第一七六話 煉獄の花(ヴルトゥーム) 〇四
『大丈夫だ、お前にはあいつにはないものがある……それはお前にとって大事な仲間だ』
仲間? 四條さんは今森に火をつけて回っている気がするし、志狼さんとエツィオさんは今どこにいるかわからない。最後には私を助けに、彼らが必ず来ると信じて戦えってことか?
でも、そうだね……前世のノエルもそうやって勇者パーティの仲間を信じて戦ったんだろうし、私も今の仲間を信じて最後まで足掻くしかないか。
「私は仲間を信じるわ、この世界を守る……大切な仲間を」
「仲間を信じる? くだらないな……どこまで行っても人は一人きりさ、死ぬ時だって一人でしかないよ」
ララインサルはそれまで余裕に満ちた笑みを浮かべていたのに、急に真顔になって私の言葉を否定する。なんだ?急にシリアスな顔になったな。
自分がどんな表情をしているのか気がついたのか、少しだけ指で鼻を擦るような仕草の後、再びぐにゃりとした笑みを浮かべる。
「クハッ……本当に笑わせてくれるじゃない……ボクの手品を理解してないキミが僕を倒せるわけないじゃん」
「……私の攻撃が当たる寸前に体を入れ替えてるんでしょ?」
図星だったようでララインサルは少しだけ驚いたように目を開き、心なしか笑みの中にも緊張の色が見て取れる。ふふーん、私だってちゃんとこういうサプライズができるんだもんね。
思わずドヤ顔で話してしまったものの、正直言えば私の攻撃を彼が体を入れ替える前に当てる自信はほとんどない。
「クフフ……なんだ、わかってるのにどうしようもないって感じなのかな? 前言撤回だ、キミは危険因子だ」
『……それ、我の助言……しどい……』
全て破壊するものの声が聞こえるが無視無視、ただこれを話すことでララインサルの警戒心が上がる。だが、それすらも打ち破ることができなければ、おそらくこの強敵を倒すことは難しいだろうな。
私は刀を軽く振るうと、それまで以上の速度で一気に突進して泥人形を切り裂いていく。この泥人形、正直言えばほぼ数だけで、脅威にはなりにくい。
ただ、あまりに数が多い……私が彼に近づく前に相当な数の泥人形を切り伏せる必要があり、それには結構な時間がかかる。
武器を持った相手を数で押し潰して、そしてその合間に……私が刀で音も無く飛んできた漆黒の暗黒の矢を弾き飛ばすと、ララインサルは軽く舌打ちをする。ある意味完成されているな、このスタイル。
「……力押しで無理やりか……随分野蛮だな、お嬢様ァ!」
「うおおおおおっ!」
私の刀がララインサルを捉える……が、刀が食い込んだ瞬間に笑みを浮かべたままのララインサルがどろりと汚泥へと姿を変える。
まだ遅い……単純に入れ替えが早いだけじゃなくて、何かもう一つ仕掛けがある気がする……なんだ? それは一体なんだ? ぎりっと歯を鳴らす私を見て、少し離れた場所へと姿を現したララインサルがこちらを見てくすくす笑う。
「おお……ああ……た、たすけ……てぇ……」
「う、うぐぅ……っ」
考える暇もなく、私が泥人形に囲まれてしまい私は刀を振るって膨大な量の泥人形の群れを切り伏せていく。正直言えばこの泥人形たちが崩れる瞬間に見せる悲しみ、いや安堵の表情を見せられるたびに吐きそうになる。
目の前の泥人形を叩き切った私は、背後から迫る別の人形を軽く振るった裏拳で粉砕すると、そのまま一気にララインサルの元へと駆け出す。
「……死の沼地」
「それはもう見たッ!」
ララインサルの前に前にも見せられた沼地を作り出す魔法が放たれる……あの時私はこの魔法で捕まって、アンブロシオの横槍が入らなければ死んでいた。
だが、ここは森林だ……前のような何もない場所ではないのだ……私は地面を軽く蹴ると、木の幹や枝を使って空中を駆けていく。
「クハッ! やってくれるよ! 暗黒の弾幕ッ!」
ララインサルの掌から漆黒の矢がまるで弾幕のように射出される……この魔法は前世で使われていた魔法の弾幕に近いな。一本一本の弾丸はそれほどの威力はない、と言っても当たりどころが悪ければ人間の頭なんか吹き飛ばすくらいの力はある。
私は放たれた暗黒の弾幕を刀で叩き落としながら、そのまま一気にララインサルの前へと着地する。
「ミカガミ流……泡沫ッ!」
私の横薙ぎの一閃……泡沫はララインサルの首を簡単に切断するが、やはりそれではまだ遅いらしい。泥となって崩れ落ちると、再び少し離れた場所へと泥が隆起していく。
そこだっ! 私は体を回転させるように捻ると、唯一私が繰り出せる遠距離攻撃を放つ。この技も前と比べれば全然高速で打ち出せるようになったのだ。
「絶技……空蝉ィイッ!」
剣気……刀を振るって放たれる衝撃波は、魔法使いの攻撃魔法にも勝るとも劣らない、と自負している。高速で迫る衝撃波は使い手から真っ直ぐに飛翔していき、その進路上にある物体を切り裂いていく。
泥人形を切り裂き、隆起した泥がララインサルとなり、私へと振り向く瞬間に衝撃波が彼に到達する……入れ替わるのか? と思ったがララインサルはその衝撃波を片手で展開した簡易的な防御魔法である魔法の盾を展開して相殺する。バシィ! という衝突音を上げて衝撃波が霧散する……。
「ったく……随分お転婆なお嬢様だ……」
いや……相殺した?! どういうことだ? 先ほどまでのように泥と体を入れ替えれば良いのに、今回に限って防御魔法を展開しただと?
ララインサルはくすくす笑いながら、私を見る。ん? 私を見ている? 心のどこかに引っかかるものを感じて私は前に出るのを躊躇する。なんだこの違和感は……いや、私は何かに気がついたのか? 何かがおかしい。
「来ないのかい? ならこっちからいこうじゃないか……汚泥の槍」
ララインサルの足元から、まるで槍のような形をした汚泥が何本も一気に射出される……泥人形を粉砕しながら迫る汚泥の槍を必死に避けながら、私は先ほどの違和感を考える。
どうしてララインサルは空蝉を防御魔法で弾いたんだ? どうしてララインサルは改めて私を見たんだ? この違和感が全ての手品のカラクリなのでは?
『確かに……神業のように体の入れ替えを行えるのであれば、空蝉は魔法で防ぐ必要がない……それでも防がなければいけない事情がある……?』
入れ替え後のララインサルは私を……見ていなかった? つまり入れ替え前に私を視界に入れた状態でなければ体を入れ替えることができない? 先ほどの空蝉は彼が入れ替え直後で私を見ていなかったから防ぐしかなかった? だからわざわざ魔法の盾を使ったのか?
『……どうやら、正解を引き当てたようだな……発動条件を限定することで効果の発動を超高速化する……驚いたな、凄まじい術者だ』
私は連続で迫る汚泥の槍を避けながら、必死に相手との距離を保つ……カラクリがわかったとはいえ、先ほどの攻撃ではまだまだ遅い。
きっかけが欲しい……相手に認知される間も無く切り裂ける無尽を出すためのきっかけが。疲労も凄まじい……正直言えば倒れてしまいそうなくらいなのに。
「そこ、着地点だよね……ウフフ」
『灯! 気を抜くな!』
しまった……ララインサルは汚泥の槍の射出タイミングを少しだけズラすと、私の着地と同時に直撃するタイミングで撃ち出していた。
汚泥の槍が高速で迫る……私は空中に身を踊らせている、着地と同時に魔法が私の体に直撃してしまう……目の前に迫る絶対的な死。
何度も何度も夢で前世のノエルが死ぬ夢を見た、あまりに怖くて何度も泣いてしまうくらい、あの力が入らなくなっていく感覚は忘れたくても忘れられない。背中に凄まじい恐怖が走る。
「……いや……死にたく、死にたくない……」
「うぉおおおっ! 粉砕!」
着地の瞬間、私の目の前に大きな影が立ち塞がると汚泥の槍に向かって文字通り吠えた。魔法はその咆哮によって相殺される。
驚いて見上げた私の目に映る銀色の毛皮を見て少しだけ涙がこぼれそうになる……大きな背中、いつだって美しいその毛並み、以前よりもほんの少しだけ大きく成長した体。
昔憧れた美しいその男性、いや最強の狼獣人が私を庇って立っている。
「……志狼さん……」
「すまない、遅くなってしまって……無事でよかった」
私は軽く目を拭うと、首を振って立ち上がる。彼の優しい榛色の目が私を見つめる……ああ、また守られてしまった。前に彼に守られてから、ずっとずっと強くなったはずの私なのに。私の心に温かい感情が、嬉しいという気持ちが溢れる……先輩に感じる感情とは別に、志狼さんに感じる気持ち。
「あ、ありがとうございます……また守られてしまいました……」
「いつだって守るさ、君が望むなら。君は僕にとって妹みたいなものなのだから」
志狼さんは凛々しい狼の顔で軽くニヤリと笑い、すぐにララインサルへと向き直る。い、妹……そうか妹か……少しだけ残念な気分を感じつつも私は彼の横へと並ぶと、こちらを見て笑みを浮かべる闇妖精族へと刀を向ける。これで私にとって、有利な状況を作り出せる仲間が増える、もう彼に好きなようにはやらせない。
次は絶対に勝つ……私と志狼さんで、彼を倒すのだ。
「……ララインサル……私は志狼さん、仲間と共にあの煉獄の花を破壊します。覚悟なさい」
_(:3 」∠)_ 絶対危ない場面で美味しいところ持っていくマン登場
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