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愛すべき天然司祭様についての話

 いやあのえっとだから放っといてんか、大丈夫やしマジに取らんといて、とカノン様を説得し、私は物干し場にて洗濯取り込み業務に従事した。目覚めてもうたししゃあないわ、義務ではないけど最早ルーティンと化したこの業務、こなさんと気持ち悪い。あれだけわちゃわちゃしてたら眠気なんかどっか行ったし。何となくしんどい重だる~ぅな感じはするけどいざとなったらアニマルの娘を召喚するわ。頼りにしてまっせ、メダリストのキョウコさん。


「うぅーーーっ、気合いだ、気合いだ、気合いだーーーっ!」


 本日はお日柄もよく丁度いい塩梅に乾いてる。お当番の面子はまだ来ていない。一番乗りだ。


「あ~お日様の匂いのする洗濯物はええわーぁ日常~って感じして」


「アンタ聖女って自覚あるか?」


 何故かポール殿までくっついてきた。カノン様は街での仕事を詰め込めるだけ詰め込んでから翌朝駐屯地にとんぼ返りすることにしたらしい。っていうか、早速救護要請かかってどっか行ってた。ワーカーホリックハイプリースト……。


「ポール殿って今日内警備ですよね? 家事当番と違いますよね?」


 堂々とサボリかい、とツッコんだ私に彼は言った。


「上官の命令には逆らえませんからな」


 カノン様がひとこと、ポール、ミオ殿を頼みます、って言やぁ俺なんかミオ様の下僕っすよ、と、ポール殿は悪い笑みで言う。


「カノン様はちょーっとやり過ぎかなーと思うの……」


 私は軽く本心を吐露してみた。今でこそ少しマシになったが、ここへ来た当座なんか凄かった。私如きに騎士団と竜騎兵隊のナンバー2が常に張りつき監視いや警護してたのだから。

 カノン様は片時も私から目を離したくないようだった。騎士団宿舎から竜舎までのそう長くもない距離をピンで移動させてもらえるようになったのだってつい最近だ。今でも街中に出る時には必ず騎士団の誰かしらがついてくる。もっとも、私が商店街に行く時は食料品の買い出しが主なので、荷物持ち要員が必要って事情もあるが。何せ宿舎の人数分のエサ調達だしね、ひとりで持って帰れる量でもないしね。だってあいつら、とんでもなく食うぞ。


「そう言ってやるな。あの人は心配なんだよ、アンタが」


「私、よくよく信用ないんやな。ってかカノン様って誰に対しても満遍なく心配してるよね。

 ……それよかいるんなら手伝ってよポール殿、ホレ、そっちのデカブツ頼んます」


「へいへい」


 シーツなどの大物はポール殿に任せることにして、私は細かいモノの回収に当たることにした。すなわち、ぱんつとか靴下とか制服とかそっちら辺。シーツやブランケットは私の背丈だと悪戦苦闘する。適材適所ってね。ってか誰だよこんな高さに物干し台設置した奴は。ちびっこに喧嘩売っとんか?

 取り込んだ洗濯物は一端、食堂に運び入れる。口に入るモノを扱う場所でバサバサほこり立つモノ処理するってどうなん、と最初こそ思ったがすぐに慣れた。何せ他に適当な部屋がないのだ、この宿舎には。

 おひさまのにおいのするあれこれをさくさくたたんで部屋毎に仕分けする。えーと、このステテコパンツは大きさからしてアレン殿やな。こっちのちんまい靴下はフーガ殿やね。おや、この制服の袖ほつれとるやないかい、どちらさんのやろ――。


「しかしミオ様、アンタよく見分けつくよな」


 厨房引き出しに設置された何でもボックス(勝手に命名、ホントに何でも入ってる、私のチャッカマンも仲間入りさせてもらった、ちなみに設置者はカノン様だそうな)にソーイングセットを取りに行く私の背にポール殿が言った。


「え、何が?」


「この大量のブツ、どれが誰のかわかってんだろ?」


「んー大体はね。大きさとかデザインとかで。でも私なんてまだまだ。カノン様には負けるわ」


 私はまだ正解率100%の域には達していないので、時々洗濯物の誤配をやらかすことがある。そこ行くとカノン様はパーペキ、正答率100パー、むしろシンクロ率400よ。神業みたいな正答率に慄いて私は洗濯たたみ業務を遂行するカノン様を手伝いながら尋ねたものだった。何かコツでもあるんですか、もしかして魔法使ってるとか? と。カノン様は柔らかく苦笑して、ミオ殿は面白いことをおっしゃいますね、そんな便利な魔法はありませんよ、と言った。カノン様がおっしゃるには、各々の体格個性を鑑みておおよその見当をつけているとのこと。例えば、見習の少年兵はまだ給金が少なく私物を揃える余裕に乏しい、よって支給品をそのまま使用する者が多い。逆に、規格外の恵体のアレン殿などは支給品の制服では入りませんから特注です。……

 さらに彼は、ド派手な柄のビキニパンツを手に取り真顔で言った。こんな珍妙な下着を身につける者は我が隊ではポールぐらいなものですね、と。私は若干引きつつ半笑いになりながら、とりあえず奇天烈で非実用的なぱんつを見たら全部ポール殿のと思っときゃいいな、と思った。


「カノン様、また何かチートな魔法とか使ってんのかなーとか思って訊いてみたけどそんなことなかったわ。単純に、クリス〒ィやコナソ君のやり方ね」


 でもそれだって凄いことだよな。年齢体格性格その他、自分の部隊の面々の特性をしっかり把握してるってことだから。


「くりす? こな……??」


「元の世界のミステリの有名どころ。……そんでさ、カノン様、確かに魔法で特定出来れば楽ちんですよね、とか言い出して。染みついた魔力の残り香を辿ってどうこうとか難しいこと言って何か色々試してたけど」


 人にはそれぞれ個有の魔力の波動みたいなものがあって、それを見つけて云々とかカノン様は言ってた。


「私、思わずツッコんだわよ。それだと無属性の人はアウトじゃないですか、って。そしたらカノン様、まったくの無の無ならそれも際立つ特性ですから、それはそれで情報として役立ちますよ、って」


 なるほどーと思ったわ、と、何でもボックスから目的のブツを見つけた私にポール殿は、


「いや、なるほどーじゃなくてだな。つかツッコむトコそこかよ。個有魔力の特定追跡っちゃ諜報機関か暗殺部隊の秘儀だろが。仮にもハイプリーストが手ぇ染めていいモンじゃねぇぞ」


 あの人ホント魔法が絡むと見境なくなるよな、と、彼は赤毛をがしがしかきむしった。やっぱり根元の白髪が気になる。


「安心して、首尾よく失敗したから。

 結局、洗濯済みのブツやし魔力の残り香? とやらも一緒に洗浄されちゃってたっぽいし」


 そうですよね、少し考えれば判る結果ですよね、と、しょぼーんとしてたカノン様を思い出しながら、私は縫いものに取りかかった。裁縫はそんなに得意じゃない。でも、裕福の反対の生活だったから穴の開いた靴下とかかがって再使用とかフツーにしてたし、袖口かがるぐらいなら何とかできる。多分コレ、鎧着せてもらえるまで行ってない歩兵隊の人のやろな。丁度剣の抜き差しで引っかかる箇所やしな――ってコレ全部カノン様のパクリだけど。


「それに、私が洗濯トルネード! とかするでしょ? だから魔力の残り香なんて私ですっかり上書きされちゃってたみたい。ミオ殿の水と風の気配しかしません……ってカノン様ガクーってなっちゃってて」


 我が故郷日本の洗濯機を模して毎朝揮われる『必殺☆聖女様の洗濯トルネード!』は、今や騎士団宿舎に必要不可欠なものになっていた。……なんて自分で言うなって? ええやんか別に。少しは自慢さしたってや。


「あの人、変なトコでポンコツだよな」


 ぷくくくくっ、と笑ってポール殿は言った。だから天然司祭って言われるんだよ、と。


「でもその後、『つまり我々はミオ殿の残り香に包まれて戦うのですね』とか言われてドン引いたわ」


「ファッ!? オイ、言い方! 言いてぇこたぁわかるが、言い方!!」


 多分カノン様的には、聖女様のご加護がありそうだって言いたかったんだろう(私の加護とやらに果たしてそこまでの力があるかどうかの議論は後に譲る)。でも字面だけ追ってると、そこはかとなく特殊性癖ちっくというか、むしろド変態っていうか。しかも彼は、自分がどんだけヤバイ発言をかましたかまるで理解していない調子で小首をかしげて不思議そうに言ったのだ、私は何かおかしなことを申し上げましたか、と。


「私はまぁ、カノン様がどういう方かちゃんと知ってるから変な誤解はしないけど」


 施術中とかもそう。全部貴女の好きにして、とか言っちゃうからなぁあの人。ソレ、アンアン喘ぎながら言う台詞と違うやろと。


「純粋培養のハイプリースト様もいいけど、少しは俗世の垢にまみれた方がええんちゃうかな、って私なんかは思うんやけど」


 結局、周りがお姫様みたいに守ってるからカノン様はいつまでも『天然』で『お優し過ぎる』『お人好し』のままなんじゃないかな、と、私は最近、とみに思うのだ。

お読みいただきありがとうございます。


大丈夫よ聖女様、そのハイプリーストさま養殖だから。

というお話でした。

天然天然言われてますが、心配しなくても彼は案外図太くて狡猾です。

カノン様はちゃんと計算ができる人です。

部下P殿がその辺指摘しないのは、ばれた後の報復が怖いからだと思いますよ。


ということを、そのうち彼女も気づくでしょう。

……気づくかな?

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