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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一三三話 改造人間(エンハンスド)

「あなたは何者ですか? 食人鬼(オーガ)ではないですよね?」


 私の問いに目の前の巨人……いや、なんというかこれはおとぎ話に出てくる鬼か? 彼は顔を歪めて咲う。改めて彼の外見を見てみると、小学生の頃に図書室で読んだ童話に出てくる鬼にそっくりだ。

 黄金の角、赤黒い肌、そして恐ろしく巨大な肉体……恐ろしいまでに筋肉質だ、ボディビルダーなんか目じゃないな……手には巨大な金砕棒……突起もあって当たったら簡単に即死しそうなくらいの重量があるだろう。

 そして童話では虎縞のパンツを履いているイラストが多かったが、残念ながら子供向けではないようで下半身には黒い皮のズボンを履いている、そこは現代風なんだな。


「グフフ……女子(おなご)と聞いておったが、本当に小さいのう、ワシは()()()とかいうものではなく、正真正銘、この日の本に住んでいた鬼そのものだ」

 鬼……やはりこれは日本古来の怪異と言うべきだろうか。それがなぜ顕現しているのだろう? もしかしてこの世界の原理原則がおかしくなってきているのか? そういえば最近神社や、石碑などが崩壊する事故が頻発していると聞いている、もしかしてそれに関係しているのだろうか。

「そして新居、とかいう娘はお主だな。あの若造が刀を持つ女子(おなご)を殺せと言うのでな……覚悟してもらおう」


 その巨体に見合わないレベルの速度で一気に私との距離を詰める鬼……彼の手にある巨大な金砕棒の一撃を私は咄嗟に全て破壊するもの(グランブレイカー)を引き抜いて受け止める。

 あまりの衝撃に周囲の地面が凹み、私の全身の筋肉が軋む……奥歯を食いしばって耐える私を見て、四條さんが牽制のために拳銃を構えるが、その背後から立川さんが騎兵刀(サーベル)を構えて突進してきたことで四條さんは咄嗟に構えを解いて大きく跳躍する。

「……二人? しかももう一人も剣士ですね」


「こいつ……っ! 普通の人間じゃないわね!」

 立川さんが恐ろしい身体能力で高速移動しながら距離を取ろうとする四條さんを追いかけていく……ああ、これ私が鬼をどうにかしなきゃいけない流れかしら。


『……でもまあ、お前ならなんとかなるだろう、武器を持った巨人と考えればいい』


 あー、もうそんな簡単そうに言いやがって……ただ、この凄まじい一撃で全く折れる気配がないのはさすがと言うべきだろうか。鬼も必殺の一撃が女性、しかも日本刀を使って受け止められていることに驚きの表情を浮かべているが……さらに金砕棒を押し込んでいく。

 私の全身の筋肉がメリメリと音を立てて軋む……ああ、くそ! 前世のノエルじゃないんだから、私はパワー型じゃないっての。

 一瞬刀を跳ねるように蹴り足を使って押し上げて、私は後ろへとステップして鬼の追撃を躱す。勢い余った鬼の攻撃は地面を大きく凹ませるが、私は全身に強い痛みを感じてすぐに攻撃を繰り出すことができないでいる。

「……ったく……女性に力押しとかめちゃくちゃ嫌われる男の行動ですよ」


「ワシの時代は腕っ節の強い男が女子(おなご)から好かれたのだ、時代が変わってもそう変わることはあるまい?」

 鬼は金砕棒を肩に担ぎ直すと、片手で顎をさすって咲う。その黒い瞳は私を値踏みするように下から上へと舐めるように見ている……うう、こういう視線の動きは苦手だ。

 だが、不思議といやらしさというか、下心のようなものは感じずどちらかというと強さを測っているような視線に感じる。

「……あんまりそう言う目で見るのも、女性に嫌われますよ」


「ん? ……ああ、そうか。お前は女子(おなご)と言うよりは武士(もののふ)のように感じるのでな、失敬」

 鬼は豪快な笑い声をあげると金砕棒を地面へと突き刺して仁王立ちしている……今さっきまで普通に殺しにかかってきたとは思えないくらいの反応だ。

 調子狂うなあ……私も切り掛かっていいのかどうか迷ってしまう。

「……ちなみに聞いていいですか? なんで私を殺そうとしてるんです?」


「ん? うむ……話せば長くなるのだが、それとまあ名乗ってなかったな。人間であった時は貞隆と呼ばれていた、ワシの異名である鬼貞とでも呼ぶといい」

 ()()()()()()()、があるのかよ。しかも貞隆って……ちょっと古風な名前だな。でも名乗ってくれたのだから、私もちゃんと名乗らなければ失礼にあたるだろう。

 私は刀を下げると軽く頭を下げて挨拶をする。

「私は新居 灯……聞いているかもしれませんが、ミカガミ流という剣術を使う剣士です」


「おお、ミカガミ流と言うのは聞いたことがないが、女武者というのはワシが人間だった頃もおったぞ、板額とかな」

 鬼は嬉しそうな顔で語り始める……話に出ている板額御前というと吾妻鏡に出てくる反乱軍の武将だったっけ? 日本史における数少ない女武将だ。女性でありながら武芸に優れ、鎌倉幕府の軍勢を散々に悩ませた女傑と言ってもいい。

 鎌倉時代ってことは恐ろしく長い間信仰されたり、祭られた怪異ということだな。


『……気がついたか? あの金砕棒、我と同じく神話級(ミソロジー)の遺物だ』


 確かにね……全て破壊するもの(グランブレイカー)であれば、あの一撃の防御で相手の得物を両断するくらいはやってのけるだろうから。

 そうならなかった、ということはそれなりに等級(グレード)の高い武器だということがわかる。食人鬼(オーガ)英雄(チャンピオン)とかならいざ知らず、普通の個体がそんなものを持っているわけもなく……やはり目の前の個体は、伝承にあるような鬼なのだろう。

「もう一〇〇〇年以上も前の話を持ち出されましてもね……困りますよ」


「ふむ、しかしワシは嬉しいぞ。この腐り切った時代にお主のような武士(もののふ)がまだ残ってるとはな」

 鬼、いや鬼貞と呼べと言ったか。彼は嬉しそうな顔で私を見て笑顔を浮かべているが、ララインサルのような陰湿さなどは感じられず、どちらかというとテオーデリヒにちかい性格のように思える。しかし……強さは計り知れない。

 こめかみに冷たい汗が流れる感触を覚えて、軽く汗を拭いながら私は口を開く。

「私は武士(もののふ)なんかじゃないですよ、単なる女子高生です」




目標補足(ターゲット)

 抑揚のない声で、手に持った拳銃を立川に向かって発射する四條……だが、立川は手に持った騎兵刀(サーベル)を振るって銃弾を叩き落として、一気に周りの木の枝を蹴って高速移動して的を絞らせないように飛び回る。

 無表情の四條は拳銃を打ち続けるが、その銃弾を騎兵刀(サーベル)で叩き落とすと、立川は凄まじい速度で四條のいるエリアへと走り込んでくる。

 その動きを読んでいたのか、四條はふわりとその場から跳躍して再び距離を取る……全く! なんなのこの女子高生は! 立川の視界に四條から放られたスモークグレネードが映るが……弾く間も無く凄まじい勢いでピンク色の煙幕を噴出させて視界がほぼゼロになる。


「わぷっ……!」

 立川の周り全てがピンク色の煙に包まれて全く視界がない……これはまずい。咄嗟に上方向にあったはずの枝に向かって跳躍し枝の上へと逃げて視界を確保する。

 背後からゾッとするような殺気を感じて咄嗟に騎兵刀(サーベル)を振るうが、彼女が切断したのはもう一つのスモークグレネード……切断と同時に煙幕を噴出して立川の視界が再び奪われる。


「ああ、くそっ!」

 銃声と共に立川が乗っている枝の根本がへし折れ、そのまま地面へと落下する。ど、どうしてこの視界の中にいる私やその他の構造物がきちんと把握できているのだ?

 着地と同時に横へステップするが、それまでいた地面へと銃弾が打ち込まれたことで立川は相手がこの状況が見えている、と判断した。

 混乱する思考……転生者、そしてこの世界において頂点とも言える能力を持つ立川 藤乃や新居 灯は、五感だけでなくその目がとても良く、相手の行動や次の予測に目を使って補足し、認識をしている。


 しかし……四條による攻撃はまるで視界のない場所においても、()()()()()()()()()撃ち込まれていく。

 立川がララインサルやアンブロシオの求めに応じて戦った中で、傭兵との戦闘があったが彼らもまた視覚による認識を重視しており、暗闇などでは戦闘能力が落ちていた。

 しかし……目の前の女性はおそらく暗闇の中でも同じレベルの戦闘能力を発揮できるだろう。立川は煙幕をダッシュで突っ切って一気に四條がいるであろう方向に飛び出す。

「アンタ何者なの!」


「人間です、でも少し違うのは私が組織によって作られた改造人間(エンハンスド)ということでしょうか」

 改造人間(エンハンスド)?! 漫画とかじゃないと出てこない単語を聞いて立川は少しだけ目が眩むような思いをしている。改造人間(エンハンスド)ということは、身体能力だけでなく、思考能力などもはるかに強化されているということか。

 恐ろしく正確無比な攻撃はその産物……ということなのだろう。

 四條がその巨大な対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)を腰だめに構えている光景を見て、立川は顔を歪める……まずい、あんな巨大な狙撃銃(ライフル)の銃弾を受けたら、部位ごと吹っ飛んでしまう可能性が高い。

 対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)が火を吹き、戦車の分厚い装甲ですら貫通する巨大な銃弾が迫る……ギリギリで騎兵刀(サーベル)を使って、銃弾の進路を少しだけずらす。

「つぅぁああっ!」


「直撃しませんでしたか……ではもう一回ですね」

 騎兵刀(サーベル)がへし折れ、立川の肩を銃弾が掠めると、彼女の肩から血が噴き出す……直撃を免れたとはいえ、凄まじい衝撃が彼女の手に伝わる……肩の傷はそれほどではないが、このまま戦闘を続けるのは難しいかもしれない。

 肩で息をしながら、立川は目の前にいる感情を感じさせない不気味な女性に憎しみの目を向けるが……今は勝てない、相手のことがわからないのに戦おうとした自分の未熟さだ。

 咄嗟に煙幕の中へと飛び込んで、全速力で逃げ出す……次は絶対殺す……。立川は悔しさから大声で叫ぶ。


「次は……次は絶対にこうはいかないわ! 覚えてなさい!」

_(:3 」∠)_ 強化人間の英訳で結構悩んだり……でも一応これで行きます


※2022年5月24日 サイボーグの方で強化人間って書いてたので、改造人間に差し替え、すいません……。


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