第1話 さらば、俺の30年。
「………い……。」
「……お………!」
何…だ……?
せっかく仕事終わったんだから…ゆっくり寝かせてくれよな…。
「も……きこ……!?」
うるさいなあ…静かにしてくれよ…。
「もしも〜〜し!!聞こえてますか〜〜!!高槻康介く〜〜ん!!!」
「うあああ!?」
耳元ででかい音量が届き俺は飛び起きた。
「耳元ででかい声出すんじゃねえよ!塚本くん!……って……。」
だ………ダレデスカ……?
目の前には髪の毛のお悩みとは無縁な金髪ロング碧眼の美少年がいた。
いや…胸がない美少女…?俺、一応ロリコンの趣味はないんだけど…
「残念ながら君に興味はないんだなあ。」
「うえええ…!?す…すみません…!」
いかんいかん、いくら相手が子供だといえとんだ失礼を…。
てか俺、声出してたか…?
「そして子供でもないにゃあ〜。君の思ってることくらい分かるよ〜。」
「俺が思ってること分かるんですか!?」
「だからそう言ってるにゃ〜。」
「はあ…。」
この美少年?美少女?はエスパーの持ち主なんだな…。
そして顔と脱力するような態度が全然合ってない!
そういや何気に知らない子供と話してるけど…ここ、どこだ…?塚本くんは…?
「そろそろ本題に入りたいんだけどにゃ〜。」
「何でしょう?」
「私は君の住む世界の神の一柱にゃあ。高槻康介くん、君はもう死んで帰れないよ~。」
「……??」
「まあ意味が分からないよね〜。でもね、この死はそもそも…」
「ちょ…!ちょちょちょ…ちょっと待って!?」
シンデル?SHINDERU?何だそれは…。しかもこの子供が神だって??
じっくりつま先から頭のてっぺんまで子供を観察してみると
なんとなく…なんか周りが光っているような…ないような…?
まあ…話し方は神さまのイメージではないな。
でも、せっかくなら朝起きたら周りに神さまと会ったって自慢してやろう、うん。
いやしかし夢って起きたら忘れて…
「にゃはは〜、ほんとそれにゃ〜。顔と話し方が全然合ってないはよく言われる言われる〜。
でも、そろそろこっちの世界に戻って来て欲しいにゃ〜。
ごめんごめん、流石に唐突すぎたにゃ〜。」
「ほえ…?」
「一から説明しようかにゃ。まず君は仕事を終えて帰るところだったのは覚えているかにゃ?」
「はあ…。部下と一緒に帰ってましたよ。」
「その時に君は事故に遭って即死したんだよ〜。即死だったから覚えていないのは
無理ないけどね〜。」
「えええええ…!?
さっきの死んでるってその死んでるですか!?」
「そうだよ〜。」
「いやいやいや!?普通に帰ってたのにそんなことあります!?」
「どこでいつ死ぬかなんて案外分かんないもんだよ〜。
まさに神のみぞ知るってやつ〜。
でもね、君があの時に死ぬのは手違いだったんだ〜。」
「手違い…?」
「君は本当ならあと数十年は生きる人生だったにゃ。
あの時君の後輩くんが寿命で事故に遭って死ぬことになってたんだけどね〜…。
君と後輩くんを間違えて死なせちゃったのさ、にゃはは〜。」
「えーと…ちょっと待って下さい。」
一旦頭を整理しよう。
まず塚本くんと帰ってた。ここまでは大丈夫。
途中意識が途切れて、目を覚ますとそこには神さまと名乗る人がいたと。
それでどうやら俺は帰ってる途中で死んだことになったらしい。
しかも本来ならば塚本くんが死ぬはずだったけど
間違いで俺が死んだという認識でいいんだよな…?
うんうん…!整理しても全然分からん…!?なぜ間違える…!?
そりゃ塚本くんに死んで欲しかった訳では到底ないけども…!俺も死にたくねえよ!
ああ駄目だ…。頭がもうパンク通り越して弾けそうなんだが…
「すみません。仮に…!仮に…俺が死んだとしてなんで間違えて俺が死んだんですか?」
「うーんとね…私の配下が君を後輩くんと勘違いしたみたい〜。」
「………。」
俺は神さまからも年上だと思われてないのかよ!?
流石に俺、ショック通り越して涙引っ込んだぞ…!!
てか、ヘラヘラしながら間違いで死なせたことをあっさり言うんじゃないよ神さま…!
「流石にさ〜死ぬ予定じゃない人をこのまま死なせてしまうのもにゃ〜っと
思って本来なら死後の世界に行くところなんだけど〜、その前に君を私のところに呼んだのさ〜。」
「もしかして生き返らせて貰えるんですか!」
「う〜ん…。そうしたいの山々だけど君の身体はもう現世にはないよ〜。
今頃、火葬されてるところだから〜。」
「火葬早くないですか!?」
「そこまでは私には何とも〜。そこで君に提案があるんだけど〜…。」
「?」
「君が良ければあと数十年くらい異世界生活してみないかい?」
……………………。
漫画か何かの見過ぎかな、これは。
うんうん、そうに違いない。早く夢から…
「は〜いストップ〜!夢オチルートに考えるのおしまいにゃ〜!」
「いやいや!現実逃避したくもなるでしょ!?
死んでることにも驚きだけど、神さまらしき何かに会って異世界行きませんかって
そんな漫画みたいな展開自分に起こるとは普通考えられないでしょ!」
「神さまらしきとは失礼にゃ〜。一応神さまにゃ〜。
じゃあ、今こんな状況になったわけだから考えてみてよ〜。」
「そんな簡単に…!」
「じゃあ、こう考えてみたらどうにゃ〜?今、死んで後悔とかもうない〜?
特にしたいことないなら〜もう死後の世界に行って生まれ変わっても大丈夫にゃ。
なんせ前世の記憶はないわけだしね〜。」
後悔って言われても…むしろ後悔しかないわ…!!
別にしたい訳じゃないけど…せっかくプロジェクトの原本終わったんだから、やり切りたかったし…。
家族とか友人とか周りの人ともっと話したかったし…。
それに…
「高槻康介くん。どうする?
異世界に行って再スタートするか、それとも死を受け入れて死後の世界に行く?」
さっきまでの腑抜けた態度と一変して真っ直ぐ俺の目を見て問いかけてきた。
何か試すみたいに…
「〜〜〜ああもう…!!分かりました!
そんなしょうもない理由で死ぬくらいなら
俺は異世界で生きる方が断然いいです!!
後悔まみれな人生なんでね!!」
「嫁さん貰って田舎でゆっくり過ごしたい。」
死ぬ直前に宣言してしまったあの言葉。こうなったら達成してやろうじゃないか…!
「おっけい〜。そうこなくっちゃ面白くないよね〜!
死なせたお詫びにもう一つ君にいいものあげるにゃ〜。」
「今度は何ですか…!?」
「そうカリカリしな〜いの。
向こうの世界に何でも1つだけ持っていけるようにしてあげるにゃ〜。」
「何でも?」
「何でもいいよ〜。生きるのに全く困らないお金とか〜世界征服する力とか〜。
何でもあげちゃうよ〜。私って太っ腹だにゃ〜。にゃはは〜。」
「…………じゃあ、農家…したいので普通に農家できるような力、ください。」
「ほへ?それでいいのかにゃ?」
「はい。嫁さん貰って慎ましく生活したいので。」
「……………っ………ははははははっ!!これだから人間は面白いんだよね〜!!」
………、そんなに笑うことか?神さまの考えることは分からん。
ひいひい腹抱えて笑う神さまから
「ごめんごめん…。面白かったからサービスで異世界での読み書きと言葉話せるように
してあげるにゃ〜。
それで、農家スキルだね〜ふふ…君ほんと面白いね〜ふふふ…ふ…ふぁ…ふぇくしょん!!
面白くってくしゃみ出たにゃ〜にゃはは〜。
ほい、出来たよ〜。」
こいつ…酔っ払ってるんじゃねえだろうな…。
そう思えるくらい未だに笑いを堪えきれない神さまは話しながら俺に指先を向けた瞬間、
俺は光に包まれた。
なんだこの光…なんとなく温かい…。
そう感じるのは一瞬ですぐにその温かさは収まった。
「よしよし。ちなみになんだけど〜どんな異世界に行くかはランダムなので〜
私も分かんないからそこは許してね〜。
ではでは、高槻康介くん、人生再スタートへの旅行ってらっしゃ〜い!」
「え…!ちょっと待って!そんな話聞いて……!うわあああああ…!?」
神さまに抗議しようとした瞬間に、ガコンと俺の足元に穴が開いて一気に吸い込まれた。
「さてさて、君が紡ぐ異世界生活がどんなものが高みの見物といこうかな。ふふ…。」