第二一一話 暗殺者襲来(アサシネイション)
「……四條は定位置に着いたか?」
「……はい、ライブハウスの入り口と裏口がカバーできるビルの上にいます」
リヒターと、心葉ちゃんの声がインカムに伝わる……私は数多くの警官と、機動隊が辺りを封鎖している中黒塗りのリムジンの後部座席で最終的な装備のチェックを行なっている最中だ。
時刻はすでに一一時近くになっており、物々しい警戒と封鎖は数キロにわたって行われているのだという……ガス爆発の危険があるとか話してるんだろうなあ。
『灯……虹色大蛇の支配力は厄介だ、お前自信が操られないように気を引き締めるのだ』
脇に立てかけている全て破壊するものの声が響く……私は軍用ブーツの紐を締め直しながら、愛刀に心の中で話しかける。
ノエルの記憶では、虹色大蛇の信奉者は暗殺者とか盗賊が多いと言う知識ではあるのだけど、実際にはどうだったのかしら?
『お前の記憶の通りではある、だが精神を支配して使役するという能力は教団の中でも高位の存在にしか知られていないはずだ……客を支配し操っているとすれば厄介な相手だぞ』
うーん……この世界に大司祭に相当する存在がいるってことか? でもそんなのが来ていたのなら、なぜ魔王に与するのか、と言うのは謎だよなあ。
そういえば私は異世界の状況をよく知っているわけではないけど、おそらく異世界は魔王アンブロシオが支配してるんだよね? それだからこそ彼はこの世界への侵略を自ら実行できていると思うのだけど。
『……想像の通りだ、魔王アンブロシオは世界を支配している。彼に逆らうものはもはや存在しない。全ての生物が彼に首を垂れ、忠誠を誓い、恐怖と安寧の中生きている』
で、でも勇者とか生まれたら違うんじゃないの? 実際キリアンはその時代、魔王に対抗する使命に目覚めて私……いや正確にはノエルやシルヴィさんを仲間にしていったわけだし。
アンブロシオが世界を滅ぼそうとする悪の存在であれば、それに対抗して生まれる勇者は対極の存在であるとも言えるわけだし。生まれていなかったの?
『アンブロシオは世界を滅ぼす存在ではなかった……それゆえに勇者は現れなかった。その真似事をしようとした存在はいたようだがな……結果的に魔王は世界を守るために支配をしたとも言える』
魔王が世界を守る? それってどういう……私が全て破壊するものにそのことを詳しく問いただそうとした時、リムジンのドアが開いたため私は慌てて履き終えたブーツの様子を見ているような仕草で誤魔化す。
入ってきたのはリヒターだった……だが流石に不死の王としての姿を見られるとまずいと言うことで幻覚魔術で姿を変えており、見た目は三〇代くらいの男性の姿をしている。
最初にこれ見せられた時は思わず笑っちゃったんだよなあ……なぜなら三〇年ほど前に人気のあった俳優さんにそっくりの顔で本人かと思ったんだよね。彼が見た雑誌から取ったんだなと理解してるけど。
あまりにそっくり過ぎて、多少変えた方がいいと助言したんだけど……うん、まあ大して変わってねーわ。
「新居、準備はできたか?」
「あー、うん……現場の指示はリヒターが出すの?」
私の問いに彼は黙って頷く……八王子さんはおそらく警察や政治家への報告などで忙しいのだろう……民間組織とはいえKoRJは日本の法規や制限にある程度縛られている。
四條さんや私が武器を振り回しても捕まらないのは特別な許可をもらっているからだし、ある程度街に被害が出無いように今回のような規制線を張ったりとかはどうしても警察や自衛隊などの協力が必須になる。
まあ、もちつ持たれつだとは思うけどね……リヒターはそのままリムジンを降りていくが、その後について私も全て破壊するものを片手に車を降りる。
「民間人……操られている一般人は殺すな、お前ならできるはずだ。それと降魔と判断したら切っても良いがよく見てからにしろ……違った場合後で面倒なことになる」
「まあ、そりゃそうだよね……一応無力化してってので考えてるけど」
KoRJのリムジンから降りた現場責任者を名乗る男性の後ろについて、一見普通の女子高生が刀を片手について歩いているのを見て、現場を警護している警察官が物珍しそうな顔でこちらを見ている。
まあ、普通私が突入するなんて思わないだろうしね……警備の警察官が私を連れてライブハウスへと向かうリヒターに軽く声をかけてくる。
「失礼します、KoRJの方……ですよね? 正面側の警備を担当しています根岸です」
「ああ、私はKoRJのリヒターと申します……今から突入を予定しています。こちら突入する人員で、コードネームは戦乙女です」
リヒターが私を指差しながら根岸さんへと話しているが、彼自身はなんでこんな子を……と言う表情を浮かべて私を見ている。うーん……久々の感覚……そういえばこんな街中で事件が起きるのって久しぶりなんだよね。じっと見つめられているのを感じた私はニコリと根岸さんに微笑む……ま、愛想笑いなんだけど。
照れたのか軽く咳払いをすると根岸さんは、私から視線を外して入り口の方へと目を向ける。
「そうですか……おそらく本日のライブには二〇〇人程度が集まっていたようです、異変に気がついた受付が逃げ出して情報提供をしてくれていますが、包囲してからは誰も逃げ出していないのでおそらくそのままかと。一度警察で突入しましたが、そのときにはライブへときていたお客さんから襲われて人命優先ということで退却しました。それからは特に動きはないようです」
「……と言うことだ、よろしく頼むぞ。根岸さん……この子はうちで最強の一人です、安心して見ていてください」
根岸さんはリヒターの顔を見て、再び私の顔を見てから本当かよ、といわんばかりの表情を浮かべる……ま、そう思うよね。
私はリヒターの言葉に黙って頷くと、そのままライブハウスの入り口前にたつ……ここまで近づいても攻撃されないってことは外の様子には全く興味がないか、よほど中での籠城に自信があるのだろう。
心葉ちゃんからも警告がないってことは中に入らないと意味がないってことだろうね……私は手に持っていた刀を腰に下げ直すとそのまま入口へと入っていく。
「……簡易的な空間に変質してる……って……!」
明日来る予定だったんである程度このライブハウスのレイアウトは頭に入ってたんだけど、受付の空間だったはずのこの場所が三倍程度の広さに変化している気がする。
星幽迷宮と同じだ……私は思わず後ろを振り返るが、そこには入ってきた扉は存在せずに、ただ長い先の見通せない通路がまっすぐに伸びている。
『……これは厄介だな、警官が最初に入った時より能力が向上しているかもしれんな』
全て破壊するものの声が心に響く……同じく、私も厄介だなと軽く舌打ちをしてしまう。一人で突入するべきではなかったかもしれない。
何度か深呼吸をすると私は軽く柄に手を当てまま前へと進む……もはや出口を探して歩き回るしか方法がないからだ。おそらくこの空間を支配している存在を倒さねば外にすら出れないだろう。
まっすぐ伸びる通路を歩いていくが、人の気配はほとんどない……ただずっと振動のような、耳障りではないがずっとリズミカルにかき鳴らされる音楽のようなものが聞こえている。
唐突に目の前に扉が現れる……デザインはライブハウスの扉と同じで、豪奢な印象のある革張りのものだ。私は黙って片手でその扉を押し中へと入っていく。
中へ入ると再び私が開けた扉が消失し、一気に視界が広がっていく……そこには一〇数名の男女が何をするでもなくぼうっとした表情でこちらを見たままただ立っている。
感情のようなものは感じられないけど……私は先頭にいる女性へと近づく……まるで反応がない。軽く彼女の目の前で手を広げて振ってみるが、その動きには反応しようとすらしないな。
「このままにするわけにもいかないのだけどねえ……」
『空間を構成している敵を倒せば元の空間に戻るだろうから、先に敵を倒したほうが良……灯!』
凄まじい殺気を背後から感じて私は咄嗟に身を屈ませてその攻撃を回避する……刀を抜き放ち、体を回転させながら振るうが、その攻撃をなんなく避けるとその人影は私から少し離れた場所に立つ。
ああ、ここでこの人か……見覚えのある男性の顔を見て、私は刀を軽く回すと構えをとる……その男性の名前は八家 仙右衛門、妖刀の化身にして剣の達人、そしておそらく最強の暗殺者の一人。
「あなたがここの空間を展開してるの?」
私の問いに、一瞬何言ってるんだ? と言わんばかりの表情を浮かべた八家さんは、ああ、と何かに気がついたかのように少し頭を掻いてからムフフと笑う。
その反応で私は彼は単に戦闘要員としてここにいるだけ、と理解した……よく考えたら彼の性格であれば、こんな回りくどいことをせずに直接霧かかってくるようにも思えるからだ。
「ああ、私はこの空間内で君がきたら斬ってくれと頼まれてるだけなのでね……これは私の趣味じゃないよ」
「そんな趣味があったら軽蔑しますね……」
彼は案山子のように表情もなく立っているライブに来ていたお客の顔を軽く撫でる。そういった行動にもまるで反応を示さないのはなぜだろうか?
空間にいるから支配されている、というのは理解できるけど命令を下すには支配している側からの距離や声が届く場所じゃないとダメとか?
うーん……こういった支配力を持った敵というのはなかなか前世でも見なかったので、どうしたら解除できるのかがわからない。
だがそんな私の思考を遮るように八家さんはムフッと笑うと刀を一度振って構え直し私へと語りかける。
「ま、私はお前と殺し合うだけでいい……この間の傷は痛かったよ、治るまでだいぶかかったしね……今度はどちらかが死ぬまで斬り合おうじゃないか……剣聖ッ!」
_(:3 」∠)_ 前回までは壮大なかませ犬だった八家さん再登場w
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