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【ヤケクソ気味で】ギルドユタ支部に行ってみた結果【熱唱中?】

「盗んだパンツをかぶり出す~♪ んふふふふ~むふふふふ~(以下略)……22の昼~♪」


 私は怒髪天の勢いでユタの山の手を練り歩いていた。

 結論から言うと、私はギルドメンバーとして登録されることができなかった。つまり、勝利条件『職獲得』は満たせずミッション失敗you loseあなたの負けです。

 山の手にたむろするお上品な方々が、半ばヤケ気味に熱唱しながらズカズカ歩く私をあからさまに避ける。が、往路の時のように彼らの目を気にして歌声ボリュームダウンなんてしない。

 私は怒っていた。本当に怒っていた。何なら元歌の世界観通りにバイクをパクって爆走したいぐらいには怒っている。古式ゆかしい替え歌にしてやったのはせめてもの情けだ(?)。それでも、無意識に歌を口ずさみ途中までしか知らないリトルシビリアン的なあるあるネタは消化してやった。こっちは腐っても主要産業お笑い芸人の街出身者、転んでもタダでは起きぬロハが好き、が座右の名だ。






 微妙に中年なギルド職員に、ウォーターボールもしくはウィンドボールの使用経験を問われ、ありません、と正直に答えた。回復魔法行使者は教会の認定が必要ということで、そちらはハナから却下。


「そのレベルでは魔法使いとしての登録はできません」


と、ギルド職員はバッサリ斬って捨てた。

 彼は続けて、でもミオさんは字の読み書きができますし、と、一般メンバーとしての登録を前向きに勧めてくれようとしていた。私もそれに乗り気だった。この際魔法云々にはこだわらない。欲しいのは目先のカネ=生活費。これ以上カノン様に迷惑はかけられない。鍼灸整骨院勤めで身につけた手技施術を活かせるのなら最善だが、それはおいおいゆくゆくで。今はとにかく小銭拾いのような「はじめてのおつかい」的な案件でも何でもやります、と意気込んでいた。

 そこに登場したのが、今時こんなベタなゴロツキおらんやろってぐらいに一目で関わっちゃアカンやつと判る複数のガラの悪い男達を引き連れたグレイス様。一見男装の美少女、その実、選民意識の塊みたいなこの領主の娘とは午前中にもバッタリ逢って悪意丸出しの嫌味を投げつけられたばかりだ。今日は厄日か。

 グレイスお嬢様は私とギルド職員のやりとりを聞いていたらしく、こう言った。


「黒目のセイジョサマはこんなトコでコジキの真似事か」


 大声で発せられた領主の娘のこの台詞に、ギルド職員の顔が引きつった。掲示板を見ていた主婦っぽい若い女性は凄い目でグレイス様を睨む。グレイス様はその瞬間で全ギルドメンバーに喧嘩を打った形だ。

 グレイス様は、黒目ってのは単にオマエの外見上の特質を挙げただけで差別でも何でもないからな、と小賢しく予防線を張り、続けた。


「まさかこの黒目を登録するのか? 魔法の初歩中の初歩『ボール』も使えないって、それで魔法使い狙いかよ。身の程知らずも甚だしいな」


 中肉中背のギルド職員は顔を引きつらせながらグレイス様に言った。


「出身性別年齢その他を問わず広く門戸を開く、それがギルドの精神です。当ギルドは、登録希望者が他国民でも、……異世界の方であっても、ご本人様のやる気さえあれば登録を受け付けます」


 私は度外れに感動してしまった。微妙に中年、中肉中背でどこと言って特徴のないこの職員がこの時とても大きく頼もしく見えた。

 グレイス様は、ふーん、と小馬鹿にしたようにギルド職員を見、次いでゴロツキ一味のリーダー格っぽい奴に視線をやった。某世紀末アニメでヒャッハーしてそうな風貌の男は、領主の娘の視線を正しく理解し、ギルド職員に詰め寄った。


「おぅギルバート、おめぇの姉ちゃん、ガキが生まれたんだってなあ?」


「……」


「待望のオスガキだってえじゃねえか、よかったなあ?」


「……」


「最近、ガキがちょくちょく神隠しにあってるよなあ? 物騒な世の中だなあ? 心配だよなあ?」


「……」


 物凄く判り易い脅しに、微妙に中年なギルド職員ことギルバート氏はぐっと息をつめた。そこにすかさず、グレイス様の追撃。


「で、どうすんの? この黒目の異世界人、ギルドに入れるのか?」


「……」


 ギルバート氏は顔を引きつらせ、うつむく。掲示板を見ていた女性は殺しそうな目でグレイス様を睨んでいたが、ゴロツキ一味の中のひでぶって言いそうな下っ端がズカズカ寄って行くと、そそくさと逃げるようにして出て行った。

 私は空気を読んだ。


「出直してきます。登録は結構です」






 そういうわけで、私は怒っていた。これでもかってぐらいに怒っていた。

 グレイスお嬢様は私に何の恨みがあるのだろう。私は彼女に何かしただろうか。

 同時に、親切なギルド職員ギルバート氏やあの場に居合わせたギルドメンバーに対して申し訳なく思った。この街の絶対的権力者である領主の娘が引き連れてきたならず者と図らずとも対峙することになってしまってさぞや怖かったろう、恐ろしかったろう。

 そう思うと余計にヘッドカムカムでストマックスタンダップで(出巛’sイングリッシュ)どうしようもない。やりきれなさを替え歌に乗せて熱唱するぐらいは許して欲しいわ。大丈夫、世界観的に歌が武器になったりしないから。私がヤケっぱちで熱唱したってうるさいぐらいで害はない。むしろ俺の歌を聴けーっ! ってなモンだ。

ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


替え歌のチョイスに問題のある聖女様のお話です。

元歌はもう20年? 30年? ぐらい前の歌のはずですが、作中の替え歌バージョンを今時のちびっこが歌い上げていて吃驚致しました。


名曲はこうして歌い継がれて行くものなのですね……。

ぱんつとかンコとか大好きなお年頃ってありますものね……。

きっと、誰もが通る道なのでしょう(!?)

地球はひとつ、割れたらふたつ、なんて最早元歌すらわかりません。

それでも歴代の子供達は元気に歌い上げています。どこで覚えてくるのでしょうか。

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