聖女様の身の上話 ~善意のリレー~
またしても貧血~ → からの → バッタリピーポー救急車事件によりダブルワークがバレまして――バイト先のファミレスを紹介してくれたイエローボールの飼い主さん(隣の部屋の大学生です)の顔を見事に潰してしまいました。本当に申し訳ありません。この場を借りてお詫び致します――ケイ先生にもこってり絞られました。
バイトなんかしなくても普通に生活できるだけの給料は払ってるよね、もしかして借金でもしてるの、なんて。究極節約生活を邁進する私がまさかの浪費家疑惑です。ケイ先生の剣幕に恐れをなして白状しました。鍼灸師の資格を取りたいから学費を貯めてる、って、ありのままを。
そしたらケイ先生、そういうのは相談しなさいよ、って言いました。学費ぐらいわたしが出すし、学校だって紹介してあげるわよって。耳を疑いました。寝耳に水です、むしろ大洪水です。何かの罠かと疑う私にケイ先生は、わたしそのぐらいの甲斐性はあるわよ、ミコの学費に取っといた分もあるし、と、あっさりしたものです。
ご子息のミコトくんは高校生、そろそろ本格的に進学のことを考えなくてはならない時期のはず。何より、赤の他人の私の為に実の息子のミコトくんの分を奪い取るようなことをしていいのでしょうか。
学校には行きたいけど――すごく行きたいけど、でもそれは、って思っていたら、たまたまお助けレアキャラよろしくNPCしてたマダムカヨコが、腕のいい鍼灸師の稼ぎをナメないでいただけないかしら、凄腕の鍼灸師なら2年もあれば充分よ、そしてケイコさんはとても腕のいい凄腕の鍼灸師なのあたしの弟子だもの、と言いました。さらに彼女は、ケイコさんはあたしと同じことしてるだけよ、ともおっしゃいます。腕の字めっちゃ渋滞してますねカヨコ先生。ケイ先生は千手観音ですか的な。
ミコが鍼灸師の道に進むのか、柔道整復師を目指すのか、それとも他の道を選ぶのか、それはミコが決めること、わたしはミオちゃんが今、わたしと同じ道に来たいと言ってくれたのが嬉しいわ、わたしもミオちゃんと同じ年頃の時にカヨコ先生にそうやって助けられたのよ、とケイ先生は言います。
要は青田買いってことよね、とマダムカヨコは言いました。ケイコさんはミオさんを見込んでるのよ、何ならあたしも一口乗ろうかしら、もちろんミコトさんが鍼灸の道を選ぶのならその時にもね、ともマダムカヨコは嬉しそうに笑って――私は知らなかったのですがこの時カヨコ先生は既に病魔に侵されていました。まだまだあと30年くらいはお元気でお助けレアキャラNPCしてそうな感じですらあったのに。
師匠から弟子へ、そしてまたその弟子へ。善意のリレーというわけです。この世知辛い世の中で、こんなええ話があっていいのでしょうか。
感動よりも慄きでうち震える私にケイ先生は言いました。ただし5年はわたしの元で働いてもらうわよ、資格取ってすぐ独立なんて甘い考えは捨てなさい、と。
マダムカヨコはうふふと上品に笑って、ケイコさんは昔のあたしと同じことおっしゃるわね、要は出世払いってことよね、ミオさん、あなた今おやりなさい、資金稼ぎに費やす5年がもったいなくてよ、若い時って貴重なの、あたしみたいに年取ってからやろうとするとね、頭は働かないし集中力は続かないし物覚えは悪くなるし老眼でテキスト読みづらくなるしで難易度が格段に上がってよ、と、冗談めかしておっしゃいます。
いい鍼灸師が増えればそれだけこの業界が活性化するでしょ、とケイ先生は言いました。そしてマダムカヨコが、ケイコさんそれも昔のあたしの受け売りだわよ、と笑います。彼女達は自分自身のことだけでなく、鍼灸界全体のことを考えているのです。やはり雲の上の人達は視点が違います。最早神の視点です。
その夜、ミコトくんが仕事終わりの私のところにわざわざやってきて、母とカヨコさんの気持ちを受け取って欲しい、と言いました。お母様にそう言うように頼まれたの? と私が訊くと、違うと彼は言います。
オレはサッカーがしたいんだ、とミコトくんは言いました。ミコトくんは小学校のスポーツ少年団からずっとサッカー漬けで、中学高校とサッカー部所属です。私が院に勤めてすぐくらいの頃は厨二真っ盛りでよそよそしかったのですが、高校生になったあたりから普通に接してくれるようになりました。目の不自由なお母さんの面倒をよく見てて、私が忙しい時にはケイ先生とまーくんの送り迎えをしてくれたりします。とっても優しいいい子です。何たって独眼竜まさむねここと片目のまーくんを保護するぐらいですからね。
親は跡継げとか言わないけど周りは当たり前にオレが院を継ぐって思っててだるいし、ミオさんが母さんの後継者になってくれんならオレは好きにサッカーできるし利害関係の一致だよ、とミコトくんは大人びてるんだか子供じみてるんだかわからないことを言います。ミオさんは倒れるまで働くぐらい本気なんだろ、だったらオレも本気でプロ目指す、と、夜の公園でのミコトくんの決意表明――めっちゃしびれました。若いって素晴らしいです。
怪我にだけは気をつけてね、と私は彼に言いました。事実、院の患者さんでも部活関係で故障した学生さんは少なくないのです。
翌日、バックヤードサロンの先生方や患者さん達の後押しもあり、私は改めてケイ先生の破格のご厚意をお受けすることを伝えました。
ケイ先生はとても喜んで、その場で彼女の出身校に問い合わせてくれました。そこはケイ先生のお師様ことマダムカヨコが若かりし頃に講師をしていたこともある学校です。
来春から私は、勤労学生というわけです。仕事も勉強も精いっぱいやろう、目指せ鍼灸師! 目標は3年後の国家試験一発合格!
私は、私の身に起きたすべての幸運に感謝し、より一層の精進を決意しました。春はもうすぐです。
お読みいただきありがとうございます。
フィクション! フィクション! フィクション! の巻。
別名:いいんですよフィクションなんだからこんな幸運があってもさという話。
実際、学校を紹介してあげるよと言ってくれる先生はいました(その方は鍼灸師ではなく柔道整復師です)
ただその申し出がどんな思惑に則って発せられているのかを正しく見抜くのは大事だなーと思いました。
何なら奨学金制度もありますよ! と、倒れる前に誰かミオちゃんに教えてあげた方がいいと思うの。




