第二〇一話 黒竜(ブラックドラゴン) 〇四
「準備完了だ、攻撃命令まで待て」
黒竜が体を休める島はかなり大きめの面積をしているが、生物や人間が住むには適さない環境である。とはいえ周囲は海に囲まれていて、怪物が休んでいる場所は山頂付近ということもあり人間が近づいてもいきなり攻撃されるということはないだろう、との判断で江戸川さん含めて一〇数名のKoRJの隊員が重火器を設置している。
退路は……島まで近づくためのボートではなく、沖合に停泊しているこれまたKoRJの伝で借り出した装備品である最新鋭の潜水艇に頼ることになっている。
「……破壊だけは避けてくれ」
八王子さんが出発前に少し苦々しい顔で江戸川さんに伝えていたけど、本気で黒竜が暴れたら潜水艇は一瞬でガラクタになりそうだけどなあ。
とはいえ海の上に浮かんでいる孤島だから、どうしてもこういう形にはなっちゃうよね……船舶での移動は黒竜に狙い撃ちされてしまうだろうし。
それで私は、現在進行形で準備をしているみんなの後ろに控えており攻撃で怪物が暴れ始めたら突入する算段になっている。
『……今のうちに竜との戦闘についてシミュレートしておけ』
そだね……まず竜の戦闘能力は非常に高く一番気をつけなければいけないのは口から吐き出す息吹だ。
息吹は竜自体が世界創世の段階で炎の眷属であるとされていることから火炎が多く、直線上に吐き出すものと、扇状に吐き出すもの、そして火球として吐き出すものがいる。
実際に竜が息吹を吐き出すまではどれに属しているのかわからないため、案外初見殺しになるケースも存在していると記憶が告げている。
『一度吐き出すのを見てから対応を決めればいいが、火球だとしたら厄介だな』
次に恐ろしく大きな体はそもそも体当たりをするだけで城壁を破壊したり、岩をも砕くためこれもまた気をつけなければいけない。そして前後の脚には鉄すらも易々と切り裂く鋭い爪が生えており、これもまた当たったら簡単に致命傷になってしまう。
そして長い尻尾……これを振り回す攻撃も危険だ。巨大なコンクリートの柱を振り回してくる……と思えばいいかな、当たったら即死する可能性もある。
『ノエルは一度尻尾の振り回しを食らって死にかけていたな……仲間がいなかったらそのまま餌になっていたと思うぞ』
嫌な記憶を思い出させやがって……とはいえその時の記憶は朧げでいまいち思い出せない。めちゃくちゃ痛かった、というのと仲間であったアナが必死に治癒魔法をかけ続けてくれたことで命を繋いだらしく、気がついたらベッドの上で心配そうにノエルを見つめるシルヴィと、ものすごう不貞腐れたエリーゼの顔がそこにはあった、という感じだった。
で竜は生命力も凄まじい……首を落として生きているとかそういうのではなく、単純にめちゃくちゃタフな生き物なのだ。
生物の頂点という呼び方をする学者もいたくらいだ……実際に戦うとその呼称は間違っていないと理解できる。それくらい強大な生き物だ。
下位竜がでっかい蜥蜴という認識であっても、それはノエルのような戦闘巧者にとっての認識であり、一般人からするとその存在は脅威でしかない。
真竜との戦闘経験はないのでどの程度の戦闘能力なのかは全く理解できていない……記録では軍隊を壊滅させたとか、国が一夜で滅んだとか、神と戦ったとかそんなのばっかりだ。
……で、これらを総合すると竜はめちゃくちゃ強くて厄介で、化け物みたいな化け物でどうしようもないくらい強大な怪物だ、ということだ。
『戦略は決まったか? 一応聞いてやるぞ』
チョー頑張る、マジ頑張る、スッゲー頑張るの三つが重要かな……あとは全力で避ける。というより神話級の怪物相手に小手先の何かが通用するとは思えない。
本来私一人でどうにかなるような敵ではない……前世の記憶、魂に溶け合っているノエルがそう言っている気がする。仲間と共に戦うべきだとも。だが、覚悟を決めて戦いに出るしかないだろうな。
『我はお前の契約者……いや友人と言ってもいいだろう、だから我を信じよ。お前をみすみす殺させることは我の沽券に関わる』
ま、まあ魔剣を信じる女の子って危ないやつなんだけど、今この瞬間最も頼りにできる私の味方は全て破壊するものだけかもしれないもんな。
私がじっと考え事をしているのを邪魔しないように、江戸川さんや隊員さんたちは粛々と準備を進めていたらしく、攻撃準備はすでに整っている。
「新居、危なくなったら逃げるんだぞ……」
江戸川さんが心配そうな顔で私の顔を見つめている……相当心配なんだろうな。私は彼に微笑むと、大丈夫という意味を込めて頷く。
まあはっきり言えばどうしようもなかったら私も一旦は逃げるつもりでここにいるしね……現代兵器がどこまで通用するのか? というのは未だわかっていないわけだし。
降魔に対して現代兵器が効果を発揮している、というのはKoRJの記録からもわかる。江戸川さんや四條さんの銃火器で降魔を殺すことができるのは実証済みだ。
「大丈夫ですよ、私それなりに強いですから」
「まあ、新居が強いのは実証済みだが、それでも俺からすると強かろうとなんだろうと君は女子高校生、そして俺よりも遥かに年下の妹みたいな存在なんだ……死ぬなよ? 紅茶を飲ませる相手がいなくなるなんて馬鹿みたいだからな」
江戸川さんがそっと私の頭に手を添えて、軽く撫でる……私は彼に撫でられるまま、でも嫌いじゃない。この世界では私は一七歳の女性にしか過ぎない。
本当に心配してくれるのは理解している……だが、ここで引くことはこの世界を守れない、と同義でしかないためできる限りなんとかしないとダメだろうな、それで無理なら潔く逃げて……ただどこへ逃げるんだというのはあるけど。
「ま、どうにかなるんじゃないかな……」
——鉄の匂いがしている、それと複数の人間の匂い。何かの準備をしているようだが……ルドフィクスはグルルと唸り声を上げてゆっくりを首を起こす。だが、何をする気だろうか?
この世界の人間たちは彼ら真竜が何たる生物なのか、を理解しているとは思えない。古くは神々との戦いのために、火の眷属として生まれ出た種族なのだ、人の作りしものがどこまで彼らの鱗を傷つけるだろうか?
『だが、油断をすると負ける。それは勇者……いや、魔王様との戦いで我らは思い知った、それゆえ油断はすることはできぬ……』
ゆっくりと体を起こすとルドフィクスは周囲の生物の匂いを嗅ぎ分けるために大きく息を吸う……一〇名程度? 男性が多いが、一人匂いが違うものがいる。
これがあの大魔道の話していた特上の女とかいう雌か……まだ若い、だが少しおかしい……直接見ないとわからんが、何か不思議な感じがする。
『……直接会うしかないか……とても懐かしい匂いがするのはどういうことだ?』
ふと空を見上げたルドフィクスの目に、火を噴き出しながら迫る筒のようなものが見えて困惑する……これはこの世界の武器? 咄嗟に息吹……彼の特性は火球だが、それを吐き出していく。
火球が衝突するとその筒のような物体は空中で炎を上げて爆発していく……だが撃ち漏らした筒が驚くくらいの速度でルドフィクスへと迫る。
飛来した筒……小型の対戦車ミサイルがルドフィクスの体表へと衝突すると、鱗を突き破るように食い込む……激痛が走った瞬間にミサイルが爆発し、ルドフィクスは悲鳴をあげて全身を包む痛みに怒り、失費や前足で大きく強く地面を叩く。その衝撃
『油断……これほどの威力、貧弱な魔法よりも遥かに強いな!!』
大きく咆哮すると、ルドフィクスは治癒魔法を無詠唱で発動させると傷ついた箇所の血止めを行う。爆発でちぎれた肉がジクジクとした痛みを発し、彼の体に血液がべったりと張り付いている。
視界の外に再び数発のミサイルが見える……何度も食らうと致命傷になりかねない、大きく翼を広げると年若い真竜は咆哮に意志を込めて放つ。
『……落ちよ!』
咆哮に込められた魔力が、音となって伝播し空気中を飛翔する対戦車ミサイルに強い衝撃を与えると、ミサイルはそのまま爆発四散していくのが見える。
思っていたよりも脆い? だが威力は攻城戦などで使われる破城槌のように力強く、そして爆発はこれまで体験したどの魔法使いの爆発魔法よりも強力だ。
油断、観察をしようなどという傲慢、怠慢の招いた傷だ、怒りはむしろ矮小なる人間ではなく自分へと向けられている。油断をして負けたのを思い出せ……確実に相手を殺すのだ。
ルドフィクスが夜空に向かって大きく咆哮を上げるとゆっくりと後ろ足で立ち上がるように体を起こし、攻撃をしてきた人間を探す……その男たちは海に向かって慌てて走っている。
いたな……一人残らず食いちぎってやる……ゆっくりと前足を地面へと下ろすと、のそりのそりと前へ向かって歩き始める。
自らの方向へと向かってくる巨大な黒竜を見て恐慌状態になっているのか、男たちは慌てて海に飛び込むとそのまま泳いで逃げていく。逃さぬ……怒りに燃える目で男たちを追っていくルドフィクスの視界に、不思議な光景が見えた。
「……待ちなさい、私が相手よ、真竜」
彼の目の前に一人の人間の雌が立ちはだかる……夜の闇のように黒く輝く長い髪を風に靡かせ、切長の目や整った顔立ち……異世界では東方に住む人間の亜種だったか? それに似ている、まだ年若いのだろう女というよりは少女だな。
少女は紺色の服に身を包み、ヒラヒラと風に揺れるスカートからは白い足が見えている……だが、ルドフィクスは彼女の手に握られている剣を見て思わずギョッとした。
なんだあれは……彼の目にしか見えないかもしれない、不気味すぎるくらいに禍々しいオーラを放つその剣……この世界に魔剣と呼ばれる武器が存在しているなど聞いてはいなかったのだ。
警戒しなければいけない……魔王様の持つ聖剣、あれに近しい存在のように思える……人間にあれが使いこなせるなど……この世界にきた時には思いもよらなかった。
少女は禍々しい少し反りの入った剣をルドフィクスに向けて、こう言い放った。
「私の名は新居 灯……ミカガミ流剣聖の魂を継ぐものよ。勝負しましょう!」
_(:3 」∠)_ ドラゴンとの戦いを格好良く書きたいなあと思いつつ、描写含めて文才の無さが悩ましい
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