なろうで『もう遅い』とかでざまぁされた者たちの楽屋裏《ピンク頭転生ヒロインと脳筋俺様騎士》
思い付きをただ書いてみました。
鼻で笑って頂ければ幸いです( ̄▽ ̄)
とある赤提灯の居酒屋。
耳障りにならない程の音量で流れる演歌が心地よい店内のカウンターに、やたらと筋骨隆々で体格の良いのに顔は中々整ったイケメンの……貴族っぽい出で立ちの、どう考えても世界観のおかしい男が一人、焼き鳥を頬張ってからビールを一気に煽っていた。
「…………ッカ~~~~! やっぱり仕事の後の一杯は格別であるな! 今日の仕事は“首に来る”のが多かっただけに染みるわ!」
「相変わらずいい飲みっぷりですね“キンさん”」
そんな男の背後から小柄な女性が声を掛けた。
見た目に特徴的な色合いの髪をした愛らしく儚げにも見える女性も、この居酒屋とは一見マッチしていないのだが、彼女は気にする様子もなくこの場に馴染んでいた。
「おお“ピン”じゃないか! お主も今日の仕事は終わりであるか?」
「はい、今日は斬首が3回に修道院送りが2回でしたからいつもより上りが早かったんですよ」
「そうかそうか、お互い断罪の連発は大変だな……。まあ駆け付け一杯、お~い店主! お嬢さんにジョッキ生で……で良いんだよな?」
キンさんと呼ばれた男が注文してから聞き返すと“ピン”と呼ばれた女性はニッコリと笑って頷いた。
「勿論ですよ! 私も今日はとうとう斬首の方が修道院送りを超えてしまいましたからね。一気に行きたい気分なんですよ!!」
「おおうそうか、大分溜まってきておるな……」
それから同席した二人は大ジョッキを片手に乾杯、焼き鳥やおでんなどを挟みつつ酒宴に興じ始める。
キンさんは歯ごたえのあるハツや砂肝、ピンは柔らかく垂れの甘めなつくねを好む。
互いに焼き鳥の好みすら熟知する仲なのだが、そこに色っぽい雰囲気は全くなくむしろ当初は出で立ちで浮いていたのに段々と雰囲気が周囲のリーマンたちと同化していく。
平たく言うと仕事上の愚痴が漏れ始めたのだった。
座った目でピンがジョッキをドンとカウンターに置いた。
「最近ちょっと多いと思うんですよ……。そりゃ~ざまぁなんだからスカッとやられるのは分かるんですけどね? いきなり殺す事なくないです?」
「最近は“ヒロイン断罪”も容赦無くなってきたからなぁ。ひと昔前なら放逐か修道院送りがマストであったのに」
「まあ……断罪イコール死がマストの貴方にその辺愚痴るのは違うと思いますけどね」
「ハハハ! 気にするでない、今更。俺はもうこの役柄を割り切る事にしとるからな! その辺の不満は俺も経験してるから遠慮する事は無いぞ!」
ちょっと後ろめたそうにそう言うピンに、キンさんは“もっと愚痴れ”と豪快に笑いつつ言ってやる。
立ち位置的には完全に仕事上の先輩後輩のようでもあった。
「でもアレですね……同じ斬首でもギロチンと人の手で相当違いますね」
「ほう、とうとう君もその辺の違いが分かるようになったか! 大抵はモノローグのみで“斬首されました”とかで終わってしまうが、腕の悪い処刑人に当たると最悪であろう?」
「もうひどいもんですよ! 今日の処刑人も下手で何度も何度も……断罪シーンで逆上して襲い掛かり騎士に殺される方がマシですよ!!」
それは彼らの界隈での役割『やられ役』を担う者たちの共通の認識だった。
散り際は潔く一瞬で行きたいのだが、役柄上往生際悪く足掻きまくり、苦しみまくった挙句に時間をかけて死ぬエンドは少なくない。
希望通りな役を担えるとは限らないのだ。
「でも最近、私たちにその手の役回りが多くないですか? そりゃ~昨今の流行も分かりますけど、私ら以外にも適任者はいそうですが……」
すでに3杯目になったジョッキを煽りつつピンが再び愚痴り始める。
だがキンさんは彼女が“理由は分かった上で言いたい”という事も理解した上で話を合わせてやる。
彼女も色々吐き出したいだけである事は……自分も同じ道を辿って来ただけによく知っているから。
「最近の時流では仕方があるまいよ。俺に限って言えば『脳筋俺様騎士』だからな。この界隈では“イケメン”はプラス要素にはなりえん。むしろ中途半端に見た目が良いと言うのは断罪フラグであるからな」
「イケメンはマイナス要因なのです?」
「おお、しかも俺様要素は『魔王』ならワンチャンあったかもだが……残念ながら『騎士』が被ると……な」
「あ~~~確かにそうですね。私の『転生』が『悪役令嬢』なら可能性もあったけど、『ヒロイン』が重なるとほぼ死亡フラグになるようなものですね」
自嘲気味にそう呟くとピンは溜息を吐いた。
「オマケに俺の場合『脳筋』までプラスだ。そうなると中途半端にイケメンであるがゆえに最近は断罪要員確定である。むしろ強面であれば違う道もあったろうが……鍛え上げた筋肉に裏切られるとは思わんかったな」
ビルダーと呼ばれる程ではないが彼の肉体は鍛え上げられ、しかもそんな風体なのに暑苦しくない程度のイケメンでもあるのに、それらが全て“王子の取り巻きとしてついでに断罪される要素”となってしまっているのだ。
俺様要素が邪魔くさい……彼も一時期その辺で悩んでいたのだった。
「私の最大の死亡フラグは“コレ”でしょうね……なぜか」
そう言いつつ彼女は自分の自然界では絶対にあり合えに程の鮮やかな『ピンク色の髪』を摘まんで溜息を吐いた。
『転生ヒロイン』の彼女の最大の死亡フラグ……それが髪の色である事は分かり切っているのだ。
「髪の色が死亡フラグとか……人種差別に当たりません? これだけで脳内お花畑の無責任系ヒロインにされるとか……」
色々『転生ヒロイン』にも種類があるのにピンク=ざまぁに直結しやすい事に彼女は少なからず不満を持っていた。
「かと言って……だ」
しかしキンさんは静かにジョッキを置いてピンを優しく諭す。
「チート悪役令嬢なんてやりたいと思うか? 向こうも向こうで大変そうだぞ人間関係。場合によっては本当に逆ハーみたいな展開もあるしな……」
「うぐ……そりゃまあ、確かに最近金髪ドリルちゃんが疲れ切った顔をしてましたけど」
ピンは基本ハーレム崩壊が断罪とマストなので“その後の苦労”は知らずに済んでいるとも言える。
冷静に考えてその状況を維持しろと言われても不可能としか言えない。
「そうだろう? 俺もチーレム主人公は絶対にゴメンだ……女同士の骨肉の争いを自身で作り出そうなど正気とは思えん」
「あら? でもキンさんはハーレムの役柄も何度かあった気が……」
「……経験者、だからこそだ」
俺様系ゆえに実際何度かハーレム経験のあるキンさんはその指摘に露骨に眉を顰めた。
「ハーレムの真実を知らずに羨む連中が逆に羨ましいぞ。女同士の争い程男は無力で胃に来るものはない……最近新参のチーレム転生者が吐きそうな顔で相談に来おったな、そう言えば」
「あら意外……そう言うのは殿方の夢と聞いてましたのに」
「羨む連中に言いたい……義務でヤリたいか? と……俺は日本史の徳川家光が男色であったと知った時、少し気持ちが分かってしまったくらいだ。それを考えると……今の立場の方がマシにも思える」
「……そこまでですか?」
「ああ……女は怖い……心から……」
思い出しただけでカタカタ震えるキンさん……それはさっきまで殺される役の事を笑い飛ばしていた人と同一人物とは思えない。
ピンはその話題は地雷と判断し、今後口にしないよう心に決める。
「そう言えば聞いたか? 最近の我らの界隈で一番の希望職は『モブ』であると……きいた瞬間に頷いてしまった」
「分かります! 私も何のしがらみも関係も無いところでただいるだけのモブでいたいですよ~~~。本当にこの界隈目立つ顔立ちは良い事無いですよね~」
自嘲気味にキンさんが笑うと似たような笑顔でピンも返して何度目かの乾杯をする。
どこにいようとどんな立場でも色々と苦労が付きまとう。
彼らの界隈では役割が付くという事はとどのつまりそう言う事なのだ。
「だが……我らがいないと話にならんのも事実ではあるからなぁ……」
「そうですね……仕方がありませんね」
そう呟いた男女は示し合わせたように同時にジョッキを飲み干した。
不満も愚痴も、全てを飲み下すかのように……。
「プハーーーーー! また明日も頑張るか…………そうだピン、明日お主は何時上がりなのだ?」
「そうですね……明日の予定は修道院が3件、ギロチン2件に魔物に食い殺されるのが1件ですから……多分午後7時には上がりますかね?」
「お、そうか! 俺も明日は辺境送りが4件に一族に殺されるのが2件、去勢で放逐が一件だったから多分同じくらいに上がるから……良ければ明日も一緒にどうだ?」
『脳筋俺様騎士』のキンさんはイイ笑顔でそう言うと『転生ピンク髪ヒロイン』もイイ笑顔で返した。
「良いですね~明日も色々愚痴れそうですし……。あ、それじゃあ『裏切りざまぁ系幼馴染ちゃん』も一緒でいいです? あの娘も最近溜まっているようですし」
「おお良いな。なら俺も『もう遅い系勇者』でも誘っておこうかな……ヤツもバカ役が多いからなぁ」
かくてとある界隈の……ざまあ系キャラ達の夜は更けて行く……。
明日も元気に断罪される為に……。
お読みいただきありがとうございました<(_ _)>
もしもなろうの楽屋裏みたいなものがあればこんな感じかな~と妄想しました。
宜しければ他の作品もご一読いただければ泣いて喜びます!!
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