、運よく煉獄の花の葉を使って降りられたとしてもう一度登るのは不可能に近い。残念ながら私は剣聖の能力はあっても、魔術などの才能には長けていないのだから。
私が放った衝撃波が右腕を繋いでいる紅血にぶち当たると、そのまま引き裂き腕を弾き飛ばす……だがこんなのはかすり傷みたいなものだろう。
私はそのまま前に出る……全て破壊するものを使って四肢を叩き落とすためだ。だが一度千切れたはずの紅血が腕を拾うことを諦めて、まるで生き物のようにしなって私へと向かってくる。
「そっか……前もこんな……でも、当たらなければ、どうということは！」
アマラさんの体を支配していた紅血は、まるで自分の意志を持っているかのように私や他の人へ向かって攻撃を仕掛けてきた記憶がある……私はその攻撃を避けながら前進していく。
一度見たんだから、そう簡単に当たるわけないじゃない！ 私は躱しざまに全て破壊するものを振るって触手のように伸びた紅血を叩き切る。
「クアアアアアッ！」
アンブロシオの口から紅血がまるで散弾のように発射される……弾丸のように発射するのを見たけど、今回のはまた別だ。
全てを避け切るのは難しい……全て破壊するものを眼前に構えてお構いなしに突進していく……戦闘服を貫いて肩や足を掠めた紅血が皮膚を切り裂き、軽く血が流れるが……広範囲に影響を出そうとして一発一発の威力が低い、致命傷になどなるかよ！
魔王が近寄らせまいと左腕を大きく振りかぶると、やはり鞭のようにしならせてから私へと振るってきた。
「ぬあああああっ！ やらせはせんぞぉッ！」
「ミカガミ流……絶技、無双ッ！」
私に向かってくる左手が持っている斧型の聖剣に向かって、ミカガミ流絶技無双を放つ……防御不能の超高速連続刺突、大刀サイズになった今の全て破壊するものでは速度はほんの少し落ちるが、それを引き換えにしても攻撃力は格段に変わる。
連続した金属音を立てながら私の無双が魔王が振るう聖剣光もたらすものを弾き返す……肉体がきちんと構成されていれば、私の攻撃を受け止めることもできたかもしれない。
だが、今の魔王の体は紅血によって保たれており、筋肉や肉体のバランスによってその衝撃を受け止めることができない。
「く……この連撃が思ったより重い……ッ！」
「うおおおおおっ！」
私の気迫に押されたのか、魔王の体が揺れ動きながら少しだけ後退する……その隙を逃さずに私はさらに突進する……前へ！ 前へ出るんだ！ 私は一気に魔王の懐へと入り込むと、そのまま全て破壊するものを両手で構え直す。
魔王は弾き飛ばされた腕を戻すことを諦め、いくつかの肉体の欠損を許したまま紅血を弾丸状にまとめると、私の背後から触手を伸ばしていく。だが、すでに懐に飛び込んだ私を攻撃するには位置が近すぎるはずだ。
「こう近づけば、周りからの攻撃は無理でしょ！」
「くおおおおおっ！」
私と魔王……その最終決着が迫る。私はその場で全て破壊するものを握り直すと構えを変える……ずっと、ずっと思っていた。
アマラさんを殺した時から、私の技でどうやったらこの紅血を完全に駆逐することができるのか？ その答えはおそらく、私の持つミカガミ流の技の中にあるのではないか？ と。
彼女と戦った時には、悠人さんの炎というある意味バフを必要としていた……それは私が未熟だったからというのが一番大きいが、それから戦闘経験を重ねた中でもしかしたら、という思いつきがあった。
ミカガミ流の技の中で、唯一直接的な斬撃に頼らない技。
そして儀式や儀礼のために使われていた黎明……対象のつながりを断ち切るこの技だけが、もしかしたら紅血とその術者のつながりを立てるのではないか？ と。
だから、その前に私がやらなければいけないことは……ひとつ。もう一度この魔王が使用している紅血を攻撃や防御に使用させないこと……私が全て破壊するものを構え直し、体力を振り絞って一気に多重分身攻撃のための分身を作り出したのを見て、意図を悟ったのか魔王アンブロシオは恐怖に歪んだ表情を見せる。
「や……止めメメメろッ！ お前もそれ以上の負担は……！」
「……私は単なる女子高生だけど……でも、私を好きだって言ってくれる人のために、そして私が愛する大事な人たちを……私が生きる世界を全ての理不尽から命をかけて守る！ 私がこの世界を守る剣聖……新居 灯だ！」
「や、やめ……」
「ミカガミ流……無尽ッ！」
魔王の体が一〇人に分身した私の斬撃を受けて、さらに切り刻まれていく……そしてその攻撃は完璧なくらい同時に、そして瞬きをする一瞬の間に実行され、反撃そのものを許さない。
私が無尽を止めて地面へと着地した時、魔王の体を繋ぐ紅血は先ほどよりも断ち切られ、その全てが体を再生させようと、まるで生き物のように軽く蠢く……これで、これで終わる！
私は全て破壊するものを大きく振りかぶると、ミカガミ流の絶技……、全ての繋がりを断ち切る一撃を魔王に向かって放った。
「ミカガミ流……絶技！ 黎明ィィィィッ！」
_(:3 」∠)_ 次回決着の予定……今の魔王様なんとなくジ◯ングっぽいなーと思った
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの？」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。
