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「竜騎兵隊長の妻が竜嫌いって、致命的じゃね?」

 閑話休題。

 ヘイポーコンビじゃねぇやこのお二方、エライ人の副官の割にノリがいいからついつい脱線しちゃうわな。


「とにかく、ノワールくんに街まで送ってもらって……あぁそうそう、その時ポール殿達見たんですよ空の上から。手振ったんだけど気づいてもらえました?」


「無茶言うなし……」


 ポール殿はエナジーを全部吸い取られたみたいなテンションで力なく呟いた。俺ら野宿になるかならぬかの瀬戸際でいっぱいいっぱいでそれどこじゃなかったっすよ、と。

 ヘイゼル殿が得意げに、


「竜の高度を甘く見ないで欲しいかな。ノワール・ランス組は偵察機としても優秀だから」


「ってこたぁカノン様もあのでけぇ黒ブツに乗ったんで?」


 私に尋ねたポール殿の口調には、若干の怯えがあった。


「えぇ、3人タンデムで」


「こわくなかった?」


 ヘイゼル殿の問いには気使いのニュアンス。私は素直に肯定した。


「最初は、ちょっとだけ。日本では……私が元いた世界では、あんな大きな爬虫類はいなかったので」


「だよなー!」


 ポール殿は私の手を取り強引に握手に持ち込んだ。ヘイゼル殿は、まぁそれが普通の感覚だよね、と私を赦した。私は勢い込んで、


「でもノワールくんに乗せてもらって、竜の印象180°変わりました。顔はコワイけど竜さんって可愛いですね! 素晴らしいです! 顔はコワイけど!」


 竜は究極の時短ツール! と持論を展開した私にヘイゼル殿は、正統な評価をありがとう、と、のたまい、


「でも顔がコワイって、二度言う程大事なことかな」


と、冷静にツッコんだ。そこかよ、と、ポール殿がさらにツッコみ、


「そりゃ俺らだって食われる心配はしてねぇが……空飛ぶんだぞアイツら!?」


 おや、ここにも高所恐怖症の気のある人が。カノン様だけじゃなかったのね。


「ヴァルハラの人達って割とそうだよね。ミオちゃんは平気だったんだ?」


「えぇ、それはもう!」


 私はヘイゼル殿に力強く笑いかけた。自慢じゃないけど私、ブラック会社の建設現場で鍛えられてますからね。何せ、山岳地帯の橋梁工事とかジャンクション建築現場とか、高所難所ばっかドサ回りさせられてきましたからね。高いトコこわいです~とか言ってらんなかったというか……え? 一応事務屋でしたけど?

 法にさえ引っかからなきゃ何でもアリだったからなーあのブラック会社……っと、いえいえ何でもありません♪ えーっとホラ、現場見学とかそーゆーのあったじゃないですかー(棒読み)。私しがない経理屋でしたし? ユンボとかトラクターとか動かせませんし? 玉がけとかもちろんムリですし? えぇそうですよホントに見てるだけ~☆ ……ってか今思うとホントとんでもねぇなあのブラック会社。そりゃあ潰れるわよな。潰れるべくして潰れたってことさ、うん、そゆことさ。


「すっごく気持ちよかったです! 風を感じる乗りものって好きです!」


「乗りもの……乗りものかぁ……」


 ヘイゼル殿は遠い目をして、まぁ満足してもらえたようでよかったよ、と言った。ポール殿はぶーたれて、


「じゃあ馬でよくないっすか? 空飛ばなくたって別に。馬だって風感じるし?」


「馬かぁ……乗馬ってしたことないけど、馬も楽しそう!」


「乗馬なら俺、得意ですから教えてあげますよ」


 何ならふたりで遠乗りでもキメましょう、と私の手を取り接吻かまそうとしたポール殿の頭にまたしてもヘイゼル殿の手刀が炸裂した。こりゃまた綺麗に入ったなー。


「痛ぇじゃねぇかよ何すんだよ!」


「痛くなきゃおしおきにならないだろ」


「頭はよせよお前どんだけ俺の頭好きなんだよ!」


「しょうがないだろ、鳩尾も脛も鉄バリアなんだから」


「わーったよじゃあ戦闘時以外でも兜着用フル装備すっから」


「それでまた街の方達に鉄頭と呼ばれるんだな」


 無駄に一般市民に威圧感与えないでくれるかな、とヘイゼル殿は言い、次いで私に向けて王子様キラリン☆スマイルを発動させて、


「余所の人で竜を怖がらないのって、珍しいよ。しかも初竜があのノワールだったっていうのにね。生粋のユタ民でも竜に拒否反応示す人は少なくないんだ。特に、女性は」


「あのお嬢じゃねぇやグレイス・アガリエなんかその典型だよな」


「……まぁ、そうだね」


 ポール殿の暴露を、ヘイゼル殿は戸惑いながらも肯定した。へぇ~意外だな。そんな風には見えなかったけど。


「竜騎兵隊長の妻が竜嫌いって致命的じゃね?」


「君達は行軍の際は馬に乗るよな? 鎧騎士の奥方が必ずしも馬に親しんでるわけでもないだろ?」


「まぁな」


 ポール殿は一応、頷いた。


「親しむ機会がないだけかもですよ? 一度乗せてもらったらきっと一発で、皆竜大好きになりますよ」


 私は確信を持って言った。ヘイゼル殿は複雑そうに、ありがとう、と言って、


「でも残念ながらそうもいかないんだ。竜騎兵隊には様々な掟があってね。竜に乗れるのは、竜に選ばれた騎士のみ、っていうのもそのひとつさ」


 誰にでも乗せてあげられるわけじゃないんだよ、非常時の救命活動とかなら別だけど、とヘイゼル殿は付け加えた。そっか……じゃあ私は掟破りをしたことになるのかな? だとしたらすまんかった。


「私、ノワールくんに乗せてもらった、って、あまり大っぴらにしない方がいいですかね?」


「いや、大いに誇って自慢して」


 ヘイゼル殿は複雑な表情から一転、破顔した。珍しく芝居っ気なしの満面の笑みだ。


「その竜と相棒が認めて同乗した、ってことなら、違反でも何でもないから」


 ほくほく顔のヘイゼル殿に水を差すように、ポール殿が鼻でもほじりそうなテンションで、


「その掟って要は竜泥棒にゃ気をつけろ! ってコトだろ? 昔は卵の持ち去りとかはぐれ竜の誘拐とかあったらしいし?」


「君、詳しいね」


 ヘイゼル殿は鋭くポール殿を見やる。ポール殿は二カッと笑って、


「そりゃあな。俺にはユタのお姐様お嬢様ネットワークがあってだな」


「……まぁね、そんなとこだろうとは思ったけどね」


 別に機密ってわけでもないしな、とヘイゼル殿はひとりごち、気を取り直したように私にキラリン☆スマイルを向けて、


「今度、俺のカノンを紹介するよ。きっとミオちゃんとも仲良くなれると思うんだ」


「それは楽しみです」


 私は心から言った。何オレの彼女を以下略みたいな言い方してんだよ、と、のたまうポール殿は黙殺の方向で。


「美人だよ、相棒の俺が言うのも何だけど」


 おーおーノロケ乙。言ってろよ、と吐き捨てたポール殿と妙なシンパシーを感じて握手などしてしまった。ランス隊長もアレだったが、竜騎士という方々は皆こんななんかな?


「リアル彼女とかリアル奥さんとか大変そうですよねー、こんな調子じゃ」


 私はつい本音を吐いた。するとヘイゼル殿は苦笑して、


「まぁね……うん。ランス隊長のトコはそれでちょっとこじれてる感じ……かな」


と、内緒話のボリュームで。いやあのそんな余所様の夫婦のアレコレとか別に言わんでええんやで。


「ランス隊長は、竜さんのしつけよりもまず奥さんちゃんと仕込んだ方がいいと思うの」


 私はヤケクソの開き直りでずけずけと口にした。


「国際社会で即座にアウト判定食らうNGワードをフツーに言っちゃう社会性のなさもそうだけど、まったくの初対面の相手に喧嘩売るようなこと口走るのはアカンやろと。

 私が無力でちっちゃいのは見ての通りですけどね、面と向かってソレ言って、挙句悪気はなかった、謝ったんだからいーだろって何やそれ。んで、ちょっと反論されたら尻尾巻いて『聖女のくせに』って、何様? 奥様?? お嬢様???

 もし私が何のしがらみもない観光客か何かやったら一発で逃げますわ。そんで余所の街やら国やら行ったら逢う人ごとに言いますわ。聞いてや奥さん、ウチこないだユタの街いうトコ行ったんやけどな、そん時領主のお嬢さんにこんなコト言われましてん、酷いやろ、えぇもう二度と行かへんわ金貰ってもゴメンやわ、あすこ余所モンにはめっちゃ冷たいトコロやでー……って」


 私の暴言に、ヘイポーコンビは棒を飲んだように固まった。


ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


竜騎士の、相棒(=竜)に対する思い入れって相当ですよの章。

またの名を、お怒り聖女様のお話。

あるいは、タイトル通りの話とも言います。

副官コンビもいい具合に馴染んできましたが、ミオちゃんも着々と本性表してきました。

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