第一七七話 煉獄の花(ヴルトゥーム) 〇五
「四條さん……銃を下ろしてくれ、君と争う意味はない」
「あなたの行動が理解できません、何故そいつらと一緒にいるのですか?」
四條 心葉が拳銃を向けている相手は、青梅 涼生……KoRJ東京支部に在籍する念動力の使い手でもあり、新居 灯と恋仲と噂されている高校生。読者モデルとして雑誌にも載ることもある甘いマスクのイケメン高校生としても有名な男性だ。
大阪にいても彼の噂はよく聞く……素晴らしい才能を持ちながら努力を欠かさない、好感の持てる性格……品行方正、スポーツマン……正義感に溢れる素晴らしい若者。だがしかし……彼の後ろに控えている連中は……そうではない。
「やだわぁ……お嬢ちゃんは可愛いのに、随分恐ろしいことするのねぇ? ねえ、リョウセイ?」
知っている……彼の肩にしなだれかかるように彼に身を預けている女性、いや……降魔、新居さんに倒され、一度は捕縛された女淫魔、名前はオレーシャとか言ったか?
品性を感じない露出度が多く、胸元を強調したような服装で四條をニヤニヤと歪んだ笑みで見つめている。
そして彼の後ろには……銀色の髪を靡かせ、女性の上半身に蛇の下半身を持つ人蛇を筆頭に、牛の頭と力強い肉体を持つ牛巨人など複数の降魔が付き従っている。
「四條さん……武器を下ろしてくれ、彼女たちは僕らの敵ではないんだ」
「信じられません……青梅さんの背信行為の可能性が高いと判断します」
青梅の呼びかけに警戒をより強めて背中から短機関銃を引き抜いて構える四條……、そう、信じられないのだ。
KoRJも一枚岩の組織ではない、過去の記録では何人も裏切り者を出しているし、何より青梅は捕虜となった際にも殺されることなく無事に戻ってきている。疑問を持つな、という方がおかしいのだ。
四條は他の降魔との距離を測りつつ、少しだけ後退する……ある程度距離がないと、いざという時に対処ができないかもしれない。
青梅は四條の反応を見ても驚かずに、首を振って仕草で敵対していないと伝える。
「……僕は彼女たちに頼まれて動いている……彼らは背教者。魔王の支配から抜け出そうとする人類の協力者だ」
「……理解しかねます。私に与えられた任務はこの森を焼却することです、邪魔をするのであれば排除します」
四條はそれでも警戒を緩めない、その顔を見てオレーシャがクスッと笑うと、止めようとする青梅に軽く手を振ってまるで無防備に四條へと近づいていく。
警告のためにわざと外すように拳銃を射撃する四條だが、まるで外すのがわかっているかのようにオレーシャはにやにやと笑いながら、距離を縮めていく。
四條の構える拳銃をそっと握って、自らの額へと銃口をつけたオレーシャがクスッと笑みを浮かべる。
「嘘じゃないわ、私たちには二種類の派閥があるの……一つは魔王様に盲目的に従う集団、そして私たち背教者は元いた世界に戻りたいだけの平和主義者……わかる?」
「……ッ! う、うぁっ……」
オレーシャの目が怪しく輝く……危険を察知した四條がその手を振り払おうとした瞬間、まるで影から湧き出るように、黒い蔦が四條の細い体を縛り上げていく。
ミシミシと体に食い込んでいく蔦の圧力に苦しげな顔をする四條……その顔を見てオレーシャはほぅ……と蕩けるような表情を見せて、四條の白い肌を優しく撫で、そして彼女の膨らみにそっと手を当ててその感触を楽しむように軽く撫で回す。その慣れた手つきに、普段無表情な四條の頬にほんの少しだけ朱が指す。
「ここへはもう一つの煉獄の花の苗を取りに来ただけなの、仕事が終わるまでは邪魔しないでほしい、それだけよ」
「く……お、青梅さん……あなたは……KoRJだけじゃなく、新居さんまで裏切る気ですか……」
四條の言葉に少しだけ青梅の顔が曇る……ぎり、と歯を食いしばって地面を見つめる。そんな青梅のそばへと戻ると、オレーシャがくすくす笑いながら、彼の腕に自らの腕を絡ませると彼女は青梅をエスコートするかのようにその場から離れていく。
その二人へと付き従うように複数の降魔が縛り上げられている四條を無視して歩いていく。
「リョウセイは優しいわ、私たちのためにその慈愛の心で協力してくれているの……あのお嬢ちゃんにも伝えて、私たちの勇者……リョウセイはあなたのじゃないって」
「クハハッ、獣人増やしたところで意味ないよ、諦めるんだね」
ララインサルはまだまだ余裕のありそうな表情で、私たちへと何かを放つような姿勢をとる……何をする気だ? 彼の掌に漆黒の球体が生み出されるが……これは魔法か?
彼はそのまま漆黒の球体の後部を引くような、まるで弓を引くような動作で私たちに狙いをつけると、その手の中に生まれた漆黒の球体は鋭い矢のような形状へと変化した。
「……影の矢!」
『勢いがあるな、我を使って受け流せ! 直撃すると危ない』
彼の手から放たれた漆黒の弾丸が超高速で私の頭部を目がけて空中を疾走してくる……汚泥を操る魔法だけじゃなく、闇属性の魔法すら操るのか。
影の矢は私の刀による受け流しで背後の木へと衝突し、太い幹を粉砕する。かなり威力が高いな……体に当たったら大穴が開きそうな威力に思える。
志狼さんがその間隙をぬって、一気にララインサル付近にいた泥人形を粉砕していく……前に見た時よりも野性味に溢れた印象で、その太い腕を振るっている。
「はあああああっ!」
私はその背後から一気にララインサルへと接近すると、横薙ぎの一閃を繰り出す。彼の胴が両断されるがやはりこのタイミングでは入れ替えができてしまうようで、泥となって崩れ落ちると少し離れた場所へと出現してしまう。
それを見た志狼さんが不思議そうな顔を浮かべる……あ、そうか彼に説明を全くしていない。私は小声でインカムへと状況を簡単に伝える。
「……そ、そうか……それは厄介だな……でも対処法があるんだね」
「はい、おそらくですが視界に入った段階で入れ替えの条件を満たすのだと思います。でも入れ替え直後であれば……」
私と志狼さんは軽く目を合わせて黙って頷く。最低限伝えたいことは伝えた、あとは即席で連携できるかどうかだが……アマラと戦った時も彼はきちんと合わせてくれただから大丈夫だ。
刀を構えて、再び現れたララインサルへと対峙する……彼は私の顔を見ると歪んだ笑みを見せて笑い、こめかみに指をぐりぐりと当てて大きく開いた口から舌を出して挑発を繰り返してくる。
「剣聖……お前の心を折ってから、小鬼族の繁殖相手にしてやるよ、下等生物に犯される屈辱を味わって堕ちるといい」
「ゲスが……絶対にあなたを斬ります。私の前に現れたことを後悔させてやりますよ」
私は彼に向かって刀を突きつける……そう、次の技で私はララインサルを斬る……いや正直言えば体力的にも大技を繰り出せるのはあと少しだけなのだ。
思えばララインサルと初めて会ったのは汲沢組のビルだったか……あの時は敵だとも思っていなかったが、組長の始末などでその性格の悪さというか邪悪さを感じたのだったっけ。
私は腰を沈めた姿勢で全身の筋肉に力を込める……それを見た志狼さんが矢のように飛び出し、泥人形を粉砕していく……相変わらず素晴らしい突進能力だ。
「うおおおおおっ!」
「……馬鹿の一つ覚えみたいに……いいぜ獣人、お前から殺してやるよ!!」
ララインサルの足元から汚泥の槍を複数射出しつつ、志狼さんとの距離感を離していくララインサル。
志狼さんは空中で器用に姿勢を変化させながら次々と迫る汚泥の槍をかわすと、ララインサルの背後へと着地する。
思いもしなかったのか、ララインサルは志狼さんの攻撃を受け、泥人形と入れ替えるために私から視線を外した。
「無駄だって……お前の攻撃なんか通用しない……!」
「……そうかよ」
志狼さんが放つ全力の拳がララインサルの顔面を捉える……だがその攻撃と同時にララインサルの体は汚泥となって崩れ落ちていく。全て破壊するものの声が心の中に響き渡る。
『灯! 走れ! お前の力を見せてやるのだ! 我契約者よ!』
それと同時に……隆起していく汚泥、ララインサルが実体化していく。それと同時に私が全力で走り出す……刀を軽く振るうと私は脚に力をこめて私は跳んだ。
私の接近に気がついたのだろう……実体化を進めるララインサルは視界内に私を入れようと首を動かす。
「く、クソがああっ!」
「ミカガミ流絶技……無尽」
その言葉と同時にララインサルへと迫る私が一気に複数人に分裂する……多重分身攻撃である無尽。
複数に分裂した私がララインサルの視覚に捉えられないスピードで、上から背後から下から、そして左右全ての方向からほぼ同時に彼を切り裂いていく。
そしてその斬撃はほんの一瞬の間に、無限とも思える時間に感じる刹那の瞬間に全てが……ララインサルの体へと刻み込まれる。
『まさに究極の斬撃……さすが我契約者だ、お前ならば……』
まさに刹那の瞬間……まるで全ての斬撃がその瞬間に凝縮したかのような多重分身攻撃によりララインサルの全身が切り刻まれ、血を噴き出してよろめく。
「う、うぁあ……ば、馬鹿な……見たはずなの……に」
「かはっ……はあっ……はあっ……」
私は滑るように地面へと着地するが、そこで膝をつく……だめだ体力の限界だ。脚に力が入らない……なんとか震える両手で刀を地面へと突き立てて倒れることを拒否する。
私はぐちゃり、と地面へと崩れ落ちるララインサルを見ながら軽く指を突きつけて、荒い息のままだが言葉を投げかける。
「……お嬢様を舐めるんじゃないわよ……このクソ闇妖精族……が……ッ!」
_(:3 」∠)_ ララインサル、もう少しキャラを掘り下げたかったのですが力およばず……
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