【レシピ】ヘルコンドルのスープ~ヴァルオード風~【キャンプ飯】
自称自炊派で、今となっては弁当持参者にまで成長した私の腕(って言える程のモノでもないが)は、ここまで披露の出番ナシ。
先程カノン様が言ってた通り、今日のメニューもスープと固いパン。
皆が狂喜乱舞して喜んだ巨大怪鳥の解体作業は……うん、もう、とっても、非常に、エグかった。
鶏肉はスーパーでパック詰めされて並んでるものという認識しかなかった現代日本出身者の私にはカルチャーショックが大きすぎて……何と言うか、野性味溢れてたというか……マグロの解体ともまた違った趣があったというか……あの光景、思い出すだけでも即座に吐けそうだ。
剣って戦闘用の武器ってだけじゃなくて包丁代わりにもなるんだな…………うっぷ。
『調理』って、鳥の羽根むしって、部位ごとに解体して、皮を剥ぐところから始めるのか……と知ったら、パックの切り身がデフォルトなへなちょこレベルが気軽に「手伝いましょうか?」なんて申し出られない雰囲気だ。
ちなみに、参考までにレシピ置いとくね☆
ヘルコンドルのスープ ~ヴァルオード風~(20人前くらい?)
材料:ヘルコンドル…1頭、毒々しいキノコ…兜1盛り分、謎の草…1抱え、塩…適量
作り方:1、ヘルコンドルを捕まえます。今回は昼間に仕留めたのがあるのでそれを使用します。
2、1の毛をむしります。風魔法使うとラクだよ☆ なければ皮ごとはいじゃってもいいよ♪
3、足と頭を落とします。本日の調理当番・自称純然たるソードファイターだから合谷イラネのアレン殿、出番です!
4、部位ごとに解体します。うわーこれは大仕事ですねー! 骨で剣が刃こぼれしないように気をつけてね☆
5、内臓を取り除きます。本日の調理当番・料理は我が家のたしなみカノン様、お願いします! 丁寧ないい仕事ですね~よっ、匠の技!
6、肉を1口大に切ります。うーんカノン様、調理ナイフもお似合いですね~。……ちょっとアレン殿、主武器のロングソードで切断するのやめて下さいちゃんとナイフを使って下さい! それ1口大って言いませんから! どんだけ大口なんだよその1口は!
7、6に塩をまぶします。カノン様曰く「この工程は省かれがちですが重要なのですよ」……あぁぁアレン殿それやり過ぎですよ塩釜でも造る気ですか~!?
8、焚火にセットした大鍋に、7とそこらで採ってきた謎の草とキノコらしき物体を投入します。そのキノコ、色合い的にヤバそうなんですけどどーなんすかね……?
9、大鍋にひたひたになるくらいの水を入れます。カノン様の水魔法、ぐう有能。
10、火を点けて煮込みます。ポール殿~! ポール殿出番ですってばー! ……ってちょっとちょっと鍋全焼させる気ですかファイアーウォールやめて! せめてファイアーボールにしといて下さいよー!!
11、あとはひたすら煮えるのを待つだけです☆ 簡単カンタン♪
……って、ちょっと待ったー!
あのさーこのレシピ最早ツッコミどころしかない感じなんだけど、とりあえず。
「カノン様、このキノコって……大丈夫なんですか?」
「ご安心下さい、毒はありません」
ホンマかいな。紫地にオレンジの点々って、毒々しいなんてモンじゃねーぞ?
私の内心を読んだかのようにカノン様は口角を上げて、
「野営歴も長くなりましたし、書物も一通り読みました。幸い私、土魔法も習得しておりますので『地のモノ』が有害であれば判ります」
「ほーぅ……」
魔法って、本当に便利なんだな。私も魔法使いになりたいな、っと。
「カノン様が一緒だと、美味いものが食える」
ありがたや、とマジで拝んでるアレン殿……それって美味い不味い以前の問題だと思うんだけど……?
「俺達はカノン様が口うるさい……いや細かいから野営の食あたりはほぼないですけど、竜騎兵隊の遠征は大変でしたよ」
加減を知らないマージファイターポール殿がニヤッと笑って、
「何せ竜騎兵隊の隊長殿が『酒とキノコは吐きながら覚えるものだ!』って信条の方ですからね。俺もユタの警備隊に出向した時、酷い目に遭いましたよ。隊長殿がどこからともなく入手した得体の知れない草を入れたら総員ラリってしまいましてねー」
「うわぁ……」
戦わずして不戦敗とかイヤだわそんなん。しかも理由が草でラリるって。
これから行くトコって、そのユタの竜騎兵隊? 警備隊? だかの駐屯地なんでしょ?
「今はそのようなことはありませんからご安心下さい。昔の話ですよ」
カノン様がドン引きの私をとりなした。
大鍋がぐつぐつしてきた。
紫色のキノコがいい仕事をしたのか、イーッヒッヒッ! と高笑いする魔女の幻覚が見せそうなヤバイ絵面……いや、えっと、少々現実離れした雰囲気だ。これホントに食えるのか? なんて間違っても口にしてはいけない、オブラートに包もうな。たとえどんなに画的にヤバかったとしても。
大量に投入した魔物の肉のせいなのか、それとも怪しいキノコと謎の草の仕業なのか、大鍋に紫がかった茶色いブクブクが泡立っているこの光景は、控えめに言ってグロ画像。とりあえずこのとんでもなく大量のアクは取りましょうよ。
私は木製のおたまを見つけてアクをすくった。周囲のヨロイー’sが呆気に取られてガン見してくるが知ったことか。
何度かアクをすくっては捨て、すくっては捨てを繰り返したところでカノン様が訊いた。
「何をなさっておいでですか」
「見ての通り、アクを取ってます」
「……??」
あく? アク? と小首をかしげてカノン様は言った。
「この作業に何か意味がありますか?」
まぁ軍人の野宿で食事の美味しさの追及とかしないかな。持ち回りの食事当番だもんね、帝国ホテルのシェフでもあるまいし。何たって、アレン殿レベルのやべー奴(失礼、言葉が過ぎました)にまで普通にお当番回ってくるわけだしね。
でも、どうせだったら、美味しいもの食べたいじゃない。
「このブクブク、食材のエグ味とか雑味なんですよ。コレを取り除くだけで煮物は2倍、スープは3倍美味しくなります」
しかし、肉に塩をまぶすくらいに手をかけるカノン様がアク抜きの工程をすっ飛ばすとはらしくない。
と、思ってよくよく聞いてみたら、どうやらヴァルオードには『アク』という概念がないようだった。何てこったい。
「騙されたと思ってやってみて下さい。本当に一味も二味も違いますから」
「騙されたと思って云々という言葉に従うと大抵は騙されたとうなだれる結果になるものと相場は決まっております」
芸人殺しのスキルを如何なく発揮しつつもカノン様は私を真似てアク取りを――ってコラコラそんな景気よくバシャーッと捨てるなって可食部が減るわ!
とは言えカノン様はコックとしても優秀で、理由を理解し適切な指導をすればすぐにコツをつかんで立派なアク代官にクラスチェンジ。
戦闘時には指揮官兼ヒーラーで、日常的には魔法が便利で料理もOKって、カノン様の使い勝手良すぎでしょーイイネイイネ。一家に一台カノン様。
それよか、俺は火点け役ですから! と、ドヤ顔でふんぞり返ってるくせに、どこからともなく入手した得体の知れない葉っぱを投入しようとしてるポール殿! いらんことすな火の通りがまちまちになるわ!
私は主に出来上がりの美味しさ追及の為にやんわりとポール殿を諫めたが、カノン様は必死で止めていた。ポール殿は嬉々として、
「え、いいじゃないですか。ここは一発ユタ式に、郷に入りては郷に従え――」
「毒ですよ」
「え」
「ですから、毒です」
カノン様は眉根を寄せ嘆息し、
「警備隊に出向して酷い目に遭ったとおっしゃる割には学習なさいませんね。
私は貴方がたの治療を行いましたからよく覚えておりますよ。何しろ遠征中の一隊が危うく全滅するところだったのですから忘れようもありません。
『酒とキノコは吐きながら覚える』を座右の銘とする隊長殿が投入した野草が、まさにそれです」
「え」
うわぁ……。
「マジっすか」
「まじでございますよ」
思わず素で呟いた私に、カノン様はこの上もなく真顔で頷く。彼はくるん、と体ごとポール殿に向き直り、
「食用の山菜とよく似た形状ですから無理もありませんが、この時季は毎年死者が出ております。召し上がりたいのでしたら止めは致しません。ですが、我々を巻き込まずにポール殿、貴方おひとりで死んで下さい」
「いや、やめときます…………」
ポール殿は引きつった笑みで、ニラによく似た草を捨てた。
それは重畳、と、カノン様は鹿爪らしく、
「アレで懲りたのならもう拾い食いはおやめなさい」
と、まるでお母さんみたいなことをのたまった。
危うく部隊から死者を出すかも知れなかった最後の晩餐(これでひたすら山間の平地を歩くのも終わりだ的な意味で)のヘルコンドルのスープは、あの色合いのヤバめな毒々しいキノコからいい出汁が出てとっても美味だった。カノン様が食用ですと太鼓判を押した謎の草もいい仕事してた。塩加減も(アレン殿がこさえた塩釜を撤去したから)丁度いい。
カノン様が料理上手(by.ポール殿)って、案外誇大広告じゃなかったのね。疑ってすみませんでしたー(ぺこり)。
「確かにアク取りは有効ですね。野草の渋味と生肉特有の臭みが大分軽減されています」
カノン様、わかってくれて嬉しいわ。
どっかのマージファイター某氏なんて、毒じゃなければ何でもウマイ♪ とか寝言言ってるしな!
カノン様の表情筋がちょっとだけだけど緩んでるのが嬉しい。普段は春の海の凪の人の微笑みは、春の陽だまりなんだなってことを知った。
そして何より。
ユタの竜騎兵団? だか警備隊? だかの隊長が酒とキノコは吐きながら覚えるんだよ的なパワハラ野郎で、拾い食いで部隊全滅の危機を招いた危険人物だってことはよく覚えておこう、と思った。
お読みいただきありがとうございます。
酒とキノコは吐きながら云々は知人の迷言です。
慣れない都会っ子はキノコと山菜は大人しくお店に並んでいるモノを買うのが身の為だなあと思いました。




