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宇宙のエネルギーを拝借して、今必殺のレイキ・アタック!?(ギャりソン時田氏風に)

 カノン様の復活とそれに関わるレイキの存在は、夜が明けるのを待たずに隊の内部に伝わった。

 よって、魔力切れのハイプリースト(=カノン様)が取りこぼした怪我人が続々と私のテントに押し寄せることとなった。

 正直、不安だった。私のセルフレイキやカノン様の分はたまたままぐれで上手くいっただけで、実はレイキなんてまやかしなんじゃないか、なんて。実際、日本ではそんな扱いだったし、第一やってる私がコレ効いてんの効いてないのどっち? と、半信半疑な部分もあった。


 しかし。


「おぉーすげーすっかりよくなった! ありがとうよ!!」


 異世界へ来てからというもの、レイキのこうかはばつぐんだ! イェーイ、チナツさん見てるぅ~? ウスイ先生マジリスペクト。


「いいえ~お役に立ててよかったです、お大事にどうぞ~。……次の方お待たせいたしましたご案内いたしま~す」


 って、私ってば何異世界まで来て鍼灸整骨院の受付さんみたいなコトしてるんだろ。


「しかしまぁ何つーか、手慣れてんなぁ聖女様」


 勝手に私のアシスタントを気取ってテントに陣取るポール殿が苦笑と共に言った。

 だから私はセイジョサマなんて名前じゃありません、と前置きしつつ、


「それはもう、年季入ってますから。ここに来る前の日常っつーか?」


 私はポール殿に合わせてちょっと言葉つきを崩して返して、次の患者さんこと鎧騎士某殿を呼び入れた。


「すみません、ミオ殿。せめて私が魔力切れでなければ……」


「カノン様、さっきからそれ何度おっしゃいますの?」


 患者さんの手前、私はブラック会社仕込みの丁寧な言葉使いでカノン様を諫めた。

 それにしても患者さん途切れないなー。どんだけ体調不良者いるんだよ。さばいてもさばいても、わんこそば状態で湧いて出る。


――って、私のせいかな。これは。


 この人達は『聖女様』をお迎えする為だけに、あの岩山を踏破したのだ。しかも、鎧姿で。それってどんな苦行だよ。


――全身フルレイキだと、1人大体20分。この時間のかかり方はネックかも知れない。


 対象に手をかざしながら、私は考える。列を成す患者さんはもっぱらその為。お待たせするのイクナイ。……なんてつい鍼灸院勤めの思考の癖が出る。

 急場しのぎなら簡略レイキでいいかも知れない。でも大抵の人が問診の段階で、あ、こりゃアカンわフルで行かな、ってなるんだもん。


「頭痛までよくなったぞ……これは奇跡だ」


 最敬礼で何度も礼を言う鎧騎士某氏をお大事にどうぞ~と送り出し、私はふぅ、と息をつく。


「お疲れですか?」


 カノン様が気づかわしげに……この人いっつもこうやって心配ばかりしてるなぁ。


「いいえ」


 私は施術者の完璧な笑みで首を振った。

 たとえ足がむくんでパンパンでブーツのチャックが上がらない程だるくても、患者さんのマイナスの『気』を拾っちゃってどんなに頭痛が痛くても(日本語として誤った表現。でも患者さんの不調をもらっちゃうって、結構あることなんだよね)、それを表に出してはならない。仲間内で、あぁー広背筋がバッキバキだお~とか、ヤバイ拇指死んでる夜ピークからは肘でイクか~とか、愚痴り合うのは辛うじて許される……のかな?


「レイキって、施術者に負担はないんですよ。それがレイキの強みです」


 単純な気疲れという点なら皆無じゃないけど、それとこれとは別だしね。


「何つーチートだ!」


 ポール殿が天を仰いで毒づいた。


「俺なんかファイアーボール1発撃っただけでクタクタになりますよ!? 武力馬鹿の連中はそこらのコトわかってくんねーし!!」


「貴方の場合は単なる訓練不足です」


 カノン様はさくっと淡々と、


「素材はよろしいのに貴方は剣術にばかり注力なさって。せっかくの火魔法が泣きますよ」


 いやーハッハッハ、とポール殿は笑って誤魔化し、


「れいき? とかいう魔法がいくら疲れ知らずのチートでも食べなきゃ保たないは心理ですよ聖女様。食事休憩入れましょう、腹が減ってはいくさはできぬと……」


「そう申す輩に限って満腹でも大した戦は――」


「ポール殿のお言葉には私、全力で同意しますけど」


 私はカノン様の芸人殺しのツッコミを遮り、


「でもまだこんなにお待ちの患者さん、いえ騎士様がいらっしゃるのに……」


「では俺、っと、わたくしめが蹴散らして参りましょう!」


 ポール殿は意気揚々とテントを出て行った。




 お夜食は、山頂で食べた謎肉スープの肉多めヴァージョンに、黒くて丸い小さなパンがついていた。


「おや、今宵は豪勢ですね」


 カノン様が、ポール殿の持ってきた食器を見て口角を上げた。


「そりゃあもう、聖女様のおかげで」


 だから私はそんな名前じゃなくてだな……と、ポール殿にはツッコんでおいて、


「って、私の?」


 私が首をかしげると、ポール殿は我が事のように得意げに、


「干し肉じゃない、新鮮そのものの、ヘルコンドルが食べ放題! いやー野営とは思えん豊かな食事!!」


「ヘルコンドルって、さっきの怪鳥……」


 ワイルドだぜぇ~…つかワイルド過ぎるだろ!


「アレ、食べ物なんですか……?」


 おそるおそる私が訊くと、カノン様は穏やかに、


「魔物ではありますが、ユタではポピュラーですよ。胆さえ食さなければ毒は有りませんし」


 ま、魔物……。


「煮て良し! 焼いて良し! 羽根やくちばしは魔導具装飾品の素材にもなる! 捨てるトコなしの優良物件!」


 ポール殿は嬉々として、


「まったくミオ様々、聖女様々ですよ! ありがたや~ありがたや~」


 お、おぅ……。

 私はお椀を見た。謎肉改めヘルコンドルの肉(絶賛増量中)は、見たところフツーに美味しそう。

 郷に入り手は郷に従えという先人の教えもあるしな。食わず嫌いイクナイ。


「……いただきます」


 手を合わせ、スープをひと口。強めの塩味。私にはちょっとしょっぱいけど……まぁ肉体労働従事者ならこのくらいの塩分補給は必要……なのかな?

 お肉はちょっと固めの鶏肉だった。事情を知らずに目隠しでもして食べさせられたら、まんまササミやな、って格付けチェック芸人は言うんじゃなかろうか。

 黒パンはいかにも遠征仕様の、極限まで水分を抜きました感があるカッチコチなもので、このパン単独で食べたら口の中の水分全部持ってかれそうなくらいにパッサパサ。これは……顎関節症の患者さんオワタ……って感じかな。

 いやプラスに考えるんだ! こりゃあいいアゴのトレーニングになるぞ、咀嚼が多いとダイエットにもいいって言うぞ、っと。


 ちらり、と見ると、カノン様はパンを小さくちぎってスープに浸し込んでいた。ポール殿はパンをスープに付けて、ぱくり、と直接かじりついている。なるほど、そうやって食べるのか。どちらも日本ではお行儀悪いってされてるけど、ここはヴァルオード王国! 日本じゃないから!

 私もカノン様に倣ってパンをちぎって(めっちゃ力が必要、手が痛くなった)スープに浸してみた。


「じっと待つのがコツですよ」


「はぁい先生♪」


「オイオイ誰が先生だよ……しかしお二方とも気の長いことで。よく待てますねー」


 ポール殿は待てができない人らしい。早々に食べ終えておかわりをもらいに行った。


「そろそろでしょうかね」


 カノン様の「よし!」が出たので食べてみた。パンがちょうどよくふやけて、ちょっと強いかなって思った塩味がちょうどいい具合になった。なるほどね、うまくできてる。

お読みいただきありがとうございます。

タイトルで遊びすぎました。反省しています。某時田氏は家事一般から裏工作、果ては射撃に巨大ロボットの操縦に至るまで何でもこなす死角無しのスーパー執事です。

ちなみに、レイキティーチャーチナツさんにはモデルがいます。リアル倭魔女です。

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