第一五三話 望まない仲介(マッチメイキング)
「あかりん、ずっとスマホ見てるよね。しかも少し顔赤いし……青梅先輩からのメッセージでしょ?」
「え? あ、うー? うん……って、普通のやりとりだよ、普通の!」
スマートフォンの画面をじっと見ながら歩いていた私にミカちゃんが意地悪そうな顔で話しかけてくる。画面に表示されている先輩との昨晩のやりとりを見直していた私は慌てて否定する。
先日の任務後から、先輩とのメッセージのやりとりを再開した……先輩もそれまで返信しなかったことを謝ってくれて、メッセージを見たらできる限り返信してくれると約束をしてくれた。
で……その日からちょこちょこメッセージは帰ってくるようになった、それが嬉しい……それまで抱えていた漠然とした不安感は消えて、なんていうの? 喜び? のような気持ちをずっと感じている。
そんな中で私は学校の通学中もスマートフォンの画面をずっと確認しちゃっているわけなのだ。
「聞いてるよぉ? 青梅先輩もあかりんにメッセージ返してるよって話してたもん」
「……なんでミカちゃんにはそういうの筒抜けなの……」
私のぼやきにミカちゃんはんふふー! と笑いながら指を立ててチッチッと左右に振る……。まあ勉強会の休憩中に先輩とミカちゃんは色々話をしているようで、先輩のメッセージにも『ミカちゃんが』『ミカちゃんから』『ミカちゃんより』という枕詞がつくようになっている。
「私はあかりんと青梅先輩の恋のキューピッドを目指しているのだよ」
「……監視されてるみたいで嬉しくないんだけど……」
ジト目でミカちゃんを見るけど、彼女は嬉しそうな顔で歩いており、まあ何を言っても無駄だろうなと私は判断してため息をつく。
ミカちゃんは結構前から私を誰かとくっつけようとして色々画策していたからなあ。先輩と私がそれなりに距離が近くなっていった際には本当に喜んでたからなあ。私の母親のような気分なんだ、と話していた頃もあったか。
突然私のスマートフォンが振動して着信が入る……ん? 画面に表示されている発信元はお母様だ。なんだろう? 電話に出るとちょっと慌てた様子のお母様の声が聞こえる。
「灯? ちょっといいかしら、実は……困ったことになっていて……」
「……あの……ええと……新居 灯です。初めまして」
私は今作り笑いを浮かべながら、目の前で笑顔を浮かべている若い男性の向き合って座っている。先日お母様より急に電話が来た要件というのが、今ここで起きている状況だ。
男性は二〇代後半だろうか? とても人の良さそうな顔でニコニコ笑顔を浮かべており、着ているスーツもイタリア製のオーダーメイドなのだろう、体型にきちんと合わせられた立派なものだ。
彼の隣にはこれまた高級そうな着物を着用した上品な中年の女性が座っており、やはり私の顔を見てニコニコ笑って私に話しかける。
「……今回のお話、快く受けてくださって嬉しいですわ、新居さん」
「え、ええ……国分寺さんのお話ですから……」
私の横でお母様がかなり困ったなーという苦笑いで、先方……国分寺 鏡花夫人に答えている。新居財閥……私の家は戦前から続く家柄ではあるが、基本的に財閥グループの会社や団体の運営はお父様はほとんど決済以外はタッチしていない。
お母様は自分で服飾デザイナーとして独立しているが、我が家の営利活動で得られた利益などは新しい事業の拡大などに使用してしまっているためそれほど裕福な生活をしているわけではない。
で、今何が起きているか? というと目の前に座っている国分寺グループのご夫人が、以前お母様の新作発表会にモデルとして駆り出された私を見たらしく、ぜひ自分の息子とお見合いを、と申し込んできたらしい。
私高校生だぞ? 見合いとか早すぎるだろ! と思い最初は断る気満々だったんだが、お母様は国分寺グループに日頃本当にお世話になっているらしく、断れないから出るだけ出てくれと泣きつかれた。
『お願いよ灯! 今回だけだから! ね?』
『……前回同じこと言いませんでしたっけ?』
『それでね、これ新しいデザインの服なんだけどこれ着ていったらいいんじゃないかしら?』
『……い、いや行かないって言ってるじゃないですか?』
『ほーら、合わせてみたら可愛いじゃない!』
『……え? あ、うん可愛いですね』
『じゃあ当日はこれで!』
「こんなに美しいお嬢さんがいるとは……驚きました」
で、今このような状況になってるというわけだ……目の前にいる私の見合い相手は国分寺 博樹さん……そのうち国分寺グループ総裁の席が用意されている御曹司だ。
一流大学を卒業し、現在はグループではないが大手の化学薬品メーカーの開発部に所属しているそうで、予習のために先方から彼の華麗なプロフィールが送られてきていた。
写真を見た時も感じたが、実際の彼はかなり誠実そうな男性で好感の持てる人という印象だな。
「い、いえ……私なんかまだまだですよ」
ど、どうしようかな……正直言えば見合いとか何考えてんだよ! と思っている次第ではあるが、実は幼少期から結構な回数見合い話は持ちかけられていたそうだ。
新居家を継ぐのは長男であるターくんだし、私は長女とはいえ家でやってる会社に行くかどうかもわからない、お母様のブランドを引き継げと言われても服飾デザインなんかやったこともないわけで、素人同然だ。
ということで、ぜひ後継の嫁に! という声は多かったようで、最初はお母様も断っていたそうだが、途中から面倒になって私にどうするか聞いてきていた……全部断ってたけど。
「すいませんねえ……うちの子ちょっと緊張してるみたいで」
お母様のアシストが入るが……正直緊張はしてない、どうやってこの場を乗り切ったらいいんだろう? ということしか考えていないのだけど、流石にそれ言ったらなあ。
うーん、うまいことお断りしなきゃいけないのだけど、どうしたらいいんだろうか?
「あはは、お見合いって緊張しますよね。僕も初めてなのでどう話していいものか」
博樹さんは人の良さそうな笑顔で私に微笑んでおり、先ほどからの会話を見るに彼は相当いい人なんだろうなあ。というかなんで今まで彼は婚約などもせずにいたんだろうか? これほどの良質な物件そうそうないと思うんだけどね。
彼は私の顔を少し見つめた後、自分から立ち上がって私に手を差し出す。
「どうせなら……そこの庭を歩きながら、少しお話ししませんか? 灯さん」
「あの、少し二人で歩いてきますね」
今回お見合いに使われた場所は都内、と言っても家からそう離れていない場所にある小さな料亭だ。
付近ではそれなりに高価な料理を出すお店で、小型の庭園がついているということで貸切で使用している。私が博樹さんの手を取って立ち上がると、お母様と国分寺夫人に断りを入れて庭に出ることにする。
「正直言って、年齢も離れているので最初はお断りしようと思ってたんですよ。幾ら何でも女子高校生とお見合いっておかしいと思いませんか?」
「そ、そうですね……私もまだ大学生やってそれから仕事したいなって考えてますし……」
博樹さんは庭に出て二人きりになった瞬間にそう切り出した。ああ、この人真面目なんだな、とそこで印象がとても良くなった。
で、私も正直なところ大学生にもなっていないし、社会に出て働きたいという話をすることにしたのだ。うん、この人は相当まともな神経の持ち主っぽい。
「そうですよね、でも直接お会いして僕は少し考えを改めました」
「そうですか……え?」
博樹さんが私の手を包むように握ると、少し頬を紅潮させながら笑顔で私の目をじっと見つめる。ちょっと待って、私と博樹さんって結構歳離れてるんじゃなかったっけ?
記憶にある彼のプロフィールを思い返すが、そうだ確か私と六歳離れてるはずだ、見た目も非常に良いしおそらく学生時代は女性に困ったような様子でもないだろう。
私がキョトンとした顔で彼の顔を見ていると、博樹さんは笑顔のまま続ける。
「灯さんが嫌でなければ、このまま婚約は進めませんか?」
「……は? い、いやそれは困りま……」
私は慌てて否定しようとするが、博樹さんはニコニコ笑ったまま私の手を掴んで離そうとしない。思ったより腕力あるなこの人。
グッと笑顔のまま私に微笑みかる博樹さん……なんかじっと見つめられるのが恥ずかしい。
「もしかして、灯さんは今お付き合いされている人がいるんですか?」
「……あ、うう……い、いませんけど……」
近い近い近い! なんでこの人距離がこんな近いの! で、恋人と呼べる人はいないのだから、私は素直にいないと答えたが……ふと先輩の顔を思い出して胸がモヤッとした気がした。なんだろ? でもまあ、嘘は言ってないな。
博樹さんは私の答えを聞いて本当に嬉しそうな顔で頷く……押しが強いな、この男性は……このくらい押しが強いと良いんだけどなあ先輩も。
「では、前向きに検討していただけませんか? 答えはじっくり考えてからでも問題ないです」
「で、でも私まだ結婚だなんて……」
そりゃ困るって……私は前世の記憶、男性で剣聖の記憶を持ってて、降魔と夜な夜な戦ってる剣士なんです〜、とか紹介できないだろ! それにまだ男性とその、そ、そういうことになるというのに抵抗感がすごくあるんだぞ!
それでも博樹さんはにっこりと眩しいくらいの笑顔で私を見つめて笑う、うぉ、まぶしっ。
「そうですね……灯さんが社会人になるまで僕はお待ちしますよ、何年でも……だから前向きに考えてください」
「……いい人だったわねえ、どう?」
お母様が国分寺親子を見送った後、私の顔を覗き込みながらすごく意地の悪い笑顔を浮かべて微笑む。い、いや……かなり強引に推し進められた感があったが、私は結局答えを保留にせざるを得なかった。
即日断ると両家の関係に悪影響が出そうな気もしたし、親と相談をしたいと思ったのが正直なところだ。断るにもきちんとした作法や礼儀があるんじゃないか? と思った。
「……立派な男性だとは思いますけど……でも私まだ結婚考える年齢では……」
まあ、前世では一七歳と言ったら普通に結婚というか、子供がいたりすることもある年齢なわけで、家庭に入っている女性もいたな。私の前世に出てくる女性は大体冒険者などをしていて、結婚などもかなり遅かったりもした。ノエルも結婚はしてなかったな……結婚を迫られたことは何度もあるようだけど。
お母様は笑いながら、私に手招きをすると歩き出す。
「ま、相手との家族……自分の腕に二人の子供を抱いているのを想像してみて、大丈夫そうなら考えてもいいんじゃない? 待ってるって言ってるし、当分保留にしておきなさいよ」
二人の子供……か。まあ、お母様は私とターくんを産んでるわけだしなあ。ふと私が母親になるところを考えるねえ……そこまではどうにか想像できたけど、隣に立っている人間を想像してみて、背中がゾクリと震えた。
その時私が想像したのは、先輩が優しく微笑んでいる横で私の腕の中には赤ん坊が……あ、あふぇぇ? な、なんか悪くないかも?! 背中がゾクゾクする……なんだこの感情は。
だが、その恐ろしい光景を頭から追い出すように左右に振ってから歩き出す。
「何考えてるのよ……今はそんなことしてる場合じゃないのに……」
_(:3 」∠)_ ここで婚約者イベントや!
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