表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/157

火竜なマダムのお気に入り?

「ちっちゃい女の子がいやがってるのに、ムリヤリ連れ去ろうとするなんてひどいって……」


 通訳=サムソン殿の言い草に、私は酷く複雑な気分を味わった。竜さんから見たらそりゃあ私は「ちっちゃい」でしょうけど、それやと私、年端も行かない幼女のように聞こえるで?


「ですからそれは誤解です、デリラ殿。私はただ、お疲れのミオ殿を救護室に運んで差し上げようとしただけです」


 カノン様は竜相手に大真面目に釈明していた。デリラさんはそれにかぶせるようにキュウキュウ言っている。シュールだ。


「誘拐犯には任せられない、このちっちゃい女の子はあたしが運んであげるって……それに、金の毛のニンゲン、っと、カノン様だってヘトヘトのくせにヤセガマンしてイイトコ見せようって張り切ってカワイイ…………ってコレおれがそう思ってるんじゃないですよ!?」


「えぇ、解っています」


 カノン様はサムソン殿に鷹揚に頷いてみせたが、私の目にはカノン様の周囲の空気が凍って見えた。カノン様に「可愛い」は禁句だ。


「まぁまぁそうご立腹なさるな上官殿。相手は百戦錬磨の年上のレディです。若輩者の強がりなど見抜かれて当然――」


「年増っていうなって言ってます」


 カノン様をなだめるポール殿を、通訳がさっくり遮った。巨大な竜の橙の目線がポール殿に鋭く刺さる。


「そそそそんなことおおお俺はひひひひひとつも言ってねぇぞ……」


「言ってなくても、わかるんだよ」


 パトリック殿が鼻をほじりながらニヤニヤ笑って言った。


「竜に人間のコトバがわかると思うかい? コトバじゃなくて、ココロで会話すんだよオレたちは。上っ面だけフェミニスト気取ったって腹の底で思ってるコトは筒抜けさ、女ったらしの中央の騎士さん♪」


 デリラさんはまだキュウキュウ言っている。多分、カノン様に向けて。

 カノン様を取り巻く冷気が引いた。ふふっ、とカノン様が口元のみで微笑む。奇遇ですね、私も同意見です、とカノン様は呟く。サムドン殿が、がびょーん! と効果音が付きそうな勢いで涙と鼻水垂れ流し出したんでビックリした。


「このちっちゃい女の子気に入った……って、デリラーっ! おれを捨てるのかーーーっ!?」


 何なんや、地上で何が起きている?

 竜はでっかい。背中に乗っけてもらうとわかるが、騎乗すると体感としては身長の2倍の高さから地上を見下ろす格好になる。大声なら届くけど、細かいことはわからない。


「サムソン殿、サムソン殿、そんなに泣かないで下さい。好きなひと、は、沢山いても、デリラ殿が愛しているのはサムソン殿、貴方です。彼女に乗るのは貴方だけではないかも知れない、けれど彼女の現在のパートナーは貴方なのです。彼女の過去に嫉妬するのはおよしなさい、その思考は彼女を苦しめます」


「ぐずっ……ぐすっ……だって、でも、おれはっ……っ」


「今、デリラ殿の愛は貴方だけのものです。貴方をパートナーに選んだ彼女を、信じておあげなさい。貴方は、愛されているのですから」


 何じゃこりゃ。私はデリラさんのひんやりとしたウロコの感触を楽しみながら内心で呟いていた。何が何やらようわからんうちに年上カノジョの過去のオトコにヤキモチ焼いてる少年の恋愛相談(?)になってたカオスだ。とりあえずサムソン殿の鼻水拭いてやりたいわ。つか自分で拭け。

 私の思考を読んだかのようにカノン様が自前のチーフで幼い竜騎士の顔を拭いていた。……保母さん? いや、保父さん? この人ちょいちょいママみが凄い。

 デリラさんが、キュウ! と鳴いて、カノン様の髪を軽く食んだ。おやおや、とカノン様が苦笑のニュアンスで囁く。


「デリラ殿、私達は仲良くやれそうですね」


「キュウゥ!」


 何やようわからんけどカノン様とデリラさんの親密度が爆上がりしてた。とりあえずサムソン殿、ヤキモチ焼く相手は私じゃなくてカノン様やと思うで。


「何かそこはかとなく黒っぽい秘密結社が誕生してないか?」


「ってかさ、何で竜騎士でもねーのに会話成立しちゃってんのカノン様」


 ポール殿とパトリック殿の言い分には全力で同意する。


「カノン様ものせてあげるって――」


「いえ私は結構」


 デリラさんの親切な申し出(私にはキュウキュウという鳴き声にしか聴こえなかった)を通訳したサムソン殿をカノン様は秒で断った。


「デリラはやさしいのにな……」


 サムソン殿はひらりと竜に乗りながら呟く。ちびっこで新人だけど動きはいちいちスムーズだ。


「デリラ・サムソン組出発準備完了。目的地、騎士団宿舎内救護室。これより聖女様の護衛任務に着手します」


 変声期前の少年の声が紡ぐ。


「おっ、サムソン初の単独任務? はりきっていってら~♪」


 先輩格の竜騎士は軽いノリで手を振った。……だから鼻ホジやめれ。


「って、すぐソコじゃねぇかよ。街の中だし」


 大袈裟、というニュアンスを含んでツッコんだポール殿の脳天をカノン様のメイスが直撃。


「いって! 何すんすかこの暴力上司!!」


「街の中でも、すぐ其処でも、任務に変わりはありません。貴方にだってあったでしょう。かの姫君を控室から会場へエスコートするほんの数百歩の距離。すぐ其処だから、城の中だし、と嗤われて、どんな気分になりましたか」


「……すみませんでした」


「わかればよろしい」


「しかしカノン様、メイスはナシで――」


「おや、それでは氷漬けか光線弾がお好みで?」


「…………メイスで結構です」


 そんなほのぼの会話イベントの後、カノン様は竜騎士と竜に体ごと向き直り、言った。


「貴方がたに光の加護と祝福がありますように、オラクルの名にかけて。

 すみませんね、私、仮にも神の使徒(プリースト)ですのでユタの大地と風に祈ることはできないのです。本来なら所属長か貴方の上官のお役目でしょうが、不在ですので代理で」


「つか代理のが豪華ってどうよ? ランス隊長とかヘイゼルさんのテキトーなアレよりよっぽど御利益ありそうってーか?」


「オラクルの名を大安売りしないでもらえますかね……中央に知れたら以下略」


 パトリック殿とポール殿が何か言ってたけど、サムソン殿のはりきりっぷりから『オラクルの祝福』とやらがとりあえず何か凄そうだってことは理解した。

 デリラ・サムソン組いきまーす! という元気な宣言は確かに聞いた。でもその後の記憶が途切れてる。デリラさんのひんやりとしたウロコが気持ちいいなって思ったことも覚えてる。火竜って、火竜だけどひんやりなんだな、って思って……それから、どうなっただろう?


ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


殺伐とする前にほのぼのイベント(?)をこなしてみた。

というお話でした。


百戦錬磨のマダムを味方につけると強いですよ。

というお話でもあります。

竜はご長寿なので人間の青年なんて鼻たれ小僧ですよ、多分。

頑張れニンゲンのオス(!?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ