【魔力モレ】おもらし聖女という不名誉なレッテル【ミットモナイ】
「群れないのがラディウス卿の通常営業、って感じだと――」
「ヘイゼルお前はあの人の上っ面しか見てねぇな?」
ポール殿は木製の茶碗の赤い果実に茶色い砂糖をどばどばかけて、
「穏やかな人格者のハイプリーストは世を忍ぶ仮の姿、実体は研究者志望の魔法馬鹿だ。ラディウスの跡取りでもなきゃ魔法の研究家か歴史学者になりたかったってヒトだからな」
あぁ、それ何かわかるわー。いかにもな感じ。私は紫色の果実をナイフで割る係をしなから、うんうんと頷いた。
「だから今日なんか、ミオ様があんだけ盛大なおもらしをやらかしたの目の当たりにしてこんだけ大人しいって、変だろ?
通常営業ってぇなら、ご覧下さい私の運命の聖女様はこんなにも才能豊かなお方なのですよこのおもらしこそがその証! とかって嬉々として触れ回らない方がおかしいんだよ。俺のこの竜のウロコを賭けてもいい!」
おいポール、おもらしおもらし連呼すんなや人聞きの悪い。
と、素でツッコんだがポール殿はけろりとしたもので、
「いいですか、聖女様? マージの先輩として忠告しときますがね、魔力漏れは本来恥ずかしいコトなんですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「フツーに考えてみりゃわかるでしょう。クソションベン垂れ流しって、どーですよ? 人として最低限、トイレでしろよってことですよ? 排泄のコントロールできないのと一緒ですよ。ソレって致命的でしょうが」
「ポール、言い方」
ヘイゼル殿は諫めたが、ポール殿の発言内容そのものに対する訂正はなかった。
「あぁぅ……」
私は頭を抱えた、比喩でなく文字通り。魔法使いの人達から見れば私はただの失禁娘だったってことになるのか。ヨロイー’sが何も問わずに粛々と作業してたのは、訊かないでいてやろうというおもらしお嬢さんに対する紳士の優しさだったのか。片目のお猫様ことまーくんでさえ、おちっこちゅーは猫トイレでしてた。私、猫以下だ……あぁぁぁぁ……!
「ああぁぁぁぁあ私のせいだぁぁぁぁ私のせいでカノン様気分悪くなっちゃったんだぁぁぁおもらし娘だみっともないって思われてるぅぅぅぅしかもあんな盛大なおもらしぃぃぃイヤァァァハズカシーィィィィィ!」
「ミオちゃん、危ないからとりあえずナイフは置こう。振り回さないで」
ヘイゼル殿が冷静に、発狂する私の手からナイフを取り上げた。ポール殿は茶碗の中身を木製のスプーンで潰しながらニヤニヤ笑って、
「本来不名誉な聖女様大失禁でさえ、カノン様なら『私の運命』のやることなすこと大肯定っしょ。相棒が何やらかしても可愛い可愛い言ってる竜騎士のヤツらと一緒だからな、『オラクル』の時のカノン様は」
竜騎士連中っちゃ、俺の竜エサ食ったエライエライ、ちゃんとウンコできたエライエライ、ブレス上手に吐けたエライエライ、俺の相棒天才か、って調子だからな、と言いつつポール殿は茶碗の中身を味見して、砂糖を大量に追加した。
「君が俺達をどういう目で見てるのかよくわかったよ」
ヘイゼル殿は紫色の果物を割る係を私から勝手に引き継いでくれたようだ。
「だけど俺達だって盲目的に相棒を甘やかしてるわけじゃない。所構わずブレスを吐くならもちろん叱るさ、危ないからね。
俺のカノンは氷竜だから、ブレスには特に気を付けてる。炎を吐く子は多いけど、氷のブレスは希少種だから、あまり人目のある所で吐いてはいけないよ、悪い人に目をつけられてしまうから、誘拐犯と判断したら迷わず氷漬けにしてやりなさい、って躾けてるよ」
「お前には人間に対する配慮ってモンはねぇんだな」
「正当防衛って単語を知ってるかい、ポール?」
「猫っ可愛がりしやがって。……ん? 竜だから、竜っ可愛がり、か?」
どーでもええわそんなん。私はおもらしショックからどうにか立ち直り、ツッコミを入れた。復活早ぇなミオ様、と茶々を入れるポール殿に、打たれ強いのが数少ない取り得でして、と返しておく。
「そりゃ何よりだ。カノン様にはミオ様のそういう逞しさが眩しいんだろうな。
……とにかく、俺に言わせりゃあの人が相棒を猫っ可愛がり? いや竜っ可愛がりか? する竜馬鹿の竜騎士ばりに嬉々として聖女様のアクロバット擁護かまさない時点でおかしいんだ。今朝のあの浮かれっぷりからの落差が激しすぎる」
講義中何があった、とマジモードで問うポール殿。促され、回想したが、特に思い当たるフシはない。うぅぅやっぱおもらしがまずかったんやぁぁぁ……!
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異世界での珍常識(?)
タイトル通りの忠告ですが、いやこれは大目に見ていただきたい。
と、いうお話です。
またの名を、竜馬鹿の竜騎士は人間に対する配慮はナッシングでござるの巻とも言います。
でもね、失敗は誰にでもあります。
こうして人は成長し、手練れのマジシャンになっていくのですよ。
……多分、きっと、おそらくは。