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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第二三話 永遠の命(エターナルライフ)

「久しぶりだな、墨田。随分な別嬪さんを連れているじゃねえか」


「へへ、組長もお変わりなく。うち自慢のバイトでしてね……今回は職場体験のようなもので着いてきてるんですよ」

 私たちの目の前には一番最初の訪問先である戸塚組の組長である戸塚 十蔵(とつか じゅうぞう)が座っている。彼は灰色の短く刈り込まれた髪型に鋭い目つきで……灰色のスーツを着込んだ五〇代くらいの男性だ。

 目つきの鋭さだけでなく、左手に革製の黒い手袋を嵌めていて、チラリと見える時計はかなり高価なブランドもののように見える。

 ソファに座っているのだが、油断なくこちらとの距離感を確認しているのか、時折鋭い目つきを向けて来ている。


「姉ちゃん、こいつの付き添いは大変だろう? 女と見ると見境ないからな。気をつけた方がいいぜ」

 そういうと戸塚さんはカラカラと笑う……案外とっつき易い笑顔を向けられて私もそれほど嫌な気分がせず、苦笑いを浮かべるが一応悠人さんと取り決めた黙っている、という約束のためしゃべらない。


「組長、俺でもそこら辺は分別がありますよ、まさかバイトに手を出すほどでは、アハハ」

 叶わないなーという感じで悠人さんが笑っているが……分別? 分別がある?! どの口が言っているのかこの男は……見境ないじゃねえか……ジト目で悠人さんを見ているが、特に応えた様子はない。

 私の表情で大体を察したのか戸塚さんは「おめえは変わらねえなあ」とつぶやいて笑う。


「さて、墨田。お前が来た理由を教えてもらえるか?」

 戸塚さんはタバコを咥えながら悠人さんに鋭い目を向けるが、その目がやはり一般の人間ではなく前世で言うところの裏組織の人間なのだなと実感させる光を感じた。

「大方、最近俺らの業界で話題になっている件、だとは思っているが」


「よくわかりましたね……そうです。異世界からの来訪者、そして永遠の命(エターナルライフ)ってやつです」

 悠人さんは、感心したように頷くと、テーブル越しに失礼します、と断りを入れてから指に火を灯して……戸塚さんのタバコに火をつける。

 ちょっと!? 一般人相手にその能力見せちゃうわけ!? 私が少し慌てたように口を開こうとするも、悠人さんは手の動きだけで私を止める。


「いつ見ても慣れねえなあ、それ。まあライター無くていいのは助かるわな」

 自然と能力を使う悠人さんを見て、戸塚さんが少し苦笑いしてタバコを一吹かしするのを見て、どうやらこの戸塚さんという男性は悠人さんの能力を既に知っているのだ、と確信する。

 普段私たちは能力を人に見せることはしていない……あまりに常識からかけ離れた力を見せて、怪物扱いされてしまった人を記録などで見せてもらっている。

 それゆえに慎重になれ、とKoRJでは口を酸っぱくして注意されているのだけど……ある意味常識はずれの人間だな、悠人さんは。

「事の始まりは半年くらい前かな、俺たちの事務所に一人の薄気味悪い男が現れたんだ。金髪で赤い目、丸い眼鏡をかけた男でアンブロシオって名乗ってたな。仕事を手伝って欲しい、と言われてな」


 戸塚さんは記憶を思い返すように腕組みをしながら語り出す。

「仕事の内容は、海外からの荷物を輸送するって話でな。うちのダミー会社が運送業をやってるんでその関連かと思ったんだが……それ自体は普通に仕事として受けてたんだが、何度も同じような依頼を出してくるので荷物が気になってな。一度問いただしたんだ」

 アンブロシオ……前世のノエルとしての記憶でも同じ名前には心当たりはないが、なんとなく私の勘に引っ掛かるものを感じた。

 よく思い出せないけど……どこかで聞いたか、知ったか……なんだっただろうか?


「そしたら、中身を聞かないでいてくれたら金とは別に『特別な報酬』をやるって言われてな……とはいえ中身を確認せずに何かが起きたらダミー会社ごと引っ張られる可能性も出てくるからな……理由を説明してこれ以上できないって話して、別の組を紹介したんだ。もっとやべえ事やってるのもいるからな……」

 戸塚さんはテーブルにファイルの束を置いた。それを悠人さんが開いていくと、そこには荷物の輸送記録を書いた詳細な納品書がまとめられていた。

 一言断ってからその納品書を見せてもらうが、確かに頻繁にしかも大量の荷物を運んでいるのがわかる。

「うちが仕事を断ったのが三ヶ月前か、それまでに何度も港から都内のあちこちに荷物を運んでいたんだ。しかも一回の輸送でトラックが必要なくらいの大きさでな。それと悪いことに輸送に関わった数人が……組を抜けて失踪しちまった」


 ため息をついて戸塚さんがタバコをガラス製の豪華な灰皿で消して……悠人さんを見据える。

「これはお前の本業に関わることか?」

 悠人さんがかなり真剣な顔で戸塚さんの目を見て……ため息をつくと、彼の問いに答える。

「組長の予想通りですよ、俺が今の仕事を始めるきっかけになった事件と一緒です、いやもっと悪くなってる可能性すらあります」

 その言葉に再びため息をついて、戸塚さんは私の方を見る……少し考えると改めて悠人さんの方へ顔を向ける。

「この別嬪な姉ちゃんもその関連か……だとしたら気をつけろ。他の連中がどう繋がっているかわからねえ……それと、うちの若い衆もどうなったか……もし見かけたら戻るように伝えてくれねえか」




「さて、次の組へ行こうか、灯ちゃん」

 戸塚組の入っている雑居ビルを出ると悠人さんは私の方を向かずに次のビルの位置をスマホで検索し始めた。

「悠人さん、組長さんのお願いを……」


「ああ、聞くだけ聞くけどさ。多分……無理だろ」

 悠人さんは普段のおちゃらけた表情ではなく、かなり真剣な眼差しで私を見た。驚くくらい鋭い眼光で、私が少し気圧されるくらい……こんな顔できるのかこの人は……。

「生きていればいいけど、下手をすると……」


 それ以上はお互い言わなくてもわかっている、特殊な報酬の内容が『永遠の命』ということも戸塚さんから教えてもらった。

 年老いた俺には必要ねえし、孫に囲まれて死ぬのが俺の最後って決めてるからな。と戸塚さんは笑っていたが……その欲求に抗えない人も大勢いるということだ。

 最悪元組員を倒すことすらあり得る。それ故に悠人さんは組長には返事をしなかった、いやできなかったのだ。


「灯ちゃん……灯ちゃんは俺が吸血鬼(バンパイア)になったら……」

「ぶち殺しますね」

 即答である。悠人さんは呆然とした表情で私に食ってかかる。

「灯ちゃん!? そこは少しくらい悩もうよ! 『くっ……愛する貴方に刀を向けるなんて……!』とか普通そうなるでしょ?!」


「なりません、悪・即・斬です」

 そっぽを向いて無表情で私は即答する。ただ、これは悠人さんだからとかではなく……私の知り合いを害される可能性がある要素は全て排除したいから、というのもあるんだけどな。

「なんて……なんてひどいんだ……神はいないのか……」


 いねえよ、そんなの、と私は思った。いや前世では本当にいたんだけど、ロクな神がいなかったので……この世界ではかなり抽象的な存在、と聞いて少し安堵している自分がいるのだ。

 悠人さんががっくりと肩を落として、スマホをいじりながらマップアプリで目的地を設定し、私たちは次の目的地へと向かった。


「次の組は〜、汲沢組か、このビルに入ってるようだが」

 三〇分ほど歩いて、目的地へと到着した私と悠人さんは別の雑居ビルの前に立っている……このビルも築何十年も経過しているのか外壁は薄汚れていて、まるで墓標のように見えてしまう。

 ふと上層階の窓から見られている……気がして窓に目をやるが、そこには誰も立っていない。気のせいだろうか……。




「どうやら嗅ぎつかれたようだね……」

 雑居ビルへと入ってくる二人を見ながら……フード付きのパーカーを目深に被った男はニヤリと笑う。その様子を見て汲沢組組長の汲沢 博美(ぐみさわ ひろみ)は血色の悪い顔をフードの男へ向ける。


「どうする? あんたが逃げる時間は稼げると思うが……」

「そうだねえ……応接室に閉じ込めて、組員さんを使って時間稼ぎをお願いしますね。重要な書類とかはもうないと思うんだけど……」

 汲沢組長はその言葉に頷くと、組長の合図を待っていた組員へと指示を飛ばす。指示に従い……組員が組の中に散らばっていく。


「ああ、ほとんどの書類は処分してある、足がつくことはねえはずだ」

「そう、では足止めを。そうそう、少し悪戯して帰るか……あとはよろしくね」


 フードを被った男……ララインサルは組長へ笑顔を向けると、そのままのんびり歩いてビルのエレベーターへと向かう。ちょうど小さなエレベーターがこの階に到着する寸前だった。

 ララインサルが組の方向とは別の壁に背を向けて立っていると、エレベーターのドアが開き……二人の男女がそこから降りてくる。一人は金髪を短く刈り込み、くたびれたスーツに頬に大きな傷がついた二〇代後半の男性。


 そしてもう一人は……さらさらと流れる長い黒髪は夜の闇を凝縮したような輝きを持ち、この世界に神がいるのであれば嫉妬するであろう美しい整った風貌、大き目の胸、滑らかな首筋、灰色のパンツスーツに身を包んだ美しい女性が、エレベーターを降りて汲沢組の入っている部屋の方へと向かう。


 ララインサルは二人と入れ替わりに、エレベーターへと向かうが……その女性の視線がこちらに一瞬止まったことに気がつき……彼女の方を向くと、お互いの目が会い、ララインサルは目を輝かせて笑う。

 ララインサルを見ていた女性は訝しげな表情を浮かべていたが、同行している金髪の男性が呼ぶとすぐに視線を外し彼の方向へと走っていく。

 エレベーターのドアが閉まり……ララインサルは一階へと降りていく中でクスクス笑う。興奮で頬を染めてその場で小躍りしそうなくらいの勢いで、クルクルと回ると大きく天井に向かって両手を広げる。


「気がついてたねえ……いいねえ、今ここでは戦えないけど……楽しみだねえ……」

_(:3 」∠)_  墨田の過去は結構掘り下げたい、と思ったりしてます。


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