昨日の続きを、しませんか?
「ミオ殿、大丈夫ですか具合でも?」
膝からがっくり崩れかけた私をカノン様が咄嗟に支えた。何なのこんだけ心配させといて、そんなオチかい。魔導具まで持ち出した騎士団連中こそいい面の皮だ。彼らも今頃食堂で軒並み脱力していることだろう。
「大丈夫です、ちょっと眩暈が……」
「いけませんね。貴女、そう言えば貧血気味だとおっしゃっていましたね」
横になりますか、少しお休みになりますか、やはり今日の演習の疲れが出たのでしょうか、と、彼比でオロオロしているカノン様に私は言った。
「大丈夫、本当に大丈夫です。もう収まりました」
しかしこの人、ちょこっとだけした昔話の内容までよく覚えてるよな。貧血の話なんてしたの、事情聴取の時ぐらいじゃなかったっけか?
「とにかく、戦争のお告げとかじゃなくてホッとしました」
私は心から言った。ホッとしたら押さえつけていた欲望がムクムクと鎌首をもたげていた。生成りのローブ姿で無防備にベッドに腰かける絶世の美青年、その実全身ガッチガチ。コレ、揉んでくれって言ってるようなモンよな? 誘ってる?? 誘われちゃってる??? ねぇコレさ、もうヤッちゃっていいよな????
「でね、カノン様にもうひとつ、お訊きしたいことが」
どっちかっていうとコッチが本命っていうか真の目的っていうか、と、私が切り出すと、カノン様はローブの裾を直し、はい何でしょう、と小首をかしげる。私は意を決して切り出した。
「昨日の続きを、しませんか?」
カノン様の答えは「はい」だった。
イエーイ! と内心で雄叫びを上げつつ、うつ伏せになってもらう。んふふふ……存分に腕をふるいましょうぞ。
昨日のおさらいの如く全身を一通り施術したが、やっぱりアレな感じのお体のままだった。そりゃあたかが1回の施術で劇的に改善するわきゃないわな。今後も地道にこつこつと事あるごとにやらせていただきましょうぞ。継続は力なりだ。
それはともかくとして、患者さんことカノン様の反応がやけにいい。凄い、もっと、気持ちいい、貴女の手あったかい……等々、絶賛の嵐。私は危うく自分が凄腕の名セラピストになったかのような錯覚を起こしたが、正直悪くない気分だ。
そして、痛い時は素直に痛がった。初回の昨日は小動物のように怯えながら控えめに痛みを訴えてきたのだが、今夜は大袈裟なぐらいに喘ぐ喘ぐ。私の最推し梨状筋にアタックかました時なんか、舌っ足らずな嬌声で、やだ痛いお尻痛いですとガチ泣きされてしまった。私としては、そんな痛くしてるつもりはないんだけどなあ、と返すしかない。どんだけイカレた下半身なんだよ。これはもう腰から整えてかないと足も背中もよくならないぞ。
「痛いなら、やめますか?」
「あぅっ……いたっ、痛いけどっ、でも、やめないで……あぁっ……」
「力緩めましょうか?」
「んっ……平気です。我慢します、我慢できますからぁ……ぁ」
あのな、我慢大会とちゃうねんで、という意味合いのことを極力マイルドな表現で伝えたのだが、カノン様はもっともっとと貪欲だ。とりあえず、ノンストップナイアガラフォールズの時に誓った「コイツ絶対泣かしたる、今夜アンアン言わせたる」は無事達成したことになる……のだろうか?
私の中では梨状筋に次ぐ推しであるところの棘下筋の時は、カノン様は痛がりつつも悦びまくって啼いていた。あぁ、無理、いい、溶ける、溶けちゃう……etc,etc。カノン様は肩甲骨に氷を乗せたように冷たく重く感じると自己申告した程のアレな症状の方なので、棘下筋攻めで「(氷が)溶けちゃう」のは理解できるが、喘ぎながらの嬌声と共にそういうコト言われちゃうとね、何と言うかね、何とも言えない気分になるんですわ。
仰向けになってからの大腿四頭筋で、あぁ神よ私はどうすればいいのでしょう、と、喘ぎながらの吐息と共に口走られた時にゃ、知らんがな、となった。まったく、何のプレイやねんと。
これだけの感度の良さを披露したというのに、頭板状筋は相変わらずの不感症だった。この頸部は手強い。どないかせなあかん。
一連のプレイいや施術を終えて、はふはふしているカノン様の足裏にそっと触れながら私は訊いた。
「カノン様が全身で大絶賛してくれたから気分いいわ。貧血覚悟の大出血サービスさしてもらいましょ。ココも、していいですか?」
「え、でも……」
カノン様は息を整えながら涙目で、
「いけません、そんな所……汚いですし」
「患者様のお体で、汚いトコなんかありません」
私はきっぱりと言い切った。
施術者でも確かに足裏は抵抗があるという人も中にはいる。他人の足なんか触るの嫌だよ、というね。でも私は幸か不幸か元からそんな感覚は持ち合わせていなかったので――足裏大好きむしろ萌え。
「シャワーは済んでるんでしょ? 出歩いてもないみたいだし。でもカノン様はどこもかしこも綺麗ですよ。シャワーどころか体拭くのもままならなかったあの1週間の行軍でだって、あなたはとっても綺麗でしたよ。あくまで個人の感想ですけど」
「お戯れを……」
おや、テレてる? かーわいっ♪
「何たって第2の心臓言うぐらいですからね。ツボの宝庫なんですよ。もしかしたら第2の合谷が見つかっちゃったりなんか――」
「是非お願いします」
即答かよ。手のひら返し凄ぇーな。
「そしたら早速始めさしてもらいます。基本的に痛くはしません。ただ、カノン様の今のお体の状態だと痛く感じる箇所もあるかも知れません」
これ幸いにと私は足裏初回の患者さんに対する諸注意を立て板に水とばかりにすらすらと。施術者なりたての頃はつっかえつっかえでコレさえも大仕事のように感じてたよな、なんて思い出しながら。
「構いません、痛くして下さい。ミオ殿が下さるものなら痛みでさえも甘受致します」
言ったな~? だったら遠慮はしませんよ。
私はニヤリと黒い笑いを浮かべた。
評価ブクマ等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。
全年齢対象です。R-18とかじゃありません。
やってることは施術です。
と、いうお話です。
マッスルマッスルで大満足 → からの → 許可ゲットだぜ! それなら遠慮なく(ニヤリ)の黒聖女様。
そして、カノン様アンタのソレ部下達にバッチリ盗聴されてまっせ、と耳打ちしたくなる章とも言います。