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深夜のお礼セラピー ~ハムよりヒラメ、裏腿筋群より下腿~

 私の最推し梨状筋のいる臀部に続いて、足の施術。

 触診の段階で、うわぁコレは可哀想やな……と、なったパンパンのあんよは、見かけこそほっそりしているが、指圧すれば確かな筋肉の手応えを感じさせてくれる。素敵なおみ足だ。

 

 だが。


 繰り返すが、カノン様のあんよはあくまで『可哀想なあんよ』だ。

 ハムストリングを重ね手根で圧しながら、私は院の患者のワダさんを思い出していた。片目のお猫様ことまーくんと相思相愛の、ペットショップ勤務のおねーさん。立ち仕事のせいか、常に足のだるさを訴えていた。足裏の施術を勧めたら見事にハマってくれて、足があったかくなったと喜んでいた。足先は真夏でもひんやりしていた。冷えとむくみと重だるさ。彼女の足はいつだって三重苦。今はどうしているだろう、ケイ先生のお灸で少しは楽になってればいいけれど――。


「カノン様、足先が冷えたりとかしませんか?」


 ハムストリングから淀みなく下腿に移行しながら私は訊いた。下腿三頭筋 (いわゆるふくらはぎだ)も、哀しくなる程張っていた。腰であれだけヒィヒィ言ってるぐらいだから当然の結果とも言える。


「よくご存じですな」


 果たして、カノン様は素直に認めた。言い当てられてビックリしたって感じの声だ。


「水魔法の使用頻度が高いからかと半ば諦めておりますが、手も足も冷えます。着衣越しにも判る程に冷えていますか?」


 いや多分水魔法は関係ないと思う血行悪いだけやで……とは、魔法は門外漢の私には言い切ることはできないが。


「カノン様のハムから下腿三頭筋の感じがね、とある患者さんの状態にとってもよく似てるんですよね」


「はむ……?」


「ハムストリング。裏腿筋群。正確には、大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋」


「何やら……、面妖な……っ、呪文のような……くっ……!」


 下腿の把握で痛がり息を詰めたカノン様の様子を見て、私は方針を変えた。ハムよりヒラメ、裏ももよりふくらはぎだ。

 太腿もパンパンだけど、このふくらはぎは放置できない。ここまでわかりやすくぱっつんぱっつんに張ってるんだから、いきなり把握する前に下ごしらえをするべきだった。すまん反省している。

 ヒラメ筋の際を狙って手根で輪状揉捏ぐーるぐる。続いて腓腹筋をごく軽い圧と共に輪状揉捏ぐーるぐる。私の中の吉幾ミがついに覚醒ぐーるぐる。あの元祖ジャパニーズラップはまったくもって汎用性が高いぞぐーるぐる。


 ぐーるぐる、ぐーるぐる、ひたすら揉ねつぐーるぐる。で、幾分ほぐれたと判断し、改めて下腿からアキレス腱の把握。

 実は私は、この把握の手技を苦手としていた。把握とは文字通り、手のひらから五指までフルに使ってふくらはぎを包むというかつかむというかして血行を促進しほぐす技なのだが、手が小さいのでどうしても甘くなりがちなのだ。

 エロ院長はEカップ巨乳をつかむ感じで、というとんでもねー指導をかましてくれたものだが、Eカップ巨乳は私の手には余り過ぎた。Dではなく、E。そこは譲れないとクソ院長は力説していたが、心からアホかと思った。

 学校に通うようになって知ったが、やはり女性施術者はこの手技を不得手としている者が多かった。手が小さいということはそれだけでハンデだ。掴む、ではなく、どうしても摘まむ感じになってしまう。数をこなすうち、どうにか及第点にまで達したが、やはり今でも苦手意識が残っている。


 でもまぁ下腿へのアプローチは何も把握だけじゃない。きりもみ、手根揺すり、何ならさっきやってた輪状揉捏だってある。私はカノン様の可哀想なふくらはぎの為に、私の持てる総ての技を披露した。そのうち足裏もやってあげたい。この足には定期的なケアが必要だ。

 下腿はあまり強くされると気持ち悪さを訴える人もいるから、そういう人にはがっつり把握よりソフトな揉捏で対応した方がウケることも多々ある。それこそ院長の言い草じゃないけど、おっぱいの扱い方と一緒だ。いきなりガッとつかまれたら嫌じゃないか痛くないか? ソフトに、優しく、もみもみぐるぐるしてあげた方が悦ぶんじゃないのか? なぁEカップ巨乳よ、そうだろ? 巨乳は感度が悪いなんて都市レジェンドがあるそうだが、そんなの大嘘だ。ソースは私だから確かだ。施術をするようになってから大胸筋が発達したんだよ。施術はバストアップ効果もあるんだよ、する方もされる方も……ってコレじゃバストアップというよりビルドアップかも知れんが。

 しかし、下腿の手技でEカップ巨乳とかって、今にして思えば院長セクハラ発言じゃね? わかりやすいっちゃわかりやすいけどさ。


 下腿に拇指は入れなかった。カノン様のふくらはぎはまだそれに耐えられないだろう。

 ハムストリングの復路は拇指にした。ピンポイントでイイトコに入ったらしく、


「あっ、そこ……そこです……」


という、カノン様のお墨付きを頂いた。患者様に喜んでいただけて、施術者冥利に尽きますわ。


お読みいただきありがとうございます。


元祖ジャパニーズラップは汎用性が高いぞぐーるぐる、というお話です。

ゲットワiルド退勤とやらで動画巡りをしていたらタイムマシンネットワーク×おまわりぐーるぐるを見つけてしまって、あ、これ下腿の揉捏……となりました。

それからというもの、揉捏の度に私の脳内を吉さんがエンドレスリピートぐーるぐる。


作中のEカップ巨乳云々は実話です。見事にジェンダーコードに引っかかりますが非常に解り易いたとえではありました。

修業中、下腿の把握には泣かされました。手が小さいと掴み切れないのです。

もちろん今ではバッチリよ☆

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