聖女様の身の上話 ~子供は親を選べない~
派手に家探しなどされては流石に警戒心MAXにならざるを得ません。院長は一時期よりは私に陰険な圧を駆けてくる率が少なくなりました。というより、ビクビクオドオドしてる感すらあります。実行犯の後ろめたさでしょうか。
愛人は相変わらずです。マウントを取るのが彼女の通常営業です。嫌味や嫌がらせもめっちゃオープンにしてきます。私の部屋を派手に荒らしたのも、もしかしたら脅しのつもりだったのかも知れません。
院長はちょくちょく院を空けるようになりました。多分金策の為でしょう。その時に愛人を伴っていくことが多いです。資金繰りついでにちょっと外食とかお買い物とかして帰って来るみたいな感じです。危機感がまるでありませんね。
仮にも院の長が院にいないことが多くなると、やっぱり患者さんの信頼は失いますよね。今でも充分失ってる感じはしますけど、なけなしの信頼すら失うと言いますか。院長とケイ先生が言い争う場面も多くなりました。もちろんケイ先生は患者さんの前ではしませんけど。
私個人の意見としては、資金繰りに精を出す前にまず養豚費いえ愛人の無駄使いを減らせよと心から思います。
そういうわけで院長と愛人が外出し、午前中の仕事を済ませてケイ先生を自宅に送って院に戻ると、愛人の娘ことマイちゃんが自動ドアの前にぽつねんとたたずんでいました。
相変わらず細い子だな、0.1t超え(多分)の愛人の娘には見えないや、と思いつつ、お母さんなら院長と出かけてるよと伝えました。マイちゃんはしばらくもじもじしていましたが、やがて蚊の鳴くような声で、ママが帰ってこないとイミフなことを言います。知らんがな私はこれからマッハでメシ食ってちょっぱやで学校行かなあかんねんで、と思いながらも、私は院の扉を開錠し、マイちゃんを通しました。この子も愛人の娘ですから、鍵さえかかってなければ無言でズカズカ入ってくるタイプです。でなければ院前でぽつねんと突っ立ってはなかったでしょうね。戸締り大事だなぁと思いました。
とにかく時間が惜しかったので、私は自作のお弁当を取り出しながら、ごはん食べた? と聞きました。するとマイちゃんは昨日の給食から何も食べてないと言うじゃないですか。ビックリして自作の弁当を進呈しましたよ。私の昼食はコンビニ飯決定です。たまにはこんな贅沢もいいでしょう。コンビニのおにぎりとかサンドイッチとかって時々無性に食べたくなりますよね。
マイちゃんは私のお弁当を泣きながら食べていました。誰かがつくったおべんとうを食べるのははじめてだったんだそうです。ママはつくってくれないそうです。めっちゃビックリしました。遠足とか運動会とかどうしてたんでしょうか。
私はコンビニのサンドイッチをぱくつきながらマイちゃんに色々話を聞きました。私はてっきりマイちゃんは愛人と一緒に院長の用意した高級マンションに住んでいるのかと思っていましたが、彼女はずっと愛人の元の住居であるところの市営団地で暮らしてるんだそうです。前からママは割といなくなることが多くて、時々帰ってきて洗濯とか家事みたいなことをちょっとして、マイちゃんの食費を置いてまた出てくって感じなんだそうです。でも最近は殆んど戻って来なくて、テスト期間が始まって給食がなくなって――と、マイちゃんは泣きながらぽつぽつと話します。泣くか食べるかどっちかにしろよ、なんてツッコミはできませんでした。私、辛口だけどそこまで無神経じゃないつもりです。
私はマイちゃんを見ました。細身で、お目々ぱっちりの美少女――でも学校指定の体操着は薄汚れていて、近寄るとちょっと臭いです。下着をつけてないのか乳首が浮いていました。ブラジャー買ってもらえないのとか毒親あるあるだよな、と私は思いました。私の祖母や実母もネグレクト系コミの毒親だったんで、事情はよくわかります。
多分、替えの体操服も買ってもらえなくて、だから洗濯のタイミングを計りまくって逃し続けた結果、結局1組きりの体操着で着たきり雀なんだろうな、と私は愛人の娘を気の毒に思いました。愛人は自分のインス夕にキラキラに着飾らせたマイちゃんを時々UPしてますが――それも、顔出し無修正でですよ! ネットリテラシーはどーなってんでしょうかね! ――そんなんよりまず下着と体操服買ってやれよ、キラキラママと双子コーデのブランド服なんか学校に着てけないだろ、と、久々にクリーンでホットな怒りを覚えました。
愛人にとっては実の娘すらも「キラキラ女子()のアタシを飾るアクセサリ☆」で、マウントの道具でしかないのです。院長のたわけた申し出――マイちゃんが成人するまで養う的なアレです――アレを断ったと聞いた時に少しばかり上がった愛人株は大幅下落です。むしろ最底値です。
私はお財布からお札を1枚取り出すと、マイちゃんに渡して言いました。これで体操服とブラジャーを買いなさい、そしてこのお金は絶対ママに見せては駄目よ、と。娘の食費すらしぶる愛人が、たとえ少額でも金のニオイを嗅ぎつけたら巻き上げるに決まっています。……何故そう言い切れるのか、って? 私の人生で初めて遭遇した保護者()がそのタイプだったからですよ。えぇ、父方の祖母ですけどね。ホントにがめついクソババアでした。あればあるだけ呑んじゃうっていうか。むしろアル中一歩手前っていうか。
さらに私はマイちゃんに100均の活用法とか見切り品が充実したスーパーとか、洗濯の仕方とか炊飯器の使い方とかを軽く伝授しておきました。毒親育ちが否応なしに身につけざるを得なかったライフハックですが、スーパーの見切り品が出るのは大抵夜なので未成年女子には教えるべきではなかったかも知れません。
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転移前・現代日本での出来事の回想。
珍しく表題通りのお話です。
別名:愛人は嫌いだけどその娘には罪はない。
愛人娘も無礼で挨拶もせずズカズカ入り込んでくる子のようです。
でもこれってマイちゃん(仮名)が全面的に悪いってわけじゃないよな、と最近思うようになりました。余所様にお邪魔する時は、失礼します、お邪魔しますって言うんだよ、って躾けられた経験がないんだよなきっと。
これから身につけていければ……なんて言ってももう中学2年生ともなると難しいかもわからんな。
毒親育ちって人生めっちゃハンデ戦。
○イちゃんはこれから苦労しそうだな、と思って見ています。