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【魔法】「受毒箇所の特定も術師の大事な仕事です」【実践編】

 カノン様は相変わらずデリラさんの真っ正面に立って彼女を見ていた。


「カノン様、そこはあぶないですから……」


 デリラさんのパートナーに再度促され、


「あぁ、失礼致しました」


カノン様はようやっとデリラさんの攻撃射程外に退避した。


「動物の本能とは凄まじいものだと感心しておりました。水浴びは彼女なりの解毒行動だったのでしょうね」


「?」「???」


 サムソン殿とパトリック殿は首をひねっている。


「あぁ……」「そゆことか」


 私は目からウロコの気分を味わった。ポール殿も理解したらしい。

 受毒者が出た場合、まずは患部を真水もしくは魔法水で洗浄。誰に教わったわけでもないのにデリラさんは『カノン様の殺人マニュアル(主に文字数的な意味で)』通りに動いてたわけか。生きたいと望む火竜の生存本能パネェ。体の大部分水桶からはみ出てるけどな。肝心の左翼なんか浸りもしてないけどな。


「解毒の場合、患部を特定することが肝要です。相手が人間で、意識があれば本人に直接訊いてしまってもよろしい」


「はい」


 教官モードに切り替えたカノン様に、私は頷いた。


「しかしながら、受毒者と必ずしも意思の疎通が図れるとも限りません。その場合、受毒箇所の特定も術師の大事な仕事となります」


「はい」


 ひとつひとつ段階を踏んでのプロセスに、そんなのどーでもいいから早くデリラの治療を、とサムソン殿がやきもきしている。スマンな、ひよっこセラピストで。正直君の気持ちはわかるぞ。


「さて、貴女には訊くまでもないでしょうが一応お尋ねします。ミオ殿、貴女はデリラ殿の受毒箇所を何処と判断しますか」


「左側の、多分翼のあたり」


 私は間髪入れず答えた。カノン様の翡翠の瞳が、根拠を述べよ、と言っている。私は受けて立った。


「私は治癒魔法を使う前に一端、自分なりにリサーチするようにしています。施術前、触診で患者さんのお体の状態を確かめる時のように。その時に、デリラさんの左翼に黒いモヤモヤが見えました……見えた気がしました」


 サムソン殿がポール殿に、おれはわかんないけど魔法使いのヒトだと見えるんですか、と訊いていた。ポール殿は、俺に訊くな、のひとことで新人竜騎士の疑問を一刀両断。ポール様も魔法使うヒトですよね、癒しのコトは俺にゃわからん、等々とうるさい外野はまるっと無視して私は続ける。


「最初は目の錯覚か光の加減の見間違いかと思いました。でも私の左腕がこうなったんで確信しました。闇の感電の時と同じです。施術中にもよくある反応……患者さんの不調をもらっちゃう例のアレだと私は解釈しました」


 ハハッすっげーチート、とパトリック殿が鼻ホジしながら茶々を入れた。うわぁその手でそこら辺触ってくれるなよ、つか鼻クソ食うなやきったねぇなエンガチョエンガチョ。


「ミオ殿、貴女の感じ方はとても優秀です」


 カノン様は誉めてくれたが、いかにも社交辞令的なワンクッションだなと私は思った。そしてそれはまったくその通りだった。


「もっとよく感覚を研ぎ澄ませてみて下さい。本当に其処だけですか」


「え……」


 私は戸惑った。私の左腕から左肩甲骨にかけてを支配する妙な灼熱感と痛痒さ。決して気のせいじゃないはず。ケロイドという形で目に見える変化も出てる。

 カノン様は彼にしては強引に私の手を引き、デリラさんの真っ正面に立たせた。巨大な火竜のど真ん前――正直、足がすくむ。パートナーのサムソン殿が、だからあぶないですって! と止めるがカノン様は、責任は私が取ります、のひとことで押し切った。


「ここなら判り易いかと思います。どうですか」


「どうですか、って……」


 怖い以外の何がある、というのが率直な意見だ。大分慣れたつもりでいたけど私は元々、爬虫類系はノーサンキューな性質なのだ。お願い食べないで、と何ふり構わず懇願したくなる。


「黒いモヤモヤが、と、貴女はおっしゃいましたね。左腕の受毒痕にしてもそうですが、貴女は視覚で変化を察知することに長けておられる。目のご不自由な『先生』の目であろうとしたが故の特化でしょうか。

 繰り返しますが、その感じ方は優秀です。その感覚は大事になさって下さい。その上で、目に見えない変化も感じ取れれば尚よろしい。左翼以外にデリラ殿を蝕む箇所があるはずですよ」


「背中とか……?」


「それは左翼からの派生ですね」


 カノン様はバサーッと斬って捨てた。うぅ……何か妙てけれんなクイズか間違い探しみたいになってきたわ。


「ヒント下さい」


 私は早々に諦めた。グダグダ引っ張る時間がもったいない。時間がかかる分、デリラさんだって苦しむ。カノン様も何もデリラさんがつらいのを長引かせる気はなかったようで、あっさり応じた。


「デリラ殿が何故、こうしているのか。そして何故、危険を冒してまで貴女にこの位置に立っていただいたのか」


「ふむ」


 私は考えた。ひょっとしたら休むに似たりの時間の使い方だったかも知れない。

 水桶にすっぽりはまったデリラさん。うっかりブレスでも吐かれたら一発で黒コゲになるだろう射程距離内。動物の凄まじき本能で左翼を水浸しにしなかったのは、翼を水桶につっこむのは無理があるから……本当にそれだけか? 無理があるっていうなら下半身だけすっぽりはまったこの体勢だって充分不自然――。


「……あ!」


 視覚に頼るな、というカノン様の忠告を破る形になってしまうが、左翼に巣食う黒いモヤモヤと似たモノが、水桶から立ち昇るように見えた気がした。意識したらもう駄目だった。私はスラックスの裾をめくった。両足共にケロイド状の受毒痕。右足が特に酷かった。何故これに気づかずにいられたのか。


「両足。特に、右前脛骨筋部……」


「ご名答」


 カノン様は口元のみの笑みで言った。


「おそらくは、右のあんよに受毒し動きが鈍ったところで左翼にも受毒、といったところでしょう。ミオ殿のお身体の左上半身に強く反応が出たのは、デリラ殿のあんよは洗浄済で症状が多少軽減されたせいかも知れません」


 言われてみれば納得しかない。

 それよりも、竜騎士の方々が右足と呼ぶ箇所を「あんよ」とか言っちゃうカノン様にちょっと萌えた。この人にかかると馬はお馬さんだし、メイド・イン・ジャパンのノートはお帳面になる。言葉のチョイスがちょいちょい可愛い。


ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


教官モードのハイプリースト様。

文字通り、手取り足取り教えてくれます。まだるっこしいくらいです。


聖女様は「(カノン様の)言葉のチョイスがちょいちょい可愛い」と萌えていますが、彼の話し言葉はむしろ漢字多め、敬語過多のおカタイ感じを意識しております。

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