第二〇二話 黒竜(ブラックドラゴン) 〇五
『……少女よ、お前が本当にミカガミ流の剣聖だというのか?』
目の前にいる巨体の真竜は少し訝しげるような表情で私を見ている。まあいきなり出てきて、私剣聖でーす! なんて自己紹介しちゃったらそりゃそうなるよね。
だが竜の目は私よりもむしろ全て破壊するものをチラチラ見て警戒しているようにもみえ、私が軽く刀を動かすとそれに合わせて細かく体勢を直している。
『この竜、どうやら魔眼持ちだな、我の存在感が視覚化された状態で見えているようだ』
え? 何それチョー便利じゃん、私も欲しいな魔眼……。
前世の記憶にある魔眼というのは、数百万人に一人発症するかどうかという特殊な目の構造のことで、一括りにされているのだが、めちゃくちゃ分類が細かく、魔素の流れを見れるものや、音を視覚化できるもの、特殊なものだと臭いなどを視覚化できたりするものもいたらしい。
まあ動物なら嗅覚で代用できるので、匂いを追える魔眼は狩人とか、暗殺者になると便利かもなーという話になっていたはずだ。
ちなみにこの魔眼持ちというのは本当に希少な存在なのだが、それ故に発症が認められると国家ぐるみで保護されたりすることも多い。
ただ、重宝される能力であれば良いがそうではなかった場合、飼い殺しにされたりとかさまざまな悲劇の温床となるケースがあり、異世界の伝承にも保護した国家が望む能力ではなかったために使い潰された挙句、追放されてしまった魔眼持ちなども存在しているのだという。
「あなた、この刀が何かわかるの?」
『……神話級の遺物、魔剣であろう?』
竜は油断なく私との距離をとりつつ、問いに答える……今気がついたが不思議なことに日本語でしゃべっている、というよりなんらかの魔法か呪物による干渉でお互いの言語が理解できるようになっているのかもしれない。
しかし……厄介だな、魔剣ということは既にバレてしまっているのだから、全力で警戒をしてくるに違いない。こういうところは高等種族ってやつは厄介だな。知性が高すぎる故に、単純な魔物ではないというのがよくわかる。
「……御名答、それも目で見えているってわけね」
『この世界に神話級が存在するとはな……自ら滅びた剣術の剣聖を名乗るわけだ。それにお前、見た目よりも遥かに強いな、我にはわかるぞ』
グルルと唸り声をあげると、口の端から軽く炎を噴き出しながら、竜は体勢を低く保ちいつでも飛びかかれるようなポーズをとっている。
いきなり巨体で衝突されたら多分死んじゃうな……私は刀を片手で構え直すと、少しだけ腰を落とした回避重視の構えを取り直す。もはや全て破壊するものの攻撃力を信じて殴りつけるしかないだろうな。
黒い鱗がぬらぬらと光っている……息吹は火球タイプだったな、着弾と同時に爆発するので刀で受けたりすると本当に危ないタイプのやつだ。
『あの大魔道も厄介な仕事をさせる……』
え? 今なんて? 大魔道? 私が一瞬表情を変えたのを見逃さなかったのか、凄まじい速度の前脚による横凪の一撃が迫る……くっ、何を言ったのかもう一度聞き直したいのに!
私はその攻撃を刀を使って受け流すと、追撃を防ぐために大きく後ろへと跳躍する。だが竜はその跳躍した私の着地点を正確に予想したのか、地面に向かって息吹を吐き出す。火球! これは受けちゃダメだ! 私は着地と同時に横へと一気に跳び、その火球の直撃を避けるが、地面へと衝突した火球が爆発し辺りを赤く染めていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
『問答無用ッ! 死ねっ!!』
竜は大きく息を吸い込むと、連続で息吹を打ち出していく……うわああっ! それはズルい!! 私は慌てて走りながら火球を避けていく。爆発の熱と火球本体の熱で頬に汗が流れる。
くそっ……火球の速度はそれほどではないけど、爆発の威力は私の体を震わせるくらい大きな衝撃を与えてくる。私は必死に走りながら刀を肩に担ぐように両手で構えを取り直す。
それまで回避に専念していた私が走る方向を直角に変えて、弾丸のような速度で距離を詰めてきたのを見て竜が再び息吹を打ち出す。
『まっすぐ来るとは! 見た目よりも直情的だなアッ!!』
だが私は先ほどの息吹の連打で気がついたことがあった、火球は直線状にしか打ち出せない。さらに直線や扇状の息吹と違い長い時間吐き出せるわけではない、数を出せるだけだ。
なので避けることは比較的容易いッ! 私は火球をジグザクに跳ぶように走って避けていく……そして一足飛びに近寄れる位置で思い切り地面を凹ませて飛び込む。ズドン! という音を立てて私の体は一瞬で竜の眼前へと迫った。
『なんと! まるであの時の勇者……』
「ミカガミ流……大瀧ッ!」
竜が驚愕した表情を浮かべている、私はそのまま体を縦回転させると刀を怪物が咄嗟に掲げた手に叩きつけるように斬撃を放つ。
衝撃と共に大瀧の縦斬撃が竜の鱗を切り裂く……以前の開発部謹製の日本刀では傷ひとつつかなかった竜の鱗をここまで易々と断ち切るとは……。
『我は破壊の魔剣なるぞ、今までの扱いが酷すぎるだけで真竜の鱗でも断ち切れるわ』
全て破壊するものの不満げな声が心に響いているが、私が驚くくらい易々と鱗を断ち切った私の攻撃で、竜の右手首を斜めに断ち切ることに成功する。
咆哮とも悲鳴ともつかない声をあげて、竜が痛みで暴れる……私は巻き込まれないように再び大きく距離を取るが、竜が一度咆哮するとまるで魔法のように断ち切ったはずの右手が徐々に盛り上がって元に戻っていく。
「あ、治癒魔法とかズルいじゃん!」
『くっ……こんなところで竜魔法を消費するとは……』
憎々しげな顔をしながら竜が私に威嚇を繰り返す……竜魔法って言ったな。記憶を探っていくと、ノエルの記憶にその名称についての知識が存在している。
竜魔法……竜に連なる眷属が使用する魔法の一種で、咆哮に乗せて使用するのだっけかな。竜人族に代表される眷属でも使用するものがいるけど、効果を最大限に発揮するのは竜くらい巨大な咆哮を上げられる生物のほうが効果が強いんだったっけな。
下位竜はあまりこの魔法を使いこなすことができず使用できる個体は限定的だが、真竜くらい知能が高く、自我を有している竜であれば確かに使いこなしてくるだろう。
しかし、消費する? という言い方には引っ掛かりを感じる……もしかして真竜とは言っても竜魔法を使える回数には限界があるってことなんだろうか?
確かにあれだけ短時間で肉体を再生するって行為にはとんでもないレベルの魔素や、負荷がかかるのかもしれないな。この世界は前世の世界に近づきつつあるが、それでも潤沢に魔素が空気中に溶け込んでいるわけじゃないらしいし。
「……殺せる相手、ね。今ので確信できたわ……あなたも無敵の生物じゃない……」
私の顔を憎々しげに見つめると竜は再び威嚇と共に、口から火球を打ち出して私を近づけないように乱射してくる。飛来してくる火球を避けながら再び接近するタイミングを見計らう……私の武器は日本刀……接近しないと竜に有効となりそうな攻撃は難しい。
だが、動きの速さで行けば私の方が圧倒的に有利だ……火球とそれに伴う爆発を避けつつ、再び私は一気に接近するために跳躍する。
「ミカガミ流……彗星ッ!」
私の突進突きが今度は咄嗟に突き出した竜の左腕を貫く……血飛沫が上がり、再び巨大な怪物が痛みに咆哮をあげる。
刀を引き抜き飛び退ると同時に、竜が体を回転させて振り回した尻尾がそれまで私がいた地面を叩き割る。あぶな……避けるには避けたが、ゾッとした気分で背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
『……ぐぬ……見た目は少女のくせに……戦闘慣れしている……これは意識を改めなければなるまい』
竜は再び咆哮して左腕の傷を治療すると、右腕をまるで挨拶するかのように胸へと添えると恭しく私に向かって頭を軽く下げる。もちろん私が襲いかかってこないように威嚇をしながらだが。
意外なほどに洗練された礼に、私もいきなり襲い掛かるわけにもいかずに軽く頭を下げて挨拶を返す。そんな私の行動を見た竜は満足そうに軽い笑みを浮かべて唸ると、地面を軽く尻尾で叩くと、私に向かって名乗りを上げる。
『よかろう、アカリと言ったか、ミカガミ流剣聖よ……私の名前はルドフィクス、黒竜の一族にして魔王様に使える部下である。この世界を滅ぼし、魔王様の望む世界へと作り替えるのが私の望みである』
_(:3 」∠)_ ドラゴンも名乗っちゃうそんな優しいかもしれない世界(優しくはない
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