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【フルアーマーの】誰やねん中の人【謎の騎士】

 図らずも長居になってしまった八百屋を後にし、商店街を行く。時折、内警備の兵とすれ違ったりする。どうもお仕事お疲れちゃんです。

 今時流石にもうかりまっかぼちぼちでんなぁ的なベタな挨拶は交わさない。が、こちらの世界でもそこはかとなくうっすらと人種というか、地域差みたいなものはある。こちらのおはようさん、に対して、黙然として騎士の礼を取るのはヴァルハラ民で、こちらの倍ぐらいの音量で、おはよーございまーす調子はどーですかー、なんて会話をふくらませて来ようとするのがユタ民だ。

 ヴァルハラ騎士団は基本鎧着てるしユタ竜騎兵隊は制服着用だから一目瞭然だろなんて言わないで。多分私、彼らがユニフォーム着てなくても見分けつくと思うの。ユタ民は一端身内と認めた者にはとことんフレンドリーだ。……って言っちゃうとヴァルハラの人が冷血漢みたいに聞こえちゃうかもだがそういう意味じゃなくてだな。ヴァルハラ騎士団の人は騎士だから騎士らしく任務に忠実なのよな多分。オフの宿舎とかで顔合わすと割とゆるゆるだし、オンオフの切り換えが素晴らしいのよヴァルハラ民は。なんて言っちゃうとユタの兵がなあなあみたいだって? いやちゃうねんユタ兵は交番のおまわりさん的存在で、ヴァルハラ騎士は本庁の刑事って感じなのかな知らんけど。

 今行き合ったのはガッチガチに鎧装備のヴァルハラ騎士だ。ユタのパンピーをして鉄頭と呼ばれるフル装備だったんで誰だか判らんわ。誰やねん中の人、と思いながら一応、おはようございます、とご挨拶。正体不明のヴァルハラ騎士は無言で会釈を返してきた。

 聖女様おひとりですか小官が護衛に、等と言われなくてヨカタ、と思いつつ、私はウィンドーショッピングを継続した。ユタの商店、窓とかないけど。




 こちらの世界に来て2ヶ月ちょい。これまで生活必需品しか見てこなかったが、さもありなん。この街にはほぼほぼ生きていく為に必要なモノを扱うお店しか存在しなかったのだ。

 ここユタ領の、ユタの街。いちばん大きな、とされる通称青空市場のラインナップは、八百屋、金物屋、布地屋さん、洗濯屋さんと床屋さん。もう少し行くと肉屋にパン屋、ドヤ街もどきの宿屋とそして別棟にお食事処がある。

 ちなみに、私が初日に泊まって1日しか保たずに音を上げた、カノン様がオーベルジュと呼称するところのらぐじゅありーなおやど()は山の手にあり、そちらには武器屋や防具屋、道具屋、鍛冶屋などがある。ファンタジックなおかいものとはまるで無縁な私はほぼほぼ山の手方面は未到達だ。でもそれでいい。根っから庶民の私には、この青空市場の雰囲気のが落ち着く。

 ピーク時だとごった返して足元すら見えないユタの台所ことこの青空市場も、午前中のアイドルタイムだとすいすい進める。見晴らしもいい。先程会釈した鎧騎士が中央広場方面に歩いていくのが見える――。


「ん? ちょ待てよ」


 私は歩を止めた。正式な動作で回れ右をし、改めて件の鎧騎士を見る。警邏のルーティンルートなのだろう、足取りに淀みはない。中央広場をすたすたと早足で横切る騎士に、怪しい動きは決してない。むしろキビキビテキパキ動いてキモチイイネ! って感じだ。

 しかし、駄菓子菓子。


「あの人、会釈した……」


 ヨロイー’sことヴァルハラ騎士団の面々が私に返すご挨拶は大抵、右手のこぶしを左胸に軽く当てるヴァルハラ式の騎士の礼。オフの宿舎で起きぬけに、ちぃーっす、なんてへらへらぺこりんする人もごく稀にいるけど(例:自称ガチムチヨロイで火魔法属性の愛されボーイことマージファイター某氏)それはあくまでオフの時。

 仕事中、鎧を装備した時点で彼らは気のいいそこらのあんちゃんから任務第一の規律正しい騎士になる。そして彼らは休憩中でも騎士のままだ。任務を終えて、鎧を脱ぐまで彼らはずっと騎士なのだ。今は勤務時間内、ましてや内警備中、人の目のある場所で、自分で言うのも何だが仮にも聖女に対してぺこりんぬ~はヤバイ。カノン様に知れたらあの人めっちゃくどくど説教される。あの人誰だか知らんけど。


「騎士の礼じゃなくて、会釈……」


 別に私を敬え崇め奉れなんて言わないけど、ヴァルハラ騎士のみんながみんな礼儀知らずとか思われちゃうのはイクナイ。私はペタペタと走り出した。商店街を突っ切り、中央広場目指して。肉屋のリサーチは後にしよう、肉屋は逃げへんわ。

 走りながら私は、今日の自分の格好を激しく後悔した。商店街有志の差し入れの裾の長いリネンの貫頭衣に、これまた商店街有志から以下略のグラディエーターシューズ。いずれも、日本から着てきた黒Tシャツに黒スラックス、時々カノン様のお下がりの生成りのローブで通してた私を哀れんだユタ民の方々がご厚意で下さったものだ。お気持ちはありがたいしちょくちょく着させてもらうんだが、基本スニーカーでパンツスタイルだった私にくるぶしまであるワンピースは荷が勝ち過ぎた。靴は竜騎士の方々が好んで履くものなので軽いのは軽い。しかしサイズ的に少々問題がある。つまりは、私の足にはちょっとばかし大きい。どうせなら貫頭衣に合わせて靴もユタ風で、なんてアホな洒落っ気出した今朝の私をぶん殴りたい。お散歩程度に竜舎まで、ならばこれでもいい。でも街場に出るのに、しかも走るとなるとアカン。ぺたぺたぺた、ぱかぱかぱか……あーもー靴ずれできてまうわ!

 つくづくタロイモ預かってもらっといてよかったわ、と思いながら中央広場の入口へ――。


「あれ……?」


 誰だか知らん騎士、おらへんわ。


「どこ行った……?」


 さっきまでこっちら辺にいたはずなのに。見失った? んなアホな。

 私はうんと目をこらして広場を見回した。中央広場のど真ん中、ベンチのひとつもない殺風景な中にでんと陣取る時計塔の陰に複数の動く人影が見えた。


「えっ、あそこ!? えっらい瞬間移動やなー」


 どんだけのハイスピードよ、と毒づきながら、私は時計塔に向かって走った。ぺたぺたぺた、ぱかぱかぱか。あぁもうこの靴ホンマあかんわ。膝下から足先までのホールド感は嬉しいけど、いかんせんデカすぎる! 中敷きでも敷いたら少しはマシになるやろか。

ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


靴が合わないのはつらいです。

どんなにネットや通販が充実しても、靴だけはちゃんと試着してから買いたい派です。

知らんけど、がやたら多用される章となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか(?)

知らんけどって便利な言葉ですよね、知らんけど。

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