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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一七〇話 裏切り者(トレイター)

「貞隆様……武運をお祈りいたしております……我儘は申し上げられないですが……お願いですから、無事に戻ってきてください……」


 戦準備を整えていた貞隆の背後で、震えるような声で女性が口を開く。貞隆は振り返ると美しい妻の顔を見つめて、苦笑する。

 妻の名はお藤……夫婦(めおと)となってたった一年、武士の妻として嫁いできた彼女は甲斐甲斐しく貞隆の世話をしてくれた。貞隆も美しい妻を愛し、苦しいながらも二人で力を合わせてこの村を守ってきていた。

 だが、今回は違うかもしれない……貞隆が守ってきた村は今炎に包まれ破壊と略奪、そして殺戮が始まっている。首から下げている祖先から受け継がれた勾玉を手で軽く弄ると、紐を引きちぎってお藤へと渡す。

「……すまんな……お前は無事に逃げ延びてほしい、義父上(ちちうえ)のところへ逃げよ、私も後で追いかける」


 受け取った勾玉を手に不安そうな表情のお藤を見つめ、その肩に軽く手を当てると貞隆はにっこりと笑う。これは虚勢だ……おそらく自分は死ぬだろう。だが彼女のお腹には二人の愛の結晶が宿っている。

 自分がいなくなってもお藤は強く、そして優しく子供を見守ってくれるはずだ。貞隆は妻の傍らに控えている使用人に声をかけると戸を開けて外へと歩き出した。

「行ってくる、妻を頼むぞ。早くこの場を離れるのだ。なあに少しでも時間が稼げれば義父上(ちちうえ)の援軍もこよう……」


 ──貞隆は空を見上げている、今宵も満月であったか。口の中に自らの血の味と、鉄臭い匂いを感じる。戦は負けた……村人をなんとか逃しながら、必死に少数の家臣と共に戦ったが一人、また一人と倒れていった。

 最後まで争った貞隆だったが敵の刃に倒れ、今空を見上げている。体はもう動かない……視界に敵の、村を襲った武士……陰元の馬鹿にしたかのような笑みが現れる。

「……お前の味方は間に合わなんだな、貞隆……いや、見捨てられたな」


「……義父上(ちちうえ)……?」

 悔しいかな今の貞隆には彼に突き出す刃も力も残されていない。そして次に目に入ってきた人物の顔を見て、貞隆は血が逆流するかのような怒りを感じた。

 お藤の父親であり、義父が彼の顔を気まずそうな表情で覗き込んでいる……どういうことだ? まさか裏切られたというのか?

「すまん……こうするしかなかった……」


「貞隆……お前は騙されたのだよ、長年邪魔だったお前を殺し、俺がお藤を可愛がってやる」

 陰元の嘲笑するような笑いがあたりに響く……そうか、元々お藤に言い寄っていた男だ、策を弄して義父上(ちちうえ)を巻き込んででもお藤を手に入れようとしたということか。

 怒りで心が真っ黒に塗りつぶされていく……義父への怒り、そして彼から妻を奪い取るためだけに無辜の領民を虐殺した陰元への恨みが沸々と煮えたぎる。

「それだけの、こと……で領民を……許さんぞ……末代まで呪ってやろうぞ……」


 だが陰元はいやらしい笑みを浮かべたまま、倒れて涙を流しながら身悶える貞隆を見下ろすと、次の瞬間彼の胸に刀を突き立てる。

 熱い、凄まじく熱い何かが貞隆の体に突き刺さる感触……そして次第に体が寒く、何かが失われていくような冷たさを感じる。視界がだんだん暗く、そして光が失われていく。

「……さよならだ」


 だがしかし貞隆の怒りはそれでも収まるところを知らない……彼は闇の中でひたすらに悲しみ、煮えたぎるような憤怒を感じ続けていた。

 永遠に続く暗闇の中、自らの怒りが強く周りに影響を与えていることには早くから気がついていた。自分が死んでいるのか、そうではないかはわからなかったが、ただ動くことはできずひたすらに何かを呪っていた。

 次第にぼんやりとだが意識がはっきりしていった……自らが人とは少し違う存在になっていたこと、だが外界には干渉できずただ見守るだけの存在となっていたことは理解できた。


 その場から動くことはできなかったが、貞隆は自らに祈りを捧げる人たちを感じていた。そして口々に彼を『鬼貞様』と呼んで崇めている、ということに気がついた。

 鬼……鬼か……そうか戦に負け、人に裏切られた私を鬼と呼ぶのか……それもまた仕方のないことなのだろう。そして時が経つにつれて貞隆改め鬼貞は自分の意識が次第に変わっていくことに気がついた。

 人ではない、それよりもはるかに力のある存在へ、それが神というのであれば近かったかもしれない、鬼と言われたらそうかもしれない。


 鬼貞は本当の意味で鬼として人々の祈りや信仰により変質していた。人間の魂ではなくもっと高次元の何かに、一時期は自らを祀る神社の周りの出来事を事細かく理解し、守護し、自分を崇めるものへ祝福を授けることすら可能だった。

 だが時代の流れは残酷だった……次第に崇めるものが減り、鬼貞は力を失っていくのを感じると、既に自らが必要とされていない存在なのだと理解することができた。あの日、褐色の肌をした不気味な男に声をかけられるまでは。

「……ねえ、お話ししようよ。鬼ってさどんな姿をしているのかな? 待っててね」




「……なぜ勝者が泣く……聞いたことがない」

 再び満月の夜空が視界に広がる……だが前と違うのは彼を見下ろすその銀髪の若い男性の顔には、悲しみの表情が浮かんでいることだろうか。

 目の前にいる男性……そうか、彼があの獣人(ライカンスロープ)か、随分と細くて小さいな……手を伸ばそうとするが、鬼貞の体は動かない。

「もう、動けないと思います……鬼貞さん……」


「ああ、動けんな。この仮初の体の中心にあった勾玉がワシの本体だったらしい……ヒビでも入ったのだろうさ」

 肉体の再生はなされていない……次第に崩壊をし始めているのすらわかる。体の腹部から大きく抉り取られたかのような穴が空いているのがわかる。

 昔と違いなぜか心が晴れ渡っている……悔しくすらない、全力でぶつかって、目の前の狛江という男と拳で十分語り合った気がする。それが自分の望みだったかのように。


「長い、長い時間ワシはずっと人を呪った、ワシを殺した武士を呪った、裏切り者を呪った、だが忘れられない女がいた」

 鬼貞は苦笑しながらもやっと思い出した。お藤の面影を藤乃に感じていたことを、どうしてあの娘と一緒にいたのかを思い出した。あの子は似ていたのか、どこか面影が。

 だからなんとなく見過ごせないと感じていたのか、遠い遠いずっと昔に愛した女性の子孫かもしれないから、守らねばいけないと思っていたのか。


「藤乃を止めてやってくれ……あの子を死なせないでほしい、あれは家族を盾に脅されているだけなのだ」

 思いもかけない鬼貞の言葉に、狛江はギョッとした顔で彼の顔を見つめる。だが鬼貞の顔を見つめた狛江は、黙って頷くと再び目の前で死にゆく鬼を見ている。

 まるで憑き物でも落ちたかのように優しい表情の鬼貞を見て、狛江はそっと彼の手を握る。その意味が肯定と理解したのか鬼貞は安心したように口を歪める。

 まるで灰が風に飛ばされていくかのように、鬼貞の体は崩壊し次第にその体を消滅させていく。最後に鬼貞は狛江につぶやいた。

「……楽しかった、次は心置きなくあの世で続きを、待ってるぞ」




「……逝ったか鬼貞」

 社家間は遠くにいたはずの鬼貞の気配が消えたことで、彼が死んだことを察知した。藤乃が悲しむだろうな……まるで父親かのように鬼貞に懐いていた彼女だ。

 物思いに耽る間も無く、彼の周りで打ち込まれた銃弾が勢いを失って地面へと落下していくが、思っていたよりも姿が見えない相手からの攻撃に神経をすり減らされている。


 四條 心葉……見た目から全く想像がつかないが、恐ろしく射撃が正確だ。機械のようといえば語弊があるかもしれないが、そうとしか思えないレベルの攻撃を繰り出している。

 少し離れた場所で新居 灯と立川 藤乃が刀を交わしているがあのままいくとおそらく決着がつかない、何度かの手合わせで社家間は気がついたが、藤乃と四條が戦えば四條に軍配が上がるはずだ。

 そして社家間と新居では新居の方が有利……前回簡単に取り押さえたはずの彼女が術式を跳ね返して立ち上がったことで、相性が悪いと感じた。


「だから引き剥がしたつもりなんだけどな……」

 再び懐から羽を何枚か引き抜くと再び放るが、その羽が市場に到達する前に銃弾と相殺して破壊されていく。なんという正確無比な射撃。そして弓矢では不可能なレベルの速射。

 慌てて彼も木陰に身を隠しつつ相手の出方を伺う……これでは一方的に削られるだけだ。余裕を持って正面から叩き潰すつもりだったが、予定が狂った。


「……お互い決め手に欠けますね」

 姿は見えないが、四條の声が聞こえる。まあ確かにその通りではあるな、なかなか鋭い。感の良い子は嫌いではないし、美しい女性は愛でるものだ。だから不思議と怒りすら湧かない。

 こういう場でなければ楽しく話でもしていたいのだがな……どうやってとどめを指すか。

「やるしかないな」


 社家間は意を決して木陰から姿を現す……数発の銃弾が飛んでくるが、彼にぶつかる前に勢いを失っていく。彼の周囲を守っている風は先ほどから何度も銃弾の勢いを殺しているが、実際には相当に疲弊してしまっている。限界は近い……それがわかっているが故に早めに決着をつけなければ、藤乃を助けることができない。

 相手は手練れだが、一気に畳み掛けてしまおう。そして藤乃に加勢してあの剣聖(ソードマスター)を倒し、契約を全うするのだ。


「我が羽は舞ひ上がりて、敵を倒す……そはひとへに竜巻の如く」

 社家間の背後から複数の鴉の羽が舞い上がり、辺り一面を切り裂いていく。しかし次の瞬間、社家間の目に恐ろしい光景が映る……四條 心葉が藤乃と新居の戦っている場所に向かって全速力で駆け出したのだ。

 まさか……こちらの思考を読んで? 慌てて彼女に向かって羽を投擲しようとするが、数発のスモークグレネードが爆発し彼女の姿を消していく。

 社家間は焦りのあまり、白い煙に包まれた場所を走って藤乃の元へと急ぐ。


「や、やられた……同じことを、同じことを考えていたのか!」

_(:3 」∠)_ 追放系に近い話を書こうとしてうまくいかず練習も兼ねてるw


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