表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/247

第一九二話 来訪者(ヴィジター)

「八家さん、そんな理由で一騎討ちを申し込んだんですか?」


「ああ、あれは武士(もののふ)だ……礼儀を持って当たらねば失礼に当たると思ってな」

 呆れ顔のエツィオ・ビアンキを前に、嬉しそうな顔でホテルの一室にて自らの刀に手入れをしている八家は黙って頷くと、エツィオに向かってにっこりと笑う。頭が痛い、と言わんばかりの顔で少し悩んだ顔をしたエツィオだったが、すぐに真面目な顔になる。

「それは良いのですが、あの女性は私のものとして良いと言われておりまして……できれば五体満足でお願いしたい」


「……死合の結果は武士(もののふ)の実力と運による。どこまで無事かは保証しかねる」

 その言葉にエツィオが殺気を放つように身構えるが、そんな彼にも気圧されずムフッ! と笑った八家がエツィオが反応できない速度で首へと手入れ中の刀をぴたりと当て、軽く肩をロックする。

 一瞬の出来事にエツィオは何が起きたかわからず呆気に取られているが、八家はそんなエツィオの頬をベロリと軽く舌で撫で流。

「ぐ……貴様……僕の頬に……汚い舌を……」


「恐怖の色が見えるぞ魔法使い、女を手に入れたくばお前が前に出よ。それが出来ないのであれば口を開くな、愚か者が」

 軽く刀の腹でエツィオの頬をピタピタと叩くと、ムフフッ! と奇妙な笑いをあげた八家はエツィオを解放する。舌打ちをしながら、急いで自らの頬を懐から取り出した除菌シートで神経質そうに噴き上げるエツィオを見て、八家が再び笑う。

 ムカつく男だ……エツィオは憎々しげに八家の顔を睨みつけているが、この男……妖刀(あやかしがたな)の化身ということもあり、こと接近戦においては恐ろしく腕が立つ。

「……僕は見た目よりも魂が繊細なんだよ、勘弁してくれ」


「だろうな、私の目で見るとお前の魂はか細く、心弱い女性のように見える。それとあの女性は真逆であったな」

 懐から煙草……安物だが、八家にとってはこのチープさが気に入っているブランドのものを取り出し、口に咥えると一〇〇円ライターを使って火をつけ、紫煙を燻らせる。

 あの一瞬で足を切り落とされても構わない、と言わんばかりの蹴りを繰り出してきた……新居 灯という少女。あれは逸材だ……力も反射神経も、全てが一級品。そしてあのまま接近戦を続けていたとしても……ムフッ! と堪えきれない笑いをあげる。


「何がおかしいんです?」

 気持ち悪いものを見ていると言わんばかりの表情を浮かべるエツィオが八家を見ているが、彼はその視線には構わず差し入れの濁酒(どぶろく)を手持ちのお椀へと注いで軽く煽ると、満足そうに息を吐く。この酒はとても良い……この時代の酒も煙草も素晴らしい、後は斬る相手が多ければな。

 八家は満足そうに舌なめずりをしてから、不満そうなエツィオに話し始める。

「なあに、あれほどの武士(もののふ)、倒せないのは道理。私の記憶にもそうはおらんよ……あれを手に入れたくば、命をかける必要があると思うのでな」


「女が欲しいんですか? 刀の化身のくせに」

「欲しがっているのはお前だろ? 魔法使い、私は殺し合いの相手がいれば良い」

 笑いながら、濁酒(どぶろく)をお椀から煽る八家の顔を憎々しげに睨みつけるエツィオだが、彼のいうことも正論であるとは理性で理解している。

 エツィオ・ビアンキというよりは魂にこびりついているエリーゼの意識が、新居 灯……その中に眠るノエル・ノーランドという剣聖(ソードマスター)の魂を手に入れたがっており、その焦燥感がエツィオの心を焼き焦がしつつある。


『苦しい……私は愛する人を手に入れたいだけ、あの人以外は何もいらない、あの人を手に入れて……』


 最近目を閉じると美しい金色の髪を持った少女の顔が見える……その姿は儚げだが、烈火の如く魂の火が燃え上がっている。苦しい……ドクン、と心臓が高鳴る。

 息苦しさを感じながら懐からスマートフォンを取り出すと、以前新居 灯と一緒に撮影した写真を表示させる……美しいな。写真に写る新居 灯の笑顔を見てほぅ、とため息をつく。

 荒ぶる魂も彼女の写真を見つめるだけで、少しだけ凪ぐようなそんな気もしている。あの夜、気絶していた彼女をどうして手中に収めなかったのか、今では本気で後悔している。

「いつもそうだ、気がついた時には遅すぎる……」




『殺されなかったのは運が良かったな、だが次はないと思え』

 そうねえ……私は今KoRJの地下訓練場で刀を振るって動きを確認しつつ、全て破壊するもの(グランブレイカー)と先日の動き方について反省をしている。

 油断していた、つもりは全然無いがそれでも日常に容易く入り込まれている現状は頂けない……さらには刀を引き抜く隙すら与えられなかった、私が虚空より刀を引き抜いたテオーデリヒとの戦いを動画にしてあったのだな。


『この世界には記録を簡単に撮れる機器があるのを失念していた、これは我の失態だな……』


 いや、でもララインサルが撮影禁止って言ってたんだから、まさか撮ってるとは思わないしね。魔王の部下や縁者が記録を取ってもそりゃあララインサルは文句言わないよね。

 なのでその可能性を考えていなかった私にも非がある……しかしあの引き抜く瞬間を狙ってくるとはなあ。もっと素早く抜けないものかしら。

 あの時徒手空拳とはいえ、防戦一方……足を持っていかれることすら覚悟で蹴りを見舞ってようやく引き下がった相手だ。それに一撃一撃の迫力はそれまで戦った剣士(ソードマン)の比ではない。

 勝てるのか? という自分自身への問いに、私は少し迷いを感じる……多分勝てる、勝てるはずだけど本当にそうか? という自問自答を繰り返している。


「姉ちゃん、迷うてますか?」

 背後からいきなり声をかけられて思考の海に沈んでいた私は、焦って後ろを振り向く……とそこには見慣れぬ男性が立っている。年齢は二〇代中盤くらいか? KoRJが練習着として支給しているジャージを身に纏っているが、筋肉質な肉体のため少しパツパツになっている。

 顔つきは結構誠実そうな印象だが、短く刈り上げている髪型といい、どう見てもカタギの人間には見えない……私が黙っているとその男性はポンと手を叩いてから片手を差し出す。


「ああ、すんまへん、俺の名前は高槻 天人(たかつき たかと)いいます。大阪支部から出張で来てますわ」

 ネイティブっぽい大阪弁で話しかけられて私は少しその名前をどこかで聞いたな……と差し出された手を握り返してから考える。

 高槻……高槻……ああ、大阪の戦闘部隊の一人にそんな名前が……と思い出すと彼の背後からひょっこりと四條さんが顔を出すと少し不満そうな表情で彼に声をかけている。

「高槻さん、うちから紹介する言うたよね? なんで先に声かけてしもうとるんか」


「え? でもちゃんと自己紹介したさかいええやんけ……怒ってるん?」

 四條さんが珍しく広島弁で抗議をしている……珍しいな。高槻さんと四條さんは大阪支部ではコンビを組んでいた仲だ……最初は恋人同士かと思ったが、四條さんはどうも江戸川さんに心が向いているようだし、そういう仲でもないのだそうだ。

 一度四條さんに高槻さん……当時はコンビを組んでいる人って聞き方だったが、印象を聞いてみたことがあったが、その答えは結構散々だった。


『墨田さんが来るまでは単に変な人でした、墨田さんが来てからはいかがわしいお店に一緒に行くようになったんで不潔な男性です』


 それを聞いてなんとなく、あー……とは思ったけどね、とりあえずせめてコンビを組む相手にバレないようにしときなよ……とは思ったのはここだけの話。

 で、その()()()()()とやらが今目の前に立っているのだけど……彼は私に見つめられても全く動じず、ニコニコと笑っているだけだ。

「新居 灯です……お噂はかねがね」


「噂? 心葉がどうせ碌でもあらへんこと話してるんやろうけど、俺は清廉潔白がモットーやさかいね。まあ、よろしゅう頼むで」

 高槻さんは豪快に笑いながら四條さんの頭をクシャクシャと撫でている……四條さんは黙ったまま少し不満そうな表情を浮かべているものの、拒絶するほどでない印象だ。

 さて……彼がどうしてここに来ているのかも気になるんだけど、私はさっきの『迷うてますか?』という言葉の意味を知りたくなり、それについて尋ねることにする。

「……なんで私が迷っていると?」


「そら君を見たらわかるで。太刀筋に迫力があらへん」

 ふらふらと手を振りながら笑顔のまま答える高槻さん……そんなこと言われてもなー! 私は見た目通りまだ未成年で青春を謳歌している女子高生なんだぞ。

 不満そうな表情を浮かべる私をみて、何事かを思いついたのか、高槻さんは顎に手を当てて少し考えると私に向かって拳を突き出す。

「不満そうやな、なら試合してみよか」


「は? 試合?」

 私が唖然としていると高槻さんは壁にかかっている模造刀……刃を落としているが普通に当たったら痛いというレベルでは済まないやつだ……を手に取り何度か素振りをすると、頷いてから私へと放ると、次に練習用のものなのかプロテクターを装着し始める。

 四條さんはそんな彼の様子を見ながら、首を振って大きくため息をついてさっさと少し離れた場所へと離れると座って観戦モードへと入ってしまう。

「迷うた時はしばき合う、それがストレス解消になるさかい考えもまとまるのちゃうかいな?」


「い、いやそう言っても高槻さん武器持ってないですし……」

 模造刀をなんとか振ってみるが、まあバランスはそれなりに取れているとはいえ、これ当たったら骨折じゃ済まないだろうに。

 心配する私をよそに、プロテクターを装着し終えた高槻さんはストレッチついでに、なんらかの武術の型なのか、凄まじく鋭い突きや回し蹴りを軽々と繰り出す。

 その動作は、凄まじい轟音をあげており私は思わず息を呑んだ。なんだこの人……風圧や威圧感がそれまでのおちゃらけた表情からは想像もできないレベルの、歴戦の戦士のような凄まじいものへと一瞬で変化する。


「ほな、やりまひょか灯ちゃん。ちゃんと名乗ってへんかったでんなぁ……大阪支部、龍使い(ロンマスター)の高槻や。練習やさかいってねぶってると死んでまうぜ!」

_(:3 」∠)_ ずっと掘ってなかった大阪支部のキャラを登場させてみる


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ