表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/247

第一八四話 蟻人族(ミュルミドン)

「……これはどうなってるの……ひどいわ」


 KoRJから現場検分のために派遣されてきた、稲城 雛菊(いなぎ ひなぎく)は血や焼け焦げた跡のある路地裏を見て唖然とした表情を浮かべている。

 路地裏には血痕だけでなく、まるで内側から破壊されたかのような死体……その全てが降魔(デーモン)であることを示すように、牛の頭や鱗に覆われた蜥蜴のようなものなどばかりだ。

 他の職員もその惨状や、撒き散らされた降魔(デーモン)の肉片などの匂いに少し気分を悪くしたのか、口元を押さえて青い顔をしているものが多く、腐臭と血液の匂いのなか蝿が肉片に集って不気味な羽音を立てている悲惨な状況だ。


 稲城はKoRJの臨時職員であり、普段は自分の店であるタイムゾーンというクラブを経営している……まあ、そちらの売り上げが大きいためはっきり言えばKoRJの仕事は八王子に依頼された時のみに絞っており、受け取る報酬もそれなりのものでしかない。

 数日前にこの現場近くで爆発音や悲鳴が聞こえたという通報があったものの、なぜか警察はこの現場を発見することができていなかった。

 腐臭が立ち込め始めて……ようやく警察はこの場所を特定することができた、まるでそれまでは()()()辿()()()()()()何かがあったかのようだ。


「……意図的に隠された、というよりは発見を遅らせる何かがあったのね」

 匂いがきつい……匂い対策のマスクをかけ直すと、すーちゃんに追加割増料金発注しなければな、と心の中で悪態をついた稲城は職員と目が合うと頷いて中へと足を踏み入れる。

 人間がその場所へと入ったことに気がついたのか、死体に集っている蝿が耳障りな音を立てて一斉に飛び立つ……ああ、ひどい光景だわ……。

 彼女が軽く手招きをすると、職員の一人が虫除けに使っている薬剤を噴霧し始める……この状況で検分を行うには蝿が多すぎる。


「雛菊さん、やっぱり魔法とかなんですかね、これ……」

 職員が指差す先には、まるでプレス機で押しつぶされたような格好で小さく折り畳まれた牛の頭を持つ降魔(デーモン)の死体がある。牛巨人(ミノタウロス)だったか、灯ちゃんが昔倒した怪物の形状に頭は似ている。

 血は乾き始めており、肉は腐った匂いを放っており稲城は顔を顰めて首を振る……かわいそうに、足の向きなどを考えると逃げようとしたところを攻撃されたのね。

「魔王の部下に魔法使い、というのは確定なんじゃないかな……私は知識がないからわからないけど、エツ……あ、いやごめん。リヒターに情報を送ってあげて」


 失踪してしまったエツィオ・ビアンキ……最強の魔法使いの名前を出してしまいそうになるが、慌てて言い直す。そうだ、もうエツィオくんはいないんだった。

 リヒターなら魔法の知識も豊富だろう……職員は頷くと少し気分が悪そうな顔でカメラを使って現場の写真を撮っていく。情報になりそうなものはほとんどない……巧妙にこの場所を隠す、それは魔法なのだろうと稲城は考えている。

「……灯ちゃんたちにも注意をするように伝えないと……」




「——そういうことで、雛菊さんからそういう情報が入ったんです、共有しますね」

 四條さんが私の隣に完全武装で立ったまま、スマートフォンを操作して私へとヒナさんが調べた情報を送信する。一発目に表示された画像が腐り始めた肉片とか、内臓とかそういうグロ画像になっており思わず私は苦笑いを浮かべてしまう。

 そんなことはお構いなしに四條さんは次々とメッセージアプリへと情報を流していく……グロ画像ばっかりやないかーい! とツッコミを入れたくなるくらいのひどい情報ばかりだ。

「四條さん……これひどいよ……」


「我慢してください、雛菊さんによると敵側に魔法使いがいる可能性があるって話でした」

 食欲が失せるわ……まだ夜ご飯食べてないのに……げっそりした気分で私は腰に下げた日本刀……いや全て破壊するもの(グランブレイカー)を軽く触って点検する。

 魔法使いか……ふとエツィオさんの優しい笑顔が脳裏に浮かぶ。エツィオさん最初の印象が最悪なだけで、根は優しいし授業は丁寧だし、ついでにパフェも一緒に食べに行ってくれるんだよね。

 ちょっと寂しい気分になってしまい、ため息をついてしまう……いやいや、エツィオさんちゃんと生きてると思うんだよね、そう簡単に殺されるような人じゃないんだし。

「まあ、情報共有は以上です。まずは目の前の任務に集中しましょう」


 四條さんはスマートフォンを操作して、KoR共通のアプリを立ち上げると今回の任務の情報を展開する。画面に共有された情報には、不鮮明な写真が表示されている。

 写真に写っているのは、直立する赤い蟻のような怪物……ああ、前世のノエルが持つ記憶にあるけど、これちょーレアな種族だ。ノエルですら数回しか見たことがないめちゃくちゃ閉鎖的な連中なんだよね。

蟻人族(ミュルミドン)か……こんな連中までこの世界に来てるのね……」


 蟻人族(ミュルミドン)は直立する赤い蟻、という外見の種族で蟻は六本の足を持つが、彼らは作業用の足二本と歩行用の二本の足の四本の足を持つ。

 めちゃくちゃ閉鎖的な種族で、前世の世界でも数カ所の植民地(コロニー)にしか生息していないめちゃくちゃレアな存在だ。その誕生は神話時代(ミソロジー)に遡り、大地母神に連なる神である全ての蟻を統べる神が作り出したと言われている。

 非常に体系化された社会構造を持つことでも知られており、軍隊のような規律に従って生きている種族だ。


「個別に行動するような連中じゃないけど……」

 ただ写真に写っている蟻人族(ミュルミドン)はかなり大柄なので、もしかしたら戦士(ウォリアー)なのかもしれないな。手にはかなりゴツめの鉄剣と円形の盾が見えるので、腕に自信はあるのだろう。

 四條さんは私の話を聞きつつ、感心したような表情を浮かべている……他人から見たらほんの少しの違いからもしれないが、最近彼女の表情を見るとなんとなく考えていることがわかるようになってきたんだよね……彼女は黙って拳銃のロックを外すと目的地へと歩き出す。

「……まあ、写真に写っているのだけではないかもしれない、ということですね了解です」





 今回蟻人族(ミュルミドン)が出現したのは、東京の地下に配置されている廃棄された工事用のトンネル……まるで整備の行き届いた迷宮(メイズ)のような場所だ。

 少しひんやりとした空間には水もあるし隠れるにはちょうど良いスペースなども存在しているため住み着くにはちょうどよかったんだろうな、と思う。

 大都市圏の建設当時に設置され、地下を工事するための拠点ともなった場所のようで、現在は長らく使われていなかったことから年に一回程度の調査しか行われていなかったそうだ。


「……で、久々に調査をしにきたら、ということらしいですね」

 通路を進みながら四條さんはライトを片手に青山さんから伝えられた情報を私に話しながら進んでいく……昔リヒターと出会った場所もそうだが、不況で調査の行き届いていない場所なども増えた結果どうしても人の目がなくなる場所なども多くなってきている。

 このまま行くと気がついたら村や集落が丸ごと降魔(デーモン)に、とかありそうなもんだよなあ。そんなことを考えていた私たちの前に、少しだけ広い空間が出現する。

「これは……」


「資材置き場だった場所ですかね……って、新居さん」

 四條さんがキョロキョロと周りを確認し始めた矢先……突然この広い空間に灯りが灯される。私と四條さんはお互い武器を構えて警戒態勢を取ったが、その視線の先に赤い影がゆらりと現れたのを見て私たちは思わず息を呑む。

 身長は二メートルを超えた巨躯であり、真紅の体に申し訳程度の皮をなめした防具を身につけ、手には巨大な鉄剣と円形の盾を持った蟻人族(ミュルミドン)が立っている。

「……あー、うん。こちらの言葉はこれでいいか?」


「喋れるの?」

 咳払いをした後に、蟻人族(ミュルミドン)が流暢な日本語を話し始めたのを見て、私は思わず聞き返してしまうが……その反応を見て言葉があっていると判断したのか彼は両手を広げて今の所敵意はないという仕草をとる。

 私は四條さんに手で合図をするとまずは刀の柄にかかっている手を外す。

「……ありがたい、まずは会話を、それが真紅の女帝(クリムゾンエンプレス)の意志でもある」


「そちらのお話ってなんですか?」

 真紅の女帝(クリムゾンエンプレス)? この蟻人族(ミュルミドン)が仕える支配者だろうか? 私は距離を取ったまま彼に問いかける……戦う意志がなさそうと言ってもこの種族は所属している植民地(コロニー)の支配者の意思に絶対服従する性格で、そう言った意味では金をもらったら一応裏切らない傭兵よりもある意味タチが悪い存在なのだ。

「私の名は蟻人族(ミュルミドン)戦士(ウォリアー)のカランジンと申す。魔王に従いこの世界へ来たのは、真紅の女帝(クリムゾンエンプレス)の命によるもの。植民地(コロニー)の繁殖地を探すためだ」


「……繁殖地?」

 なんとなく嫌な予感がして私は聞き返す……戦士(ウォリアー)ってことは戦闘能力は恐ろしく高いはずだ。そんな虎の子の部下を送り込んでくるってことは、領土拡大などの野心があるってことなんだろう。

 カランジンは私の言葉に頷くと、ガッチリとした大顎を一度開け閉めするように動かし、何度か口籠ったように何か不思議な言葉を喋るが、どうやらちゃんと日本語を喋るのにも少しコツがいるらしい。

「この地は平和だ……そして地下には人の作った坑道を多く備えている、安全な場所と見ている。だが食料が足らない……そこで、繁殖地として選ぶ以上狩りをする必要があってな」


「……新居さん……」

 四條さんが背中にかけている突撃銃(アサルトライフル)に手を伸ばす……私も彼の言葉に不穏な空気があることに気が付き、柄に軽く手をかけ直す。

 その様子を見てカランジンは笑うような仕草を見せてから、何かの合図なのか命令のような言葉を発する。周りから一気に彼よりも細身の蟻人族(ミュルミドン)や、紅の外皮を持った大型犬サイズの巨大な蟻がガサガサと音を立てて出現する。

 いつの間にこんな数を……私と四條さんは少し困惑気味の顔で武器を構えると、襲いかかってくる敵へと攻撃を開始する……そんな私たちへとカランジンは大顎を開いて宣言する。


「ケシャ・ハリャダ! この世界の人間は幼生の苗床に使えそうだ。ということで私に負けた暁には、生えある苗床第一号になってもらうとしよう、戦おうぞ剣士(ソードマン)よ」

_(:3 」∠)_ 転プラでも登場させたかったミュルミドン、ようやく……w


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ