第一五九話 百足の神様(センティピード)
「○▲X……□$#▷」
巨大な百足が小さな山の上をゆるりと動いている……その様子を見ながら、ニコニコと笑う存在が一人。褐色の肌に翠玉の瞳を持つ闇妖精族の男性。
ララインサル……魔王の部下の中でも強大な力を持つ最強の側近……その姿が東京都下の小さな山の前にある。
「そーだねえ……かなり力は戻ったと思うんだけど、どうかな?」
「▽〇〇……%&〜>*」
大百足は月明かりに照らされながら、ララインサルの問いかけに答える。人間には全く理解のできない言語で喋るが……ララインサルはその言葉に頷くと、歪んだ笑みを浮かべて大百足へとそっと手を差し伸べる。大百足はそんな彼の動作を見つつ、カチカチと硬質な音を立てて巨大な顎を鳴らしている。付近の山が鳴動するくらいの圧力を持って、大百足はララインサルの周りを舞うように蠢く。
「わかってるよ、うーん……では君にお願いをしようか、百足の神様」
「<>@……=)#&」
大百足は納得したかのように、ゆっくりとその姿を待機と同化させるように薄く……そして半透明の姿へと変化させていく。そんな怪物の姿を見て、満足したかのように笑みを浮かべるとララインサルは微笑む。
百足の神様は非常に僕達に好意的だ……その元となるものは何か? 憎しみか絶望か、心までは覗けていないからわからないけど……そういえば複雑な魂を持つあの女はどうなっただろうか?
あの剣聖……女性だけど圧倒的な戦闘能力を持つ彼女を排除しなければ、魔王様の計画に支障が出るのではないか? と最近は思うようになった。
荒野の魔女の時も、テオーデリヒの時もそうだ……彼女は危ないところで命を拾い、さらに強力な戦士として覚醒を続けている。このまま進むと彼女は本当に手がつけられない化け物へと進化するのではないだろうか?
テオーデリヒを退けたあの技……あれは凄まじかった。あれを出されたら、対峙した時に負けたかもしれないね……出せたら、だけど。
魔王様は彼女が強力な力を手に入れることを楽しんでおられるようだが……臣下としてはあまり楽しいものではないのだ。
そういえば……一部の異邦者が連絡が取れなくなっている、それも気がかりだ。ララインサルは少しだけ歪んだ笑みを浮かべて、月を見上げて笑う。
「心配事だらけだよ、本当に……いつの日も、いつの時代も、どの世界でも……」
「んふふー! 私のSSちゃん……」
私は今猛烈に感動している……郊外の丘にある公園の駐車場で、私は今バイクを目の前に笑顔を隠しきれない……だってー、ずっと欲しかったんだもん。先ほど納車されて、嬉しさのあまり私は制服のまま走り回ってきて、この公園の駐車場で一休みしているところなのだ。
取り回しもいいし、運動性能に優れているのか反応も素直で、初日だというのに結構乗り回してしまった。
ちなみにこのバイクは中型自動二輪の免許を取得してようやく、お父様とお母様を説得して私が頑張って貯めたバイト代にて購入したものだ。
私の取得できた免許は中型のため、今回購入したバイクは排気量は四〇〇CCクラス。お店のおじさんが『女性が乗るんなら……単気筒が良いぞ』と忠告してくれて買ったものだが、思いのほか私はこのバイクを気に入っている。
「ああ……なんて美しいの……このカウルの造形がもうね……」
シンプルな造形のバイクもいいんだけどさ……この派手目のカラーリングをしたカウルがね。私の前世であるノエルさんの魂をビンビンに刺激するのだ。だって前世は男の子なんだもん。
ちょっと憧れる造形というかそういうのがあるわけで、幼少期の頃男の子が持っている玩具に興味を持って欲しがった私のことをお母様は卒倒しそうな目で見てたなあ。
単純にどういう構造だったのか知りたかった、と言い訳を重ねたけど、今では正直に言います。お母様、あの玩具はとてもいい造形でしたよ、角とか羽とか流線形で、グフフ。
前世では剣士として生きていたものの、実は乗馬は冒険者時代から一つの趣味としてそれなりの腕前だった。勇者キリアンが飛竜を乗りこなす傍ら、ノエルは乗馬を嗜んでいた。
スピードの出る乗り物というと馬とか竜とか、前世の世界ではそういうものしかなかったからだが、とにかく彼は草原を馬でかけるのが大好きだった。ついでに貴族のお嬢様を乗せて人のいないところへと赴くのが別の意味でも大好きだった。
そして博打好きの連中から乗馬競争でお金を巻き上げるのも大好きだった……ああ、なんて前世はクズなんだろう。
そんな前世が影響してか、私はバイクというものにめちゃくちゃ憧れを持っていた。車も戦車を操るのと似ていて興味はあるのだけど、今の年齢だとバイクしか持てないというので一旦諦めている。でも今私の前には……このバイクちゃんがあるのだ、んふふふ。
おっとこんなところに吹き残しが……私は懐からタオルを取り出して、拭き残しを丁寧に拭っていく。前世でも馬を洗ってピカピカにしてあげるのはとても楽しかった思い出があるのだし。
「……意外ですね、男性的というかなんというか……」
「え? し、四條……さん……」
いきなり後ろから話しかけられて私は驚いて振り向くが、そこには呆れたような目をしている四條さんが立っていた。えええええ?! なんでこの人いるのシジョウナンデ!?
びっくりした私はSSちゃんに軽くぶつかり、横倒しになりそうなのを咄嗟に押さえる……だ、大丈夫……たった一五五キログラムしかないんだぞ、こいつは。
だが、地球の重力は非情である……私の努力も虚しく、登校時に使っている皮靴が地面の砂で少しずつ滑っていき、ゆっくりと地面へと近づいていく私のSS。
うわああああああああ! やだあああああ! 初日はコケるのに注意しろとお店のおじさんから散々言われているのにいいいいぃ!
必死にプルプル震えている私を見て、ため息をついた四條さんはそっとバイクを反対側から抑えてくれて、私は愛車を初日にして傷物にするのをなんとか免れる。
ホッと息を吐いてぐったりした私をなんの感情も籠らない目で見ながら、四條さんは背中に背負っていた袋から新品のフルフェイスヘルメットを取り出す。
「……仕事の依頼が来てましたので伝えに来たんです。ついでなのでKoRJまで乗せていってください」
「ということで、今回はこのモニターに写っている巨大な百足を退治してほしい」
八王子さんがモニターに映る映像を手元の端末で操作しながら説明していく。私と四條さんはあのあと制服姿にフルフェイスという出立でタンデムでKoRJへと到着した。
道ゆく人が私たちを見て驚いたような表情を浮かべていたけど……そりゃそうだろうな。フルフェイスとはいえ制服姿の女子高生がバイクにタンデムで走ってりゃ驚くわな。ちゃんとスカートが捲り上がらないように二人ともお尻でスカートを押さえていたので、別の意味での事故も防いできたけどね。
「百足ですか……」
それはそうと、本当に百足だ。しかも大きさが半端じゃねえ。山くらいのサイズがあるんじゃないか? こいつは……。前世で百足というと、大百足が有名だったが、あれはせいぜい数メートルだったのに。
まあそれでも大百足は人を食料にするから地方の村とかだと、冒険者による対応が基本だったな。
「このサイズだとなかなか刀で斬りつけるというのは難しいかもしれんな」
日本だけでなく、アジア圏において大百足の伝説というのは事欠かない。伝説では蛇や竜と敵対する怪物の話が多く存在しており、武士による大百足の退治というのはおとぎ話の中でもよく書かれている題材だ。
人間の唾液が苦手とかだっけ……で、弓で射落とされて絶命するとかなんとかそんな話だった気がする。
正直にいうなら、一番苦手な部類の虫だ。カサカサ音を立てながら動き回るし、前世のそれは猛毒を持っていて噛まれると、案外あっさり人間は絶命するといわれ実際に噛まれたことが元で死んでしまう冒険者なども多かった。
「……四條さんが一緒にいるのはそういうことですか?」
私が八王子さんに尋ねると、彼は黙って頷く。つまりなんらかの形で四條さんの射撃を中心に、彼女の周りを私が防衛する、と。四條さんは接近戦も強いが、基本的には武器は射撃に偏っており、接近戦では軍用ナイフを使ったりしているので、今回の敵に対してはそれでは心もとない。
八王子さんは端末を操作すると、モニターに作戦計画を表示していく……。
「今回敵のサイズがあまりに巨大でな……作戦が必要と考えた。そこで……だ」
モニターに映し出される作戦計画は……私がバイクを運転して、後ろに四條さんを乗せて、高速道路上を大百足に追わせて射撃で倒すというものだ。
は、はぁ? なんかゲームみたいな作戦だな……それとそのバイクというのはどこにあるんだ。
「サイズが巨大すぎてな、普通に山で戦っても勝ち目がないと判断した、当初はヘリコプターから射撃をするというのも考えたのだが、飛行ルートによっては市街地に影響が出てしまう」
ああ……つまり高速道路上を追わせればある程度直線が続くし、百足の進行ルートも想定がしやすい。さらに修復も道路とその関連の建造物だけで済む……ということか。でもその時に使うバイクってのはどこにあるんだ?
私の疑問を解消するかのように、八王子さんは端末で何かの画像を呼び出す……それを見て私が目を見開いた。
「君が台東くんに散々言ってたろ、なんだ、その……ゲームに出てくるこういうの乗りたいって……全く……君らの考えはよくわからんよ」
_(:3 」∠)_ 読み仮名をセンチピードとセンティピードで悩んで後者にw
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











