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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一四五話 領域脱出(エスケープ)

「あ……うっ……」


 私が目を開けると、そこは暗闇の中に作られた空間のような場所で……慌てて身を起こすと毛布代わりに体にかけられていたブレザーがずり落ちる。

 どのくらい気を失っていたのだろう? 周りを見渡すと私が起きたことに気がついたエツィオさんが少し疲れた顔で離れた位置に座っており、寂しそうな顔で微笑む。

「おはよう……体におかしな点はないかい?」


「少し痛みますけど……大丈夫です」

 あの衝撃波(ショックウェーブ)……すっかり失念していたが、泣き女(バンシー)がよく使う意識を刈り取る攻撃じゃないか……もろに食らってしまって私は気を失って、そして今エツィオさんと二人きりになっている、ということだな。ところでなんでブレザーを脱いでいるんだ? 私は。それと少しだけスクールシャツのボタンがはだけている。

「よかった、少し窮屈そうだから、ブレザーを脱がして毛布代わりにして休ませたんだ、迷惑だったかな」


「い、いえ……なんか、その……すいません。私のせいで……」

 本来であればあの場面で私が気絶なんかしなければ、反撃だってできたのに。本当に申し訳ない気分になって私はエツィオさんのそばへと歩み寄る。

 彼は怪我していないのだろうか? 所々汚れや、擦り傷なんかは見えるけど大きな怪我のようなものはない気がする。私は彼の身体のあちこちを確認して怪我していないかどうか確認するが、エツィオさんは少しウザったそうな顔で私から距離を取ろうとしている。

「妹を守るようなもんだよ、君は気にしなくていい……それと離れてくれ」


「そ、それでも……多分エツィオさんは私を守ってくれたんですよね?」

 最後に覚えているのは下に向かって落下している瞬間で、気を失ったまま落下したのであれば死んでいてもおかしくはなかったのだ。おそらくエツィオさんは魔法を使って私を庇ってくれて……。

 私はエツィオさんの手を握って……感謝を伝えるために彼に微笑むが、私の顔を見て本当に疲れ切ったような顔で、息を軽く呑むような仕草をすると、少し目を背ける。

「仲間だから……守るに決まっているじゃないか……」


「それでも、お礼を言わせてください……助かりました」

 彼が何でこんな反応しているのかは私には理解できないが、とにかく命が助かったのだから……私は改めて頭を下げる。

 お礼を言う私を見てエツィオさんが少し苦笑いのような表情を浮かべた後、ゆっくりと立ち上がる。

 さて……この場所からは早めに脱出しないといけないだろう、私はブレザーを羽織ると腰に下げている刀に軽く手を当てて立ち上がる。


『……起きたか。体の調子はどうだ?』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)の声が響くが……骨折や大きな欠損している部分はなさそうだ。擦り傷ならあるが。そして、ここは一体どこなんだろうか? 上を見上げてもずっと遠くまで黒い靄がうねるような動きをしている場所にしか見えない。

 この状態に近いといえば次元拘束(ディメンションロック)かな……でもあれはもっと乾いた感じの空気になるのだけど、ここはもっとじっとりとした蒸し暑いような空間に感じる。


「あいつが衝撃波(ショックウェーブ)を放つ前に言ってたな、胎内(はら)の中で……ゆっくりと朽ち果てよって。多分ここは泣き女(バンシー)の作った簡易領域の中だ」

 エツィオさんが手に魔力を集中させて、何もない空間へと雷撃(ライトニング)を放つが……轟音を立てて進む雷撃(ライトニング)はすぐに減衰してまるで何もなかったかのように消滅していく。

 それを見て舌打ちをするエツィオさん……魔法が無効化されていると言うよりは吸収されているようにも感じるな。

「あんまり魔法撃たない方が良さそうだな……脱出できても泣き女(バンシー)が強化されてたら洒落にならない……」


『そのようだな……ここは真打として我の出番ではないだろうか?』


 え? 何で? 全て破壊するもの(グランブレイカー)が何をしようっての? 私は思わず刀を引き抜いて眼前に掲げてしまうが……そんな私の奇行を見ながらあいつは何をやっているんだ? と言わんばかりの表情をエツィオさんが浮かべている。


『我が最初に姿を現した時のことを覚えているか? 我にとって空間を切り裂くと言うのはそれほど難しいものではない』


 あー、そういやお披露目の時に空間からあなたを引っ張り出したんだっけ……あれって空間を切り裂いたってことかな? それと同じことをすれば、この異空間から出られるということだろうか。

 でも私空間なんか切ったことないよ? それにノエルだってそんなことはできなかったはずだ。


『……我をそこらの魔剣と一緒にするなよ? ただ空間を切り裂くにはお前の力が必要だ、耳を貸せ』


 ふむふむ……全て破壊するもの(グランブレイカー)が言うにはこの空間を切り裂くためには、私が使うミカガミ流でもそれなりの技が必要だと言うことだった。

 だんだん私も剣とお話ができる危ない女子高生になりつつあり、少し自分の立ち位置とか周りからの見え方なども気になるところではあるが……エツィオさんは何やっているんだろうなあ? と言う顔で私を見ており、まさか私が手に持った刀と会話しているとは思わないはずだ。


『さて……茶番はここまででいいな? お前が出せる最高の技を繰り出せ』


 今ここで必要な攻撃は……ミカガミ流でもっとも破壊力の強い技を繰り出す、そうね……私は全て破壊するもの(グランブレイカー)を改めて握りなおすとミカガミ流の技をおさらいしていく。

 ミカガミ流の技は普段使いこなしている技よりも絶技の方が当たり前の話だけど破壊力が高い。でもその中でも特別な技が一つだけある。


 絶技……月虹(ゲッコー)


 ま、これを普段使わないのは明らかに隙だらけで実戦じゃそう簡単に当てられないからだ。ノエルは待ち伏せなんかでこの技の隙をうまく帳消しにしてたようだけど。

 仲間が多い場合はそれなりに使えると思うけど……私は普段個人か、もう一名くらいの行動が多いため難しいのだ。

「エツィオさん……空間斬りますので脱出しましょう」


「は? え? ()()()()()?」

 言うが早いか私は全て破壊するもの(グランブレイカー)を両手で上段に構える……現代剣道だと八相の構えに近いが、少し腰を落とした状態で私はどこを切り裂くのか、場所を確認していく。


『いくら簡易的な領域と言っても、起点となる場所があるはずだそこを狙え』


 じっと目を凝らしていくと……畝りの中に違和感を感じた。何というか……水が排水溝へと吸い込まれているようなそんな動きの渦が空間の中に存在している。多分ここか……私は一気に身を躍らせる。言葉通り月の光に輝く虹のような軌跡を辿って、私は一気にその渦へと体ごと刀を振り抜く。

「ここだッ! ミカガミ流……絶技、月虹(ゲッコー)ォッ!」


 何もないはずの空間に全て破壊するもの(グランブレイカー)が食い込む……凄まじい抵抗感と、そこから噴き出す漆黒の闇が私を吹き飛ばそうと抗うが、私はそのまま刀を振り切る。

 空間に斬撃の痕がはっきりと刻まれ、そこを起点に漆黒の闇の中に凄まじい勢いで亀裂が走っていく。

「エツィオさん!」


「おおっ! 雷撃(ライトニング)ッ!」

 私が叫ぶと彼は一気に走り出し……その斬撃の痕へと彼の得意技である雷撃(ライトニング)を拳ごとねじ込む。白い光と稲妻による爆発が炸裂し、空間が一気に崩壊していく。

 崩壊していく空間の先に、先ほどまで私たちが歩いていた山道が広がっていき私たちは元の空間へと戻れたのを実感して少しだけホッとする。

 周りを見ながらエツィオさんが感心したような声をあげたが、すぐに彼の表情も引き締まる。

「場所はそのままで別空間に領域を作っていたのか……って、まだいるのかこいつ……」


『な……どうやって胎内(はら)から……』


 突然目の前に現れた私たちを見て泣き女(バンシー)が驚愕の表情を浮かべている……不死者(アンデッド)の驚きの表情なんてなかなか見れないからな……ある意味レアだな。

 私はそのまま泣き女(バンシー)へと切り掛かる……怪物は再び金切り声を上げるが、私は大きくその場から跳躍して衝撃波(ショックウェーブ)の効果範囲を脱出する。


 この攻撃は強力だが、最大の効果を発揮するのは、横方向としては扇状に広がる数メートル程度のエリア、縦は泣き女(バンシー)と同じ高さくらいまでしか効果範囲がなく、それ以外だとまあ心臓がキリキリ痛む程度の効果にしかならないのだ。

 そのため私は一気に怪物の頭上へと跳ぶことで効果を最小限にとどめてそのまま体を回転させながら技を放つ。

「ミカガミ流……大瀧(オオタキ)ッ!」


『ウガアアッ……く、口惜し……』


 コンパクトにまとまった回転からの縦斬撃が泣き女(バンシー)の脳天から体を真っ二つに切り裂く。着地と同時に二つに切り裂かれた泣き女(バンシー)へと私の肩越しに飛んできた二本の雷撃が一気に怪物を焼き尽くす。

 跳躍電撃(チェインライトニング)……エツィオさんが持つ必殺の雷撃魔法が呻き声を上げる不死者(アンデッド)を焼き尽くしていく……パチパチと音を立てて泣き女(バンシー)が炭化して崩れ落ちたのを確認すると私は刀を鞘へとしまう。

「終わりましたかね……」


「そうだな……君は本当に……すごいよ。そして美しく、愛おしいな……」

 いやいや、それほどでもないですよぉ? 私は彼に微笑むが、ん? 最後の言葉はなんだ? 私が表情を変えてキョトンとして彼の顔を見ると、彼も何か変なことを言ったのかと言わんばかりの顔で私を見ていたが……すぐに自分が何を言ったのかようやく理解したのか、突然慌てたように身振り手振りを交えて否定を始める。

「あ、い、いや! 違う! そうじゃない! そ、そうだ……妹みたいなって言いたかったんだ!」


「えー? エツィオさんそんな言い方してなかったですよぉ? あれぇ?」

 こ、これは私にとって僥倖ッ! 彼の弱みというかツッコミどころを見つけたのだ! 今まではなんか扱いがとても雑というか、ちょっと突き放された感じだったが、彼ももしかして私のこの美貌に惚れちゃっているのではないだろうか?! はっはっは! 

 私は少し悪戯をしたくなり、エツィオさんの側へと歩み寄ると、上目遣いで彼の顔を見ながら可愛さアピールしつつ、お願いをしてみる。

「せんせぃ……私ぃ美味しいパフェが食べたいな♫」


「……うわぁ……か、可愛くないな……僕は帰るよ、一人で食いに行け」

 エツィオさんは酷いものを見た、という顔で苦々しい表情を浮かべるとさっさと歩き出す。えええええ? 精一杯可愛くしてみたのに……ちょっと早とちりでもしたのだろうか? おかしいな。

 でもまあ今日の任務は終わったわけだし、明日はパフェでも食べるかなあ……私はすぐに思考を入れ替えて明日のことを考えながら歩き出す。

 前でエツィオさんが何かを呟いていたが、私は全然その言葉を聞いていなかった。


「……くそっ……何で僕はこんな……愛しいだなんて……み、認めないぞ……」

_(:3 」∠)_ マイプレシャース! なんともねえとも、いとしいしと!(白目


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