第一三二話 横槍(インタラプション)
「では、ここからは引き継ぎますので……」
「は、はい。あとはよろしくお願いします……でも大丈夫なんですか? その……」
山を封鎖する警察官達へと青山さんが話をしている……降魔被害が公然の事実と化した中でも、情報伝達や引き継ぎなどは結構アナログだ。
警察官達は突然やってきたKoRJの二名……私と四條さんを見て困惑している。そりゃそうだろう……どう見てもか弱い女子高生二人がリムジンから出てきたのだから。
だが、青山さんは普段よりも遥かに強い態度で警察官へと答えている。
「問題ありません、KoRJでも腕利きの二人なので、問題なく異変を処理いたします」
「そ、そうなんですか……でも、心配だな」
警察官たちはこちらをチラチラ見ているが、一部は好奇心からこっち見ているのもいる。まあ、自分で言うのもなんだけど、私もそうだが四條さんも恐ろしく顔立ちが整っている。
そんなのがやってきたら気になるよな……とはいえ任務が最優先だ、荷物を取り出さなければ。
私はトランクから取り出した日本刀というか、全て破壊するものを腰に下げ直す。
開発部に頼んで意匠を全て変更した……流石に出現した時の意匠はかなり特殊で、明らかに日本刀ではなかったんだよねえ。あれも味があってよかったけど、やはり日本人が下げるのであれば日本刀だなとは思う。
全て破壊するものにも確認したが、刀身はいじるのは難しいが、それ以外は別のものを使ってもいいし、変更自体は問題ないというので日本刀の意匠へと完全に偽装してあるのだ。
『まあ、刀身をいじられても我であれば簡単に元に戻れるがな……だがKoRJの連中も刀の扱いをよく分かっておった、満足しているぞ』
あー、そうですか……せっかく作ってもらった前の刀……へし折れた上に迷宮に置き忘れてしまったので、正直言えば開発部の皆さんに合わせる顔がなかったのだけども、その辺りは結構有耶無耶になっている。
全て破壊するものの意匠変更もかなり仕事としては面白かったらしく、台東さんは喜んでいたな……未知の金属に不可思議なレベルの切れ味。彼の探究心を唆られたらしい。
「新居さん、私は準備完了しました」
四條さんが私に声をかけてきた……その手に持っている武器、対物狙撃銃は彼女には大きすぎるようにも見える。そのほか拳銃や大きめのナイフなどが体のあちこちに装着されていて、さながら小型の戦車や装甲車といったイメージに見えてしまう。
彼女の持つ狙撃銃は単発方式のものだな……少し特殊なのが通常この手のライフルは地面に置いて使うものだと思うが、彼女の手にしている銃はスコープもついておらず、上部に持ち手が増設されている。つまり……この銃を手持ちで使うということなのだろう、ある種異様な装備だな……。
「はい、私も大丈夫ですよ、四條さん一緒に頑張りましょうね」
「そうですか、頑張ってください」
私は彼女に微笑むが……まるで意に解さないように彼女は歩き始める。なんだこの反応は……少しだけイラっとしたけどここは我慢だ、私はこの程度で怒るようなチョロい女子高生ではないのだから。
任務前に仲間と揉めても仕方がない、あまりに無造作に歩いていく四條さんを私は慌てて追いかける。
「あ、ちょっと待ってくださいよ……」
「大丈夫ですか? あれ」
まるで周りのことなど意に介せず歩いていく四條と、それを見て慌てて追いかけていく新居……あまりにチグハグな両名を見る警察官の心配そうな顔を横目に、青山は少しだけこの組み合わせを後悔した。幾ら何でもコンビを組ませるには早すぎるのではないだろうか? 大きくため息をつくと、彼を見ている警察官に向かって苦笑いを浮かべる。
「ハハ……だ、大丈夫ですよ……多分」
石化鶏……前世では正直言えば強敵ではなかった、というのは冒険や戦闘に慣れた後の話で、最初は必死に立ち回るので精一杯だった記憶がある。
大きさは熊くらいのサイズで、ぱっと見は雄鶏……尻尾は大蛇のそれだ。嘴に触れたものを石化させる能力があるが、体に触れただけでも石化の効果に影響を受ける。とはいえ、一番効果の高い石化は嘴であり、体への接触は石化効果がかなり低かった。
問題は石化鶏の攻撃や能力というよりは、その機動力にある……ノエルですら奇襲攻撃を受けかねないレベルの隠密能力と悪路をモノともしない圧倒的な走行能力だ。
ゲームとかなら普通に真正面から来てくれるだろうが……残念ながら前世の石化鶏は狩と逃走の達人だった。
石化鶏原因の死因って大体奇襲攻撃で石化を受けて、その後全力で石化鶏が逃げ回った結果だったりもするので……。足がバカみたいに早いんだよなあ……石化鶏。
『ああ、そういえばあの世界の石化鶏は足が速いのだったな』
そうそう、キリアンが石化鶏に突かれたあと、私たち勇者パーティが必死に逃げ回る石化鶏を追いかけて回るという事件があった。
石化鶏の全力ダッシュは現代で言うと大体時速一〇〇キロ程度である。チーターよりは遅いが、その速度を三〇分近く持続できる。
私たちはヘロヘロになりながらもなんとか石化鶏を倒して、ほぼ完全石化寸前になっていたキリアンを助けたことがあった。……思い出すだけで吐きそうになる記憶だ。
「新居さん、めんどくさそうですね」
四條さんが考え込んでいた私の顔を見て、相変わらず無表情で何を考えているかわからないが……私は思考の海から脱却して彼女へと微笑む。
「いえいえ、大丈夫です。ちょっと前のことを思い出してました」
「そうですか、なら問題ないですね」
四條さんはすぐに前を向いてしまうが、少しだけ歩くスピードを落とすと、背中に背負ってる対物狙撃銃を背負い直す。
でもこの冷たい感じの反応や表情が彼女をとても魅力的に見せている気がする……なんというかクールビューティーって言葉がばっちり当てはまるんだよなあ。
「……四條さん、顔立ちが綺麗ですよね、正直モテますよね?」
「その質問は任務に関係あるのですか? 関係ないのであれば答える必要を感じません」
速攻で切り捨ててきた! くっ……仲良くなりたいだけなのに、KoRJで少ない私と同年代の戦闘員だぞ? 先輩が最近連絡できない訳で……同じクラスにいる仲間だと言うこともあって、せっかくならお茶やスイーツを一緒に、と思ってるだけなのだ。
「任務には関係ないですけど……せっかく仲間なので少しお話しなんか……」
「答える必要を感じません、必要のない返答は時間の無駄です」
即答……これは残念。少しだけがっかりした気分になって私はトボトボ彼女について歩く。うーん、なんでこんなに取り付く島がないのだろうか。
そういえば彼女のパーソナルデータってあんまりはっきりしてなくて、年齢やスリーサイズとかそう言う他愛もないデータはわかるけど、経歴の一部は機密扱いになっていてよくわからないんだよな。ふと彼女を見ると、地面に落ちていた何かを見つけてしゃがみ込んでいる。
「……可哀想に……」
それは石化した猫だった……何かに怯えるような表情を浮かべて石化している。石化鶏に石化された場合、数日は生き延びることができる可能性がある。この猫が何日前に石化したかどうか、は私にはわからない、この手の調査は前世ではエリーゼさんや、アナ、ウーゴの担当だったからな。
「早く原因を取り除かないとダメですね」
私の言葉に意外なものを見たかのように、四條さんは私の顔を見つめるがあくまで表情は変わっていない。でもほんの少しだけだけど……目に一瞬感情のようなものが浮かんで消えた気がする。彼女はすぐに目を石化した猫へと向けると、黙って頷くと口を開いた。
「多くの人に影響が出る前に、降魔を退治しましょう」
パキッと音がした気がして私はすぐに刀の柄へと手をかけて辺りを警戒する。四條さんも足に装着していたホルスターから拳銃を引き抜いて警戒体制を取っている。
パキン、パキンとリズミカルに地面へと落ちた枝を折る音と、重量のある足音が響く……石化鶏か? 私は音の方向へ警戒を続けながら、四條さんへと目配せをする。
彼女も意図を理解したようで、黙って頷くと拳銃を手に持ったまま音を立てないように静かに場所を移動する。彼女の持っている拳銃ではおそらく石化鶏にはそれほど効果がない。背中に背負ったライフルでないと有効な攻撃にはなりにくいだろう。
私たちがポジションを調整し終わってすぐに、木の影から恐ろしく大きな雄鶏の顔が覗く……でかいな、頭のサイズだけで相当な大きさだ。
「思ったより大きな個体……?」
いきなりその石化鶏の頭が地面へと投げ捨てられる。
次の瞬間きの影から、のそりと見たこともない巨体が現れる。な、なんだこいつは……その巨人は身長が三メートル近いだろうか。
赤黒い肌に恐ろしく発達した筋肉……ぱっと見は食人鬼のようにも見えるが、まるで違う……存在感というか、この化物自体から発する雰囲気がまるで異質だ。
その不気味な巨人がふと私に気がついたかのように、こちらへ顔を向けるとつぶやいた。
「おお、見つけたぞ……剣聖とやら、まずは一献勝負と参ろうか」
_(:3 」∠)_ 日本古来の妖怪を出したかった(オイ
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