お待ちかねの適性検査
魔法の四大元素――土、風、水、火の説明と、基本属性のことをみっちりと、そして四大元素の枠の外のこともちょっぴりご教授いただいて、お待ちかねの適性チェックのお時間だ。
カノン様は持参した荷物の中から細長い小さな箱と謎の文字盤を取り出した。魔法のお勉強で何その戦争行くみたいな大荷物、と思っていたが、その大部分はこの謎の文字盤のせいだった。
カノン様はテーブルに文字盤を設置した。私は、彼が何故この勉強会の場所に食堂を指定したのかがわかった、と思った。この文字盤は寮の個室のちっちゃい机には置けない。必要なのは食堂のでっかいテーブルだったというわけだ。
彼は続けて、ネックレスでも入ってそうな形の箱を開けた。箱自体はシンプルだが、ビロード張りでいかにも由緒ありげといった感じ。箱の中には氷柱状のクリスタルが鎮座していた。無色透明で、銀の鎖が付いている。
「それは、ペンデュラムですか?」
同じような形状のモノを院のバックヤードサロンで見たことがあった。えぇそうですよ、とカノン様は肯定した。
文字盤には上段に4つ、下段に3つ、紋様が描かれていた。紋様にはそれぞれルビのように何を示しているのか書かれている。上段左から、土、風、水、火、下段左から光、雷、闇。もっとも、ルビなんかなくてもそれらのマークが何を意味するかは一目で判る。とっても判り易い記号だ。
適性チェックを受けたい人がペンデュラムを持ち、文字盤の上にかざすと、適性のある魔法のところでペンデュラムが動くということだ。何かすっげー非科学的だなーインチキし放題ですやん。大丈夫なんか、こんなんで?
という私の内心を読んだかのようにカノン様は言った。
「無理に動かそうとしても動きませんよ。……私の場合ですと、」
カノン様は氷柱状のクリスタル部分を握ると低く何事かを唱え、ペンデュラムを文字盤の上に通した。土の箇所でくるるんくるるんと左回り、風で上下にゆーらゆら、水の所では右回りで大きくぐるんぐるん回って、光も続けてぐいんぐいん右に回った。
「土は後天的に身につけたもの、風はそこそこの適性有だが土を取得した為除外、水と光は先天性の適性有、ということになります。そして、」
カノン様は雷の所にペンデュラムをかざした。しばらくは光の惰性でゆらゆらしていたものの、じきにぴたりと動かなくなった。闇も同様で、ゆらりともしない。
「雷、闇共に適正無し。学ぶだけ無駄、ということになります」
「ほへ~ぇ」
こりゃあ面白い。ちょっとした占いみたいだ。
しかし、学ぶだけ無駄、って、自分のことだからかも知れないけど随分辛辣やなー。
「適性を知るというのは大事なことですよ。『好き』と『上手』は違います。
努力は人を裏切らないという格言がありますが、私はそれには異を唱えたい。見当違いの努力は容易に人を裏切ります。
俗に言う『強い魔法使い』とは、魔力が豊富で、かつ己と相性のいい魔法を身につけた者のことを指すのです。適正外の魔法を行使するのは、効果が薄いばかりではなく、使役者本人の心身を蝕むことにもなりかねません」
ですから私はどなたかに魔法をお教えする際は必ず適性検査を義務付けております、とカノン様は鹿爪らしく言い切った。
「さ、御手をこちらに」
カノン様が私の手を取り、ペンデュラムを握らせる。カノン様の手が私の手を包み、また何事か唱えた。
「これで貴女にチューニング済です。まずはここ、『土』の所にかざしてご覧なさい」
私は素直にそうした。何か針金でも仕込んだのかってぐらいに直立不動なんだけど。
ふむ、とカノン様は軽く頷いて、
「では次、隣の『風』に」
驚いたことに『風』の上に来た途端、直立不動だったペンデュラムがゆっくりと右に回り始めた。回転は徐々に大きく早くなり、くるくるくると勢いが増す。
「なるほど、ミオ殿は『風』の適性もお有りなのですね。習得、上達共に早そうです」
カノン様は機嫌よさげに言って、
「さ、お次は『水』です」
と促した。はい、と応えてペンデュラムを右横へ。何も描いてない所で惰性でゆらゆらしてたのが、『水』の紋様の上に差しかかった途端、意思を持ったかのように、ぐいん! と大きく右に回った。
「わわっ! 何? 何!?」
私は慌てた。『風』の時はスピーディーに小回りにくるくるくる、だったのが、『水』では大きく、ゆーったりと、ぐいんぐいんぐいん、だ。コンパスを最大に広げたみたいな大回り、回転数もぐんぐん上がる。
ウホッ! とカノン様が妙な声を上げた。ブフォッ! だったかも知れない。いやそれはどっちでもいい。イヤ~な予感がしてカノン様を見ると、彼は翡翠の瞳をきらきらさせて恍惚の表情だ。ヤベェわデュフフコポォの一歩手前。
「言っときますけど、動かしてませんからね?」
「えぇ、えぇ、勿論わかっておりますよ。動かそうとして動かせるものではありませんからね」
カノン様はデュフフ、と含み笑って、
「嗚呼やはり! 貴女は『水』でした! 大きな円は才能のしるし! 回転速度は上達の早さ!! 右回転は天然モノのあかし!!! 素晴らしいああ素晴らしい! ミオ殿、貴女はまったくもって凄まじい才の持ち主ですよ! ここまでですともう妬みの感情すら湧きません。多少は時間がかかっても、貴女は後世に名を遺す水魔法の使い手となるでしょう!」
時間かかるんかい。まぁね、我ながら要領いいタイプではないけどさ。いいわ、その分努力でカバーする。大器晩成型とでも思っておくわ……。
「お任せ下さいミオ殿。貴女は私が! 手塩にかけて!! 大事に大切にお育てします!!!」
お、おぅ……。
「はい、よろしくお願いします……?」
つい疑問形になってしまった。とりあえずカノン様の異常なテンションが怖い。
ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。
この世界での魔法の適性検査はこんな感じです。
チェッカーのペンデュラムは資格を得た人のみが持てるという裏設定。
魔法オタクで高所恐怖症のカノン様ですが、実は彼、この世界ではエリートなんですよ……と、ここでこっそり呟いておきます。
実は私、有資格者なんです! と、ご本人に堂々と申し開きしていただいてもよかったのですが、どうも彼はエリート風吹かすとか自信満々で自慢しまくるとかできない人だったようでして。
それよりも「私の運命の聖女様」が才能アリ判定でデュフフコポォするのに忙しかっただけかも知れません。