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幕間 ~騎士団員ポールの供述・7~

 俺の願いは聞き入れられた。ミオ様のかぜまは俺の身体を傷つけはしなかった。ミオ様はじっくりと時間をかけて俺の服だけを風の刃で切り刻んだ。俺は初めて呪いのプレートに感謝した。コイツがなけりゃ俺様自慢の可愛いティクビが丸見えだったぜ☆ ぱんつだけは辛うじて残してくれたのは聖女のせめてもの慈悲ってヤツだろうか。


「じゃ~ん! 変態仮面・推参☆」


 キャハッ☆ じゃねぇだろ聖女様。手足と兜とピー(一応伏せとく)を残して後は全裸の俺のカッコは客観的に見てヘンタイそのものだ。俺がパンピーだったら即座に通報する自信があるし、職務中なら問答無用でしょっ引くさ。

 だが、ミオ様が言うにゃ「ヘンタイカメンは正義の味方」なんだとさ。手足と頭とピー(念の為伏せるぜ)だけ隠して後は全裸のこのカッコこそがヘンタイカメンの正装なんだとよ。ミオ様の故郷の文化マジわかんねぇ。


「もっと喜びぃやポール殿! 映える筋肉やないと様にならへん正装やで!?

 輝いてるね大胸筋! キレッキレだよ上腕二頭筋! 喜んでるよ広背筋! 仕上がってるね大腿四頭筋! 人格に問題あっても筋肉は無罪! 顔面なんてオマケです! 頭髪なぞ飾りです!! エライ人にはそれがわからんのです!!! うーんいいね~至高の筋肉マッスルマッスル!!!!」


 魔法オタクのカノン様ばりのテンションで謎の呪文を唱えるミオ様に、俺はガチで身の危険を感じた。


「大好物の腹直筋がプレートで見えないのは残念やわ~。カノン様、これホンマに外れませんの?」


「貴女のお願いでも、無理ですね」


 超法規措置として首と胴を切り離せばとか淡々と言ってるカノン様、アンタにゃ人の心の光が見えないんですかぃ!?


「そっか、じゃあしゃーないね。腹直筋はまたの機会に」


「何なら機会、作りますよ? 今度ベッドの上ででも」


 俺はミオ様の手を取った。完全な条件反射だった。チャンスは逃さない、俺はいつだってそうして生きてきた。隙あらば声をかけ、すべての女性に笑顔を与える。それが男として生まれた俺の美学だ。

 ミオ様は笑ってくれた。むしろ爆笑だ。ヘンタイカメンに口説かれたー、と大笑いしてる。優しさ皆無な回復魔法で気絶した騎士をどつき回す腹黒聖女でも、やっぱ笑ってっとカワイイんだよな。


 だが。


 俺はもっと慎重に行動すべきだった。

 忘れてたわけじゃない。天使の顔してえげつないオシオキをしやがる、鬼よりおっかねぇハイプリーストの存在を。


「ポール、貴方は命が要らないようですね」


 ピキッ、と地面から氷柱が立った。ミオ様の故郷のタイフーンとかで呼び出した暴風雨の名残がカノン様の魔力に感応したんだろう。


「カカカカカノン様! 魔法をたしなむ者として、感情を安定させるのは最低限の義務と言いましてデスネ!」


「貴方に言われたくはありませんよ、暴発誘爆雷小僧が偉そうに」


「ちょ、待てカノン! 雷小僧言うなし! 落ち着け! 冷静になれ!! 話し合おう!!!」


「話すことなど何もありません」


 ふいっ、とカノン様は顔を背けて、でもミオ様に向き直った時にゃにっこにこ全開の笑顔だった。


「さぁミオ殿、最期の仕上げです。貴女に大嘘を吹き込んだ挙句に泣かせたその尻軽男に、貴女の全魔力をぶち込んで沈めておやりなさい。貴女がやらないのなら私がやります。こんな機会は滅多にありませんからね」


 オイオイ……その「ヤル」って、殺の字当てたりすんのかな? さいごって、最後じゃなくて最期なのかな? 新鮮なヘルコンドル大量入荷、この機会に是非お求めを的な肉屋のディスカウントっぽいノリで俺はあの世に送られるのかな?


「それは駄目です、カノン様の手は綺麗なままで。私にやらせて下さい。私の手は汚れるけど、それでカノン様の魂の純潔を守れるのなら……」


「ミオ殿……!」


 カノン様、感激して目ぇ潤ましてんじゃねぇぞ。その黒聖女、うつむいて肩震わせてっけどソレ笑いこらえてるだけだからな! こんな時に小芝居かましてんじゃねぇぞこの腹黒聖女!

 俺は腹黒聖女の腹黒さ加減を暴露した。シリアスぶってっけどお前笑ってんじゃねぇかよ! と。でも腹黒聖女はとことん腹黒かった。


「あら、でもポール殿、私のこと騙したじゃないの」


 こんの腹黒娘、カノン様の前だからって言葉使いまでご令嬢っぽくしやがって。俺らの前じゃお前、よぅも騙くらかしたよったなワレェケツの穴から手ぇツッコんで奥歯ガタガタ言わせたろかぐれぇ言うじゃねぇかよ!


「猫っかぶりの腹黒聖女め、いつかその特大級の猫のかぶりもの引っぺがしてやっからな!」


「どーぞどーぞ。替えは無限にありますし年季入ってますし?

 さぁて、カノン様のお墨付きももらったことやし好きにやらしてもらいましょ。……うーんと、軽快にして自由なる我が内なる風の魔力よ、この世のすべてに慰撫を与える姿無きものよ、我が念に応え、出でよ! 超ウルトラスーパーミラクルハイパーメガトンアルティメットネオアームストロングサイクロンジェットストリームアタックアームストロング砲!!!」


 生贄騎士の練習台で格段にスムーズになった詠唱の後、超ウルトラスーパーミラクルハイパーメガトンでアルティメットネオアームストロングのサイクロンジェットストリームアタックアームストロングな風が俺を襲った!


「キャーやめて!」


 俺は死んだ。バタンキュー(笑)






 その後、優しさの欠片もねぇ水魔法をキメられた。

 超ウルトラスーパーミラクル以下略の後の記憶はないが、死んだじーちゃんと母ちゃんの夢を見ていたような気もする。

 ヘイゼルはお花畑が見えたと言ってた。アレンは渡し船に密航したが無銭乗船を咎められて追い返されたのだそうだ。フーガはおとうさんとおかあさんにお前はまだ来るなと叱られたとかで泣いてた。泉の水を飲もうとしてホワイトスネイクに止められたと語る騎士もいた。


「なぁ、コレって臨死体験……」


「貴重な経験をなさいましたね。私もハイプリーストのはしくれですから、蘇生魔法の心得はございます。皆様ご無事で何よりでした」


 口元だけの笑みで淡々と言うカノン様に俺達は震え上がった。

 そんな中でミオ様は、アレンの巻き添えで風圧に倒れて昔飼ってた犬が天使と一緒にお迎えに来たと主張するモブ騎士に詰め寄っていた。


「ダナン殿! しゃきっと起きてコレ見ぃや! ホレ、ポール殿の変態仮面! 見事やろ~? 服だけ切り取る絶妙なコントロール! 我ながらええ手並みやわ~ぁ♪

 コレ見てもまだクソノーコン聖女って言いますか? 何ならダナン殿も変態仮面の正装着させてあげましょか? あ、でも私まだ見習いマジシャンだから~、服と一緒にお肉まで剥いじゃったりなんかして~キャハッ☆」


「……すみませんでしたー!!!!!」


 名指しされたダナンは土下座までして平謝りだ。コイツも随分ユタの文化に染まったよな。ダナンはヘンタイカメンだけはご勘弁を、とミオ様に泣きついた。俺、今まさに現在進行形でヘンタイカメンなんですけど? マジで立つ瀬ねぇし……。

 よっしゃコレでノーコン聖女の汚名挽回♪ と得意げなミオ様にカノン様が言った。


「挽回するのは、名誉です。汚名は返上しましょうね」


「はぁい先生! そっか、そうだった、そうでした。汚名返上、名誉は挽回、回復はみずま♪」


 がさつな黒聖女に雑に水魔法をキメられた後にゃ、疲れた体に鞭打って通常通りの勤務だ。

 青空市場はちょうど買い物客でごった返す時間で、買い物途中のお姐さんお嬢ちゃん達はまず、追いはぎにでも遭ったみてぇにズタボロなヘイゼルに驚いて、


「ヘイゼル様、どうなさったのですかそのお姿は……」

「御髪が乱れておりますわよ」


 なんてやってから、アホの総大将で変態仮面の俺に気づいて、立ち竦んでから無言で距離を取る、の繰り返しだ。

 多分俺はここにいる間中はずっと変態仮面と呼ばれるんだろうなという確かな予感があった。変態仮面と比べれば、アホの総大将のが大分マシだ。故郷の妹よ、こんな兄ですまん。手足と頭とピー(しつこいがあくまで伏せるぜ)以外は素肌の俺を撫でる夕暮れの風が冷たい。あぁヴァルハラに帰りてぇぜ……。


評価ブクマ等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


P殿の供述、これにて終了です。

変態仮面爆誕のお話とも言います。

ピーピーうっさいわ! とツッコんで下さったそこのお嬢さんありがとうございます。一応伏せました。

あくまでP殿視点ですので、「キャハッ」とか「☆」とか「♪」とかが多用されております。

彼にはミオちゃんがこんな風に見えているようです。


聖女様の故郷の文化について様々な誤解をされてそうですが、誤解ならそのうち解けるでしょう……多分。

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