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聖女様の身の上話 ~受難のjazzたん~

 翌日私は、マイちゃんが院に来たことを愛人に伝えました。ちょっと喧嘩みたいになりましたが、過去の自分がオーバーラップして言わずにいられませんでした。

 子供は親を選べません。ちゃんと面倒見れないなら産むなよとさえ思います。毒親に精神的に殺されるくらいなら、生まれる前に始末してもらえた方が子供だって幾分しあわせなんじゃないでしょうか。自殺ダメ絶対派の私ですが、これはこれで譲れない意見だったりします。



 その週の金曜、どうしても外せない用事があるから終日院にいて欲しいと院長に頼まれました。また金策かな、と思いながら私は承諾しました。学校は休むことにして――社会人兼学生にはこんなこともあるさなんて言い訳しつつ。

 午後一番で院長はゴリラで(動物じゃなくてバイクの方です)出かけて行きました。あれっ? と私は首をかしげました。愛人は一緒に行かなかったのです。院長の資金繰りツアー(?)には大抵愛人もくっついてくのになー、そんでインス夕映えするカフェとかレストランとか寄ってくるのがルーティンみたいなのになー、と思いつつ、私は久々に通しで仕事をしました。

 愛人はずっと受付にいました。バックヤードサロンの先生方を追い出してからというもの、裏で何かゴソゴソしてるのが愛人の院での過ごし方だったのに――私の自宅の合鍵を手に入れて、目的は達したのだからもうバックヤードに用はないってことなのでしょうか。

 何にしても珍しいことです。院長が出てすぐくらいに私用であろう電話をかけに一度裏に行ったけど、愛人はそれ以外は大体ずっと受付にいました。

 1時間もしないうちに院長は戻ってきました。これなら別に私いなくてもよくね? と思いましたが、閉院1時間前に院長と愛人が早引けしていったので、あぁなるほどそれでか、と納得しました。多分ふたりで水入らずのディナー()とか楽しむんだろうな、と私は勝手に解釈し、夜8時を待って閉院の作業をしました。

 ケイ先生は既に自宅に戻っているし、患者さんもいないしで、午後は午前中に輪をかけた閑古鳥でした。以前に比べて随分寂しくなったな、と私は午前中の院の惨状を嘆いたものですが、午後はそれよりももっと酷いものでした。

 ちなみに愛人、インス夕にバルのお食事を上げていました。祝杯&前祝☆ だそうです。何のこっちゃって感じです。




 久々に閉院の作業をし、バイク仕様の身支度を整え戸締りをし、院の前に停めていたかわいいjazzたんこと私のバイクの所に行くと、サドルを乗っ取るぽってぽての牛柄ねこさんがいました。他のねこと間違いようがありません。片目のまーくんことかつては院のドル箱で下にも置かずお仕えしていたマスコットキャット独眼竜まさむねこ様です。

 久方ぶりの再会に、わたしはそれこそ主君にあいまみえた下僕いえ家臣のようなテンションでまーくんに話しかけました。まーくんまた逢えて嬉しいわ、でもどうしたのおうちのひとが心配してるんじゃないの、と。まーくんは何か訴えかけるように、にゃあにゃあ鳴くばかりで会話が成立しているのかどうかは不明です。

 私がまーくんを撫でると、彼は嬉しそうにゴロゴロ喉を鳴らします。でもすぐに我に返ったようにぎゃーみゃー鳴きます。さかりかな? と思いつつ、さぁまーくんおうちに帰ろうか、と、抱き上げようとするとするりと逃げます。ぽってぽてで動きが鈍そうに見えてもそこはねこ、俊敏な動きです。

 まーくんは人に触られるのが好きで、だっこも大好きなねこさんです。なのに何で、と、呆然とする私に構わず、まーくんはバイクを乗っ取りにゃあにゃあにゃあ――困り果てました。おうちに連れてってあげたいのに彼は抱かせてもくれません。まーくん私のこと忘れちゃったの? 私とまーくんの仲ってそんなモンだったの? まーくん私とは遊びだったの? と、私はひたすらまーくんをモフリながら懸命に話しかけました。


 まーくんはjazzたんのサドルがお気に召したらしく、てこでも動かんぞ、とばかりに籠城を決め込んでいます。ともかくもケイ先生達は心配してるだろうな、と思って私はケイ先生に電話しました。視覚障碍者のケイ先生にはメールやLineではなく電話が使い易いのです。案の定、フクムラ家(院長除く)ではいなくなったまーくんを心配していました。自宅マンション周辺をミコトくんが探し回っているそうです。

 特筆すべき早さでケージを携えたミコトくんがやってきました。ミコトくんは私に礼を言い、まーが脱走するなんてはじめてだと続けます。ミコトくん曰く、まーは昔からおうちにいるのが好きな子で、外に出ると悪いことが起きるんじゃないかと思ってるフシすらあって、ケージに入れないと院にも行きたがらないんだとのこと。野良出身の子にしては珍しいかもですが、それだけお外での生活が過酷だったということでしょう。失った左目のことだけでも容易に想像できることです。

 ミコトくんはまーくんに、お前眼帯どこやったんだよ、と話しかけています。院では常に日替わりで着用していたお洒落な眼帯はなく、潰れた左目がむき出しです。どこかに落として来たのでしょうか。

 ミコトくんは慣れた手つきでまーくんを抱き上げますが、まーくんはじたばたと抵抗します。何だよ、とミコトくんが不承不承まーくんをjazzたんのサドルに下ろすと、まーくんはバイクの右のハンドルをお手々(前足?)で、てしてしと叩きます。

 私は笑って、てしてしと猫パンチを繰り出すまーくんに言いました。なぁにまーくんバイクが気に入ったの? でもjazzたんは私のバイクだよ、と。ミコトくんは、まー今日は何かおかしいぞ、とイケメン彼氏のように苦笑して、まーがどかないとミオさんが帰れないだろ、と言い、私は、じゃあまーくん私のおうちに行こうか、と返しました。大家のオオヤさんは大の猫好きでまーくんのことも大好きだから私のアパートでも熱烈歓迎だよ、オオヤさんちにはchu~るもあるよ、と私が半ば本気で口説くと、ミコトくんはちょっと声を低めて、まーはうちのこだぞ、と言いました。愛されまーくん尊いです。


 ミコトくんは、相変わらずサドルを乗っ取り右のハンドルに猫パンチでぎゃーみゃー鳴き騒ぐまーくんをひょいっと抱き上げ、しばしその体勢で固まって、それから切迫した声で、ミオさん、と呼びました。

 まーくんはぎゃーみゃーじたばたしています。まーくんをぶら下げるように抱き上げたミコトくんが顎でしゃくった方向を、夜闇の中、じっと目をこらして見て――私はあっ、と声を上げました。




 ブレーキケーブルが切れていました。まーくんがてしてししていた丁度その箇所、右のハンドル辺りです。

ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


転移前・現代日本の回想記録。

ほぼ100%ねこねこしてます。ねこだいすき。


……ってかコレさぁ、受難ってーか殺人未遂じゃね? という話。

別名:高校生男子(種別ヒト)×シニアダンディー(種別ネコ)←人間女子というBLテンプレ的な展開???






何かもう色々疲れました。

患者さん達はいい人ばかりで仕事そのものも楽しいけどコレもう辞めていいよね……?

という愚痴が聴こえてきそうですがそれは幻聴です。

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