第一九九話 黒竜(ブラックドラゴン) 〇二
「……ということでルドフィクスの息吹で乗客乗員約一二〇名が海の藻屑……なかなかに悲惨な事件だね」
アンブロシオとエツィオ・ビアンキは夜景が美しいと評判の高層階にあるレストランの個室にて豪華な料理やワインを片手に状況の報告をおこなっている。
以前はアンブロシオの部下に人間が少ないということもあって、いざ本性が出ても問題ないような場所などで会議をおこなっていたが、今はいないララインサルのかつての希望を取り入れた格好だ。
とはいえ、既にララインサルは新居 灯に殺されてしまい彼がこういった場所で会議に参加することはもうないのだが。
「……そうか……予期せぬ大量虐殺となったな。ところでお前は私を責めないのか?」
「責めるも何も、一度解き放たれた竜を細かくコントロールすることは難しいのだろう? 感情としてはあなたのことを許す気にはならないが、仕方のないことだと割り切っているよ」
エツィオの表情はあくまでも事務的で何処か感情を切り離したような表情であり、それを見たアンブロシオはほんの少しだけ後悔をした、だがすぐに彼も事務的な表情になりワインを軽く飲んでから、いくつかの資料を懐から取り出すとエツィオへとテーブル越しに渡す。
封筒に入った資料に軽く目を通すと、エツィオは軽く頷いて再び封をして床に置いている鞄へと仕舞い込む。
「承知した、これは僕の方で処理しておく」
「頼む、昔は荒野の魔女に任せていたのだがね、彼女を失ってからはこういった外向きの仕事が難しくなっていて……君の力が必要なのだ」
アンブロシオの顔を見て、エツィオは薄く笑うと軽く手を振って気にするな、という仕草を見せる。どちらにせよ今のアンブロシオには手駒が少ないことは理解している。
異邦者の一部が離反したことで、戦力も落ち始めている……ルドフィクスのように異世界においても誓約などで縛っている仲間もいることにはいるのだが、それも数が多いわけではない。
「向こうから連れてくるのは難しいのかい?」
「煉獄の花を再び用意している……が、ララインサルがいなくなって苗からの育成に時間を要している……完成までは少し時間を稼がねばならないだろう」
アンブロシオはワインをグラスから呷ると、深く息を吐き出す……少し不機嫌そうな彼の顔を見てエツィオは記憶にあるキリアン・ウォーターズの面影を少しだけ感じ、懐かしさと変わらないその仕草に軽く笑みをこぼす。
その顔に気がついたのか、アンブロシオがなぜ笑うのか? と言わんばかりの表情に変化するが、エツィオは再び軽く手を振ってから金髪を軽く手で撫で付ける。
「前世の記憶にある君の姿と今の表情が被っただけだよ、すまないね。それと僕の方でも時間稼ぎに使えそうな手駒を用意してある……KoRJへの牽制にはもってこいだろう」
「お、新居は今日はこっちなのか? 珍しいな」
「新居殿……お久しぶりでござるよ、グフフ」
放課後、定期的な検診のためにKoRJへと赴いた私はその帰りに思い立ってKoRJの開発部へと足を伸ばした……そこには台東さんと珍しく日本に帰国していた江戸川さんが新兵器なのだろうか、巨大な骨組みのような物体の前で議論を交わしている場所に出くわし、彼らから声をかけられたところだ。
「こんにちはー、ってその機械なんですか?」
「デュフフ! 見てしまいましたね……これはわが開発部と江戸川殿の共同作業による強化外骨格なのですぞ」
台東さんが鼻息荒く端末を操作してモニターへと完成予想図を表示していく……SF映画やシューティングゲームなどでありそうな一人乗りの強化外骨格……名前はまだ決まっていないようだが、中央に人が乗るというよりは着るという表現が正しそうな感じでその外側に機械でできた巨大な腕や足が取り付けられている。
乗員は特に装甲板などに覆い隠されているわけではなく、半分剥き出しの状態なのでそこを狙い打たれると弱そうだな……少なくとも私はこれを使うには少し勇気がいる気がする。
「接近戦、特に生身で戦うことがメインの私には少し扱いにくそうですね……」
「ああ、新居に使ってもらう訳じゃないさ。開発当初の使用者のイメージは俺や四條なんだ、今までよりも多くの武器を搭載できるしある程度の時間なら背中についている小型バーニアを使って飛行もできる」
あー、それなら納得……四條さんや江戸川さんがメインで使っているような銃火器は重量級の降魔相手だと効果が出にくいし、弾数の制限もある。
四條さんも小型の敵相手ならどうにでもなると話していたが、記録にあるような竜や巨大な怪物相手には手も足も出ないとも。
「人間型相手ならどうにでもなると思ってたけど、最近はそうでもないからな……新居はよく竜相手に立ち回れたよな……」
「ま、まあ……あれは最終的にエツィオさんがとどめを……」
私はそこまで口にして思わず黙ってしまう……そうだ、彼が竜を最終的には片付けてくれたんだよな……エツィオさん、未だ行方不明なんだよね。
あの後益山さんも心労で倒れてしまって、療養中になっているし学校でも英語の授業でエツィオさんの軽口で女子生徒から黄色い声が上がったり、男子生徒のブーイングが巻き起こらなくなってとても寂しい気がしている。
急に黙ってしまって私を見て、江戸川さんが何かに気がついたようにハッとすると、そっとそのゴツい手で私の肩を優しく叩く。
「……すまん、辛い思い出を思い出させるつもりはなかったんだ」
「い、いえ……本当に辛いのは私ではありませんし……」
私は軽く微笑む……辛いっちゃ辛い、でも私のそれは仲の良い友人を失った辛さに近く、益山さんのように愛している人が亡くなった辛さとは別の問題だと思っている。
だからいうほど堪えている訳じゃないのだけど、それでもお互いの秘密を共有している仲間がいなくなる、というのはちょっとキツいものがあるのだ。
「まあ、エツィオ殿がそう簡単にやられるとは思えませんのでね……私はちゃんと生きていると思ってますよ、ヌカポォ」
台東さんがペットボトルから炭酸飲料を飲みながら、普段とは少し違う表情ではあるが少し明るく話している。まあそうね……私も彼がそう簡単に倒せるとは思えないし、絶対に生きていると信じている。
私も頷くと気を取り直すようにモニターに写っている強化外骨格の完成予想図を見つめる……黒を基調とした機体でかなりスタイリッシュな格好だな。
「結構趣味の世界ですよねこれ、なんか強化外骨格ってよりは強化ユニットみたいな……」
「お、気がつきましたかな? やはりこういった科学の副産物は形に拘らないといけないと思うのですぞ」
台東さんは嬉しそうな顔で各部の説明をしていく……例えば肩の装甲には重量強化点が設定されていて追加武装なども複数搭載可能な点や、飽和攻撃を想定してオプション兵装には小型のミサイルポッドなども設定できる点。
銃火器の中には魔素を充填して半永久的に使用できる爆炎砲など現代技術と異世界の魔法力をクロスオーバーさせた兵器なども用意できるという。
そのほかにも雷撃魔法を応用した稲妻砲なども準備中となっている……随分色々裏側で開発進めてるんだな、全く知らなかったよ。
「銃火器の残弾数問題は現代戦でも課題となっておりますからな……その点十分な魔素をチャージする時間は必要とはいえ軽整備で継続使用できる爆炎砲は某の自信作ですぞ」
「あ……エツィオさん……」
モニターに映る爆炎砲の実験映像が流れる……間の悪いことにそこに写って技術指導や調整を手伝っているのはエツィオさんの笑顔だ。
その背後で爆炎砲が火球を打ち出して的を粉々に破壊する映像が流れているけど、私の目はずっと実験に立ち会っているエツィオさんを追ってしまう。
台東さんとも笑顔で色々話しながら、各部の調整の手伝いや図面を一緒になって直している光景……私の知らないエツィオさんがそこには映っている。
そっかこういうことも嫌がらずに彼はちゃんとやってたのか……陰ながらKoRJのために色々と手伝っていたんだな。思わず感心してしまうが、じっとモニターを見つめている私とモニターを交互に見てバツが悪そうに、端末を操作して映像を消し、強化外骨格の映像へと切り替える台東さん。
「……他のがよかったですかな……申し訳ない」
「……大丈夫です」
大丈夫、エツィオさんなら大丈夫って私信じてるし……江戸川さんが軽く咳払いをしてからテーブルにとてもおしゃれなティーポットを使って紅茶を淹れ始める。
とても上品な香りが辺りに広がる……気を遣ってくれているんだろうな……菓子受けにある煎餅の袋を開けて、軽く齧りながら私は黙ってモニターを見つめる。
江戸川さんは恐ろしく洗練された手際の良さで、ブランド物のカップへと紅茶を注ぐ……高級茶葉だな。私は黙ってチョコレートの小袋を開けて中身をテーブルへと並べると、黙って私の前へと出されたカップを手に取ると軽く啜る。
「……美味しい……」
江戸川さんは苦々しい笑顔でカップから紅茶を軽く啜ると、私がテーブルに並べたチョコレートを一つ手に取ると包みを開けて口へと放り込む。
ビターチョコだから紅茶にも合うと思っているけど……私が江戸川さんの顔を見つめていると少し苦そうな顔で、口を動かしながら彼は私に微笑む。
「苦いな……でも新居が美味しいと思って出してくれたんだよな。ありがとう」
_(:3 」∠)_ やっぱパワードスーツはロマンでしょ!(強弁
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