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【我が心の歌】ギルドユタ支部に行ってみた【熱唱中】

「大根おろーしに~雑草と~♪ そーめんゆでて~昼ごはん~♪」


 私は意気揚々と午後のユタの街を闊歩していた。

 目指すはギルド、勝利条件は『職獲得』。キィちゃん曰く、ギルドユタ支部は武器屋防具屋らぐじゅありーなおやど()が立ち並ぶ、そのまた向こうの鍛冶屋の隣、ってことだった。看板が出てるからすぐわかると思います、とキィちゃんは言ってた。山の手方面は不案内だがまぁ行けばわかるだろう。

 と、いうことで、昼食の後片付けまで済ませ、洗濯取り込み業務までにはまだ早いというこの時刻に、私は例のギルドとやらに殴り込みをかけることにした、というわけだ。




 あれから、彼女比で少し打ち解けてくれたキィちゃんと色んな話をした。やはりお腹が満ちるとパワーが出るってことよな、うん。

 キィちゃんは『大人しい』という個性を隠れ蓑にしてるだけで、その裏で実にしっかりとした考えを持ってそうな少女だった。成人までにはあと5年もある(原文ママ。5年「も」と彼女は言ったのだ)と――ヴァルオードの成人年齢は18歳。つまりは彼女は現在、日本でならまだ中学生。庇護されてしかるべき年齢だ。そんな子に洗濯屋の仕事と家事全般、その上かけもちでギルドで副業までさせるなんて洗濯屋は鬼か。

 私は激怒し、親の顔が見たいと思い、山の手方面に来る前にそうしてみた。えぇ、行きましたよわざわざ洗濯屋。通り道でもないのに。通りからちらっと眺めただけだったけど。薄毛のオッサンが暇そうに店番とかしてたんで通りすがりにガン見したったわ。


 閑話休題。

 キィちゃん曰く、ギルドを利用するには利用者登録なるものをする必要があるらしい。ギルドメンバーとして登録されると、ギルドを通して依頼を出したり受けたりできる。登録自体は簡単な審査だけで誰でもできるってキィちゃんは言ってた。

 ギルドで扱う案件は様々だが、ユタでは主婦のおこづかい稼ぎ的なモノも多くあるとキィちゃんは話してくれた。例えば肉屋の若女将エマさん依頼の「赤ちゃん用の肌着5着、1000シカネーでお願いね♪」とか、金物屋さんの「○月△日限定、○○時~△△時、店番ヨロ☆ 昼食付で3000シカネー」とか。ギルドメンバーはそうした中から自分に見合った依頼を引き受け、カネを得る。依頼者の提示した金額は丸々受諾者のポケットに入るわけではなく、その何割かはマージンとしてギルドの取り分になる。ただし、依頼者が是非この人にと指名した場合の指名料は100%受諾者のモノだ。

 ギルド、という単語の厳めしさで、すわ魔物討伐かと身構え意気込んだ私にキィちゃんは、


「そういうのは……竜騎士がしますから……」


おずおずと、だがしっかりとツッコんだ。ふむ、つまりこの世界のギルドとは、フツーの庶民のヨコつながりの互助会的な感じなのかな、と私は見当をつけた。

 そして思った。これなら私でもできそうだ、と。

 まずは簡単な依頼をこなして経験を積んで、少し慣れたら自分から依頼を出すのもいい。「施術やります、全身マッサージ15分500シカネー、今ならお試し期間でオトクです!」……みたいに。

 聖女様、魔法が使えるならそれをアピールするといいと思います……と、ギルドの先輩キィちゃんにアドバイスされ、私は俄然奮い立った。キィちゃん自身も水魔法所持者で(!)実家で洗濯屋の仕事もこなしてるからギルドの審査に難なく通ったとのこと。『魔法使い』は魔法不使用の案件でも仕事が回ってきやすくなるともキィちゃんは言ってた。


「オウオウオウオウオウ~♪ はーんぺーんたまごー♪ お・でんだ~♪」


 私、できる……やれるわ!

 どこぞの北島マャさん覚醒みたいな万能感でギルドを目指す。自然と歌だって口をつく。山の手に集うお上品なお方々が気味の悪いモノを見る目で見てるのに気づいて、すれ違う時ちょっと歌声ボリュームダウン的なあるあるネタを消化して、


「モクテキチニ、トウチャクシマシタ」


 私の中のナビが私に告げる。うん、多分ここがそう。武器屋防具屋立派な宿屋の先の、鍛冶屋の隣の建物。看板も出てる。すぐわかった。

 ヴァルオードはピクトグラムが充実している。異世界人としてありがたいと思うことのひとつだ。識字率が低いゆえなのか、武器屋も防具屋も宿屋も鍛冶屋も一目でそれと判る看板を掲げている。これなら仮に字が読めなくても困ることはなさそうだ。




 我が心の歌『は○○んた○○ー○の歌(の替え歌)』の勢いそのままに私はギルドの扉を開けた。


「たーのもーう! じゃないや、失礼しまーす……」


 我が故郷日本のゲームなんかでは、ギルドっていうとあらくれの冒険者がたむろして昼間から酒盛りしてるイメージがあるけど(酷い偏見)、こちらのギルドはそんなことはなかった。ざっくり言うと、激混みではないハローワークか物凄い過疎村の役所の窓口か。

 カウンターには中年になりかけの青年って感じの男性がひとり、利用者対応中だった。こちらの案件ですと締め切りが明後日になりますが大丈夫ですか、なんてやってるのがますます職安っぽい。

 ただぼーっと待ってるのも何なので、掲示板なぞ見てみる。「急募・姪の里帰りにつきお持たせ用の水菓子求む」……ふむふむ。って、〆切り今日夕刻!? ホンマに急募やなー。「解体工(肉系)、出来高払い、経験者優遇、マージン分は現物補填」……何コレ全力のツッコミ待ち? つか肉系って何!?

 ざっと眺めたところ、キィちゃんが言ってた通りで確かに主婦のおこづかい稼ぎっていうか「はじめてのおつかい」っぽい案件が多かった。毛糸玉2コとかもう自分で買いに行けよ的なのとかね。




 明後日が締め切りの案件を引き受けたご婦人が去ったので、私は掲示板の中から幾つか目ぼしいモノをピックアップしたメモを携えカウンターに行った。カウンター内の微妙に中年な中肉中背の青年は開口一番、


「利用者登録はお済みですか?」


と言った。いいえ、それをしに参りましたわ。


「ではこちらの用紙に記入して下さい。文字は書けますか? こちらで書きましょうか?」


 なかなか親切なギルド職員だ。大丈夫、自分で書きますわ。

 私はできる限りスペースを埋めた。アンケートに空欄イクナイってスケートの上手い芸人ノブナりさんが言ってた。同郷のよしみで何となく応援してるんよあのお殿様。彼の涙はダイヤモンド、涙でお家は立つんやで。号泣姿でほっこり笑えるって神が与えた得難い才能よ。……ってんなこたぁどうでもいいんだよ。よーっし、ここぞとばかりにアピールアピールぅ~♪

 と言っても、日本の履歴書とかによくある志望動機とかガクチカとかの応募者の熱意をアピる項目はなかった。淡々と、無味乾燥に、名前を書いて、所持するスキル欄にチェックを入れるだけのカンタンなオシゴトだ。


「ええと、ミオさん? クラスは何ですか?」


「……くらす?」


 私は鸚鵡返しに訊き返す。


「え?」「え?」


 ギルド職員は用紙に目を落としながら、


「魔法使いとしての登録をご希望で?」


「はい、できれば……」


「所持魔法は水と、風?」


 あ、コレ複数持ちとか嘘こけーって疑われてるヤツだ。悟って私は言った。


「どちらかに絞った方が? どちらもヒールはオッケーですけど――」


 アタックきついって言われるけどな、何なら気絶するけどな、とは言わないでおこう。沈黙は金、言わぬが花だ。


「回復魔法は教会の認定が必要ですが、そちらはお済みで? そうでないなら水はウォーターボール、風ならウィンドボールが必須です」


「うぉーたー、ぼーる……? ウィンドにボールなんてあんの……??」


 私は戸惑った。


「水って、そのまま投げつけるんですか? ウィンドボールって、ただの風圧?」


 そんなん使ったことないわ、練習でだってやったことない。

 ヒマぶっこいてるヨロイー’s相手に手合わせ(?)する時、私が使用するのはもっぱらアイスストームかウィンドカッターだ。火ならともかく、風とか水とかそのまんまぶつけるなんてセンスない。殺傷力だってガタ落ちやないですか。


「ウォーターボールか、ウィンドボール。使用経験は?」


「ありません」


 答えのわかった問いを発する人の口調で訊いたギルド職員に、私は正直に答えた。


「残念ですがそのレベルでは、魔法使いとしての登録はできません。でもええとミオさん? は、字の読み書きができますし、受けられる依頼の幅は広がるかと――」


 ギルド職員は言いかけ、裏からの物音にビクッと肩を跳ね上げ口をつぐんだ。

 カウンター後ろの、多分職員通用口的なドアからガラの悪そうな男達が複数登場。私もギルド職員につられてそちらを見、反射的に顔をしかめてしまった。


「グレイス様……」


 うわ最悪、とか口走るトコやったわ。つかよく逢うなお嬢様。別に逢いたくもないのに。

ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


聖女様の「~ですわ」「~ますわ」は、関西風のアクセントでお願いします。

字面だけだとご令嬢なんですけどね。日本語って奥が深い。


作中の歌は言わずと知れたアレでございます。

大根おろしの後の歌詞、私の中の納豆派と雑草派が熾烈な争いを繰り広げたことを申し添えておきます。

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