僕のところに来たサンタクロースがなんか色々と違う
「はあ…………」
僕、鷺川 聖汰は、学校から帰ってくるなり着替えもせず、力なくベッドに倒れ込んだ。
制服のネクタイがキュッと圧迫され、息苦しさが襲う。
慌てて体勢を仰向けに変えるが、どうにも胸の苦しみは立ち退いてくれそうにない。
それもそのはず。
今日はクリスマス。
イエス・キリストの誕生日、らしい。
僕がどうして嫌味ったらしく『らしい』と付け足したか……なんて説明するまでもないだろうけど、あえて語らせてもらおう。
こと日本において、クリスマスを『キリストの誕生日』だと認識している若者なんて、ほとんど存在しない。
僕のクラスのとある女子……仮にKさんとしよう。
その子が一週間前、教室のド真ん中で女友達に話していた内容がこうだ。
『ヤババのバ! もうすぐクリスマスじゃんかぁ! どうやって彼ピッピとイチャイチャしようか、迷い迷いマン華麗に参上ってカンジ? ウケる』
は?
おっかしいだろうが!!!
何でキリストの誕生日に彼ピッピとイチャイチャしようとしてんの!? 戸惑い戸惑いマン華麗に参上ってカンジ!! ウケる!!
クリスマスの本来の意味も忘れてさぁ!!キリストちゃんに見向きもしないでさぁ!!
お前の思考回路がヤババのバなんだよKさんよぉ!!
おっと、取り乱してしまった。
別に僕は彼女だけを責めようってわけじゃない。
事実、彼女と同じ考えを持っている若者なんぞ、この国には腐るほどいるんだから。
はっきり言うぞ、そんなの間違ってるからな!!
クリスマスといえばカップルの日とか!! 思い違いも甚だしいんだけど!!!
「ぐすん…………」
涙が顔面を軽快に滑り降り、枕に悲しいシミが一つ。
悲しいシミで『かなシミ』ってか。うへへへ。おもんな。
うん、別に羨ましいとかじゃないですけどね。
別に羨ましいとかじゃないですけどね。
別に羨ましいとかじゃないですけどね。
確かに僕には彼女がいませんよ。ええ、十七年間も生きてきて交際時間はゼロ秒ですわ。
だからクリスマスとか全然関係ないし!!
キリストちゃんには悪いけど、キリスト教徒でもないから祝う気もないよ!!
僕にとってはクリスマスはただの平日!!
てかクリスマスって平日じゃん!!
学校休みにならないし!!
戦闘力、こどもの日の足元にも及ばねえじゃん!!
こどもの日は祭日なのに、クリスマスは平日なんだから!!
てことはさぁ!!
この世の全てのカップルは、チマキ以下ってことだよなぁ!?
だってそうだろ!?
クリスマスはカップルの日で、こどもの日はチマキの日じゃん!!
そんでさぁ、チマキの日が祭日なのにカップルの日が平日だからさぁ!!
チマキがカップルに圧勝してるのは、もう逃れようのない真実だよなぁ!?
カーテンを開ける。
フワフワのコートやらマフラーやらに身を包んだ若いカップルが、眩しい笑顔でイルミネーションの中を歩いている。
目頭がジンワリと熱くなるが、ここで『チマキ>カップルの定理』の出番だ。
「アイツらはチマキ以下、アイツらはチマキ以下……」
繰り返し声に出して念じると、だんだんとあのコートとかマフラーとかが笹の葉に見えてきた。
ならば冬の凍える寒さの中でハピネスぎゅうぎゅう詰めの笑みを浮かべているあの白い顔たちは、うるち米あるいは餅米だ。
滑稽じゃないか!! チマキが対になって夜道を歩いてんだぜ!! 仲睦まじくよぉ!!
ははははは!! ははははははははは!!
ははははは………………
「ひ゛え゛え゛え゛え゛え゛…………か゛の゛し゛ょ゛ほ゛し゛い゛よ゛お゛…………」
号泣。
涙は三滴までと決めていた。
それ以上流したら自分で自分がみっともなくなって、涙腺のブレーキがブッ壊れてしまうから。
なのに、真っ暗な部屋の中で、ポタリポタリという水音だけが儚く響き続ける。
今年も子供泣きを耐えられなかった。
歳を取るにつれて涙を流す機会はめっきり減ってしまったが、この日だけは悪い意味で童心に帰れる。
「寝よう。僕にとってクリスマスは寝溜めの日だ。そう……寝溜めの日……なんだ…………」
自分に言い聞かせているうちに、みるみる睡魔が襲ってくる。
思いきり泣いた後って寝付き良くなるよね。赤ちゃんみたい。
おまけに今日は体育でいっぱい動いたから、身体的にもヘトヘトなんだ。
何でこんな寒い時期に柔道なんだよ。殺しに来てるだろ。
とにもかくにもこれでいい。これが僕のクリスマスだ。
明日の朝になったら、もう悪夢は終わっているさ。
ハッピーバースデーキリスト。グッバイクリぼっち2020。
「くぅ…………くぅ…………」
午後七時、就寝。
*******
ガタ…………ゴト…………。
「ん…………?」
僕しかいないはずの部屋の中で、何やら物音がする。
どれくらい寝たのだろうか。
外は未だに真っ暗だ。
枕元の時計を確認。
午前2時。真夜中も真夜中。
両目をゴシゴシとこすり、ベッドからゆっくりと体を起こす。
「────っ!?」
パッチリと目が覚めた。
先っぽに白いポンポンがついた鮮やかな赤色の帽子と、そこからチラリと覗くモジャモジャの白髪。
部屋が暗い上に、しゃがんだ状態でこちらに真っ赤な背中を向けているため、顔はよく見えないが……小柄な体のすぐ側には、何やら大きな袋状の物体が。
「な…………なななな……………!!」
しばらくの間ゴソゴソと怪しい動きを続けていたその人物は、僕の声にピクリと肩を跳ねさせると、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「おやおや、気付かれてしもうたか…………ふぉふぉふぉ…………少しうるさくし過ぎたかのぉ?」
「あ…………あ…………」
少し高めなしゃがれ声が、ゆっくりと僕の耳を通り抜ける。
「なんじゃなんじゃ、そんなに怯えて…………ワシは怪しい者じゃないぞ! 小さな子どもたちに愛と夢がたっぷり詰まったプレゼントを渡す、その名もサン」
その顔いっぱいに生い茂る立派な白ヒゲを目の当たりにした時、俺は力一杯に叫んでいた。
「ドロボーーーー!!!」
「へっ?」
唖然とする相手にグングンと詰め寄り強引に地面に押し倒すと、僕は即座に腕ひしぎ十字固めを炸裂させた。
「いだああああああああああい!!!」
絶叫する不審者。まるで女みたいに綺麗な叫び声をあげるなこのジジイ。
ニューハーフサンタだなんてずいぶんと面白いモン送って来やがるじゃねえかフィンランド。
しかし、まさか体育の柔道がこんな形で役に立つとは。義務教育じゃないクセになかなかやるな。
「おうおうおう!! 最近クリスマスになるとサンタに扮して不法侵入を行うなどの悪質な犯罪が増えているってニュースを見たが、まさか実在するとはな!! 友達も彼女もいなくて毎日ネットに明け暮れているウルトラぼっちボーイ聖汰サマの情報量をナメるなよ!!」
おやおや、自分で言ってて悲しくなってきたぞ?
何で僕が技を掛けてるはずなのに、こんなに心が張り裂けそうなんだろう。
「いだいいだいいだいいだいいだいいだい!! ちょっ………ちょっと話を聞いて……」
「何が『子どもたちに愛と夢がたっぷり詰まったプレゼントを渡す』だ! どうせこの巨大な袋の中には窃盗品がたっぷり詰まってんだろ!! 白状しろ犯罪者め!」
「いだだだだだ!! くっ…………こんの………………いい加減にしろーーーー!!」
ジジイは激しく体を捻らせて俺の固め技から脱出する。
なんてパワーだ…………致死量寸前までアンチエイジングサプリメントをガブ飲みしたのか……!?
いや待て。
こいつ本当にジジイか?
さっきからやたらと高くて可愛らしい声してるし、リアクションやセリフもどことなく若々しいぞ。
そんで何より、さっき固め技をしたときに、柔らかくて温かくて、フワリといい香りがしたような……。
「まったくもう……信じられない! ちゃんと人の話は聞きなさいよ、このバカ!!」
ペリペリ。ペリペリペリ。
「なっ……!?」
マジックテープが剥がれるような音と共に、相手の顔から白いヒゲがどんどん抜け落ちていく。
「あっ、仕事中に取っちゃマズいかな……まあいっか、モサモサしてて暑苦かったし! 熱中症になったら大変だからね!」
ならないよ。氷点下やぞ。
そいつはそう言うと赤い帽子を脱ぎ去り、毛糸みたいにモジャモジャの髪の毛をスポッと取り外した。
「カ、カツラ!?」
こうして目の前にいる不審者から『サンタ』と言える要素は次々に消え失せ、残ったのはその赤い服のみ。
金色のポニーテール、サファイアのように青く輝くパッチリおめめ、桜色の薄い唇。
前髪は深緑色のチョウチョリボンで留められている。なんでそんなに色の好み渋いの?
子どものような無邪気さと大人のような色気がどちらもビンビンと放たれている。
やべえ……超絶かわいいやんけ。
「お、女……!? なんなんだよお前は!? さっさと名乗ってくれ!!」
「ぶー……さっき私が紹介しようととしたところをキミが邪魔してきたんじゃない! もう一回同じこと言うのめんどくさいんだけど……」
「いいから! 早くしないとまた固めるぞ!!」
「ひゃうっ……それは堪忍! あんなのもう一回食らったら今度こそお陀仏だもん! キミって暗殺術の使い手!?」
体育の使い手です。
「わ、わかったわ……部屋に知らない人がいたら気が動転するのも仕方ないわよね。もう一度、ちゃんと自己紹介してあげるから、毛穴かっぽじってよく聞いといてよね!」
「やだよ、ハゲちゃうだろ」
その女の子は仁王立ちの姿勢でドンと胸を叩き、鼻息をフンスと鳴らしてみせた。
並んでみると割りと背が高い。小柄に見えたのは腰を屈めていたからか。細身ながらスタイルも結構いいぞ?
これで性格に難がなければ完璧なんだが果たして……。
「コホン……私は小さな子どもたちに愛と夢がたっぷり詰まったプレゼントをお届けする美少女サンタクロース…………その名もミーネちゃんよ!!」
うわあ。
さっきもチラッと聞こえたけど、やっぱこんな痛々しい自己紹介してくるやつは却下っすわ。
『彼女が欲しい』とは言ったけど、さすがの僕も見た目さえ良けりゃ誰でもウェルカム、なんて浅はかな考えは持ち合わせていない。
それに失礼かもしれないけど、この娘はとってもバカそうな気配がする。
「ちょっと……聞いてんの!? この私が二度も紹介をしてあげたんだから、聞き逃したんだったらタダじゃ置かないわよ! すぐにもう一回言ってあげるんだから!」
タダで置いてる。
「聞いてるよ。噛み砕いて言うと、お前はサンタのフリをして他人の家に無許可でこっそりと入り、金目のモノを盗んで立ち去るという、警察のお得意様ってワケだな?」
「噛み砕いた結果ぜんぜん違うもの口から吐き出してきた!! だーかーらー!! 私は本物のサンタだって言ってるでしょ!?」
「僕をバカにし過ぎだろ。女のサンタだなんて聞いたことないよ。サンタクロースはしわくちゃな老人の男だ。お前みたいな端正な顔立ちの超絶美少女がサンタを名乗るなんて、お門違いもいいとこだ」
「そ、そんなに褒めないでよ……えへへ…………」
ばかだぁ。
ミーネは体をくねらせながら、にへらにへらと上機嫌そうに笑っていたが、しばらくして我に帰ったように僕に向き直る。
「……じゃなくて! 私はホントにサンタなのよ! 正確に言うと……私はサンタの孫なの!」
「はあ? 言うに事欠いてお前はまたそんな適当なウソを…………」
「本当よ! 確かに例年はおじいちゃん……キミや皆のイメージ通りのサンタがプレゼントを届けに来てたわ! でも今年はちょっと事情があって、私が行かなきゃいけなくなったのよ!」
そんなバカな。サンタが代役を立てるなんて聞いたことがないぞ。
だが、こんな色々とかわいそうなポンコツ孫娘に頼まなくちゃいけないくらいだ。
さぞかし重大な理由があったんだろう。まさか病気とか事故とか……?
「おじいちゃん、クリスマス前日に食べ過ぎてソリが重量オーバーになって乗れなくなったのよ」
親族すぎるだろお前ら。
「引っ張るトナカイさんたちも首がもぎ取れそうになってたわ。動物なのに『ちょっ……ギブ……!』って言ってた」
その祖父にしてこの孫あり……残念遺伝子をしっかり受け継いでしまってるわけだ。
「というわけで、今年はこのミーネちゃんが完璧な変装と演技でサンタクロースになりきり、小さな子どもたちに夢いっぱいのプレゼントを配り回ってるってわけよ!! どう、すごいでしょ!?」
「あの……ずっと気になってたんだけどさ、質問していいか?」
「ええ、ばっちこいだわ!!」
「お前のターゲットが『小さな子どもたち』なら、何で僕の部屋にいるんだ? 僕はもう高校二年生だぞ? それになんかゴソゴソしてたし……」
「簡単よ! 道中でおなかが減ったから、休憩がてらこの部屋でなにか食べられる物がないかと思って物色を…………あ」
「もしもし、戦車のMサイズを5人前と戦闘用ヘリのSサイズを3人前、あと……」
「ひいいいい!! ピザの出前感覚で戦闘機オーダーしてる!! 戦車のMサイズってなんなの!?」
ミーネは僕の手からスマホを取り上げると、汗だくの手で電源を切った。
「ウソだよ。こんな時間に繋がるわけないだろ。僕にそんなコネないし。まあどっちにしろ、お前を警察に突き出すのは変わりないがな」
「ううっ…………ひどい…………」
先程までのハイテンションはどこへやら、完全に意気消沈してしまったミーネ。
なにやら上目遣いで僕の方をチラリチラリと見てくる。
「わかったわ……おじいちゃんにはあんまり使いすぎちゃダメって言われてるけど、警察捕まるのはイヤだから、やってあげる」
「んあ? 何を?」
「キミの願いを、何でも一つだけ叶えてあげるわ!!」
「…………マジ?」
「たまにいるのよ、オモチャやお菓子じゃなく、難易度がチョー高いお願いをしてくる子どもが。『お母さんの病気を治してください』とか『お父さんとお母さんが仲良くしてくれますように』とか」
「ああ、複雑な環境にいる子どもな。最近増えてきてるけど」
絶対に叶えたいことがあるけど、自分の力じゃどうにもできない。
だから無力な子どもたちは、ワラにもすがる思いでサンタに願いを託すんだろう。
『サンタさんならきっと……』ってな。
「どんな無理難題も、お前の力なら叶えられるってのか?」
「ええ。体にも負担がかかるし、できることなら使いたくないけど……色々と迷惑を掛けたお詫びとして、キミのどんなお願いでも、私が一つだけ叶えてあげるわ」
「どんな願いでも……」
生唾をゴクリンチョ。猜疑心より欲望が勝ってしまう。
どんな願いでもってことは、アレっすよね?
彼女、とかもいけちゃうんですよね?
超絶かわいい彼女、とかでもオッケーなんすよね?
「なーんだよ!! お前すっごく優しいやつじゃーん! 僕の方こそ失礼なこといっぱい言ってごめんな!」
「ぬおお、二重人格を疑うほどの手のひら返しだわ……まあ、約束は約束よ! お金でも食べ物でもゲームでも、何でも好きなものを言」
「女」
「………………ほぇ?」
「女、よこせ、俺様に」
もう手段は選んでられない。
十七年生きてきて分かった。
どうやら彼女を作るには、僕一人の力では限界があるみたいだってこと。
この場で一時の恥をかくだけで自分の最大のコンプレックスから脱出できるなら安いもんだろ!! なぁ!!
「頼む…………誰もが振り向くようなとっておきの美少女を…………最高の彼女を僕にください…………ミーネさまぁ…………!」
ド・ゲ・ザ。
何かの偶然で目が覚めた両親が見たら膝から崩れ落ちて泣きじゃくりそうなほど惨めな姿だって、自分でもわかってる。
ミーネがどんな顔をしているのかなんて想像つく。
きっと僕のこの姿にドン引きしてるに違いない。何ならもう帰ってるかもしれない。
頭が上げられない。自分の部屋なのに沈黙が気まずいこと気まずいこと。
だが、それは思わぬセリフで破られることとなった。
「…………うれしい…………」
はゎゎ?
「それって、私への告白…………よね?」
首だけを上へ。
そこには顔を夕焼けのように染めて瞳を潤ませているミーネちゃん。
「おおおおお前、何をトチ狂ったことを……!! 僕が望んだのはとびきり可愛い彼女で……」
「だってキミ、さっき言ってくれたじゃない! 私のこと『端正な顔立ちの超絶美少女』って!」
しまったぁ。
「待て待て待て!! 確かに正直言って見た目はドストライクだが、僕はお前みたいな性格に問題がある女は……」
「ふふふ……照れ隠しのつもり?」
「なんですと?」
「数十秒前に私のこと『すっごく優しいやつ』って褒めてくれたクセに~!」
コイツおバカなのに記憶力だけすんごいのね!!
ハイテンションのミーネがベッタリとひっついてくる。
「なーんだ! セイタったら私に一目惚れしてたのね! 最初のアレも『愛の腕ひしぎ十字固め』だったんだ!」
「んな技名この世に存在しねえよ!! てか何で僕の名前を……」
「改めまして、ふつつつつつつつつつか者ですがこれから宜しくお願いします」
「『つ』が調子乗ってる!! い……イヤだ、僕はお前みたいなポンコツ女とは……」
「よし、それじゃあセイタも私と一緒に、プレゼント渡しの旅にレッツゴー!!」
「こらやめろ! 縛んな縛んな!! 窃盗の次は拉致監禁かこの犯罪者め!! いだだだだ!!」
彼女の髪留めと同じ深緑色のリボンで体をグルグル巻きにされ、身動きが取れなくなる。
「だいっじょーぶ! プレゼントをぜんぶ渡し終わったら家に帰してあげるから! まあ私もこれからセイタの家で一緒に暮らしていくことになるけどね! 恋人同士なんだから!」
「ふざけろよ!! お前は家に帰れよ!! おじいちゃん心配すんだろ!!」
「『友達と勉強会するから遅くなる』って伝えるし、問題ナシよ!!」
「完全にヤバイこと包み隠す時の言い訳だろうが…………ぬおおおおお!?」
ソリは冬の晴れた空を勢いよく走り始める。
真ん丸いお月様が目と鼻の先に見える。
くそぉ…………願いが叶ったってのにぜんぜん嬉しくない!!
でもコイツの楽しそうなかわいい笑顔を見てたらだんだんと嬉しくなってきたのが余計に腹立つ!!
「いぎゃああああ寒い寒い寒い寒い!! ちくしょおおおおお!! やっぱりクリスマスなんて大っ嫌いだあああ!!」
「でへへへへ…………ねえねえ彼ピッピィ……次どこ行くぅ? マジでクリスマス、サイコーサイコーマン華麗に参上って感じだわぁ………………ん? なんか空から叫び声が……」
「おいミーネ!! もっとスピード落とせ!! 凍え死ぬから!! 僕の顔、もう真っ白だし!!」
「やだ!!」
「なぜ!!」
「メリークリスマス!!」
「会話になってねえんだよこのバカサンタがああああ!!!」
「ヤババのバ、あれサンタじゃね? 初めて見たわ。てかなんか後ろに緑のヤツで巻かれた真っ白い顔の男乗ってたんだけど。チマキみてえ。ウケる」




