聖女様の身の上話 ~ブラック会社の後遺症・ぷち貧血闘病記~
さて、どうにかこうにかブラック会社から足抜けし娑婆に出た私は心身の健康を取り戻すための活動に着手することにしました。具体的には鍼灸治療の為の鍼灸整骨院通いと、ド貧血にバージョンアップした貧血治療の為の病院通いです。10代にしてこれは最早老人並みです。会社の保険が使えないのが地味に痛いです。いやー国保って高いですね!
解決金という名のまとまったお金が入ったものの、弁護士費用と大家のオオヤさんへの支払いもあります。どちらも必要経費、むしろ喜んでお支払いいたしますって感じです。
早めに就職先見つけないとなー、自己都合退職って失業保険下りるの3ヶ月後だし、まぁそのくらいの期間なら解決金という名の慰謝料(?)でどうにか食いつないでいけるけど、なんて漠然と考えつつ、医者帰りにハローワークを覗いてみたり、ネット検索したりしてみるものの、どれもこれもが実はブラックなんじゃないかと疑心暗鬼になってしまいます。
ブラック会社の呪縛恐るべし。でもあのクソ建設会社だって表面上はホワイト風だったんですからね。中身は真っ黒くろすけでしたけど。
鍼灸治療を月1ペースから倍の回数に増やし、貧血治療の病院は週1回。なかなかのハイペースです。ブラック会社は人の心身を壊します。自宅アパートから駅までの道のりがつらいです。貧血のせいで息切れが酷くて、この頃ってラマーズ法で歩いてましたもん。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、みたいな? 徒歩20分とされている距離が物凄く遠い! 途中で休み休み行くので、倍の時間を見とかないとなりません。
見かねた大家のオオヤさんがお古の自転車をくれました。ありがたいです。オオヤさんは私にモノを食わせるのが義務ででもあるかのように煮物とか唐揚げとか差し入れてくれます。お米もくれます。とてもありがたいです。パンチパーマに福耳のオオヤさんマジいい人。リアル大仏です。思わず拝みました。
オオヤさん家のミケコちゃん(三毛猫・メス・推定17歳)にはお礼のchu~るをお返ししました。ミケコちゃん、17歳ってぴっちぴちの女子高生やんと思うけど、人間年齢に換算すると80歳越えのおばあちゃんです。でもミケコちゃん、まだまだ元気で若々しい美少女猫です。何たって17歳ですし。アパート付近を縄張りにしている複数の男子を窓越しに魅惑する美魔女猫です。長生きして欲しいです。
フクムラ鍼灸整骨院はいつだって盛況です。仮にも院と名のつく場所が満員御礼ってどうなんだという意見もあるかも知れません。それだけ具合が悪い人が多いってことですからね。この院が無人であることってあるんでしょうか。少なくとも私は見たことがありません。
ケイ先生は私の施術をしながら、大分こわばりが取れたね、と言いました。そりゃあパソコンと車の運転から解放されましたから、と私が返すとケイ先生は、気持ちの面でもね、と言います。
あとは血虚だね、とケイ先生は言って、鉄分とビタミンを多く摂るようにとアドバイスをくれました。体質改善は気長に地道にやるしかないんだそうです。
貧血の治療が思うように進みません。主治医の知的なアルパカことタカノ先生は、長いこと貧血状態でいて今アナタのカラダの鉄分貯金は底をついてるの、少しずつ増やしてくしかないんだよ的なことを言いました。
ケイ先生もDr.タカノも、気長に、地道に、根気よく、ばかりです。私はそんなに焦っているように見えるのでしょうか。
「あと、サクラさんの場合は生理も止まっちゃってるからねえ」
急激なダイエットはよくないんだよ、と言われました。まるで拒食症少女の扱いです。
つかダイエットとかしてませんから! ブラック会社でごはん食べる時間すら満足に取れなかっただけですから!
タカノ先生の専門は産婦人科なので、貧血治療に加えてそちらでもお世話になることになりました。
ブラック会社で削られた1年弱の年月は、確実に私の身体を蝕んでいました。再び月のものを取り戻すまでに、実に3ヶ月の刻を要しました。
1ヶ月が経ち、2ヶ月が過ぎました。
精神的には安定していますが――何しろブラック会社のストレスが丸々なくなったんですからね!――そろそろ就職決めないと失業保険が始まっちゃう、という焦りがありました。失業手当をもらうのがとんでもない罪のように思えていたんですよ、当時の私は。
労働者の権利なんだから堂々ともらったってよかったのに。とことんブラック会社に毒されてましたね当時の私。
貧血の回復は遅々として進まず、ヘモグロビン値は1ケタ台。どうしても10の大台に乗れません。知的なアルパカDr.タカノが処方箋にバッチシ「フェ口ミア」と書いていてくれたのにも関わらず薬局で「おくすり代が安くなりますよ~」という口車に乗せられてジェネリックにしてみたところ副作用でゲロッパ(汚い表現ですみません)してたりしたのもこの頃です。
ケイ先生のアドバイスに従って小松菜ほうれん草バリバリ貪り食って、フライパンも鉄製のに変えたのに。大家のオオヤさんが玄米は体にいいからってくれたお米もしっかり食べるようにしてるのに何で!? って思ってましたが。
実はその玄米が悪さをしてたようでして。
オオヤさんのお孫さんは酷い花粉症だったんだそうですけど、ケイ先生のアドバイスで玄米食と根菜多めの食事に切り替え、根気よく鍼灸治療を続けた結果、今では薬を飲まずに春を越せるようになったんですって。なもんでオオヤ家は一家総出でケイ先生&玄米信者になり、オオヤ大仏様は私にも熱烈に玄米をプッシュしてくれたのですが。
産婦人科のDr.タカノはそれを知ると目の前にぶら下がるニンジンにバクッと食らいつくアルパカみたいなテンションで、それやめなさい今すぐやめなさい玄米はやめて普通のごはんにしなさいね、と言いました。入院中のごはん玄米じゃなかったでしょう、って指摘されて、あぁそう言えば、ってなりました。
ケイ先生にその話をしたらめっちゃ呆れられて、貧血とアレルギーを一緒くたにしちゃ駄目でしょ、とお叱りを受けました。ケイ先生曰く、玄米の食物繊維は鉄とかその他、血液に必要な成分も一緒に排泄しちゃうんだそうです。アレルギーにデトックスは有効ですが、ただでさえ少ない鉄分まで一緒に出しちゃってどうするよと――無知って怖いです我ながら。
あと、お茶とかコーヒーとかも貧血にはよくないそうです。タンニンが鉄と結びついて鉄の吸収を阻害するとか何とかケイ先生が言ってました。アルパカDr.タカノ氏は、お茶のタンニンなんてそんなに神経質になる程のモンじゃないよ派でしたが、藁にも縋る状態の私は玄米を白米に切り替えて、お茶断ちコーヒー断ちを決行しました。
白い悪魔こと鉄剤も半泣きしながら真面目に服用しました。お茶はともかくコーヒーは大好きなんで辛い戦いでしたが、鍼灸と鉄剤と食事療法を続けた結果、ついにヘモグロビン値が2ケタの大台に乗りました! 快挙です!
とは言え、ちょっと寝不足でもすれば即座に1ケタ台に転落するぐらいの危うい数値です。
通常ヘモ値10って息切れ真っ盛り、サクラさんの場合は貧血状態が長くて耐性ついちゃってるからアレだけど普通なら気ィ失ってぶっ倒れる数値よ、8の字を見たら入院よ、13までとは言わないけれど12か、せめて四捨五入して11ぐらいに持っていきたいよねえ、とアルパカDr.タカノ氏は無茶ブリをかましてきたりします。12って、倒れて救急車で運ばれた時のほぼ2倍じゃないですか、あこぎなコト言わんといて~って感じです。
ブラック会社を退職して3ヶ月、失業保険の足音が近づいてきました。
貧血治療の病院通いはめでたく月1回にまで減少し、鍼灸治療は2週間に1度のペースを保っていました。フクムラ鍼灸整骨院に行くと誰かしら気の合う人がいて気がまぎれるし、片目のお猫様ことまーくんにも逢えるし、いい気分転換になります。ちょっと鍼灸院の使用法を間違っているかも知れません。
そろそろ身の振り方を決めないとな、と、つらつら考えつつの、鍼灸治療。まーくんはいつも私の施術に付き合ってくれます。うつ伏せの時は私の大臀筋に顎を乗せ、仰向けの際には腹斜筋のあたりでゴロゴロ喉を鳴らすのがまーくんスタイルです。
最近どう? とケイ先生は私のお腹にお灸を載せながら訊きました。ぼちぼちです、と、お里の知れる返答をしてしまいました。
今のぬるま湯のような生活が心地良くて抜け出せなくなりそうです、こんなんで社会復帰できるのか不安になります、と正直に告げた私にケイ先生は言いました。じゃあウチで働かない? と。まるで、鍼刺すのに邪魔だからちょっとまさむねの位置どかしてくれない? とでもいうような軽い調子でした。
アルバイトしながらでも職安に申告すれば失業保険もらえるはずだよ、とケイ先生は言います。まずは無理のない範囲でやってみたら? と。
私にとっては渡りに船の申し出です。次来る時に気が変わらなかったら履歴書持ってきて、と、仕上げの整体をしながらケイ先生は言いました。
2週間後、気が変わらなかったので履歴書持参で院に行きました。私の予約は大抵午前のラストに入れていましたので、お昼休みを使っての面接です。私と、院長とケイ先生とまーくん、他に誰もいない。私にとっては新鮮な院の風景です。
院長のフクムラ氏はこの時はじめてしっかりと意識して見たって感じです。私は鍼灸しか施術をお願いしていなかったので、院長とは接する機会がほぼありませんでした。受付しながら何かやってるな、ってぐらいの認識でした。
院長はケイ先生と同じくらいの身長で――多分160前半ってトコでしょう、猿顔の貧相な小男っていうのがその時の印象でした。こすっからいというか、品が無さそうというか。妻のケイ先生がお洒落で華やかなので余計そのイメージが強まります。でもそれも偏見かも知れないな、何たってケイ先生の夫なんだし、と、その時私は無理矢理思い直しました。
今にして思えば、この時の自分の直感をもっと信じるべきでした。第一印象大事です。
面接で質問したり説明したりはもっぱらケイ先生の役目でした。仕事内容はケイ先生のアシスタント。院内の清掃、施術後のベッドの消毒なども含まれる、まずは週3日、午前中のみから始めてみてはどうだろう、と。
私はその場でOKし、翌週から患者としてでなくアルバイトスタッフ院に通うことになりました。
ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。
転移前・現代日本が舞台のヒロインの過去話。別名:貧血はなかなか手強い敵でござるの巻。
そしてやっぱりところどころでねこねこしてます。ねこ大好きです。
私自身酷い花粉症だったので梅の時季からGWぐらいまでは眠気と口渇に悩まされつつ薬物服用で乗り切っていたのですが、鍼灸+食事療法で今では薬ナシで春を越せるようになりました。鍼灸すげえ(あくまで個人の感想です)
ただし、本文にある通り貧血状態の方や胃腸の弱っている方等には玄米食はお勧めいたしません。
過ぎたるは及ばざるが如しですね。