表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/157

ノォォォォォ食べないでぇぇぇぇぇ私脂身ばっかやでぇぇぇぇ食っても美味ないでぇぇぇぇぇーっ!

「デリラ、ストップ!」


 幼い竜騎士の切羽詰まった叫び声。巨大な茶褐色の火竜が水桶を破砕し全速力で突進してくる。


「ハル!」


 バカパット改めパトリック殿が相棒を呼んだ。竜笛を用いなくても緑褐色の竜は文字通り飛んできた。ハルくんことハルバードくんは同胞を止めるかのように茶褐色の竜の進行方向に着陸。私を抱くカノン様の腕に力がこもる。ポール殿は万が一に備え魔法発動の手順を踏んでいた。


「デリラ!!」


 サムソン殿の声は殆んど泣き出しそうだ。

 竜の暴走。ババ様、私達死んじゃうの? 定めならね。竜の怒りは大地の怒り……なんてナウシ力ごっこしてる場合じゃなかった。何なの? 何が起きてるの!?


「サムソン、笛吹け!」


 サムソン殿の先輩格の竜騎士が促した。しかしサムソン殿はイヤイヤするように首を振る。


「操って命令するのはイヤです!」


「んなコト言ってる場合か! ……ハル、避けろ!! お前じゃデリラに敵わない!!!」


 人間達を守る位置にいたハルくんが突進する火竜に道を譲った。流石パットの相棒、逃げ足が速い。

 巨大な火竜は私の――私とカノン様の真ん前に来て、止まった。

 竜の真っ正面に立っていいのはその竜のパートナーだけ此れ鉄則。でも、人間にその気はないのに竜自らが真っ正面に来てしまった場合はどうしたら。

 腕を伸ばせば届く位置、真っ正面から巨大な火竜がくわっと口を開ける。鋸状の歯が覗く。カノン様の腕にさらに力がこもり、冷気が漂う――魔法発動の予兆。


「カノン様やめてくださいデリラが死んじゃう!」


 甲高い少年の声は完全に泣いていた。カノン様は応えない。冷気が満ちる。あと少し念を込めれば氷柱が火竜を襲うだろう。茶褐色の巨大な竜はぐわぁぁぁっと口を開け――


「ノォォォォォ食べないでぇぇぇぇぇ私脂身ばっかやでぇぇぇぇ食っても美味ないでぇぇぇぇぇーっ!」


 私は叫んだ。今度ばかりはお茶目な冗談ではなく本気の命乞いだ。ポール殿がクソッと舌打ちし剣を抜く。パトリック殿は竜笛を取り出した。あぁぁぁもうアカン食われるホームから突き落とされてもどうにか生きてた私の悪運もここまでか22年とちょっとかもう少し生きたかったな辞世の句って季語とかいらんかったっけか――。

 火竜のぐわぁぁぁーっと開いた口が迫ったこの数瞬で、色んな事を考えた。走馬燈は見えなかった。治療、長引かせて怒らせてもうたんかな、と思い当たるフシについてぼんやりと考えたりはした。その点については申し訳なかった。堪忍な、デリラさん。

 私は目を閉じた。ただ、冷気を垂れ流しながら私を抱く腕の持ち主が無事であることだけを望んだ。思い残すことはなくはない。願わくば私の墓碑銘に「チンタラしよって治療にもたついた挙げ句火竜の逆鱗に触れ食われた間抜けな腹黒聖女(笑)」とか刻んでくれるなよ、とは思った。

 もう駄目、私食べられちゃう。でもデリラさん、アンタが食べようとしてるソレ、脂肪たっぷりで体に悪いで? 腹黒聖女と言われるぐらいやし毒持ってるかもわからんで? 食った直後にヒッティングマーチ鳴りまっせ? 悪いこと言わん、考え直そう?

 私は無駄な念を送ってみた。テレパスでも何でもない私の念は目の前の火竜には届かなかった、当然だが。

 火竜の息がかかる。ちょっと生臭い。いかにもお肉大好きですって感じのニオイ。私は、私を抱き上げる人の腕の中、きつく目を閉じ身を硬くしたが――。




 かぷっ。




 巨大な茶褐色の竜は私の襟首をやんわりくわえて、ぽん、と背中に下ろした。というか、落とした。


「え……」


 カノン様は空っぽの腕を呆然と見下ろす。パトリック殿は竜笛をしまった。竜の暴走は止まったようだ。

 茶褐色の竜はパートナーの少年に何か訴えかけるようにキュウキュウ鳴いている。サムソン殿は鼻をすすりながら一通りそれを聞き、言った。


「聖女様が、さらわれちゃうかと思ったって……」


「えっ」「は?」「何と!」


 居合わせた人間は一様に驚いたが、ことにカノン様の悲嘆っぷりは凄かった。


「誤解です! 私が女性をかどわかす悪人のように見えたとでも? デリラ殿、貴女の曇った目には私がそのように映っているのですか!?」


 カノン様、多分怒ってるんだろうけどそれでも敬語で敬称付は崩れないんだな。ってかカノン様って竜相手でも「殿」なんだよな。カノン様がそうするから私も竜さん達のこと呼び捨てにはしない。流石に「殿」は仰々しいから竜さん達にはしない、「殿」呼びは騎士様方だけにしとくけど。ヴァルハラ騎士団の方々は割とその辺きっちりしていて、オシゴト中は親しい人相手でも殿とか貴官とか言ってるイメージ。オフだと少し緩むけど。対してユタ竜騎兵隊はオンオフあんまり使い分けずに比較的ゆるゆる~な感じ。トップの気質を反映してるな、なんて私は勝手に思っている。

 デリラさんは相変わらずキュウキュウ鳴いていた。サムソン殿に、というよりは、どちらかというとカノン様に何か訴えているようにも見える。寡黙な瞑想レディかと思いきや、案外おしゃべり好きのマダムなのかも知れない。


お読みいただきありがとうございます。


はたらくどうぶつ(?)に尊敬の念を送りつつ。

警察犬、盲導犬、猫駅長etc,etc.

この世界の竜は崇められつつも「労働力」として位置付けられています。

見た目は怖いけど個性豊かな竜さん達です、見た目は怖いけど(by.某聖女様)

竜さん達の会話とかその他諸々も書いてみたいなと思う今日この頃。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ