【複属性は】「エルフじゃあるまいし、それはチートだぁぁぁ!!!」【希少種です】
「ミオちゃん、もうおもらしからは離れよう」
ホラこれ食べて、と、ヘイゼル殿が半分に割った紫の果物を私の口に突っ込んだ。むぐむぐごっくん……ウマー。
子供かよ、と笑うポール殿にむくれてみせて――あぁそう言えば、と、思い出す。
「私が『火』の人じゃなかったこと、ちょっと気にしてたかな」
「それって属性のこと?」
はい、と私はヘイゼル殿に頷いた。ポール殿は思い至ったようで、あぁ、と目を眇める。当時の随行員もこの場に何人かいたようで、彼らも各々思い出したようだ。
「ヘルコンドル大虐殺の、アレな。俺が魔力切れなのに何故か焼き鳥大増産の」
「かまいたちの方は、私の『風』だろう、で説明がつくけど、って――」
「って待てやコラ、ミオ様みずまじゃなかったんですか!?」
「みずま?」
「水魔法、略してみずま。ってんなこたぁどーでもいいんすよじゃあ何っすか!? ミオ様まさか……」
「えーっと、みずま? は大器晩成型。かぜま? は、習得上達共に早そうだ、って」
「何てこった!!!」
ポール殿はオーマイガ! の仕草で天を仰いだ。コレってヴァルオードでもあるんだなー、と思いつつ、無難に南無三返ししておいて、
「その時はカノン様、フツーにデュフフコポォしてました」
「デュフフコポォって……」
斬新な表現だね、と、ヘイゼル殿は半笑い。
「いやいやちょっと待てお前らなんでそんなに冷静なんだよ! 黒瞳の聖女が複属性持ちって判明したんだぞヤベェよヤベェよ!」
ポール殿、アンタのテンションのがヤベェよヤベェよ。それどこの出巛さんだよヤバイよヤバいよ。
「いいか、大抵の人間は単属性――水なら水、火なら火、風なら風、土なら土オンリーだ。時々神様とやらが気まぐれに光だの雷だのポンと寄越すこともあるがな、それでも四大元素は単独が基本だ。縛りのない属性を後天的に身につけるヤツもいなくはないが、それこそとんでもねー血のにじむ努力がセットだぞ!?
それが何だ? コッチ来てから両手足の指の数で足りそうな日数しか経ってないぽっと出のお嬢ちゃんが、複数持ちだと!? ミオ様もヘイゼルももっと驚け驚き叫べ! コレすげーぇことなんだぞわかってんのか!?」
え、そーなん? 私は首をかしげた。
「えー、だってカノン様は……」
光と水と土、風も持ってるけど封じたみたいなこと言ってたぞ?
「カノン様を基準にするのは間違ってる、ありゃあバケモンだ」
ポール殿の言い草は字面だけ追うと酷かったが、羨望と尊敬の意がありありと見える。食堂に集うメンツもそれぞれ、うんうん、と頷いている。彼らの中には、ポール殿の醸し出すオーラにプラスして、畏怖の感情を混じえている者もいるか。
「むしろ小官のような者こそが一般的です。いわゆる無属性というものですな」
私と目が合うと、アレン殿が淡々と言った。だからこそ小官は剣技を磨いたのです、とも彼は付け加えた。
「そう卑下することもねぇよ、アレン。アンタらみたいのがいわゆる『普通の人間』だ。アンタの言葉を借りるなら、魔法はそれほど『一般的』じゃない。騎士団にいる分にゃ目立たんが、『魔法使い』は魔法使いになる前に大なり小なり色々あったさ」
ポール殿はほろ苦く笑って、
「でもまぁそれはいい、今は叫ばせてくれ。……『聖女様』が複属性持ちとかずるいぞー! 俺もうマージやめてえぇよー!!」
「では小官も」
アレン殿はウォッホン! と迫力ある咳払いをして、
「小官も魔法が欲しかったぞ! 聖女様に2つも与えるなら小官に1つくれてもよかろうが!! 神は不公平だ!!!」
魂の叫びだね、と、ヘイゼル殿は呟いて、紫色の果物をアレン殿の前にお供えした。アンタそんな風に思ってたのか、と、ポール殿は意外そうにアイスブルーの目を見開く。
「じゃあ、僕も」
主武器が弓の風魔法使いの年若い兵が大きく息を吸い込んで、
「僕だってヘルコンドルジェノサイドの現場にいたんだぞー! なのに君は違うって、容疑者にさえされなかったんだー! 僕だってかぜまなのにーっ! 少しは疑ってくれてもいいじゃないかーっっ!」
ジェノサイドって……ホントにミオちゃん何したの、とヘイゼル殿は怯えたように私を見た。カノン様が敷いた緘口令は鉄壁のようだ。私としては、だから何で私がやったって前提なの、と力なくツッコむ他ない。ポール殿はかぜま少年に、いやお前の魔力じゃあそこまでの惨状にはならん、と冷静に諭していた。しかし容疑者志望とは新しいな。
そこからはもう怒濤のようだった。
ヴァルオードが誇るヴァルハラ騎士団による大絶叫大会だ。
「努力に勝る才能は無しだーっっ! 先天性の複属性には勝てんぞー!」「ずるいぞー!」「うらやまだぞー!」
「天然モノの2種属性とか、聖女様ホントに人間かぁぁ!?」「エルフじゃあるまいし、それはチートだぁぁ!!」
「小官はミオ様のレイキが好きだー!」「僕もだー!」「俺もだー!」
「俺はミオ様のスープが好きだー!」「僕もだー!」「アクは抜くべし!」「抜くべしー!」「灰汁は取るべし!!」「可食部が減るぞー!」
「ゴウコク最高!」「ゴーコクサイコー!」
「レイキは至上!」「れいきバンザイ!」
「『黒瞳の聖女』は無能じゃないぞ!」「能無しって言う方が能無しだぞー!」
「俺達の聖女様を馬鹿にするなー!」「バカにするなー!」
「『黒瞳の聖女』は至宝だぞー!」「そうだぞー!」
確かに『黒瞳』の意味が変わりそうだね、とヘイゼル殿は芝居がかった仕草で肩をすくめる。何だろう胸と目頭が熱い。
お読みいただきありがとうございます。
『黒瞳』=腰抜けの能無しという強烈な差別用語、のはずが一転致しましたでござるの巻。
またの名を、夜半の大絶叫大会のお話とも言います。
いわゆる『魔法使い』の人達の苦悩もちょこっと。
彼らは『一般社会』で浮いてしまいがち。だからこそ『異世界からの訪問者』にも優しいのかも知れません。