表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/247

第一八九話 背信(ベトレイヤル)

『ありがとう先輩……私大好きですよ……』


 ……あれは……本気だったのだろうか? 僕が思うように彼女も僕のことを?

 青梅 涼生は自宅のベッドで布団を被りながらその言葉の意味をずっと考えている。任務の後彼女を背負って帰還する途中、新居 灯がポツリと呟いた言葉……青梅は心臓が飛び出しそうなくらいの衝撃を受けた。

 思わず彼女を取り落としそうになったけど、彼女は僕の背中で寝息を立てて寝てしまっていた。あまりに可愛いその顔を見て、起こすのは無粋だと感じて僕は黙って彼女を車まで送り届けた。


「……もし彼女が僕を受け入れてくれるのであれば……」

 青梅は高鳴る心臓を手で押さえながら、彼女と一緒にいる自分の姿を想像してみる。ずっとずっと彼女だけを見てきた……KoRJの任務で最初に一緒になった時から僕は彼女のことが好きだった。

 だから辛いことがあっても、痛いことでも我慢できたのだ、自分でもわかっている、僕自身がそこまで強くないということも、昨日の戦いを見て自分とは全然違う存在なのだと改めて認識してしまった。

 ふと時計を見ると、一二時を回っている……でも寝れない、ずっと言葉の意味を考えてしまう、顔が熱い……健全な若者であれば仕方ないが、想像のなかで新居 灯と抱き合う自分を想像して、胸が高鳴る。

「……随分興奮しているのね、そんなに溜まってるの?」


「なっ! ぼ……僕の部屋に……!」

 突然女性の声が聞こえ、慌てて目を開けるとそこには青梅を見下ろして歪んだ笑みを浮かべているオレーシャの姿があった。その美しいがどこか空虚な淫靡さを持つ笑顔を見て、恐怖と嫌悪で青梅は身を震わせる。

 あの時、捉えられた後彼女は青梅を好きなように甚振った。傷を治しただけに止まらず、抵抗できない青梅をまるで玩具であるかのように扱った。その時の感覚はまだ体の芯に焼き付いている。

「忙しくて我慢できなくなっちゃったのよ、安心して人払いの結界は張ってあるわ。朝まで楽しみましょうよ」


「……帰れ、僕はお前の玩具じゃない」

 青梅はベッドに身を起こすと手でどこかへいけと払うような動作を見せるが、その顔を見てオレーシャはそっと自らが纏っているシャツのボタンを外し、豊かな乳房を露出させる。

 その豊かだが形の良い乳房を見て青梅が慌てて目を逸らす……オレーシャはくすくす笑いながらベッドへとゆっくりと移動すると、青梅の頬を指でそっと撫でる。

「勘違いしてる、あなたは玩具……リョウセイは契約破棄までは私のものなのよ? 」


「や、やめろ……僕はもうお前には屈しない……僕を玩具にするな……」

 布団の中にそっとオレーシャが手を差し入れ、青梅の体を弄り始める……青梅は大きく身を震わせるが、彼女はお構いなしに彼の体の一部を布団の中で弄り回す。

 快楽に必死に耐える青梅の顔を見てオレーシャは舌なめずりをして軽く唾液を拭う、もう我慢できそうにない……この世界の人間の生気はそれほど美味しいとは思わなかったが、リョウセイは格別だ。


『これほど美味な人間を手放す? できるわけがないわ……』


 彼を助ける際に気まぐれで秘密の契約を交わした、内容は単純……彼の味方として行動する……結果としてそれは魔王を裏切ることになっても構わない。対価はオレーシャが望む時に彼の生気……オレーシャが吸収できる形は精という形だが、それを提供する。

 元々オレーシャはこの世界にいたいと思っていなかったし、そういう仲間もいることを知っていた。背教者(レネゲード)を結成することにも抵抗感すらなかった……魔王を裏切ったところで彼女の論理感では大したことではないのだから。

「僕は……僕は……愛している人がいるんだ……だからやめてくれ……」


「あらやだ、私のことは愛してくれないの? 冷たい人ね」

 青梅は息を荒くしながら必死にオレーシャが与える快感を我慢している……身を震わせながら抗おうとする彼の顔を見て、オレーシャは興奮を隠しきれない。

 ベッドにかかった布団を軽く捲ると、オレーシャはずるりと滑るように中へと入り込み……青梅がその直後に与えられた快感で大きくベッドの上で体が跳ねる……彼は必死に口元を押さえて叫びそうになるのを震えながら我慢している。

「あ、あ……灯ちゃん……ごめん……ごめん……ううっ」


 布団の中に入り込んだオレーシャは()()()()()後、頭だけを布団から出すと青梅の顔を見つめてぐにゃりと歪んだ笑顔を見せて口元を軽く拭う。

 青梅はその笑顔を見て背筋がゾッと冷たい汗に濡れたような気がした……僕はどこで間違えたのだ? 愛する女性を裏切り、これほど邪悪な悪魔と手を結んだ……彼女は僕がこんなことをしているなんて知らないはずなのに……。

「んぐっ……ダメよ、私はあなたとの契約を守っているわ、あなたも契約を守るのリョウセイ……この世界でも言われているでしょう? 悪魔との契約というのはそういうもの……寝かさないわよ」




「……なぜ採血如きでそんな顔をするのだ……」

 私はKoRJの医務室でリヒターと向かい合って座っている……彼が手に採血用の注射針を持っているのを見た私が思わず顔に出していた表情を見て彼は呆れたような顔でカタカタと動いている。い、いや……だってあなた自分の手元見てよ! めっちゃ震えてるじゃない!

 指先を見つめて顔を顰める私を見てリヒターが自分の震える指先に気が付く……彼はなんだ、とでも言わんばかりの顔で、私を見るとハッ、と軽く息を吐いた。

「お前、この程度で恐怖を感じるのか? 随分とまあ……()()()()()()だ」


「あ゛?? 誰がお可愛いだって?」

 その言葉に私は思わずイラっとしてしまい、リヒターを睨みつける……プチン、と左腕に軽い痛みが走る。ハッとして見るとしっかりとリヒターの指に握られていた採血用の針が刺さっている。

 あああああ!? や、やられた……リヒターはフフンと鼻を鳴らすと、楽しそうに私を見ながら私の血を抜き取っていく……な、何本採るんだろ。

「……単純だな。この程度で感情を表に出すのはお前にとって命取りだぞ……」


「採血する側の指が震えてたら普通怖いじゃない……」

 私は口を尖らせてそっぽを向くが、そんな私を見て笑いながら三本目の採血管に血液を採取していく。この血を抜くという行為はあまり気持ちの良いものではない。

 戦いで怪我をしたら血を流しているのにも関わらず、私はこの採血という時間が好きではない……なんでだろう? と思ってはいるが、嫌いなもんは嫌いとしか考えられないのだ。


「そんなに不機嫌になるな、ほれ……これでも食べろ」

 リヒターは四本目の採血管に血を取り終えると針をほぼ痛みもなく抜き取り、指で押さえると不思議な言語を唱える……治癒(ヒーリング)の魔法か。

 それが終わるとリヒターは懐をゴソゴソと探り、そこから大きな飴玉を取り出して私に渡す……子供扱いだな。だけどまあ貰えるものは拒まない。

 私は飴玉を受け取るとその場で包みを開けて飴玉を口に入れる……そんな私を見て、リヒターはカタカタと満足そうに笑い、採血管にラベルを貼り付けて日付を書き入れていく。

「前から思ってますが、リヒターってもうほとんどこの世界の医師と変わらないレベルですよね……」


「ん? そんなことか。世界が変わっても人を助けるという行動には意味がある。この世界の医術を見たが、素晴らしい技術だと思うぞ」

 リヒターは採血管を大事そうに保冷バックへとしまいこむと、端末を操作してモニターに表示された私のカルテに情報を入力をしていく。

 彼はこの世界に馴染んでいるし、この世界で生きていこうという意志のようなものを感じる……男性の記憶と女性の体の間で悩む私よりもはっきりとしているな。

 飴玉が口の中で溶け、最後の小さな塊を噛み砕くと私は口を開く……。

「リヒターって本当にこの世界に適応してるよね……私とは大違いだな……」


 彼は軽く骨でできた指で私の額を小突く……いたっ……私が驚いて手で額を抑えながらリヒターをみると、彼はカタカタと笑うような表情を浮かべる。

 彼は黙って椅子から立ち上がり部屋の端に置いてある冷蔵庫の前へと行くと、その中から瓶とグラスを取り出してくる。

 何をしているのか理解できずに私がその様子を見ていると、机にグラスを置いて……瓶からグラスへと黄金色の液体を軽く注ぎ、私へ差し出した。

「そういう顔をしているものにはこういうものが必要だ」


 おずおずとグラスを受け取り軽く匂いを嗅いでみると、芳醇なハーブのふくよかな香りを持つそれは、前世のノエルも好んで飲んでいた薬用蜂蜜酒(メセグリン)だった。

 アルコールの匂いは強くなく、どちらかというと滋養強壮などに使われる薬剤に近いものだな……軽くグラスから啜ってみるが、やはりアルコールはほぼゼロだ。

「これ、本当に薬用蜂蜜酒(メセグリン)?」


「この国には酒税法とかいうのがあるらしくてな、アルコール分は限界まで除去している。お前が飲んでも問題なかろう……味は大変に残念だが」

 私の問いに頷くと、リヒターは少し不満そうにグラスから薬用蜂蜜酒(メセグリン)を煽り……やはり不満そうな顔でため息をつく。彼からするとこれはお酒ではないのだろうな。

 それでも黙ってチビチビ啜っていると、それなりに気分は晴れてくる……体の芯から少し温まったような気がして、ホッと息を吐く。


「悩みがあるのは生きている証拠だ、わた……いや本音でいこう。俺はもう死んでいるから、悩むことが少ない……というよりそういう感情が生まれにくい」

 リヒターは軽くグラスを回して薬用蜂蜜酒(メセグリン)の漣を楽しむように見つめている。彼自身はどのようにして不死者(アンデッド)の道を歩むことになったのか、それを聞いたことはなかったな。

 私も手元のグラスを見つめて軽く啜る……これはこれで十分美味しい気もするけど、前世の記憶にある薬用蜂蜜酒(メセグリン)はもっと強いアルコール臭がしていた気がするな。

 リヒターはカタカタと軽く震えると、グラスに残った薬用蜂蜜酒(メセグリン)を一気に煽る。次に彼が放った言葉に彼自身が持つ本音のような部分を感じた。


「お前は生きているのだから、もっと悩むといい。考えて考え抜いて……悩みに悩んだ先にある選択肢を大事にしろ。間違っても俺のようになるな……全てが停滞した不死者(アンデッド)などなるものではない……」

_(:3 」∠)_ 採血怖いよね! いつも刺さる瞬間別の方向見てしまう……


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ